かま)” の例文
旧字:
自身は偉い哲人ださうだ——詭弁家になつてもかまはない、あいつのノートを借りてこの際ソークラテスを少々研究してやらうか——。
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
二人が育って行くにつれ、母親にふと危惧きぐの念が掠めた。二人があまり気の合っている様子である。青春から結婚、それはかまわない。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「疎暴だッてかまわんサ、あんなやつは時々ぐッてやらんと癖になっていかん。君だから何だけれども、僕なら直ぐブン打ッてしまう」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
信長の望みを聞いて、宣教師バテレンたちは狂喜しながら光栄を語り合った。そのおしゃべりにかまいなく、信長はどしどし階上へ登ってゆく。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪の降ったあとで郊外に住んでいる自分にはその雪解けが億劫おっくうなのであったが、金は待っていた金なのでかまわずに出かけることにした。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
私がもっと成人して全世界を向うに廻しても、私の母の悲しみ苦しみを弔うためには、私は身を粉にしてもかまわないとさえ思っていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
雑草のはびこるに任せた庭のように、あまりにかまわずにあるところから来ていると考えたからで——むを得ない家庭の事情から言っても
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かまわず進んで見ると何か笹原の中に横になっている。傍の大木が倒れたものの上には、脊負子が立て掛けてあって、衣服が丸めて括しつけてある。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
姪は初めの間かえって鼻を鳴らしていた。彼はそれをもかまわずだんだん力をめて抱きすくめてゆくと泣き出した。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
『知らないよ。いいジャアないかあたしがだれのうわさをしようがお前さんのかまった事ジャアないよ、ねエ先生!』
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「どんどんかまわずやりなさい」と坊さんが落着いた声で云った。「わし等はただ真理を発見しようとして試みるだけじゃ、何を恐れる事があるんじゃ」
、世間では彼此かれこれ申すさうぢやありませんか、私ヤ、うせ斯様かうしたからだなんですから、ちつともかまやしませぬけれど、其れぢや、先生に御気の毒ですものねエ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「まあ兎に角、私と一緒にボールの真ん中へ出て、勝手に歩いて御覧なさい。踏んだつてかまひませんから。」
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
誰に定めていいつけんという標準きめどころのあるではなし、役僧用人らの分別にも及ばねば老僧わしが分別にも及ばぬほどに、この分別は汝たちの相談に任す、老僧はかまわぬ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
森田君なんか、何でもかまわず出してしまえといったが、つまらぬことで筆禍になってもつまらぬから僕なんか大いに止めたわけさ。僕はこれでも官吏だからね。
先生を囲る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
板の間から風が吹き込んで冬などはたまらぬ。光線の工合ぐあいも悪い。此上にすわって読んだり書いたりするのはつらいが、気にし出すと切りが無いから、かまわずに置く。
「さあ大分吹いて来たぞ、しつかりせい。今日一ぱいだ。動けぬ様になるまで獲れい! こたへられるまで耐へるんだ、仕方がなくなつたら網位捨ててもかまはんから。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
商売の種類は何であろうともかまわぬ、海外の金儲けは即ち国富の膨脹、国権の伸長、国威の宣揚である。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ちがっても、ちがわなくてもかまわないけど、そういう意味でなら、あたしにはあたしだけの自覚があるつもりよ。……あたしの自覚は、丈夫な子供を産んで、それを
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何処へ? 何処へいらっしゃるんです? と細君は気が気でなくその後を追って行ったが、それにもかまわず、蒲団を着たまま、かわやの中に入ろうとした。細君はあわてて
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「相変らずだね、かまはずやり給へ。」と、湯村は縁の照返しを恐れて、座敷の真中へと坐つた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
まったく、どこの税関でもおかまいなしに通れる、結構なご身分というもんさ。こっちも、そういう御仁ごじん相手でなけりゃ話しても無駄だし、また、大将なら乗ってくれるだろう。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「そんなやつを抛っとくちゅうやつがあるもんか、かまわん、署員総がゝりで逮捕するんだ」
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
しかしそんな事をかまってはいられませんでした。私は助力者が欲しかったのです。当時あの男は警視庁の官房主事に任ぜられましたので、私は遂にあの男を選ぶ事に致しました
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
あなたがたの推薦する新候補者が政治家として全くの素人しろうとであることは少しもかまわない。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「黄金の甲冑を取り戻すまでは俺達はここへは帰って来まい」——「黄金の甲冑を探しに行こう。日本の国の隅々すみずみ隈々くまぐまを、幾年かかろうとかまわない。探して探して探して廻ろう」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ようやくの事で索が尽きたかと思ふと、其の端に結び着けてある生首が上つて来たが、私のあごの間へ引懸つて、容易に離れない。其れでもかまはずに、右の谷底ではグングン引張つて居る。
Dream Tales (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
固い御飯だってかまいはしないのに、私は御飯がたべたい。荒れてザラザラした唇には、上野の風は痛すぎる。子供のスケート遊びを見ていると、妙に切ぱ詰った思いになって涙が出た。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ること眠ること……が、もし万一ひょっと此儘になったら……えい、かまうもんかい!
私は例え夜があけてもかまわぬ一歩でも下の方へ降りたいと言う、とは言え、七曲りの尽きた下は又大樹林で、見た所でも闇のとばりに閉じられた森を、何うして路のわからないのに抜けられよう
武甲山に登る (新字新仮名) / 河井酔茗(著)
平次は遅くなるのもかまわず、ガラッ八と一緒に優曇法印の堂に向いました。
親たる父にだ孝の道もつくさずして先だつ不孝は幾重いくえにも済まぬがわたしは一刻も早くこの苦しい憂世うきよを去りたい、わたしの死せるのちはあの夫は、あんな人だから死後の事など何も一切いっせつかまわぬ事でしょう
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
かまはない、どうか病気さしてくれ!
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
巽はなおかまわず格子を開けた。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人が育つて行くにつれ、母親にふと危惧きぐの念がかすめた。二人があまり気の合つてゐる様子である。青春から結婚、それはかまはない。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
『どれ、吾々もおいとまとしようか。……いやもうかまわずに。……それより御内方、風邪かぜをひかさぬように、平田殿へ何ぞ掛けてあげてくれ』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ほんたうは、あたし、町へなんか行つたつて行かなくつたつてかまはないのよ。さつき、たゞ、あゝ云つただけだつたのよ。」
黄昏の堤 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
大塚さんは彼女を放擲うっちゃらかしてかまわずに置いた日のことを考えた。あらゆる夫婦らしい親密したしみ快楽たのしみも行って了ったことを考えた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それゃアモウお前さんは自分の勝手で苦労するんだからかまうまいけれども、それじゃア母親さんがお可愛そうじゃアないかい
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「御壕の処まで送りましょうよ、」とお秀はかまわず同伴いっしょに来る。二人の少女むすめの影は、薄暗いぬけろじの中に消えた。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
または木の根などに、からだが痛むのもかまわないで、り寄りながら、くるしそうにもだえているのでありました。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
どうせわしなどは明日にも死ぬ身だから、かまやせぬやうな物で御座りますが、子供等が可哀さうでなりませぬ、何卒、旦那——長二様、一つ長左衛門様の魂魄たましひ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それでなくっても、もう一遍出直すはずであった彼女は、時間にかまう余裕さえなかった。彼女は台所からぜんを運んで来たお時を驚ろかして、すぐ立ち上がった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真実ほんとにおまえは自分勝手がってばかり考えていて、ひとの親切というものは無にしてもかまわないというのだネ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「三つ四つ撲りつけるのはかまわんさ。その位のことがなくちゃおさまらんだろう、なあ、古田氏……」
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
詐偽も糞もあるもんか。商人は儲けさへすりやア些と位人に迷惑を掛けてもかまはんのだ。今の大頭株あほあたまかぶを見給へ、紳商面をして澄ましてやがるが、成立なりたち悉皆みんな僕等と仝じ事だ。
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
と一息深くたばこを吸いこんでから二人が惑乱気味に嘆息するのもかまわず、法水は云い続けた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
主人がどうあろうと、我らにとってはかまわぬことじゃ。泊めてくれて、ご馳走してくれて、出立の際には草鞋わらじ銭までくれる。いやもう行き届いた待遇もてなし。それをただ我らは、受けておればよい。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは、負けても賞金の貰える勝負に限って、すがめの男が幾度となく相手かまわず飛び出して忽ち誰にもさおのように倒されながら、なお真面目にまたすがめをしながら土俵を下って来る処であった。
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「こんな事は西洋に負けてもかまわんがな」
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)