うずくま)” の例文
……続くと、一燭いっしょくの電燈、——これも行燈にしたかったと言う——朦朧もうろうとして、茄子の牛がうずくまったような耳盥みみだらいが黒く一つ、真中に。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かの家の者一同ある日はたけに行きて夕方に帰らんとするに、女川のみぎわうずくまりてにこにこと笑いてあり。次の日はひるの休みにまたこの事あり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
枝という枝は南向に生延びて、冬季に吹く風のつよさも思いやられる。白樺は多く落葉して高く空に突立ち、細葉の楊樹やなぎうずくまるように低く隠れている。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
寒そうにうずくまる境地、そうは決心しても決して長くは落着いていられない薄べり一枚の境地、そこへ彼も腰を据えた。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
七平は縁側の端っこへ出て、月の射し入る中に小さくうずくまりました。妙な男ですが、それだけに物事に熱心そうで、平次の方がかえって引入れられます。
刑事はうずくまったまま、はるか向うの辻をかしてみた。そこは水底みずそこに沈んだ廃都はいとのように、犬一匹走っていなかった。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼の心臓は早鐘のように動悸を打ち、息ははげしく喘いでいた。そして瞳をこらして被害者の顔を覗き込むと、思わず驚愕の叫びをあげて、死体の上に蔽いかぶさる様にうずくまった。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
浪人が抜いたと見ると、雪之丞は大地に片手の指先を突いたまま、片手で、うしろにうずくまってわなないている供の男を、かばうようにしながら、額越しに上目を使って、気配を窺った。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それから少したって、チッチッという音がすると、パッと火が現われて、彼は一ツの建物の中の土間にうずくまっていて、マッチを擦って提灯の蝋燭ろうそくに火を点じようとしているのであった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「いつ頃から君はここで、こんな風にしているの」私はつとめて、平然としようと骨折りながらいた。彼女は今私が足下の方にうずくまったので、私の方を見ることを止めて上の方に眼を向けていた。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
彼は砂糖黍さとうきびやぶのように積み上った街角から露路へ折れた。ロシア人の裸身はだか踊りの見世物が暗い建物の隙間で揺れていた。彼は死人の血色の記憶から逃れるために、切符を買うと部屋の隅へうずくまった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
眼をそらし、物懶ものうげに居隅にうずくまっていようとするのである。
アワァビット (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
向う山の腹へ引いてあったが、やはりもやに見えていたので、そのものの手に、綱が引いてあったと見えます、うずくまったままで立ちもせんので。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銀杏いちょうかやの実などの数をあてる女の子の遊びにこの語を用い、なかには「なかなか小坊主こぼうず」と同じく、手をつないで輪になって中央にうずくまった
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
枝という枝は南向に生延はえのびて、冬季に吹く風のつよさも思いやられる。白樺しらはりは多く落葉して、高く空に突立ち、細葉の楊樹やなぎうずくまるように低く隠れている。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
玄沢に怒鳴られると、縁側一パイの奉公人達は、バラバラバラと庭に飛降りると、思わず庭の土間にうずくまりました。
そのね、手水鉢ちょうずばちの前に、おおきな影法師見るように、脚榻きゃたつに腰を掛けて、綿の厚い寝子ねこうずくまってるのが、何だっけ、君が云った、その伝五郎。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女はさすがに身を恥じて、二つの乳房をたなぞこに隠し、八方から投げかけられる視線を痛そうに受けてうずくまりました。
が、心着いたら、心弱いひとは、堪えず倒れたであろう、あたかもそのうなじの上に、例の白黒まだらいぬうずくまっているのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は縁側にうずくまったまま、岡っ引とも見えぬ、秀麗な顔を挙げました。笹野新三郎には、重々世話になっている平次、今さら頼むも頼まれるもない間柄だったのです。
と雪代が店へ出ると、紺地に薄お納戸の柳立枠やなだてわくの羽織を、ト、白い手で、うずくまった八郎のせた背中へ、ぞろりと掛けた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
笹野新三郎、思わず膝を進めて、敷居の外にうずくまる平次の手を頂きたいような様子です。
狐の顔が明先あかりさきにスッと来てちかづくと、その背後うしろへ、真黒まっくろな格子が出て、下の石段にうずくまった法然ほうねんあたまは与五郎である。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半開の桜の下に、ハネ釣瓶つるべが見えて、井桁いげたの下に、何やら白いものがうずくまっております。
やがてはたと地に落ちて、土蜘蛛つちぐもすくむごとく、円くなりてうずくまりしが、またたくひまに立つよとせし、矢のごとく駈けいだして、曲り角にて見えずなりぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
底冷えのする梅二月、宵といっても身を切られるような風が又左衛門の裸身はだかを吹きますが、すっかり煙にせ入った又左衛門は、流しにうずくまったまま、大汗を掻いて咳入せきいっております。
くるくると舞いて四隅の壁に突当る、出処なければ引返ひっかえさむとする時、あわただしく立ちたるわれに、また道を妨げられて、座中ざなかうずくまりたるは汚き猫なりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
植幸は植木の蔭にうずくまると、平次の袂にすがり付いて、ワナワナと顫えておりました。
このあわれむべき盲人めしいは肩身狭げに下等室に這込はいこみて、厄介やっかいならざらんように片隅にうずくまりつ。人ありてそのよわいを問いしに、かれ皺嗄しわがれたる声して、七十八歳と答えき。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは障子の外に、物のくまのようにうずくまった総髪の中老人、霰小紋あられこもんかみしもを着て、折目正しく両手をついておりますが、前夜怪奇な行法をした、この薬園の預り主、峠宗寿軒に違いありません。
向うむきに円くうずくまったが、古寺の狸などを論ずべき場合でない——およそ、その背中ほどの木魚にしがみついて、もく、もく、もく、もく、と立てつけに鳴らしながら
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多の市はたった四五日の間に、すっかりやつれ果てて、冥土あのよから来た幽鬼のように、物をも食わずにうめき続け、お浜はすっかりおびえ切って、部屋の隅にうずくまったまま、涙もれそうに泣いているのです。
砂山を細く開いた、両方のすそが向いあって、あたかも二頭の恐しき獣のうずくまったような、もうちっとで荒海へ出ようとする、みちかたえに、がけに添うて、一軒漁師の小家こいえがある。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家の中を突き抜けて裏口へ出ると、井戸端に何やらうずくまるもの。
手を上げて招いたと言います——ゆったりと——くともなしに前へ出て、それでもあいだ二、三げんへだたって立停たちどまって、見ると、そのうずくまったものは、顔も上げないで俯向うつむいたまま
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地にうずくまりたる画工、この時、中腰に身を起して、半身を左右に振って踊る真似す。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地にうずくまりたる画工、此の時、中腰に身を起して、半身を左右に振つて踊る真似す。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
御寮人は、ぞろりとつまを引合せる。多一は、その袖の蔭に、うずくまっていたんだね。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「これだけな、赤地あかじの出た上へ、何かこうぼんやりうずくまったものがある。」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
由紀を抱きかくしながらうずくまって見た時、銀杏返の方が莞爾にっこりすると、円髷のが、うなずきを含んで眉を伏せた、ト顔も消えて、きものばかり、昼間見た風のうすものになって、スーッと、肩をかさねて、階子段はしごだんへ沈み
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
入口の片隅に、フトあかりの暗い影に、背屈せくぐまった和尚がござる! 鼠色の長頭巾もっそう、ト二尺ばかりを長う、肩にすんなりとたれさばいて、墨染の法衣ころもの袖を胸でいて、寂寞じゃくまくとしてうずくまった姿を見ました……
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とお録の心前むなさきに突附くれば、足下にうずくまりて
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)