詮議せんぎ)” の例文
私が渡辺七兵衛らと共に、綱宗さま側近の奸物かんぶつを斬って御詮議せんぎにかけられましたとき、御屋形さまお一人が私どもを庇護ひごされました。
「野郎。ぬかしたな! 不浄役人の下っぱたアどなたさまに向かっていうんだ。詮議せんぎの筋があって来たんだ。うぬのうちア三蓋松か!」
番頭脇坂山城守は、不取締りの故をもって一件落着らくちゃくまで閉門謹慎へいもんきんしんを仰せつかっている。番士一同もそれぞれ理由に就いて詮議せんぎを受ける。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それで、墨の製法を詳しく知りたくなって、製造元を詮議せんぎしてみると、日本の墨の製造所は、ほとんど全部奈良にあることがわかった。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
実際の力も物もない、その尊厳を、守るためだけに、無数の雲上人うんじょうびとは、衣冠いかんを正し、位階勲職くんしょくの古制度だけをやかましく詮議せんぎしていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに妹の蔦代がいて、その身の上についての詮議せんぎが進められているのに、彼はそれに対しても耳さえ傾けてはいないような様子だった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
もしまちがっているなら、彼はただ僕が何かの事情で考え違いをしたのだと思って、それについて詮議せんぎしたりなどしないだろう。
云うのであろうそのうちには本音をくであろうともうそれ以上の詮議せんぎめて取敢とりあえず身二みふたつになるまで有馬へ湯治とうじにやることにした。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山下さんは俊一君の無事な顔を見てから急に気が強くなって、その夜深更まで詮議せんぎを続けたが、縁談としてはの点からも申分なかった。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
で法王がその履を穿くとご病気が起ったとかいうのでだんだん詮議せんぎの末その履の中を調べて見ると、ポン教の咒文じゅもんが入って居ったという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
萩之進を窮命きゅうめいどうように押しこめて詮議せんぎをなさいましたが、もとより根もないことでございますから、陳弁ちんべんいたしようもない。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
神に造られた一個の神聖な人命においてあらゆるおきてが残酷に破棄されたことについて、どの法廷も詮議せんぎをしたものはなかった。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
これほどの人が何故に殺されたか、その詮議せんぎよりもまず何者が殺したかという詮議であったが、そこに残された刀が物を言う。
紋所の詮議せんぎの最もやかましかったのは、足利時代から徳川時代へかけて、名乗なのりの半分を家人にやる慣習の行われた頃である。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その友人達が詮議せんぎをしていると、早稲田の某空家の中に原因の判らない死方しにかたをして死んでいたと云う記事が、ある日の新聞に短く載っていた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
だから、もちろん、この問題に関して、ロシアの小僧っ子たちが夢中になっている近来のいっさいの原理を詮議せんぎだてすることもやはり御免だ。
はいつひに其夜の九ツ時に感應院はあさましき最期さいごをこそとげたりける名主を始め種々しゆ/″\詮議せんぎすれば煤掃すゝはき膳部ぜんぶより外に何にもたべずとの事なりよつて膳部を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これから家を移すにしても方角の詮議せんぎもしてみるがい、こう言って、なおこの家の図は自分の方から送って置く、と親切な口調で話して行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
帳消しにすることによって次郎が現在以上の人間になれると請合うけあえない以上、今さらとやかく詮議せんぎ立てしてみても、はじまらないことなのである。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
水を指さしてむかしの氷の形を語ったり、空を望んで花の行衛ゆくえを説いたところで、役にも立たぬ詮議せんぎというものだ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
されば、日柄の詮議せんぎもばかばかしいものである。ことわざに「知らぬが仏」というが、日柄などは知らぬ方がはるかにましだ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「隠語が浮世に現われたなら、また一騒動起こるだろう。イマニエル司僧様や天童様が、詮議せんぎされないものでもない」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
即ち極く広義の恋愛情調であるから、説く人によっては、恋人のことを歌ったのではないかと詮議せんぎするのであるが、其処そこまで云わぬ方がかえっていい。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
余はもとより下級社員合宿所の標本として、化物屋敷の中を一覧したまでで、化物の因縁いんねんはまだ詮議せんぎしていなかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
役人たちは当然の順序として、まずその詮議せんぎに取りかかった。町内の者もことごとく吟味をうけたが、誰もこの雪達磨を作ったと白状する者はなかった。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「切腹を仰せ付けられたからは、一応もっともな申分のように存ずる。詮議せんぎの上で沙汰いたすから、暫時ざんじ控えておれ」
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
直接の弟子や孫弟子が気に留めなかった宿を、なぜ百五十年の後に人々が詮議せんぎしたのか。それはこのころに孔子の伝記が形成されつつあったからである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
詮議せんぎもひどく容易なのになあ、と真顔でくやしがって溜息ためいきをつき、あたら勇士も、しどろもどろ、既に正気を失い命のほどもここ一両日中とさえ見えた。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし、そんなことをこれ以上かれこれ詮議せんぎだてしたって詰まらないから、じゃあ奮発ふんぱつして一ルーブリ半ずつで買いましょう。それ以上は出せませんよ。
彼が江戸獄中にて、いよいよ死刑の詮議せんぎ一決したるを洩れ聞くや、彼は実にその父母に向って、左の歌を贈れり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あんな記事が現われてはもう会社としても黙ってはいられなくなって、大急ぎで詮議せんぎをした結果、倉地と船医の興録こうろくとが処分される事になったというのだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その詮議せんぎはあとまわしだ。今は、なにはもあれ、待避たいひしなければならない。私は、椅子から腰をあげた。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
巳之松は詮議せんぎ中牢死し、根岸から山谷へかけてはびこつた切支丹も、それつ切り消息を絶つてしまひました。
あれこれと詮議せんぎしていたが、結局何も買わずに出てしまうと、今度は帽子屋の店へもちょっと入ってみた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さういふその男の魂膽こんたんはどこにあつたか? しかしおきみと周三は、その疑問を詮議せんぎする前に、背に腹は代へられぬ、といふせつぱ詰つた氣持ちから、とりあへず
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
されどしょうの学校はその翌日、時の県令高崎たかさき某より、「詮議せんぎ次第しだい有之これあり停止ていし候事そうろうこと」、との命をこうむりたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
見ざる所を信ずる信をして信たらしむるもの、是れやがて既に幾分か見たる所の或物を根柢とせるが故にあらずや。勿論もちろん詮議せんぎを厳にしていはば、見はつひに信に帰著すべし。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
圍者かこひもの相談さうだんとおぼしけれど、りて詮議せんぎおよばず。まだ此方こつちたすかりさうだと一笑いつせうしつゝ歸途きとく。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
處へもツて來て、一日々々に嬌態しなを見せられるやうになツて行くのだから耐らぬ。周三がお房を詮議せんぎする眼は一日々々にゆるくなツた。そして放心うつかり其の事を忘れて了ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
著者は過去の歴史に徴しまた現在の物理学を詮議せんぎして見た時に、少くも今のままの姿でそれ(註、物理学の進歩の経路)が必然だという説明は存しないと思うものである。
比較科学論 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
私は大江春泥の脅迫めいた手紙について、あれこれと詮議せんぎ立てをすることよりは、優しい言葉で静子を慰めることの方に力を注いだ。無論私にはそれが嬉しかったからだ。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それよりもむしろそれから先は宗教家の努力の領域として残し、その道徳上の罪悪を他よりあばかずとも、自ずから悔悟せしむるに勉むるがよろしい。外人はその様な詮議せんぎ立てをせぬ。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
父は閑日月かんじつげつ詮議せんぎよりもむしろその方をよろこんでいたのだろう。そこに父の平生抑えていてゆるめぬ克己心こっきしんの発露がある。こうして父は苦行の道をえらんで一生を過したといって好い。
幕府が令を発して世人のみだりに海防の論議をなし人心を騒すことを禁じたのはあたかもこの年の五月である。毅堂は『聖武記採要』を刊行したために町奉行所の詮議せんぎするところとなった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
道教の徒がつとにこの飲料を用いたことを確証するようないろいろな話の真偽をゆっくりと詮議せんぎするのも価値あることではあるが、それはさておきここでいう道教と禅道とに対する興味は
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
さては放蕩のらかと人々顔を見合せてお峯が詮議せんぎは無かりき、孝の余徳は我れ知らず石之助の罪に成りしか、いやいや知りてついでかぶりし罪かも知れず、さらば石之助はお峯が守り本尊なるべし
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そんな下らんことばかり詮議せんぎだてする暇に、なぜ殿下に近付く工夫でもしないんですよ! となじらんばかりの、この我儘わがままな婦人を促して嬢の聞き得たところは、大体こういうことであった。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
のりにしましても、どういうのりがもっともよいかという比較詮議せんぎをする。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
誰が殺したにしたところで、それはもう過去すぎさったことで、幾ら詮議せんぎしたとて彼女は生還いきかえっては来ないではありませんか。蕗子が生存しない以上私がこの世に残って何をしようと同じことです。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
周ははじめて夢がめたように思った。そこで周は弟に事情を話して、もう詮議せんぎすることをやめるがいいといった。弟はびっくりして暫くは眼をみはっていた。周はそこで子供のことを聞いた。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)