薄紅うすべに)” の例文
掃除さうぢんだひやりとした、東向ひがしむき縁側えんがはると、むかやしきさくらたまあらつたやうにえて、やほんのりと薄紅うすべにがさしてる。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不思議なほど濃紫こむらさき晴上はれあがった大和の空、晩春四月の薄紅うすべにの華やかな絵のような太陽は、さながら陽気にふるえる様に暖かく黄味きみ光線ひかり注落そそぎおとす。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
まず五六十人の若い女が白い「ころも」、白い笠、顔には薄紅うすべに白粉おしろいを厚く塗り歯はおはぐろで黒く染めて、田植えの場所へと並んで行く。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
白花という名をかむらせるくらいだから白くはあるが、花冠の脊には、岩魚いわなの皮膚のような、薄紅うすべにの曇りがし、花柱を取り巻いた五裂した花冠が
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
薄紅うすべにをさして居るのが一層ひときはいやらしく見える、が、一更いつこうすましたもので、其だるい京訛きやうなまりを大声で饒舌しやべつて居る、勿論えず煙草たばこはすつて居るので。
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
春もすでに三月のなかばである、木々のこずえにはわかやかな緑がふきだして、さくらのつぼみが輝きわたる青天に向かって薄紅うすべに爪先つまさきをそろえている。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
きのう電車ではしって来た沿線の曠田こうでんの緑と蓮池はすいけ薄紅うすべにとがはるか模糊もことした曇天光どんてんこうまで続いて、ただ一つの巒色らんしょくの濃い、低い小牧山が小さく鬱屈うっくつしている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
尾の端まで紅殻べにがらを刷いたように薄紅うすべにいろどりが浮かび、美装を誇るかに似て麗艶れいえんとなるのである。
楢の若葉 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
ゆたかに隆起した胸にまろまろと並んだ二つの乳房の、左の薄紅うすべに色の乳房に足の長い女郎蜘蛛じょろうぐもが一匹上から逆さに止まって居る。巣は左の肩から乳房の下まで張られて居た。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
昭青年がいま水際に降りる岩石の階段に片足を下ろしかけたとき、その石のかげになっている岸と水際との間のなぎさに、薄紅うすべにの色の一かたまりが横たわっているのが眼に入りました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私はさうして塗骨の銀の扇の持主になりました。絵は桜の花で、四分通りの地が薄紅うすべににつぶされて居ました。母は舞扇が買はれる度に、扇の上に切地きれぢで縁を附けるのが好きでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
国貞はまた常に薄紅うすべに薄藍うすあいの如き薄色地の衣裳と、殊更ことさらに濃くしたる黒色こくしょくを用ゆる事を好む。国貞の風景画には名所の山水を背景となし半身の人物を描ける東海道名所絵の続物つづきものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すすきしろがねの穂を延ばし、水引みずひきの花は紅に、芙蓉ふようの花は薄紅うすべにに、竜胆りんどうの花は空色に、雑草のに間に咲き乱れ、風に乗せられて匂うのは、木犀もくせいの香か睡蓮すいれんの香か、時雨のような虫の声は
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
湯上りの、ぱっと白い、派手な、品のい顔を、ほんのり薄紅うすべにした美しい耳許みみもとの見えるまで、人可懐ひとなつッこく斜めにして
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ててつぷつぷ弥惣次けつけと啼く鳩のしろい鳩奴はとめ薄紅うすべにの足
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
女房 貴女の薄紅うすべになは桃の露、あちらは菊花のしずくです。お国では御存じありませんか。海には最上の飲料のみしろです。お気がすずしくなります、召あがれ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真綿をスイと繰ったほどに判然と見えるのに、薄紅うすべにの蝶、浅葱あさぎの蝶、青白い蝶、黄色な蝶、金糸銀糸や消え際の草葉螟蛉くさばかげろう金亀虫こがねむし、蠅の、蒼蠅、赤蠅。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄紅うすあかい影、青い隈取くまどり、水晶のような可愛い目、珊瑚さんごの玉は唇よ。揃って、すっ、はらりと、すっ、袖をば、すそをば、あいなびかし、紫に颯とさばく、薄紅うすべにひるがえす。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひるた、さか砂道すなみちには、あをすすき、蚊帳かやつりぐさに、しろかほの、はま晝顏ひるがほぶたを薄紅うすべにそめたのなどが、まつをたよりに、ちらちらと、幾人いくたりはなをそろへていた。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やっぱり、はあ、真白まっしろはだ薄紅うすべにのさした紅茸だあね。おなじものでも位が違うだ。人間に、神主様も飴屋もあると同一おなじでな。……従七位様は何も知らっしゃらねえ。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たらたらとうるしのような腹を正的まともに、こうらに濡色の薄紅うすべにをさしたのが、仰向あおむけにあぎと此方こなたへ、むっくりとして、そして頭のさきに黄色く輪取った、その目がなかだかにくるりと見えて
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まいだけはその形細き珊瑚さんごの枝に似たり。軸白くして薄紅うすべにの色さしたると、樺色かばいろなると、また黄なると、三ツ五ツはあらむ、芝茸はわれ取って捨てぬ。最も数多く獲たるは紅茸なり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あきなひ留守るすの、晝過ひるすぎしんとして、やなぎかげ腰障子こししやうじまつてる、したみせまへから入口いりくちけて、くぼむだ、泥濘ぬかるみめるため、一面いちめん貝殼かひがらいてある、しろいの、半分はんぶんくろいの、薄紅うすべに
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
商に出た留守の、昼過ひるすぎしんとして、柳のかげに腰障子が閉まって居る、樹の下、店の前から入口へけて、くぼんだ、泥濘ぬかるみを埋めるため、一面に貝殻かいがらが敷いてある、白いの、半分黒いの、薄紅うすべに
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)