硝子窓ガラスまど)” の例文
取り付きの角の室を硝子窓ガラスまどから覗くと、薄暗い中に卓子テーブルのまわりへ椅子いすが逆にして引掛けてあり、ちりもかなりたまっている様子である。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
枕元の硝子窓ガラスまどに幽暗な光がさしているので、夜があけたのかと思って、よくよく見定めると、宵の中には寒月が照渡っていたのに
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
牧野も彼もまだ旅姿のままで、一度神戸で脱いだ旅の着物をた身に着けて、汽車中ほとんど休みなしに硝子窓ガラスまどの側に立ちつづけて行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
窓帷カアテンをひいた硝子窓ガラスまどのところで、瀬戸の火鉢ひばちに当たって小説の話をしていると、電話がかかって来て、葉子は下へおりて行った。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
リーダーを持ったまま、彼は硝子窓ガラスまどの方へ注意をけていた。ひょろひょろの銀杏いちょうこずえに黄金色の葉がヒラヒラしているのだ。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
ふと相手に気がついて見ると、恵蓮はいつか窓側まどぎはに行つて、丁度明いてゐた硝子窓ガラスまどから、寂しい往来を眺めてゐるのです。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
帆村は気の毒そうにその人の舞踊をみていたが、どうしたのか、ハッと顔色をかえると、顔を硝子窓ガラスまどりつけて叫んだ。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
木製の頑丈がんじょうなベッドが南枕みなみまくらで四つ並んでいて、僕のベッドは部屋の一ばん奥にあって、枕元の大きい硝子窓ガラスまどの下には
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さてやがて乗込のりこむのに、硝子窓ガラスまど横目よこめながら、れいのぞろ/\と押揉おしもむでくのが、平常いつもほどはだれ元気げんきがなさゝうで、したがつてまで混雑こんざつもしない。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
硝子窓ガラスまどごしに家の裏畑や向うの雑木林が何処もかしこも真白になったのを何んだか浮かない顔をして眺めていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
今云った一間幅の廊下を横切って、控所へ這入はいると、下はやはり和土で、ベンチが二脚ほど並べてある。小さい硝子窓ガラスまどには受附と楷書でりつけてある。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
肩幅の広い、ガッシリした六十余歳の、常に鼠色の洋服を着て、半ば白くなった顎髭あごひげをもじゃもじゃとのばして、両手でこれをひらいている。会堂の両側は硝子窓ガラスまどである。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
風も吹いた。汚れた硝子窓ガラスまどを開けて、鉛色の雨空を見上げてゐると、久しぶりに見る、故国の貧しい空なのだと、ゆき子は呼吸いきを殺して、その、窓の景色にみとれてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そこで車室の反対の隅に飛び退いて硝子窓ガラスまどを打ち破ってでも、人に救いを求めようかと思った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
東に向いている、西洋風の硝子窓ガラスまど二つから、形紙を張った向側むこうがわの壁まで一ぱいに日が差している。この袖浦館という下宿は、支那しな学生なんぞを目当にして建てたものらしい。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その部屋はひどくほこり臭かった。勿論電灯は消えていたが、両側の窓の鎧扉よろいどが下りていないので、硝子窓ガラスまどから星空の光が入って来るため、部屋の様子は朧気おぼろげながらもよく見ることが出来た。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
陰気な根津辺にくすぶっていて、時たま此処らの明るい町の明るい店先へ立つと全く別世界へ出たような心持になって何となく愉快である。時計屋だの洋物店の硝子窓ガラスまどを子供のようにのぞいて歩いた。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しとしと降る雨は硝子窓ガラスまどの外を伝って流れていた。その駅にも、岸本は窓から別れを告げて行こうとした知合の人があったが、果さなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
気もつかないうちに、春はすでに締め切った硝子窓ガラスまどのうちへもおとずれて来て、何かぼかんとした明りが差していた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
乗れないほど雑沓するという汽車、硝子窓ガラスまどの満足なのは一つもない客車で、二日ちかく乗りつづけて行く事をも、さして難儀だとも思っていないらしい。
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
不図ふと、その白昼夢はくちゅうむから、パッタリ目醒めざめた。オヤオヤ睡ったようだと、気がついたとき、庭の方の硝子窓ガラスまどが、コツコツと叩かれるので、其の方へ顔を向けた。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いわゆる洗湯はこの声の発するへんに相違ないと断定したから、松薪と石炭の間に出来てる谷あいを通り抜けて左へ廻って、前進すると右手に硝子窓ガラスまどがあって
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつのまにか、もの好きな群集がそれらの自動車を取り囲んで、そのなかの人達をよく見ようとしながら、硝子窓ガラスまどに鼻をくっつけた。それが硝子窓を白く曇らせた。
聖家族 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
栗鼠は今でも不相変、赤い更紗さらさきれを下げた硝子窓ガラスまどに近い鳥籠の中に二匹とも滑らかに上下していた。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浅緑のリノリュームが、室の二方を張った硝子窓ガラスまどからし入る初夏近い日光を吸っている。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その時調剤室の硝子窓ガラスまどを開けて、佐藤が首を出した。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
病室のなかには、かけ詰めにかけておく吸入器から噴き出される霧が、白い天井や曇った硝子窓ガラスまど棚引たなびいて、毛布や蒲団が、いつもじめじめしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼は極印でも打たれたような額を客舎の硝子窓ガラスまどのところへ持って行って、人知れずそのことを自分に言って見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人の借りている二階の硝子窓ガラスまどの外はこのうち物干場ものほしばになっている。その日もやがて正午ひるちかくであろう。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
軍医はポケットから手帛ハンカチを探しだして汗を拭いた。このとき南に面した硝子窓ガラスまどが、カタコトと鳴って、やがてパラパラと高い音をたてて大粒の雨がうち当った。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
道也先生は、がたつく硝子窓ガラスまどを通して、往来の方を見た。折から一陣の風が、会釈えしゃくなく往来の砂をき上げて、むねに突き当って、虚空こくうを高くのがれて行った。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は隣りの意地悪い生徒にわざとしかめつらなぞをされながら、半ば開いた硝子窓ガラスまどごしに、廊下に立ったままでいる私の母の方へ、ときどき救いを求めるような目で見た。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その時初さんが見張所の硝子窓ガラスまどへ首を突っ込んで、ちょいと役人にことわったが、役人は別に自分の方を見向もしなかった。その代り立っていた坑夫はみんな見た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鳴きつかれし細腰蜂ゲエプただ一つ、物音遠く静かなる、狭き硝子窓ガラスまどの四角なるおもてに、黒き点をえがきたり。
感じのわるくない六畳で、白いカアテンのかかった硝子窓ガラスまどたなのうえに、少女雑誌や翫具おもちゃがこてこて置かれ、編みかけの緑色のスウェタアが紅い座蒲団ざぶとんのうえにあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
午後の講義を始める頃、停車場の方で起る物凄ものすごい叫び声は私達の教室へ響けて来た。朦々もう/\とした汽車の煙はさくを越して硝子窓ガラスまどの外までやつて来て、一時教室の内を薄暗くした。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
誰かが締めるのを忘れた硝子窓ガラスまどが、一晩中、ばたばた鳴っているような事もあった。……
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
すると、東に面した硝子窓ガラスまどが大きく破れ、そこから冷たい夜気が流れこんでいる。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうかもう一遍将軍の顔が見たいものだと延び上ったが駄目だ。ただ場外にむらがる数万の市民が有らん限りのときを作って停車場の硝子窓ガラスまどれるほどに響くのみである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正面引ちがいの硝子窓ガラスまど。炭俵たらいなど置いてある。上手ふすまの破れた押入。下手出入口のドアー。その外廊下。上手寄りに鈴代シュミーズ一ツ、毛布をかけ夜具の上に眠っている。
夫がそうわけがましい事を云うのを聞くと、菜穂子の眼からは今まであった異様な赫きがすうと消えた。彼女は急に暗く陰った眼を夫から離すと、二重になった硝子窓ガラスまどの方へそれを向けた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
石の門柱が立っており、足場のわるいだらだらした坂を登ると、ちょうど東京の場末の下宿屋のような、木造の一棟ひとむねがあり、周囲まわりに若いひのきかえでや桜が、枝葉をしげらせ、憂鬱ゆううつそうな硝子窓ガラスまどかすめていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その一室ひとま硝子窓ガラスまどから町の裏側の屋根だの物干だのの見えるところが私達兄弟の勉強部屋によからうと言はれて、そこで私は銀さんと一緒に新規な机を並べ、夜はその部屋で二人枕を並べて寢ました。
とたんに硝子窓ガラスまどが大きな音をたててねかえった。
何が奇観だ? 何が奇観だって吾輩はこれを口にするをはばかるほどの奇観だ。この硝子窓ガラスまどの中にうじゃうじゃ、があがあ騒いでいる人間はことごとく裸体である。台湾の生蕃せいばんである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして鉄道線路のガードを前にして、場末の町へでも行ったような飲食店の旗ばかりが目につく横町よこちょうへ曲り、貸事務所の硝子窓ガラスまど周易しゅうえき判断金亀堂きんきどうという金文字を掲げた売卜者うらないしゃをたずねた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
銀子は物干へ出られる窓の硝子窓ガラスまどを半分開けて、廂間ひさしあいからよどんだ空を仰ぎ溜息ためいきいたが、夜店もののアネモネーや、桜草のはちなどがおいてある干場の竿さおに、襁褓おしめがひらひらしているのが目についた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうして瑪瑙めのうった透明なうさぎだの、紫水晶むらさきずいしょうでできた角形かくがたの印材だの、翡翠ひすい根懸ねがけだの孔雀石くじゃくせき緒締おじめだのの、金の指輪やリンクスと共に、美くしく並んでいる宝石商の硝子窓ガラスまどのぞいた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしそのむかし牛込の庭に山鳩のさまよって来た時のような、寒い雪もよいの空は、今になっても、毎年冬になれば折々わたくしが寐ている部屋の硝子窓ガラスまどを灰色にくもらせる事がある。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どうも近来頭が少し悪いもんだから……とぼんやり硝子窓ガラスまどの外を眺めながら、いつまでも立っているんで、学生も、そんならまたこの次にしましょうと、自分の方で引き下がった事が
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)