かか)” の例文
坊門ノ宰相清忠は、そうそう下山して行ったが、途中の輿こしのうちでも、瘧病おこりかかったようなだるい熱ッぽさを持ちつづけて帰った。
この年は初めて悪性の世界的流行感冒が流行はやった秋のことで、自分もその風邪かぜかかったが、幸いにして四、五日の軽い風邪で済んだ。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ところが、天罰と云うのか、運がいいと云うのか、年造はコロリにかかって、善八が召し捕りにむかった時には、もう死んでいました。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
官報局を罷めてから間もなく、関節炎にかかって腰が立たなかった時も元気はすこぶる盛んで、談笑自如として少しも平生と変らなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
また、なぜですと突き込むのも、何だか伏兵ふくへいかかる気持がしていやである。ちょっと手のつけようがないので、黙って相手の顔を見た。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先年或る高等官が大病にかかった時、私の友人の学者連が二、三人で病気見舞にってその帰りにここへ寄った。その時の話しに驚く。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
すると、十二年の夏中から師匠は脚気かっけかかりました。さして大したことはないが、どうも捗々はかばかしくないので一同は心配をいたしました。
らうと云つたそのお幸の父も、お幸とお幸より三つ歳下とししたの長男の久吉ひさきちがまだ幼少な時に肺病にかかつて二年余りもわづらつて歿くなりました。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
グスは先月以来、酒を飲むと痛くて飛び上がる病気にかかって暮夜、ひそかに三村と呼ぶ花柳病かりゅうびょう専門の医者へ通っているところであった。
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そいつらを皆病気にかからせて自分のように朝晩地獄の責苦せめくにかけてやったならば、いずれも皆尻尾を出して逃出す連中に相違ない。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
また昨年以来不意に三度も肺炎に侵されしが幸いに平癒して以来何んの別条もなく、この頃は一向に風邪にもかからず過ぎ行いています。
園芸を好み、文芸をも好みしが、二十はたちにもならざるうちに腸結核ちやうけつかくかかりて死せり。何処どこか老成の風ありしも夭折えうせつする前兆なりしが如し。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自暴自棄な年若の大之進が腕ができるにしたがい人斬り病にかかったのも、狂人きちがいに刃物のたとえ、無理からぬ次第であったとも言える。
僕もその頃、上村さんのお話と同様、北海道熱のはげしいのにかかっていました、実をいうと今でも北海道の生活は好かろうと思っています。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
勝見は既に彼自身が病気にかかっているところから、今後の彼の生活を保障して貰うのを交換条件として、笛吹川の意志に従ったのです。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は一月ほど前から、得体の知れない病いにかかりました。熱もなくただ瘠せ衰えてゆきまして、絶えずうつらうつらとしているのです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
江戸にある平田篤胤あつたねの稿本類がいつ兵火の災にかかるやも知れないと心配し出したのは、伊那の方にある先師没後の門人仲間である。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
アクリシウスすなわち母子を木箱にれ、海に投げたが、セリフス島に漂到して、漁師ジクッスの網にかかり、救われ、ねんごろに養わる。
村では小学校の先生程の学者はない、私は先生の学校に入ったのである。然るに幸か不幸か私は重いチブスにかかって一年程学校を休んだ。
或教授の退職の辞 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
そういう優れた民族が中毒性にかかって衰えたのである。それでこれを救うには、宜しく解毒剤を施すに限る。毒を解いてやるのが必要だ。
空咳からぜきの出る疲れ病にかかったことも、疲れ病と同時に男の病に迄罹る人間もあることを思えば、少くとも一つの病だけは免れたことになる。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
僕の結婚当時から、腹が痛むと云って食べ物に注意していた今井は、何時の間にか腸結核にかかって、不治の病床に呻吟しんぎんしていた。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
それから大正三年の夏に脊髄病にかかって大正五年の秋まで足かけ三年の間私に介抱されたあげく肺炎で死んだ。その時が五十五であった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
イヤ、視覚聴覚ばかりではない、脳細胞そのものが病気にかかっているのではないだろうか。こんな山の中の独居ひとりいがいけないのかも知れぬ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
遊佐は実にこの人にあらず、又この覚悟とても有らざるを、奇禍にかかれるかなと、彼は人の為ながら常にこのうれひを解くあたはざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
むかし腎盂炎にかかったあとが全く癒り切らないで残っていて、それが急に重り出して、やゝ尿毒症さえ併発していると申します。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
リウマチスなんて、老人のかかる病気みたいで、気の利かぬこと夥しいが、いずれしかし、なおることは癒ると思うから、心配しないで欲しい。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
一種の神経衰弱にかかったところの病人は、二日も三日も平気で眠りつづけると言われる。数年前、彼はその軽いやつに罹ったことがあった。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
上野寛永寺うえのかんえいじの楼閣は早く兵火にかか芝増上寺しばぞうじょうじの本堂も祝融しゅくゆうわざわいう事再三。谷中天王寺やなかてんのうじわずかに傾ける五重塔に往時おうじ名残なごりとどむるばかり。
医者は神経衰弱だというそうですが、不眠性にかかって、三日も四日も、七日なぬかばかり一目もおやすみなさらない事がある。悩みが一通ひととおりじゃない。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悪性の流行性感冒で、かかると直ぐに肺炎を発する。東京丈けでも毎日何百という市民がこの疫癘えきれいさらわれて行く。学校も一時閉鎖となる有様。
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これまで既に二度、同じ病気にかかった時分の事も思い出す。始めての時はまだ小学時代の事で、大方の事は忘れて仕舞った。
枯菊の影 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は夏目先生の著作を愛読しているものですが、神経衰弱にかかって一年ばかり学校を休んでいる間に所々を旅行して今度この地に来たのです。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「僕はいまかかっている興奮状態ではこれで十分健康なのだ。もし君がほんとうに僕の健康を願ってくれるなら、この興奮を救ってくれたまえ」
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
その弟が、いろいろの失敗に続いて、いたましい肺病にかかり、一年ほど前から田舎へ引っ込んでいたことを、婆さんは立つ前に笹村に話した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家じゅうの者が順々に流感に感染するような時でも彼女だけはかからずにしまうと云う風で、今迄ついぞ病気らしい病気をしたことがなかった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あとにて聞けばしょうの親愛なる富井於菟とみいおと女史は、この時娑婆しゃばにありて妾と同病にかかり、薬石効やくせきこうなくつい冥府めいふの人となりけるなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
チベット人は私の出て来た時分に来れば必ず熱病にかかるにきまって居るですから、その時分は誰も往来しない。私はその事をよく知って居った。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それははじめ七郎が金を持っていって母にいうと、母は私が公子を見るに暗い筋があるから、きっと不思議な災難にかかる。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
その期日をだしておかなくちゃあ——未来の労働者と兵隊がみんな疱瘡にかかって死んでしまったら、プリンス伊藤もココフツォフも困るだろう。
それにしても、愛するという文字が読めなかったとは、よほどの私は無学であったと考える。私は帰郷病にかかったはずだ。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
無限絶対の『神』又は『仏』のみを説きて、神意の行使者たる天使の存在を説かない教は、ほとんど半身不随症にかかって居る。
熱射病にかかって死ぬものが日に三十人を越した。一日に四十人ぐらい人口が減じたとて大日本帝国はびくともせぬが、人々はすこぶる気味を悪がった。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
決して海の上では災難にかからなかったものが、今度は、赤い蝋燭を見ただけでも、その者はきっと災難に罹って、海におぼれて死んだのであります。
赤い蝋燭と人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
遂に望みを達し得ざるのみならず、舎弟は四肢しし凍傷とうしょうかかり、つめみな剥落はくらくして久しくこれに悩み、ち大学の通学に、車にりたるほどなりしという。
もう団子坂へ移ってから、於菟さんが腎臓病にかかって、「入院させたら」という話になった時、「私の傍から連れて行ってしまうのはあんまりだ」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「君は何故美女を携えてここへ来た、ここには鬼神があって、美女と見れば必ず盗むので、往来の者でこの難にかかる事がある、君もく守るがいい」
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それはもう民藝品ではなくして、病いにかかった贅沢品になっているからです。「七つの見処」は見る方にあるので、作る方にあるのではないのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
建久八年(六十五歳)の時法然が少しく病気にかかった。兼実は深くこれを歎いたが、それでも病気は間もなくなおった。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
亡母の一周忌も半月繰上げて、ホンの型だけ済ませ、ガラクタな手荷物などをまとめたが、出発の前日になって上の男の子が猩紅熱しょうこうねつかかってしまった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)