はや)” の例文
はやりに逸つた傳七郎の短刀は逃げる又六を追つて、グサツと其の首筋へ。まことに傳七郎は火のやうな激しい氣性の男だつたのです。
で当然、こなたが先帝奪回にはやッて、そのお道すじの播州境へと、兵をくり出せば、彼らはすぐさま、二つの留守城るすじろを急襲して出る。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或人は庄司署長を攻撃して、功名にはやる余り、無辜むこを陥いれたので、支倉は哀れな犠牲者だと云うその是非についてこれより述べよう。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
私は嬉しかった。早速此持重説じちょうせつを我物にして了って、之を以て実行にはやる友人等を非難し、そうしてひそかに自ら弁護する料にしていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこで、気のはやい安床は、夜分やぶん、仕事をしまってから、私の父をたずねて参り、時に兼さん、これこれと始終のことをまず話し、それから
「さあ、お前、あれにつれ、あんまり勇み足になってはいけませんよ、勇士はいかに心のはやる時でも、足許を忘れるものではありません」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私たちの馬はよく走ったにもかかわらず、わたしのはやる心には遅くて遅くてたまらなかった。キッティは私の乱暴なのにびっくりしていた。
別れる際に南日君から呉呉くれぐれも血気の勇にはやって冒険してはいけないといましめられたので、すっかり子供に返って何だか悲しいような気がした。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
心に潔しとしない事に、名刺一枚御荷担は申兼ぬる、と若武者だけにはやってかかると、その分は百も合点がってんで、戦場往来の古兵ふるつわもの
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
麟太郎は軍事取り扱かいという重大の役目を持っていたが強硬なる非戦論の主謀者としてはやり立つ旗本八万騎を鎮撫しなければならなかった。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
張る氣を母氣とすれば、はやる氣は子氣である。逸る氣は直上して功を急ぐ氣で、枯草乾柴けんさいの火の續かず、飆風の朝をへざるが如き者である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
はやる陸軍を天皇だっておさえることはできない。こう見てくると、戦争の結果は、どえらい敗戦にきまってる。そのとき、日本には革命が来る
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
忠太郎 五つといえばちッたあ物も判ろうに、生みの母のおもかげを、思い出そうと気ばかりはやるが、顔にとんと憶えがねえ。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
しては成らんぞ、悪口あっこうしても棄置かんぞよ、いよ/\肯入きゝいれなければ兎も角も、血気にはやって心得違いをいたすまいぞよ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はやれば、即ち、二害あって、一利も無し——よって某、今宵より、修法を廃し、老師の霊気の散消するをまって、と——
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
鈍重な巨躯のはやりに逸った匍匐ほふくの醜態が今、一時にまた光り輝くばかりの黒褐の毛のなだれとなり、地響きとなり、奮いたつ香炎の放電体となる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ぬすみ出し候ゆゑさては渠等兩人も主人の惡意あくいさつしけれるにや兄弟をぬすみ出しうへうつたへ出る存念ぞんねんと心付南無三寶是ははやりたることをなし公邊かみへ御苦勞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はやる心を抑えようとすればする程、口腔は熱し二重廻しの両袖が興奮から蝶の羽根の如く微かに震動して居りました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
批判の大胆さと血気にはやった率直さとで他人の気を害した彼でありながら、フランスで一言発しようとすると、保守的になってるのをみずから感じた。
はやつてゐた勝平も、相手が急にしづかになつたので、拍子抜がしながら、而もその儘立ち去ることも、業腹なので、二人の容子を、ぢつと睨み詰めてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
一郎はそう叫ぶと、なおもはやって怪漢に飛びつこうとする蝋山教授の腰をさえて、教壇の陰にひきずりこんだ。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくしは気分がいよ/\はやるまゝに葛岡をいて人形町の角を折れ、芳町の通りを日本橋川の方へ向います。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そう思い返しながら、われとわが拳固こぶしをもって自分の頭をなぐって、はやり狂う心のこまつなぎ止めたのであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
口際に引きひたる壯丁わかものはやうやくにして馬のはやるを制したり。號砲は再び鳴りぬ。こはらちにしたる索を落す合圖なり。馬は旋風つむじかぜの如くはしりて、我前を過ぎぬ。
彦三郎 もし、心ばかりははやつても、わたくしは若年者じやくねんもの、殊に御當地の勝手は知れず、なんとも致方がござりません。おまへ樣によい御分別はござりますまいか。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
五十川女史が四角を思い出させるような頑丈がんじょうな骨組みで、がっしりと正座に居直って、葉子を子供あしらいにしようとするのを見て取ると、葉子の心ははやり熱した。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
二葉亭と嵯峨さがとは春廼舎傘下の寒山拾得であったが、その運動は離れ離れであった。美妙は硯友社の一人であったが、抜駈ぬけがけの功名にはやって終に孤立してしまった。
斬つて斬つて斬りまくれ、哥薩克! あばれまはつて、敵をやつつけろ! はやる心の思ひの儘に。
どっちにしても相手は大きいぞ……とはやる心を押し鎮めるべく敷島を一本くわえながら公園の中にある自働電話に駈け込んで、警視庁に電話をかけて赤原警部を呼び出した。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
熱する頭をしずめ、はやる心をおさえて、平田門人としての立場に思いを潜めねばならなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そうか! そうであったか! はやまったな! 斬るとは逸まったことをしたな……」
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
悍馬かんばのごとくはやって、こりゃ鞘当てもしかねますまいて。ははははは、いや、どうせのことに、ちょっと拝見せずにはおられぬ。(懐紙を口にくわえ、いずまいを正して播磨守に目礼)
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「シャーロックのやつ、ひどくはやっているぜ。やっぱり犯罪のにおいがわかるんだね」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
茶屋の二階の檀一雄が慌てゝ身をのりだしてはやまるべからずと叫んだが、彼は私が酔つたまぎれにザンブと海へとびこみ佐渡へ向つてやがて日本海のモクズと消えると思つたのである。
どこかで淙々とした水の音がするらしいのに、目にふれるかぎりの叢に泉は見当りません、狩人は若々しい額の汗を手の甲で拭い、何となしはやっている生きもののような眼つきをします。
はやりにはやった目のキャッチした建物……電車通りをへだてたむかかどの建物……嘗て、明治製菓の売店のあったあとにできたその白い建物は、果して……さァ、果して、何ものだったか?……
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
これもきずつけじと、貫一が胸は車輪のめぐるがごとくなれど、如何いかにせん、その身は内より不思議の力に緊縛きんばくせられたるやうにて、はやれど、あせれど、寸分の微揺ゆるぎを得ず、せめては声を立てんと為れば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この際、現場のわれらが仲間は、さすが見るに見かねて、進んで総身を灰にしよう、どうにかして彼らを助けてやりたい……と心ばかりははやりながら、根が能なしの、動きのとれぬ偃松の悲しさ。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
が、丁度彼が、飛行場の緑草を、機翼をビリビリはやりたつように顫わせている、フォッカアユニバアサル機の方に歩いて行く途中頃で、まもなく後から追いついて来たらしい三枝に、名を呼ばれた。
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
當時の仙石家は但馬國出石郡たじまのくにいづしごほり出石の城主仙石道之助久利ひさとしの世である。清右衞門は仙石家に仕へて、氏名を原はや一とあらためた。すこぶる氣節のある人で、和歌を善くし、又畫を作つた。畫の號は南田である。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
心矢竹こころやたけはやるとは此の時の余の思いであろう。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
惜しげなきはやりごころに。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
春浅し若殿原わかとのばらの馬はや
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
若さにはやるたましひを
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「なあ、波越。なんだってこんな真夜半まよなか蝋人形ろうにんぎょう張番はりばんをさせるのだろう。羅門塔十郎らもんとうじゅうろうも時々、奇功にはやって、分らない指図をするぜ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
着せられても急にはあかりが立たぬ、そのうち血気にはやる土地の人、どのような乱暴をすまいものでもない、今のうちに早く逃げなければならぬ
血気けっきはやる少年の、其の無邪気さを愛する如く、離れては居るが顔と顔、媼はめるやうにして、しよぼ/\と目をみひら
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
世評一般に云われて居るところの、木村常陸介と耳にするや、はやり切っていた北畠秋安も、足を止めざるを得なかった。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
父の嘉明の小兵こひょうに似ず、六尺豊かな加藤式部少輔明成は、足摺あしずりして焦慮あせった。主がこの気もちだから、血気な士ははやりきって、何かというと殺気立った。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
相手に侍士は死忿しふんを顯はし切り結ぶ心は彌猛やたけはやれども終に刀を打落され逡巡處たぢろくところ惡漢わるものども寄てたかつて侍士を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)