讒訴ざんそ)” の例文
給仕ボーイ頭くらいの者に入れ知恵されて持って来た話というのは、たかだか気位の高い妻の讒訴ざんそをして愚痴をこぼすくらいのものだろうと
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
ねえ、お内儀かみさん、私はなにも人様の讒訴ざんそをするわけではございませんが……あの方の人相をごらんなさい。昨晩も夢を見ましたよ。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
朝廷に最も勢力のあった神道主義者と仏僧とのヤソ教に対するあらゆる反対讒訴ざんそ姑息こそくな陰謀は秀吉ひでよし時代からの古いことであったが
きのう、なんのかのとおいらに末寺の兄弟弟子でしのあの美男上人の讒訴ざんそをしたのも、今になって思い直してみりゃ気に食わねえんだ。
推薦者の二家ばかりでなく、手蔓てづるのある限り、閣老たちの屋敷へも行った。そして武蔵の讒訴ざんそをあの調子でいて歩いたのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御米の方から、進んで弟の讒訴ざんそでもするようだと、叱るにしろ、慰さめるにしろ、かえって始末が好いと考える時もあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その後はうばうで自分のことを悪様あしざまに言ひふらし、果ては太閤殿下にまで讒訴ざんそを試みてゐるといふことを聞いてゐるので、こんな場合の沈黙が
利休と遠州 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
おッ母さんは搆わないでおいでなんて、お上手を遣つてサ、蔭へ廻つて讒訴ざんそするなんッてほんとうに呆れたものだよ。
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
それはつまり、自分に浴びせられた非難攻撃が本当のことで、正しく自分がソフィヤ・セミョーノヴナを讒訴ざんそしたのを、自白することになるからであった。
子に向つて父親の讒訴ざんそをいふ女房氣質かたぎを誰れが教へた、お力が鬼なら手前は魔王、商賣人のだましは知れて居れど、妻たる身の不貞腐れをいふて濟むと思ふか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ヂュリ ほんこと讒訴ざんそとははれぬ、ましてこれは後言かげごとではない、ぢかかほむかうてうてゐるのぢゃもの。
それがやっぱり身贔屓みびいきで、自分の娘の悪いことは棚にあげて、ふだん遊びに行くなあちゃんが、家へ帰って何か讒訴ざんそでもしたように思い込んでいるらしいんです。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
侍医兼侍従の施薬院全宗が御相手を承つてゐたが、酔つ払つた秀吉に切支丹を讒訴ざんそして焚きつけた。
(間)私は比叡山ひえいざん奈良なら僧侶そうりょたちが憎くなります。かほどの尊い聖人しょうにん様をなぜあしざまに讒訴ざんそしたのでございましょう。あのころの京での騒動のほども忍ばれます。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
文太郎 俺の讒訴ざんそはそれで仕舞いか。では出掛けるぞ、さあ歩け。愚図つくと手荒くするぞ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
西陣の織物を一手にさばいた本家福屋の番頭から仕上げた善兵衛が、暖簾のれんを分けて貰うと、公儀に讒訴ざんそして、天草あまくさ旗指物はたさしものを引受けたとか、身分不相応の奢侈僭上しゃしせんじょうふけったとか
仕つり九郎兵衞は九郎右衞門のおとゝなれ共一たい若年じやくねんよりといはんとせしが伯父の讒訴ざんそは如何とぞ心ろ付亡夫ばうふ勘當かんだうを受け十七年の間相摸さがみ國御殿場てんば村に居りしを私し親共死去のせつ戒名かいみやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
志丈は伴蔵の旧悪を知って強請り、なにがしかの金銀を捲き上げたのち、伴蔵に連れられてお国と相見る。愕いたお国は志丈に旧悪を喋られてしまってはとあることないこと伴蔵に讒訴ざんそする。
それは彼が三十二歳で藩主世子うえもんのすけ忠春のそばがしらに任じられたとき、その出頭をねたむ者から讒訴ざんそされて、老臣列座の鞠問きくもんをうけた、私行のうえの根も葉もない事だったので
日本婦道記:墨丸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
父母が梅子に対する悪感情を、ほこりがに伝達しつ、又た姉の悲哀の容態をば尾鰭をひれを付けて父母に披露す、芳子は流石さすがにお加女かめ夫人の愛児なり、梅子の苦悶くもんを見て自ら喜び、姉を讒訴ざんそして
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
良人に対しても嫁について讒訴ざんそとも見るべきことを言うのであった。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
五月蠅うるせエや、何ンだ、言う事ア夫れッ切りか、下ら無エ同じ事をツベコベツベコベ、ぬかしやがって耳が草臥くたびれらア、コウ手前てめえ達ア、此山に居ながら此山の讒訴ざんそをしやがって夫れで済むか、山にもナ
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
「お黙りよ! お上さんの讒訴ざんそなぞは聞きたくないよ!」
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
侍「しからん事をいう、人の顔を讒訴ざんそをして無礼至極」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「しかし、いくらやつが意趣がえしにどんなに讒訴ざんそをしたって、こっちがそうでないことを明らかにすれアなんでもないじゃないか!」
せっかく、さい大臣の生辰綱しょうしんこう輸送の大役を果たしえても、後日、しゃの口からそんな讒訴ざんそ堂上どうじょうの耳に入れられたらすべては水の泡だろう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御米およねはうから、すゝんでおとうと讒訴ざんそでもするやうだと、しかるにしろ、なぐさめるにしろ、かへつて始末しまついとかんがへるときもあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
馬鹿野郎呼はりは太吉をかこつけにれへの当こすり、子に向つて父親てておや讒訴ざんそをいふ女房気質かたぎれが教へた、お力が鬼なら手前は魔王、商売人のだましは知れてゐれど
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
中にも極楽寺の良観は、日蓮は宗教に名をかって政治の転覆をはかる者であると讒訴ざんそした。
パリス いや、こなたかほいまではわしものぢゃに、それをば其樣そのやうしう被言おしゃるのは讒訴ざんそぢゃ。
「どうかわっしが讒訴ざんそしたり、悪心を持ったりしたのを、かんべんなすってくださいまし」
西陣にしぢんの織物を一手にさばいた本家福屋の番頭から仕上げた善兵衞が、暖簾のれんを分けて貰ふと、公儀に讒訴ざんそをして、天草あまくさの旗指物を引受けたとか、身分不相應の奢侈しやし僭上せんじやうふけつたとか
人の好い翁は隣りの娘の讒訴ざんそをもう聞き飽きたらしい。ただ黙ってにやにや笑っていた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つまりその話と同じことでひとが出世をしたら、自分も出世をすればいいのだ。だのに他人の讒訴ざんそばかり挙げているから、しまいに手前が五人十人、大ぜいがかりでなぶり殺しにされてしまうのだ。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
したがって、その一廓のうちで、年景をめぐって、いろいろなこびや、讒訴ざんそや、排撃や、嘘や、あらゆる小さな争闘が毎日行われている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝廷に最も勢力のあつた神道主義者と仏僧との耶蘇教に対するあらゆる反対讒訴ざんそ姑息な陰謀は秀吉時代からの古い事であつたが
「しかし顔の讒訴ざんそなどをなさるのは、あまり下等ですわ、誰だって好んであんな鼻を持ってる訳でもありませんから——それに相手が婦人ですからね、あんまりひどいわ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
馬鹿野郎ばかやらうよばはりは太吉たきちをかこつけにれへのあてこすり、むかつて父親てゝおや讒訴ざんそをいふ女房にようぼう氣質かたぎれがおしへた、おりきをになら手前てまへ魔王まわう商買人しようばいにんのだましはれてれど
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
姉はお洒落しゃれでお転婆てんばだから両親にも兄にも憎まれている。上州屋の使で、自分の店へ薬を買いに来ることはあっても、自分は碌に口もきかないと、宗吉はしきりに姉の讒訴ざんそをした。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あることないことこの男が自分の讒訴ざんそを上げていたためだったのか。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
パリス 其樣そのよなことを被言おしゃるのは、われから我面わがかほ讒訴ざんそするのぢゃ。
恐らく仲の惡い後添ひのお加奈の讒訴ざんそかなんかでせう。
「まだいうかっ。あらぬ讒訴ざんそもいい加減にしろ。ははあ、なんだな、何かきさまこそ、わしの留守中に、色街いろまちおんなにでもひッかかって」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その、ここにいるすべての同僚とおっしゃるのは、実はただ一人の紅毛人のことじゃないんですか。その紅毛人の讒訴ざんそのためじゃないんですか。」
「あなたは僕の事を何か御父さんに讒訴ざんそしやしないか」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あなたを殺す計画に失敗した蔡瑁は、自己の罪を蔽うために、こんどはいかなる讒訴ざんそを劉表へするかも知れたものではない。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われらはその慈円僧正をようして、飽くまで立つし、彼らが、朝廷へ讒訴ざんそするなら、われらも、朝廷へ弁解しても、闘ってやる
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「察するに、何者かが、先ごろの旅先から、鎌倉殿へ讒訴ざんそでもしたことではございませぬか。何かお心当りでも?」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ついに彼らが林冲を途中で殺そうとした目的を遂げさせなかった始末は、やがて都へ帰った端公の口から、輪に輪をかけて、こう大臣へ讒訴ざんそされていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
末法の世といわれるのも、ああいう位階のたかい僧正の行状ですらそうなのだから、まことにやむを得ないことだ、嘆かわしいことだなどと、讒訴ざんその舌をさかしげに、寄るとさわると
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)