ここ)” の例文
ここに透き写す、これで見ると、蝶や農鳥は、雪がその形をするのだが、農男は、雪に輪を取られた赭岩が、人物の格好に見えるらしい
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
信一郎が、ここまで話したとき、夫人のおもては、急に緊張した。そうした緊張を、現すまいとしている夫人の努力が、アリ/\と分った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
むしろ凄惨な男性の性慾、暴力、所有慾、ここにしてまた引っ裂かれる女性の犠牲死体が、じりじりと日光と砂熱とに焼けただれるのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
剣菱ここに論語、聖書の中より二三節を抜摘して、公平なる批評を加えて、孔子や耶蘇がほど利口な事をいったか研究して見よう。
論語とバイブル (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
始終私どもの講義を聞いて、ここにはじめて神の正しく儼存げんぞんたまううえは、至誠しせいってこれを信じその道を尽し、その法を修めんには
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし万人が見てこれを感じはしても、何人も能く味解し得べくもないこれらの魅力をここに縷説して果して何の益があらうか……。
後から後からと次第に力が加わって大空の一点を指して或る高さまで達すると、ここに始めて長短曲直各種の線が離合集散の妙を尽して
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それでここに私の述べた所は、平塚さんに寄せる私の答弁では全くなくて、第三者たる人たちの裁定の資料として述べたのに過ぎません。
平塚さんと私の論争 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
詞藻しそうの豊富に対して驚くべき自信を持っていたなら、自分は余す処なく霊廟の柱や扉の彫刻と天井やふすまの絵画の一ツ一ツをここに写生し
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
回を重ぬる六十回、時歳末に際して予期の如く事件を発展せしむる能はずここに一先づ擱筆するに到れるは作者の多少遺憾とする所なり。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
額は血がのぼって熱し、眼も赤く充血したらしい? ここに倒れても詩の大和路だママよとじっと私は、目をつむってしばらく土に突っ立っていた。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
今は二十世紀、ここは日本国だけにいかめしい金ピカで無いから、何れも黒のモーニングに中折帽で、扮装いでたち丈では長官も属官も区別はつかぬ。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
ここに空気の一塊ひとかたまりが高い所へ昇って行くと、四方からこれを圧している外気の圧力が減ずるから、その空気の塊は漸次膨脹する。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
もし松島の詩歌俳句等にして秀俊なる者あらば、そは必ず松島の真景に非ざるなり。(吉野は我これを知らず、故にここに論ぜず)
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
で、あなたとの御交際をこれ切りで打ち切らなければならないことも諒解りょうかい出来ました。しかしここで僕に少しく云わして頂き度い。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
水の低きに就く様に文学の本流はここに流れ落ちて来る。これには色々異存もある様であろう。けれども事実が之を証明しつつある様である。
第四階級の文学 (新字新仮名) / 中野秀人(著)
ここにおいて我が地方的玩具の保護や製作を奨励しょうれいする意味が一層深刻しんこくになるのである。(大正十四年九月『副業』第二巻第九号)
土俗玩具の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
この白石博士を、柿丘秋郎は恩人と仰いでいると、ここに誌したが、柿丘も実は博士のこの新療法によって、更生の幸福をつかんだ一人だった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かく自分の読んだだけの範囲で云うと、ここに一種の哲学なら哲学があって、それを現わす為めに、殊更な劇を組み立てたように思われる。
予の描かんと欲する作品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翁は福岡の誇りとするに足る隠れたる偉人高士であったと断言しても、決して過当でない事が、ここに於て首肯されるであろう。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
私がここに訳出したのは、メルキュル版千九百二十四年刊行の「アルチュル・ランボオ作品集」中、韻文で書かれたものの殆んど全部である。
たとえば、ここにある一個の人間の子、相馬そうま小次郎こじろうなども、そうした“地の顔”と“天の気”とを一塊の肉に宿して生れ出たようなわっぱだった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここ数日後に瑪瑙座の創立記念公演があると言うので、関係者からはそれとなく出京を促されていた為、一両日の中に帰京する筈になっていた。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
手軽に考へたいかさま学説をむりに社会へ押売にするのは、えら大伎倆だいぎりやうで。ここが学者の学者たる価値しんしやうかも知れんが、俺は何だか虫が好かんのだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
その時の何某なにがし刑事の手柄話が載せられた程であるが——この私の記述も、実はその新聞記事にったものである——私はここには、先を急ぐ為に
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
う見ても一個の書生なれどここに詰居る所を見れば此頃谷間田の下役に拝命せし者なる可し此男テーブルごしに谷間田の顔を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「尾ノ道の地由来文化なし、いはんや文政をや。ここを以て殷賑の市いまだ一つの図書館だになし、あに恥じざるべけんや……」
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ここすむ近在きんざい后谷村ごやむらといふあり。此村の弥左ヱ門といふ農夫のうふおいたる双親ふたおや年頃としごろのねがひにまかせ、秋のはじめ信州善光寺へ参詣さんけいさせけり。
ここに第二の誓願を起して、さて身に叶う仕事は三寸の舌、一本の筆よりほかに何もないから、身体の健康を頼みにしてもっぱら塾務を務め、又筆をもてあそ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
中田は歩きながら、こここの頃、ひどく不運つづきの自分自身に、全く愛想がつき果てて思わず大きな溜息をき出した。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
併しそれを正面から実行した点につき、この方面の作歌に一つの基礎をなした点につき、旅人に満腔まんこうの尊敬を払うてここに一首を選んだのであった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
黎元れいぐわん撫育むいくすることやや年歳としを経たり。風化ふうくわなほようして、囹圄れいごいまむなしからず。通旦よもすがらしんを忘れて憂労いうらうここり。頃者このごろてんしきりあらはし、地しばしば震動す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
わが誇るは益なしと雖も止むを得ざるなり、ここに主の顕示しめしと黙示とに及ばん。我はキリストにある一人の人を知る。
パウロの混乱 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ここに苦しんでいる人間があるとする。それを傍の人間が救う、その行為が果して愛であるか否かは余程疑問である。
愛に就ての問題 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すなわちここにもまた二十年前の子どもとお母様とが、再びその感慨を新たにしているのである。母といた日の悦楽は、老いたる私にさえも蘇ってくる。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
だがここに到つて自体考へなぞといふものが、凡そなつちやあゐないものであることを、思はないではゐられない。
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
話は少しれるがのちに探偵小説を論ずるときに必要であるから「じやう」に入ることに就てここに少しく述べて置かう。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
これ余が本校に向て冀望する所以の首要にして、微々ながらも余の力を出し、これをここに用いんと欲する所なり。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
つゞまり二月はここで暮し三月の三日一先づ薩摩へ行つては如何と西郷さんが勤めるので、小松さんの持船の三国丸へ乗つて私も一処に薩摩へ下りました。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
さて、そうしてここに二十年。医者が、それ迄は生きられまいと云った四十の歳を最早三年も生延びたのである。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そのたたかひの如何に酷烈を極めたるか、如何に歩々ほほ予を死地に駆逐したるか。予は到底ここに叙説するの勇気なし。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
コレ即チ清教徒ガ新世界上陸ノ基点ニシテ、世界殖民ノ歴史ニ異彩ヲ放テルぷりまうすノ事業モまたここニ始ル
そして遂にここに、犯人は残った二名のうちに限定されてきて了った。即ち、Aの場合か、Bの場合か——?
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
余すなわちその事実にり一文を草し、碩果生せきかせいの名を以てこれを同二十五日の時事新報に掲載けいさいせり。実に先生発病はつびょうの当日なり。本文と関係かんけいあるを以てここ附記ふきす。
明治の世になりて、宗祐は正四位を贈られ、宗政は従四位を贈らる。地下の枯骨、ここに聖恩にへる也。
秋の筑波山 (新字新仮名) / 大町桂月(著)
仏教中の様々の食制に関するかんがえは他にたれか述べられる予定があったようであるからここにはこれを略する。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ただここに不思議なのは心である、五官の力を借りないでこの心で事物を知る能力が人間に備っている。
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
終りにここに書いて置かなくてはならぬ事は、此書の出版に就き医学博士宮嶋幹之助君が大層骨を折って下さった事と、啓明会が物質上多大の援助を与えられた事と
終りにここに書いて置かなくてはならぬ事は、此書の出版に就き医学博士宮嶋幹之助君が大層骨を折って下さった事と、啓明会が物質上多大の援助を与えられた事と
古来、世界の船乗シイメン仲間の不文律に従って「上海シャンハイされた男」坂本新太郎と自分を「上海シャンハイ」した坂本新太郎とは共にここに二度と再び土を踏めないことになったのである。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)