わか)” の例文
巴里の北の停車場でおまえとわかれてから、もう六年目になる。人は久しい歳月という。だが、私には永いのだか短いのだかわからない。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
其ほどに約束を守らねばならぬかわからずなった為に、聖衆降臨の途次といった別の目的を、見つけることになったと見る外はない。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
五時すぎにかえって風呂にも入った方がよいというので、四時半頃西練兵のところで電車にのる私たち、かえる隆ちゃんとわかれました。
そうしていつかは行き違いに死にわかれて行かなければならぬ、親とか子とか孫とかの肉縁の愛着の強い力を考えずにはいられなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もういよいよ立つという時になったものですから、母親がおわかれしないかというと大きな声で泣き立ててどうもしようがなかったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
わたしりあのSさんのやうにみなさんにもうおわかれです、でもねわたしいまおほきなおほきな丘陵きうりようのやうに、安心あんしんしてよこたはつてゐますのよ。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
中村と一緒に生活していた間に私の最も悲しかったことはしかし、中村に苛められさいなまれたことではない。それは弟とわかれたことであった。
今日記憶の旗が落ちて、大きな川のやうに、私は人とわかれよう。ゆかに私の足跡が、足跡に微かな塵が……、ああ哀れな私よ。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
くその所天おっとたすけて後顧こうこうれいなからしめ、あるいは一朝不幸にして、その所天おっとわかるることあるも、独立の生計を営みて、毅然きぜんその操節をきようするもの
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
『これはもときょううまれじゃが、』と老人ろうじんは一こうました面持おももちで『ごくおさな時分じぶん父母ふぼわかれ、そしてこちらの世界せかいてからかくまで生長せいちょうしたものじゃ……。』
私は文久二年四月の生まれですが、まだ物ごころのつかぬ時分に早くも両親にわかれて孤児となりました。
持ち行きて商主にわかれると、何故おそく来たか、荷物は皆ってしまった、気は心というから、何か上げたいものと考えた末、かの新たに生まれた駒こそ災難の本なれ
大船でわかれるとき、訣れの言葉をも交さず、またお互いに訣れるのだということも知らないで訣れるのなら好いと思った。しかし君と僕とはきまりの悪い、辛そうな顔して訣れた。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
と、病み衰えた顔に淋しい微笑を浮べ、梶棒かじぼうの上ると共に互に黙礼をかわしてわかれた。暫らくは涙ぐましく俥の跡を目送みおくったが、これが紅葉と私との最後の憶出おもいでの深い会見であった。
此のたびはもうこれがおわかれで、お萓は御存じの通りほかに身寄もなき不束者ふつゝかものうぞ幾久しゅう、お萓や見棄てられぬように気を付けなよ、それでも文治の嫁が思ったより優しいので
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
呉起ごきおのれそしりしもの三十餘人よにんころして、ひがしゑい(六五)郭門くわくもんで、其母そのははわかる。((己ノ))ひぢんでちかつていはく、「卿相けいしやうらずんば、ゑいらじ」と。つひ曾子そうしつかふ。
ものぐるひはかなしきかなと思ふときそのものぐるひにも吾はわかれむ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「これでお前達といよいよわかれる時がきた」
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
巴里パリの北の停車場でおまえとわかれてから、もう六年目になる。人は久しい歳月という。だが、私には永いのだか短いのだか判らない。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
御経おんきょうもんは手写しても、もとより意趣は、よくわからなかった。だが、処々には、かつがつ気持ちの汲みとれる所があったのであろう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
何處どこまでゝも——けれど、それがもしあなたの御迷惑ごめいわくになるとでも仰有おつしやるなら、わたし此處ここでおわかれします。でも、うちへはもうかへらない覺悟かくごです。』
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
とてもほかのわかれの挨拶は出なかった。明らかに、今は涙を制しかねている母を、伸子は二目と見ていられなかった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
さらば父よ、叔母よ、弟よ、祖母よ、祖父よ、叔父よ、今までの関係に置かれた一切のものよさらば、さらば、今こそ私たちのわかれる時が来たのだ。
いかにも釈迦牟尼如来しゃかむににょらいわかれを告げてこれから帰るとはいうたものの、せっかく日本人としてこの国に来て居ながら
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
森さんは去年細君にかれて、最近また十八になる長子とわかれたので、自身劇場なぞへ顔を出すのをはばかっていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わが友はわが枕べにすわり居りわかれむとしてなみだをおとす
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
これがアンナがわかれる最後に私に云つた言葉だつた。わたしは脇の下に挟んだ彼女の七色織の日傘の畳目にキッスして彼女に返した。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
理分にも非分にも、これまで南家の権勢でつき通して来た家長老おとな等にも、寺方の扱ひと言ふものゝ世間どほりにはいかぬ事がわかつて居た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
長いあいだ子供の病気や死にはれている庸三だったが、はやく母にわかれた咲子の病気となると、一倍心が痛んだ。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その夜、千代さんは、こっそりと起きて長い最後の手紙を、永遠のおわかれの手紙を、叔父に書いた。
その夜は、低い声で、彼の心を蹴とばして他人のものになった女のことを母娘に話してきかせた。油井が最後のわかれにその女と小田原へ行ったというところへ来たとき、お清は
未開な風景 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
これが師匠のガンデン・チー・リンボチェと私との最終のおわかれであったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
たゞ一人ひとりたのみとする片山かたやまわかれた彼女かのぢよは、まつたさびしいうへだつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
山を野へ下り立つ人は山を振り返るに、惜しきわかれとらく/\した気持とで、こころ小鼓の調べの緒のあやにうち返すといいます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
理分に非分にも、これまで、南家の権勢でつき通してきた家長老おとな等にも、寺方の扱いと言うものの、世間どおりにはいかぬ事がわかって居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
三須は庸三のところへ出入りしていた若い文学者の良人おっとと死にわかれてから、世に出るに至らなかった愛人の志を継ぎたさに、長い間庸三に作品を見てもらっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母になる可能性を信じるようになって、その青年とはわかれてしまった。
未開の花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この説明好きの男にもわかれたくなった。加奈子はこれ以上、ここに居ると何か嫌悪以上の惑溺わくできに心も体も引き入れられるような危い気がした。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
亀卜の亀の精霊が、太詔戸命ではわからぬ事である。「亀卜祭文」なども、神祇官の卜部等の唱へ出したものであらう。
上層階級の空気を吸って来た民子が、良人に死にわかれ、胎児をも流した果てに、死からよみがえって新橋へ身を投じたのも、あながち訳のわからぬ筋道でもないのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
むす子は、ただしばしば男にわかれねばならなくなる運命の女であるというところに、あっさり興味を持っているようだった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それを見物の方でも自分自分に感じて楽しむという——まあわかり易くいえば一種のまぞひずむだが、これが源之助の芸の場合には大切な解釈であったのだ。
役者の一生 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そこで稼いでいるうちに、米屋町こめやまちで少しは名前の通った花村という年輩の男を物にし、花村がちょうど妻と死にわかれて、孤独の寂しさを身にしみて感じていた折なので、家へ入れる約束で
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ただ一つ永久のおわかれに、わたくしがあのとき呼び得なかった心からのお願いを今、呼ばして頂きうございます。それでは呼ばせて頂きます。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こう言う、考えに落ちつくと、ありようもない考えだとわかって居ても、皆の心が一時、ほうと軽くなった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
倉持は幼い時に父にわかれ、倉持家にふさわしい出の母の手一つに育てられて来たものだったが、法律家の渡弁護士が自然、主人歿後ぼつごの倉持家に重要な地位を占めることとなり、年の若い倉持にほ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
眼の前のこの蝶ちゃんなら、いつかお互に気まずい思いをして一たんわかれてしまったら、やがては忘れ去るときも来よう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ただ山越しの弥陀像や、彼岸中日の日想観の風習が、日本固有のものとして、深く仏者の懐に採り入れられて来たことが、ちっとでもわかって貰えれば、と考えていた。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
お千代婆さんは少しきついような調子で言った。婆さんは早く良人おっとわかれてから、長いあいだ子供の世話をして、独りで暮して来た。浅井などに対すると、妙に硬苦かたくるしい調子になるようなことがあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あなた方内地の女性に向って、ふだん考えめていたことを、話し出せそうな緒口いとぐちが見つかったようになって、おわかれするのは惜しいものです」
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)