生木なまき)” の例文
そこで、その日はいつもよりたくさんに枯枝かれえだ落葉おちばを拾ってきて、中には生木なまきの枝までも交えて、煙が多く出るようにしました。
お山の爺さん (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
例えば、雪国生活の衛生の問題で一番問題になるのは囲炉裏いろりである。生木なまきのいぶる室内の煙の中の生活は何とかして止めなければならない。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「可哀想でしたよ。秋月樣は良い男だし、お孃さんはあの通りのきりやうでせう。生木なまきを割かれちや、目も當てられませんや」
「頑固なお方でございましたゆえ恨みをうけたのでござりましょうよ。……子さえできている二人の仲を生木なまきをさくようにかれたお方だ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その顔も、木々の幹も、不意に赤くえた。城は一瞬に火の海と化し、この山の生木なまきまでバリバリと燃えて来たのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
連銭葦毛は鼻面を二つ三つぶん殴られて、たじたじと後もどりをした。つまり相思の馬が生木なまきを裂くように無理矢理ひき離された訳である。
そんなことはさのみ珍らしくもないので、親切な重兵衛はこの旅人をもこころよく迎い入れて、生木なまきのいぶる焚火の前に坐らせた。
木曽の旅人 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それからの細君が一緒に東京へ帰つて呉れと言出した時に、先輩は叱つたりはげましたりして、丁度生木なまきくやうに送り返したことを思出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「じゃァねえんだ、無理から生木なまきを裂いたんだ。……おやじとおふくろとで無理から二人をわかれさしたんだ。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ひるかりしてけものしよくとし、夜は樹根きのね岩窟がんくつ寝所ねどころとなし、生木なまきたいさむさしのぎかつあかしとなし、たまゝにて寝臥ねふしをなす。
ところが、枕木は炭焼竈の生木なまきのように、雪の中で点火されぷす/\燻りながら炭になってしまうのだった。雪の中で燻る枕木は外へは火も煙も立てなかった。
氷河 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
御泉水あたりの巨樹大木も一様にさながらほうきを振るように鳴りざわめき、その中を燃えさかったままの棟木むなぎの端や生木なまきの大枝が、雨あられと落ちかかって参ります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
計らずわしが助けたから、直ぐにお村さんばかり連れて来ようとも存じましたが、若い者が何か両人ふたりでこそ/\話をしているのを、無理に生木なまきを裂くのも気の毒だから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
福子の親父おやじだのと云ふものがお膳立てをしたからなのだと、さう思はれて、少し誇張した云ひ方をすれば、生木なまきかれたやうな感じが胸の奥の方にくすぶつてゐるので
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
三本並んだ太い生木なまきの柱の中央に、白髪、白髯はくぜんの神々しい老人が、高々とくくり付けられている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
痛い血を流すかわりに、樫の生木なまきはその裂け目から一種強烈な香気を放散する。それは強くはあるが、またどこやらほのかなところがあり、人を深みに誘い込むような匂である。
たとへば生木なまき一端かたはし燃え、一端よりはしづくおち風聲を成してにげさるごとく 四〇—四二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その代り、私も生木なまきくようなことはしません。貴女さえ承知なら、借金を払って、どこか一軒小さい家でも借りて、たんとのこともできませんが、月々の仕送りをしてあげましょう。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あんまり用いなかったが、切ったばかりの堅い生木なまきはどのほかのものにも増してわたしの目的にかなった。わたしはときどき冬の午後、ひとあるきするときにたっぷり火を起こしておいた。
初恋の若旦那とは生木なまきつらい目を見せられても、ただその当座泣いて暮して、そして自暴酒やけざけを飲む事を覚えた位のもの、別に天もうらまず人をも怨まず、やがて周囲からしいられるがままに
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二人ふたりなかはとてもこまやかで、わかれるなどはさらになかったのでございますが、そのころなによりも血筋ちすじおもんずる時代じだいでございましたから、お婿むこさんは無理むり無理むり、あたかも生木なまきくようにして
二人は又狭い横町を抜けて、幅の広い寂しい通を横切って、純一の一度渡った、小川に掛けた生木なまきの橋を渡って、千駄木下せんだぎしたの大通に出た。菊見に行くらしい車が、大分続いて藍染橋あいそめばしの方から来る。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かくのごとき人の心には余裕がある。すなわち生木なまきのようなる弾力だんりょくがあって、世の変遷へんせんとともに進む能力を保留している。「老木ろうぼくまがらぬ」とは邪道じゃどうに迷わぬの意より弾力なきを笑うの言である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
生木なまきの枝を打ち振ってる子供、その時ちょうど罷工ひこうしていた石工や大工、紙の帽子でそれと見分けられる印刷職工、そういう者らが三々五々打ち連れ立って、喊声かんせいを上げ、たいてい皆杖を振り回し
生木なまきくわん裂罅ひびる夏の空気のなやましさ。
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
生木なまきいて別れるよりは、まあましだ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
生木なまきをかぢつてねこやなぎ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
五六本生木なまきつけたるみずたまり 兆
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
みりっと、寺のやぶで、生木なまきの踏み折れるような響きがした。清麿は、二人を門の外へ突き出して、内から棒をかってしまった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窟の入口には薄黒い獣の生皮なまかわを敷いて、エッキスという字のように組まれた枯木と生木なまきとが、紅い炎焔ほのおや白いけむりを噴いていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御泉水あたりの巨樹大木も一様にさながらほうきを振るやうに鳴りざわめき、その中を燃えさかつたままの棟木むなぎの端や生木なまきの大枝が、雨あられと落ちかかつて参ります。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
福子の親父おやじだのと云ふものがお膳立てをしたからなのだと、さう思はれて、少し誇張した云ひ方をすれば、生木なまきかれたやうな感じが胸の奥の方にくすぶつてゐるので
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二人はしかし、生木なまきを割かれたまま、じっと運命に甘んじているにしては若すぎました。
紅山桜べにやまざくらや、桂の叢林を分けながら、屏風びょうぶを切り立ったような石狩本流の崖の上まで来ますと、生木なまきの皮で作った丈夫な綱をブラ下げまして、下の石原に降り立って、岩の間の淀みに迷う鱒や小魚を
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
新「引取ひきとりますとも、貴方あなたが勘当されゝば私は仕合しあわせですが、一人娘ですから御勘当なさる気遣きづかいはありません、かえってあと生木なまきかれるような事がなければいと思って私は苦労でなりませんよ」
訳の解らないことをののしりながら生木なまきの得物を打ち振るのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
生木なまきひつぎ裂罅ひびの入る夏の空気のなやましさ。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
竹童の体重たいじゅうがおなじ枝へのしかかったとたんに——生木なまきまた虫蝕折むしおれでもしかけていたのだろうか、ボキッと、あまりにもろい音がした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無理に生木なまきをひきさいて、それがために又なにかの間違いでも出来て、結局は新聞の雑報だねになって、近所隣りへ来て大きい声で読売りでもされた日には
有喜世新聞の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
福子の親父おやじだのと云うものがお膳立ぜんだてをしたからなのだと、そう思われて、少し誇張した云い方をすれば、生木なまきを割かれたような感じが胸の奥の方にくすぶっているので
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二人は併し、生木なまきを割かれたまゝ、ぢつと運命に甘んじてゐるにしては若過ぎました。
さらに、縁につながる、幾多の生木なまきを、みずから裂いて来たとがとして、自分の心も、のべつ、引き裂かれずにはかれない。
無理に生木なまきをひきさいて、それがために又なにかの間違いでも出来て、結局は新聞の雑報種になって、近所隣りへ来て大きい声で読売りでもされた日には
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人は二、三年前からの仲でしたが、若旦那の跡取あととりを奉公人のお徳と一緒にすることは、どうしても伊勢屋の隱居が許さず、到頭生木なまきを割いて、私が伊勢屋の嫁になつたのです。
パチパチと生木なまきの焼けいぶる響き。ごうごうと炎の迫る音。すでに寄手は、ここかしこから、城中へなだれこんでいた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土間には炉を切って生木なまきがいぶりながら薄紅く燃えていた。表はもう暮れかかっているらしかった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「お隣の長崎屋——あの萬兩分限の箱入り娘お喜多が、皆川半之丞と仲がよくなつたのを、長崎屋の主人幸右衞門が、貧乏浪人などは以ての外と、生木なまきを割いたのを御存じですかい」
さっきから黙然と、官兵衛夫婦とその孫をながめていた宗円は、生木なまきを裂くようなむごさを胸のそこにみながら、わざと可笑おかしくもない顔していった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お隣の長崎屋——あの万両分限の箱入り娘お喜多が、皆川半之丞と仲がよくなったのを、長崎屋の主人幸右衛門が、貧乏浪人などはもっての外と、生木なまきを割いたのを御存じですかい」
気の短い父はあり合う生木なまきの枝を取って、わが子の背にたたきつけた。
木曽の旅人 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)