はね)” の例文
そして嫁の寝ている胸の真上とおぼしきところまで、その足音が来たかと思う時、その死にひんした病人がはねえるように苦悶くもんし始めた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
芥子けしの実ほどの眇少かわいらしい智慧ちえを両足に打込んで、飛だりはねたりを夢にまで見る「ミス」某も出た。お乳母も出たお爨婢さんどんも出た。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
座敷のなかにこの二句を点じただけで、あともとのごとく静になる。ところへこいがぽちゃりとまたはねる。池は東側で、小野さんの背中に当る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誰かから抑へられると、その二倍も三倍もの烈しさで、はね返したいやうな気になるのです。それが、わたしの性格の致命的フェータルな欠陥かも知れません。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
英吉利イギリスの貴族は、恋で平民の娘と一緒になつたり、金で亜米利加アメリカ辺のはねかへりと結婚したりするので、それによつて血統の廃頽を救つてゐると言はれてゐるが
また、号令がかゝると、一勢に脚は頭上にあがる、はねる、飛ぶ、そり反る——何たる軽ろやかさぞや!
舞踏学校見物 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
薄月と水明りとに照らされた河原には、二つの刀の影が水にはねる魚の背のように光っていた。それを遠目に見ていながら、お染はなかなか近寄ることが出来なかった。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とガラリ障子を明けて見ると、御新造は歯を噛〆くいしってるを女中が押してるが力の強いもので男の二三人ぐらいはねかえしますから、由兵衞が飛込んで押えます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あのはねッ返りめ、お先走りで、何でも来いだから、仁和加の時も、一本引ッこ抜いて使うんだからッて、それ痛い目に逢わないだけにして、本式に習いたいというので
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大きな盤台ばんだいに、ピチピチはねる、地中海の小魚が、りどりにしゃくえた。ヒラヒラと魚躰からだをひるがえすたびに、さまざまの光りが、青い銀のような水とともにきらめいた。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ちと御呵おしかあそばしてくださりませときま文句もんくはなたすれど學士がくしさらにもめず、そのおさなきがたつときなり、反對はんたいはねかへられなばおたみどのにも療治りようぢが六ツかしからん
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
閉会の後、高等四年の生徒はかはる/″\丑松に取縋とりすがつて、種々いろ/\物を尋ねるやら、はねるやら。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
人の声がしたので、はねあがるように身を起したお島の目に、松の枝葉を分けながら、山を降りて来る二人の姿がふと映った。お島は可恥はずかしさに体が慄然ぞっ立悚たちすくむようであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
竿を宙にはねる途端に、竿尖は楣間の額面を打ちて、みりツと折れ、仰ぎ見て天井の煤に目隠しされ、腰砕けてよろ/\と、片手を膳の真只中に突きたれば、小皿飛び、徳利ころび
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
なんにも知らない三匹の子虎はすぐに虎にじやれついたとさ。すると虎はいつものやうに躍つたりはねたりして遊んだとさ。それから又夜もいつものやうに洞穴へはひつて一しよに寝たとさ。
虎の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たとへれば彼等かれらせばいとはいひながらはねてはせぬほりへだてゝ、かも繁茂はんもした野茨のばら川楊かはやなぎぼつしつゝをんなやはらかいらうとするのである。れは到底たうていあひれることさへ不可能ふかのうである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これの実を指にて摘めば虫などのはねるやうに自ら動きて、さや破れ飛ぶこと極めて速やかなり。かゝるものを見るにつけても、草に木に鳥に獣にそれ/″\行はるゝ生々の道のかしこきをおもふ。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
はねさんで嘘吐きで怜悧りかうで愚かで虚栄家みえばうで気狂で而して恐ろしい悪魔のやうな魅力と美くしい姿……凡てが俺の芸術欲をそそのかしたぶらかし、引きずり廻すには充分の不可思議性をかくして居た、たと
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
不自由な片足で、はねるように、夢中であとを追った黒吉は
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
はねねれば勝つのが男だ。3985
浅草の飛んだりはねたり
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
... 判事の前へ出た上で云うが好い、云た所でとても採用はせられい、既に其方の共謀者藻西倉子が何も彼も白状して仕舞たから」此言葉に生田は電気にでも打れし如くはね返り「え、え、あの女が、其様な事は有りません、少しもあの女の知ッた事で無いのですから」驚きの余りすべらせたる此言葉は
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「それにね。近頃は陽気のせいか池の緋鯉ひごいが、まことによくはねるんで……ここから聞えますかい」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつも、いつも、お前はなんて早熟ませているのだろうとつぶやく母親には、見られたくなかったので、錦子ははねおきると、乳房おちち朝㒵あさがおにしてしまい、腰の丸味はたらいにしてしまった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それだのに、彼女はそれを冷然とはね付けたのです。いや、跳付けたばかりではありません。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お島は註文を聞きに廻るべき顧客先とくいさきのあることに気づくと、寝床をはねおきて、身じまいに取かかろうとしたが、男は悪闘に疲れたものか何ぞのように、裁板の前に薄ぼんやりした顔をして
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
驚破すはと振る駒が尻尾の一とはねを描きとめて荒しこれの一筆
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
男が一度はね飛ばされながら、瀕死ひんしの女を抱いて、決して一人では死なせないという事を耳に口をよせて繰返しきかせて後自刃したのは、彼れの品性の高く情操のいかに清らかで
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私は浅い水を頭の上まではねかして相当の深さの所まで来て、そこから先生を目標めじるし抜手ぬきでを切った。すると先生は昨日と違って、一種の弧線こせんえがいて、妙な方向から岸の方へ帰り始めた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この人は、為様がないじゃないの」お島ははねあがるような声を出した。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
職人はたぶん女中のえりをおまけに剃ってやっていたのであろうが、あたしがあんまりはねるので、女中にもなんしょで、ひょいと、あたしのおやっこを片っぽとってしまった。あたしはなおさらよろこんだ。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
はねつけられちまった。仕方がないから
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)