いな)” の例文
旧字:
こころ合はでもいなまむよしなきに、日々にあひ見てむこころくまでつのりたる時、これに添はするならいさりとてはことわりなの世や。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
強ての頼みをいなみ難く、態々迎ひに来たと語るのであつたが、然し一言もお定に対して小言がましい事は言はなかつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いなみやらんとは思へどもさすがに打付けにさいはんも何となく気の毒にてそのままに打過ごす、余はかほどまで果断なき乎、歎ずべき事の第一なり
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
道士が塩官州へくだったのち、朝廷からさらに天師に命令があったので、天師もいなむことを得ずしてった。
十兵衞も分らぬことに思へどもいなみもならねば、はや感応寺の門くゞるさへ無益むやくしくは考へつゝも、何御用ぞと行つて問へば、天地顛倒こりやどうぢや、夢か現か真実か
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あまり気持きもちいたしませんでしたが、修行しゅぎょうとあればいなむこともできず、わたくしはとあるいわうえすわって統一状態とういつじょうたいはいってますと、はたして湖水こすいなかはだいろくろっぽい
書生として使いくれよとの重井の頼みいなみがたく、先ずそのむねを承諾して、さて何故にかかる変性男子へんしょうだんしの真似をなすにやとなじりたるに、貴女あなたは男の如き気性きしょうなりと聞く
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
すなはいなび譲りて曰く、やつがれ不幸さいはひなき、元よりさはの病有り。何ぞ社稷くにいへを保たむ。願くは陛下きみ、天下を挙げて皇后に附けよ。りて大友皇子を立てて、よろしく儲君まうけのきみたまへ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
瓦師どうつかまつりまして、それを私方へいたら瓦器が残らず踏み砕かれましょうといなむ。
今夜の御気分からおいなみになることはできずに院は珍しい曲を一つだけお弾きになった。そんなこともあって大がかりな演奏ではないがおもしろい音楽の夜になったのである。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
兎角とかくは胸迫りて最後の会合すらいなみ候心、お察し被下度候、新橋にての別離、硝子戸ガラスどの前に立ち候毎に、茶色の帽子うつり候ようの心地致し、今なおまざまざと御姿見るのに候
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
兄長このかみ今夜こよひ菊花のちかひわざわざ来る。一〇九酒殽しゆかうをもて迎ふるに、再三あまたたびいなみ給うて云ふ。しかじかのやうにてちかひそむくがゆゑに、みづかやいばに伏して陰魂なきたま百里を来るといひて見えずなりぬ。
平次の持出した猪口ちょく、ガラッ八はいなみもならず、冷で注いでキューッとやります。
一仔細ひとしさいなくてはならぬ様子があるので、ぎょっとしながら、いなむべきすうではない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たたかいに臨む事は大小六十余度、闘技の場に登って槍を交えたる事はその数を知らず。いまだ佳人の贈り物を、身に帯びたるためしなし。なさけあるあるじの子の、情深き賜物をいなむは礼なけれど……」
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、京にのぼるのぞみだけは二つの乳ぶさのまんなかに、誓文ちかいぶみをはさみ込んでいるように棄てなかった。右馬の頭も下じもの役につき、なりわいを建てなおすことではどんなことでもいなまなかった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そして何んとなく懐かしい感じがする花である事はいなみ難い。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
大原も今はいなむべきにあらず「アア有難ありがたい」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
既に重井と諸所を遊説せし身のことに葉石との同行をいなまんようなく、かつは旧誼上きゅうぎじょう何となく不人情のように思われければ、重井の東京に帰るを機として妾も一旦いったん帰郷し
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
十兵衛も分らぬことに思えどもいなみもならねば、はや感応寺の門くぐるさえ無益むやくしくは考えつつも、何御用ぞと行って問えば、天地顛倒てんどうこりゃどうじゃ、夢かうつつか真実か
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
連れなる男は、みちにてやさしくのみ扱ひて、かしこにては『バワリア』といふ座敷船ザロンダムフェルに乗り、食堂にゆきて物食はせつ。酒もすすめぬれど、そは慣れぬものなれば、いなみて飲まざりき。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
一二二物のはじめにいなみなんは一二三さがあしければとて、とりてをさむ。今夜こよひはここにあかさせ給へとて、一二四あながちにとどむれど、まだ一二五ゆるしなき旅寝は、親の一二六つみし給はん。
いなみて唄わざらむには、うつくしき金魚もあわれまた継母の手にかかりやせむ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれもいなみかねて十一ばかりの牡丹餅を持たせてやった。
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
岩沼卿いわぬまきょうよばせらるるたっとき御身分の御方おんかた、是も御用にて欧州に御滞在中、数ならぬ我を見たて御子おんこなき家の跡目にすわれとのあり難き仰せ、再三いなみたれど許されねばいなみかねて承知し
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
されどこの病児を産みてよりは、全くその楽しみを捨てたるに、福田は気の毒がりて、おりに触れては勧めいざないたれど、既に無形の娯楽を得たり、形骸けいがいを要せずといなみて応ぜず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
須坂にて昼餉ひるげ食べて、乗りきたりし車を山田までがせんとせしに、いなみていう、これよりはみちけわしく、牛馬ならではかよいがたし。偶〻牛きて山田へ帰る翁ありて、牛のせな借さんという。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
砕けた源太が談話はなしぶりさばけたお吉が接待とりなしぶりにいつしか遠慮も打ち忘れ、されていなまず受けてはつと酒盞さかずきの数重ぬるままに、平常つねから可愛らしきあから顔を一層みずみずと
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其気色いなむべくもあらず。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
清吉酔ふては撿束しまりなくなり、砕けた源太が談話はなしぶりさばけたお吉が接待とりなしぶりに何時しか遠慮も打忘れ、されていなまず受けては突と干し酒盞さかづきの数重ぬるまゝに、平常つねから可愛らしき紅ら顔を一層沢〻みづ/\
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)