轆轤ろくろ)” の例文
焼物の例を取れば轆轤ろくろを引く者、削る者、描く者、焼く者、各々持ち場があって、それ等の人達が協力して仕事が完成されるのです。
民芸の性質 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
風がよいと、艫の方で轆轤ろくろでその帆を懸声をして巻上げる。帆が上がり切ると、十分に風を孕んで船が進む様は、実に勇ましかった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
机一つと米櫃こめびつ一つ置いてある。側は土間になって居る。土間には轆轤ろくろ台と陶土、出来上った急須きゅうすや茶碗も五つ六つ並んでいる。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かすかに聞えた歌の音は窖中こうちゅうにいる一人の声に相違ない。歌のぬしは腕を高くまくって、大きなおの轆轤ろくろ砥石といしにかけて一生懸命にいでいる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
車は通らず、雨傘も威勢よくポンと轆轤ろくろを開いたのでは、羽目へ当って幅ったいので、湯の帰りにも半開はんびらき、春雨さばきの玉川ざし
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして、それとともに、なんだか轆轤ろくろのようにとめどなく回っている物が、火花を飛ばしながら目の前へおりて来るような心もちがした。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
植民団も傭兵も出て轆轤ろくろの把手にとりつき、力をあわせて巻いているうちにメデュウズがすこしずつ動きはじめた。
海難記 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
轆轤ろくろにかかる彼の姿は、鬼のように壁へ映った。そして、夜をつみ、日をついで、釉薬ゆうやく染付そめつけの順に仕事が進んだ。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現実その時は、ゆかりの耳にさえも、最初からゴトンゴトンと云う間伸びのした調子が続いていて、緩やかな轆轤ろくろの音は変わらなかったと云うのだからね。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「颶風が起こりますぞ! ご用心! 帆を下ろしなされ! 轆轤ろくろを巻け! 帆柱を仆せ、危険だ! 危険だ!」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今いう職人に属するものでは誰でも知っている雉子きじ(木地)屋敷や轆轤ろくろ屋敷、伴上ばんしょう(番匠)貝戸がいと・細工畑・紺屋こうや畑・鍛冶荒居かじあらいなどの地名がこの地方にはある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と、はやだらしなく涎を垂れたのを見て、佐助は、この醜怪なる老人が蛇の頭を噛る光景は、冬の宿の轆轤ろくろ首が油づけの百足むかでをくらうくらいの趣きがあろうと
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
これを引くには十人の力がいるんだ、轆轤ろくろを使わなくちゃ引けやしないがね、すごい勢いが出るんだぜ、黒船なんか一矢で沈めちまうんだから……うまくいけばさ
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
例えば轆轤ろくろに集中する傘の骨、かなめに向って走るおうぎの骨、中心を有する蜘蛛くもの巣、光を四方へ射出する旭日きょくじつなどから暗示を得た縞模様は「いき」の表現とはならない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
マンガンは重いのでそれを動かすために舟の上で轆轤ろくろを巻く。ホッキ漁のことを一般に漁師はホッキまきと云っているが、それは轆轤を巻いてホッキを獲るからである。
ホッキ巻 (新字新仮名) / 知里真志保(著)
轆轤ろくろ細工の安い品がどんどん製造されるからである。事実、その後三国越の宿々で、轆轤の音は聞き、あのこまかい木屑は見たが、二本の腕で刀を振う人は見受けなかった。
山を思う (新字新仮名) / 石川欣一(著)
仮に自作するにしても……ずぶの素人が片手間に轆轤ろくろまわしたくらいでは三年経ったって猫の飯食う茶碗も出来るものじゃない……云々てな、嫌な文句で手紙を送ったものだ。
別当はぎょろっとした目で、横に主人を見て、麦箱の中に抛り込んである、ふちけた轆轤ろくろ細工の飯鉢めしばちを取って見せる。石田は黙って背中を向けて、縁側のほうへ引き返した。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
製品を乾すために轆轤ろくろ台から棚へはこぶ幼い子供から、あるいは盲目であっても陶土をいたり(図599)、足で陶土をこねたり(図600)することが出来る老人にいたる迄
はいって来たことだろう! 大理石のはだの各国女奴隷・その売買所と仲買人の椰子やしむち・宗教裁判と火刑広場の野次馬・海賊きたる銅鑼どらと吊橋の轆轤ろくろを捲く大男の筋肉——そして今は
或時東大寺に参詣すると、丁度棟木を挙げる日で、おびただしい材木をどうして引き揚げるのかと心配して見ていると轆轤ろくろを使って大木をひき上げ、思う処へどしどしと落し据えた。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その休息の時間はジャン・ヴァルジャンにとっては夢想の時間であった。彼は両腕を組んで、轆轤ろくろの柄に腰をかけ、地面に引きずらないように鎖の一端をポケットにねじ込んでいた。
この當時とうじ土器どきは、まだ完全かんぜん轆轤ろくろ使用しようしなかつたのでありますが、そのわりあひにかたちもよくとゝのつて、ゆがんだものなどははなはまれであり、かなりたくみにつくられてゐるようにおもはれます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
鍛冶かじ屋があるくらいのもので、私は靴屋に案内してもらい、氷河にすべらない用心に、裏皮をりつけて、くぎを打ってもらったが、旧式の轆轤ろくろを使って、靴屋のおやじが、シュッ、シュッと
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
引きあげられた漁船や、地引網を轆轤ろくろなどが白い砂に鮮かな影をおとしているほか、浜には何の人影もありませんでした。干潮で荒い浪が月光に砕けながらどうどうと打ち寄せていました。
Kの昇天:或はKの溺死 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
文治が蛇の目の傘を以て一人のひざを打ちますと、前へドーンと倒れるのを見て、一人の士は真向まっこう上段に一刀を振りかざして、今打ちおろそうとする奴を突然いきなり傘の轆轤ろくろで眼と鼻の間へ突きをいれまして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
直ちに弾ね返って轆轤ろくろの如く鉄棒に巻き着いて了います。
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ついととろりと轆轤ろくろにかけて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「あれが轆轤ろくろつ首だらう。」
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
轆轤ろくろにかけし石砕器
はめつ (新字旧仮名) / 渡久山水鳴(著)
土を練る者、轆轤ろくろく者、削る者、絵附えつけをする者、または象嵌ぞうがんをする者、白絵しろえを引く者、釉掛くすりがけをする者、または焼く者、ことごとくが分業である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
轆轤ろくろきしんで、ギイと云うと、キリキリと二つばかり井戸縄の擦合すれあう音して、少須しばらくして、トンとかすかに水に響く。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ははあこれももっともだな」「轆轤ろくろッ首ではあるまいかな」「夜な夜な行灯あんどんの油をめます」「一つ目の禿かむろではあるまいかな」「信州名物の雪女とはどうだ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これを轆轤ろくろでひいて今のコケシボコにするまでの、元の形というものがあって、それがのちには幼い者の手によって管理せられることになったのではあるまいか。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と、焼物師やきものしは、轆轤ろくろを離れて、土間のうしろの戸を押しました。裏はすぐに隅田川の満々とした水で
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高調子たかぢょうしに歌う。シュシュシュと轆轤ろくろわる、ピチピチと火花が出る。「アハハハもうかろう」と斧を振りかざして灯影ほかげを見る。「婆様ばあさまぎりか、ほかに誰もいないか」
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ですから陶器作家は仁清のように純日本的創意のデザインが生まれ、轆轤ろくろも、絵も、書も、釉薬ゆうやくの研究も人一倍優れた素質を持つものでなければ名を成さないということです。
近作鉢の会に一言 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
二人の少年が、のぞき込むと、車大工の東造爺とうぞうじいが、轆轤ろくろをあやつっている。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これ等の陶器はすべて手で作ったもので、轆轤ろくろを使用した跡は見当らない。
そして、白っちゃけた壁や、中央にある轆轤ろくろには「四谷怪談」に使う漏斗じょうごの幽霊衣や、仏壇返しや、提灯の仕掛などが立て掛けてあって、何もかも、陰惨な沼水そのもののような代物しろものばかりだった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ここにもらしてはならぬ一事は、彼が強大な体力を有していて、徒刑場のうちの何人なにびとも遠く及ばなかったことである。労役において、錨鎖ケーブルひねりまたは轆轤ろくろを巻くのに、彼は四人分の価値があった。
直ぐにきいきいと轆轤ろくろきしる音、ざっざっと水をこぼす音がする。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
轆轤ろくろと絵とがよければ既に充分な素質だが、この荒屋新町で特筆されていいことは、地漆じうるしを七割も使うことである。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
轆轤ろくろきしんで、ギイとふと、キリ/\とふたつばかり井戸繩ゐどなは擦合すれあおとして、少須しばらくして、トンとかすかにみづひゞく。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
笠のうちで、苦笑して見ていた。彼は、先刻さっきからその軒つづきの陶器師すえものしの細工場の前に立ち、子供のように何事も忘れて、轆轤ろくろへらの仕事に見恍みとれていたのであった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その口さえも八つ裂きに、逆さ磔刑はりつけ轆轤ろくろ引き、燔刑ひあぶり梟首ごくもん、承知の上でか?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
神道の神社で使うかかる器には、釉薬うわぐすりがかけてなくまたある種の場合の為には、全然轆轤ろくろを用いず、手ばかりでつくる。花がすこし、それから死人の名前を薄い板に書いたものも棚にのっている。
この木地屋は、初めから轆轤ろくろだけで仕事しなければならぬ近江の君ヶ畑などではなく、同じ惟喬親王の子孫とは称するが、別の木地屋の残党で、杓子を拵えるのを主な職業としている者たちだった。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
轆轤ろくろにしろ、削りにしろ、絵附えつけにしろ、ダミにしろ、その伎倆ぎりょう技術は見る者を「不思議」の世界に導くであろう。彼らの腕は昔の如く素晴らしいのである。
北九州の窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
古風こふうな、うすい、ちひさなまげつたのが、唐銅からかねおほき青光あをびかりのする轆轤ろくろ井戸繩ゐどなはが、づつしり……石築いしづき掘井戸ほりゐど
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)