許多あまた)” の例文
袈裟けさ坊主ぼうずが必ずしも伴うものじゃない。いわゆるそうにあらざる僧も世には許多あまたある。またその代りには袈裟けさを着た俗人もまた多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
巨匠オオギュスト・ロダンの仕事場になっているオテル・ビロンでロダンは晴やかな顔つきをして、許多あまたの半成品を見渡している。
許多あまたの事柄の中で似寄った点を見出し、此の事は彼の事の結果だとか、これはかれの変態だとか云う事を見破るのが極めて早いのです
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
多方面であった抽斎には、本業の医学に関するものをはじめとして、哲学に関するもの、芸術に関するもの等、許多あまたの著述がある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
許多あまた石碣せきけつ並び立てり。二碑の前に彫鏤てうるしたるこしかけあり。是れポムペイの士女の郊外に往反ゆきかへりするときしばらく憩ひし處なるべし。
しかも其原因が許多あまたの海山を隔てて、世界到る処のこの種族のすべての者に、共通であるということは考えさせられる。
どら猫観察記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
然るに、し子弟をして自から原書を読むの力を備えしめず、直に海外の事を究むるの便を欠くあらしめば、時に臨み事に触れ、許多あまたの遺憾をいだくあらしめん。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
周囲の壁に嵌めてある許多あまたの鏡から反射してゐる大勢の主人が物を言つてゐるやうにも思はれる。それにその詞の中で己に提供してゐる事柄には、己は随分驚かされた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
ところが、此初観に先行している画面に、序分義化前縁の段がある。王舎城耆闍崛山に、仏大比丘おおびく衆一千二百五十人及び許多あまたの聖衆と共に住んだ様を図したものである。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
許多あまたの武士味方の大家に遣はすめでたき養子と喜ばで、一時和したる敵国に遣はす質子なりと思ひ做しし中にも、作左衛門特に此念強かるべく、許さぬ仇敵の詐術と見ては
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
越後の頸城郡くびきこほり松の山は一庄いつしやう総名そうみやうにて、許多あまた村落むら併合あはしたる大庄也。いづれも山あひ村落むら/\にして一村の内といへども平地なし。たゞ松代といふ所のみ平地にて、農家のうかのきつらぬ。
一三庁上ひとまなる所に許多あまたこがねならべて、心をなぐさむる事、世の人の月花にあそぶにまされり。人みな左内が行跡ふるまひをあやしみて、吝嗇りんしよく一四野情やじやうの人なりとて、つまはじきをしてにくみけり。
天を開きてその長きいましめを解きし平和(許多あまたの年の間、世の人泣いてこれを求めき)
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
入り見ればせみがら同様人を見ず、され共古びたる箱類許多あまたあり、ふたひらき見れば皆空虚くうきよなり、人夫等曰く多分猟師小屋れうしこやならんと、はからず天井をあほぎ見れば蜿蜒えん/\として数尺の大蛇よこたはり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
みやこなる父母ふぼかへたまひぬ。しうとしうとめらぬきやく許多あまたあり。附添つきそ侍女じぢよはぢらひにしつゝ、新婦よめぎみきぬくにつれ、浴室ゆどのさつ白妙しろたへなす、うるはしきとともに、やまに、まちに、ひさしに、つもれるゆきかげすなり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ここに兄はいなびて、弟に貢らしめたまひ、弟はまた兄に貢らしめて、相讓りたまふあひだに既に許多あまたの日を經つ。かく相讓りたまふこと一度二度にあらざりければ、海人あまは既に往還ゆききに疲れて泣けり。
さて許多あまたのめでたき影ども浮び出づ。10
これほど明らかに口に出さなくとも、これにけないほどの不合理な理由から、人の批評をしたり、歴史の事実を判断するものは許多あまたある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
右手めてなる岸の全景は、空想のセミラミスや築き起しゝ、唯だ是れ一大苑囿ゑんいうの波上に浮べる如くなり。その水に接する處には許多あまたの洞窟あり。
鶴見は鴎外の許多あまたの翻訳中でその物語をこの上なく愛誦あいしょうしている。聖ジュリアン物語は悪魔の誘惑を書き綴ったものである。
菅茶山が「かくて七十五にも相成候」と書した此年壬午三月九日の書牘にも、例の如く許多あまたの人名が見えてゐる。しかし此度は新しい名字は無い。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
師のねがふ事いとやすし。待たせ給へとて、はるかのそこくと見しに、しばしして、かむり装束さうぞくしたる人の、さき大魚まなまたがりて、許多あまた四四鼇魚うろくづひきゐて浮かび来たり、我にむかひていふ。
狭いあいだ許多あまたの恐怖がある。
われ裏面よりらちに近き處に席を占めしに、こゝは歌者の席なる斗出としゆつせる棚に遠からざりき。背後には許多あまた英吉利イギリス人あり。
墓は正方形に近く、やや横の広い面の石に、上下二段に許多あまたの戒名がり附けてあって、下にはおのおの命日が註してある。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あるいは何々しゃくにして市内市外に許多あまた高甍こうぼう宏閣こうかくかまえている人よりも以上の租税そぜいを払っている例すらある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
熊檮くまがし、女にむかひて、国のかみの召しつるぞ、急ぎまゐれといへど、こたへもせであるを、近く進みてとらふとせしに、たちまち地も裂くるばかりの二〇一霹靂はたたがみ鳴響なりひびくに、許多あまたの人ぐるひまもなくてそこに倒る。
菅茶山の書牘に許多あまたの人名の見えてゐることは、かみに写し出した此年文化十四年八月七日の書に於ても亦同じである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
遠く望めばブランデンブルク門を隔てゝ緑樹枝をさし交はしたる中より、半天に浮び出でたる凱旋塔の神女の像、この許多あまたの景物目睫の間に聚まりたれば
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
遠く望めばブランデンブルク門を隔てゝ緑樹枝をさしはしたる中より、半天に浮び出でたる凱旋塔の神女の像、この許多あまたの景物目睫もくせふの間にあつまりたれば
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その日には榛軒のさい飯田氏しほとむすめかえとが許多あまた女子おなごえきして、客に田楽でんがく豆腐などを供せしめた。パアル・アンチシパションに園遊会を催したのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかるに安済丸は海にうかんで間もなく、柁機だきを損じて進退の自由を失った。乗組員は某地より上陸して、許多あまたの辛苦をめ、この年五月にようよう東京に帰った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
既に先祖書を得た今、わたくしは未だこれを得なかつた昔に比ぶれば、暗中に一すゐの火を点し得た心地がしてゐる。しかし許多あまたの疑問はなか/\解決するに至らない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
香以は相摸国さがみのくに高座郡藤沢の清浄光寺の遊行上人ゆうぎょうしょうにんから、許多あまたの阿弥号を受けて、自ら寿阿弥と称し、次でこれを河竹其水かわたけきすいに譲って梅阿弥ばいあみと称し、その後また方阿弥と改め
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
香以が浅草日輪寺で遊行上人に謁し、阿弥号許多あまたを貰い受けたのもこの頃の事である。香以自己は寿阿弥と号し、いくばくもなくこれを河竹新七に譲って、梅阿弥と更めた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
臺石には金澤屋とり、墓には正面から向つて左の面に及んで、許多あまたの戒名が列記してある。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかし文政頃の手紙の文は、たとひ興味のある事が巧に書いてあつても、今の人には讀み易くは無い。忍んでこれを讀むとしたところで、許多あまたの敬語や慣用語が邪魔になつてその煩はしきに堪へない。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)