しゅうと)” の例文
「わたくしのしゅうと様すこし以前より、物のにでもかれましたか、乱心の気味にござりまするが、ご祈祷きとうをしてくだされましょうか」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
母は、しゅうとに孝行であるから、それをもらっても、ありがたそうな顔をして、帯の上に、それでもなるべく目立たないように吊り下げる。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかししゅうとのバーナードの死ぬまでは、毎土曜日には必ずその家に行って、日曜には一緒に教会に行き、夕方また王立協会へ帰って来た。
しゅうとの峰蔵も心配して、いっそ娘を取り戻そうかと云っているが、もともと好いて夫婦になった仲なので、お豊がどうしても承知しない。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
左近少将もこの派手はでしゅうとぶりに満足して、夫人のほうもやむをえず同意したことと解釈をし、以前に約束のしてあった夜から来始めた。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しゅうとの宗円はそう叱っても決していたわりなどしなかった。宥れば宥るほどかえって彼女の女ごころをとめどなく掻き乱すからであろう。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
豊世は橋本のしゅうとが家出の当時のことや、生家から電報が来て、帰って行ってみると、それぎり引留められて了うところであったことや
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一名シナイ山のほとりでしゅうとのエテロという祭司の羊を牧っていたところ、そこではじめて「エホバ」という神の名を知らされた。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
この、おいたる婿と、しゅうとしゅうとめが、どうした事か、毎日の、どんな些少ささいな交渉でもみんな私のところへ、一々もってくるのだった。
しゅうとの仇、父の仇は一人住居だ、まず討ちとるのに困難はない、殊に宮内は非力者だ——夫婦は顔を見合せて、久振りに笑った。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
それは彼等にはどちらでも善かった。が、重吉はしゅうとよりもむしろお鈴の思惑を考え、半月形の窓越しに熱心に事務員と交渉した。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ルイザはクラフト家の人たちのすぐれてることを議論なしにいつも承認していたから、夫としゅうととの方が不当だとは夢にも思っていなかった。
また、しゅうとも、しゅうとめも、かわいがってはくれましたけれど、むこというひとは、すこし低能ていのうまれつきであることがわかりました。
海ぼたる (新字新仮名) / 小川未明(著)
結局お前が顔を出せば当らず障らずだろうと思う。お前は松浦さんと去年からの馴染なじみだから、そのしゅうとさんを見舞いに行く分には差支えあるまい
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「いずれ明日と申してそれぞれ引き取られました、阿賀妻どのはしゅうとどのが待っておられるにちがいないと、かよう申されまして、今し方——」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
その中へ、自ら進んで来てくれて、夫のため、しゅうとのために一生を尽くした事は、私どもに取っても感謝に余ることである。
その上、三人でいた間は、肥前ひぜんくに加瀬かせしょうにある成経のしゅうとから平家の目を忍んでの仕送りで、ほそぼそながら、朝夕ちょうせきの食に事を欠かなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しゅうとの新五郎も泣けば義理ある弟夫婦も泣き、一座は雇い婆に至るまで皆泣いたのである。それから間もなく、新造は息を引き取ったのであった。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
一人の夫や両人のしゅうとしゅうとめや自分の生んだ子供に対する心掛などは、その場に臨めば大抵の女に自然会得が出来るものです。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
フョードルの妻のソフィヤは、器量のわるい病身な女で、しゅうとの家に住んでいる。いつも泣いてばかりいて、日曜ごとに病院へ療治をして貰いに行く。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
全軍殆んど覆没し、陣代の高森上野こうつけ婿むこしゅうとよしみを以てあわれみを敵の桑折(福島附近の桑折こおりにあらず、志田郡鳴瀬川附近)
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これからはじめて会う、しゅうとしゅうとめ、小姑達にしても、この義兄の蔭に身を寄せたらばと、そう考えられるのであった。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
竹渓は精里の男侗庵とうあんしゅうとに当る鈴木白藤とも相識あいしっていた。「清風館集。是日会者空空、白藤、南畝諸子凡七人。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かく赫耀かがやきながら幾度も転生うまれかわる中、梵授王の世に、婆羅尼斯城の婬女に生まれ賢善と名づけ、顔容端正人の見るをよろこぶ。ところでかねて王のしゅうとと交通した。
斎藤内蔵助は名を利三としみつといって、美濃の国曾根そねの城主、稲葉一鉄いなばいってつとは婿むこしゅうとのあいだがらにあったが、訳あって稲葉家を去り、当時浪人の身の上であった。
蒲生鶴千代 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さる八月十七日、伊豆国の流人前右兵衛佐頼朝、しゅうとの北条四郎時政を味方に引き入れ、伊豆国の目代もくだい和泉判官兼隆いずみのはんがんかねたか八牧やまきの館に夜討かけ討ち果しました。
のち帰国の上、お町を連れて大伴蟠龍軒を討ち、しゅうとの無念を晴すと云う、文治郎漂流奇談のお話もらくでございます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
本邸に引き取られ、厳しいしゅうとにつかえ、何一つ自由というものは与えられず、毎日を泣いて暮らしながら、ただ夫の無事に帰る日ばかり待っていたのです。
恐怖の幻兵団員 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
しゅうとと金持ちの伯母おばと、それから親戚もあったのでしょうが、とにかくその人たちは、父親が子供に会うなら子供に相続権を与えないとおどかしていたのです。
ファニイは米国から未見のしゅうとに自分の写真を送り、書添えて言った。「実物よりもずっと良く撮れております故、決して此の通りとお思い下さいませぬよう。」
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「へん、お気の毒さまだが、しゅうとに暇を出されるような、そんな意気地なしのお上さんと上さんがちがうんだ」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
目上の人に仕うるのは女の道であるから一旦他家へ嫁いだ後はその家のしゅうとしゅうとめに従順に仕うることはもちろん、夫には最も親切になお夫の兄姉等にもよく仕え
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この芳子を妻にするような運命は永久その身に来ぬであろうか。この父親を自分のしゅうとと呼ぶような時は来ぬだろうか。人生は長い、運命はしき力を持っている。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
私は世間のお嫁さんたちが毎日心掛けてこういうお料理をおしゅうとやおしゅうとめさんに差上げるようになすったらお嫁さんとお姑さんの仲も必ず好くなるだろうと存じます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しゅうとはそうもなかったのですが、しゅうとめがよほどつかえにくい人でして、実は私の前に、嫁に来た婦人ひとがあったのですが、半歳はんとし足らずの間に、逃げて帰ったということで
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
聟の勘五郎は三十五、六、しゅうとの言いなり放題で、二十年あまり、奉公人同様の境遇に忍んで来ました。
このとおり、しゅうとしゅうとめのないアメリカには、そのかわりに「お母さんのプディング」によって、若いお嫁さんは紅涙をしぼらせられなければならないことになっている。
字で書いた漫画 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
一 それ女子にょしは成長して他人の家へ行きしゅうとしゅうとめつかふるものなれば、男子なんしよりも親の教ゆるがせにすべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しゅうとおびやかすような出過ぎた真似をしないように、君もひとつ泥にまみれてくれというのだ……返事はすぐでなくてもいい。まあ明日までゆっくりとかんがえてもらおう
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かくも夢中で御婚礼をすませて、一日二日は、夜さえ眠ったのやら眠らなかったのやら、しゅうとしゅうとめがどの様な方なのか、召使達が幾人いるか、挨拶あいさつもし、挨拶されていながらも
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
老宰相は伜の寡婦かふのいる内房ないぼう西房せいぼうへ入って往った。寡婦の夫人は愛嬌あいきょうを湛えてしゅうとを迎えた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
で、「右の頬を打たれたら左の頬も向けよう」彼はしきりにこうした気持をあおりたてて出かけて行ったのだが、しゅうとには、今さら彼を眼前に引据えて罵倒ばとうする張合も出ないのであった。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
そして、謙蔵はしゅうとしゅうとめに対する義理合から、お延は姉のお民に対する思わくから、老夫婦は、次郎本人に対する愛と俊亮に対する面目から、それぞれあと一年を我慢することにした。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ふと聞けば新田義興が足利から呼ばれて鎌倉へ入るとの噂があるので血気盛りの三郎は家へ引き籠もっていくさの話を素聞きにしていられず、しゅうとの民部も南朝へは心を傾けていることゆえ
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
しゅうとめか、しゅうとか、小姑こじゅうとか、他人か、縁者、友だちか。何でも構う事はねえだの。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
香央の娘の磯良いそらは、井沢家にとついでから、朝は早く起き、夜は遅く床につくというように、毎日精を出してはたらき、つねにしゅうとしゅうとめのそばをはなれずにまめまめしくつかえ、夫の性質をのみこんで
藤原氏は代々、その女子を、天皇に配して、天皇家のしゅうとであつた。
彼女はしゅうとの一閑斎や夫則重の顔のまん中に満足な鼻が附いているのを見るにつけても、父がひとしお可哀そうでならなかったと云っている。恐らく彼女は誰の顔の鼻を見ても腹が立ったことであろう。
エドナがかねてしゅうとを恨んでいたがためだと想像した。
誤った鑑定 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
くいかねぬむこしゅうとも口きいて 翁
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)