爛漫らんまん)” の例文
私は苦笑したが、この爛漫らんまんとした娘の性質に交った好学的な肌合いを感じ、それがこの娘に対する私の敬愛のような気持ちにもなった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
形式だけ見事だって面倒なばかりだから、みんな節約して木地きじだけで用を足している。はなはだ痛快である。天醜爛漫らんまんとしている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう首都としての爛漫らんまんから頽廃期に入っていた古いものに、かえって、ぽッと出のぼくは、新鮮と驚異を覚えていたものとみえる。
どのような情念でも、天真爛漫らんまんに現われる場合、つねに或る美しさをもっている。しかるに嫉妬には天真爛漫ということがない。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
それほど、不思議なくらい天真爛漫らんまんたるものが、その恋を打ちあけた龍造寺主計のことばからにおって、お高をつつんだのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
天才の花は爛漫らんまんと開き、果を結んで、あっぱれ協会の飾りともなり、名誉ともなったのであるから、かく優遇したのは当然の事と言ってよい。
カントも「我々が常に無限の歎美と畏敬いけいとを以て見る者が二つある、一は上にかかる星斗爛漫らんまんなる天と、一は心内における道徳的法則である」
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
新時代の世界文明は東西の文化を融合して我が極東帝国の上にあつまり、桜花爛漫らんまんとして旭光きよくくわうに匂ふが如き青史未載せいしみさいの黄金時代を作るべきを論じて
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼の目の前には三の切り札が爛漫らんまんたる花となって咲き乱れ、七の切り札はゴシック式の半身像となり、一の切り札は大きい蜘蛛となって現われた。
江戸の春がまさに爛漫らんまんといふ頃ですが、八五郎の胸には妙にこだはりがあつて、いつものやうには樂しみきれません。
かの爛漫らんまんたる桜花と無情なる土塀と人目を忍ぶ少年と艶書えんしょを手にする少女と、ああこの単純なる物象ぶっしょうの配合は如何いかに際限なき空想を誘起せしむるか。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
黒い高塀に囲まれているので、往来からは見えなかったが、庭一面に草花が爛漫らんまんと咲き乱れているのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
折から桜花は故郷の山に野に爛漫らんまんと咲き乱れていた。どこからかものう梵鐘ぼんしょうの音が流れてくる花の夕暮、ミチミは杜に手を取られて、静かに呼吸いきをひきとった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丘の上には、数本の大きい八重桜が、爛漫らんまんと咲乱れて、移りく春の名残りをとどめていた。其処そこから見渡される広い庭園には、晩春の日が、うら/\としている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
自然は我らに無償にて百花を爛漫らんまんたらしめ、芳香を馥郁ふくいくたらしむることを思わば、枝葉を折り採る事の出来得べきはずなし、万物の霊長たる資格を標示すべきである。
尾瀬沼の四季 (新字新仮名) / 平野長蔵(著)
一同はこれにいきおいを得て、歌ったも歌ったり、「春爛漫らんまん」から「都の西北」「春は春は」のボート歌
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ときに、一筋ひとすぢでもうごいたら、の、まくら蒲團ふとん掻卷かいまき朱鷺色ときいろにもまがつぼみともつたかほをんなは、芳香はうかうはなつて、乳房ちぶさからしべかせて、爛漫らんまんとしてくだらうとおもはれた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ずっと新見附のあたりまで爛漫らんまんと咲きつらなり、お濠の水の上に紛々ふんぷんたる花ふぶきを散らしなどして、ちょっとした花見も出来そうな所だったのに、惜しいことだと思う。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
おまえ、この爛漫らんまんと咲き乱れている桜の樹の下へ、一つ一つ屍体が埋まっていると想像してみるがいい。何が俺をそんなに不安にしていたかがおまえには納得がいくだろう。
桜の樹の下には (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しかも嫉妬しっとはして、腹をたてなどする時に天真爛漫らんまんな所の見える無邪気な夫人なのであった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
銀色の玉兎ぎょくとが雲間に隠顕いんけんして居る光景は爛漫らんまんたる白花びゃくげを下界に散ずるの趣あり、足音はそくそくとして寒気凜然りんぜんはだえに迫るものから、荷持にもちも兵士もふるいながら山を登りますと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
珍念、何を答えるかと思われたのに、きくも天真爛漫らんまん、こともなげにいってのけました。
自分はその桜花爛漫らんまんを落ちついた気持で鑑賞することが出来なくなってしまうのである。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それはごく天真爛漫らんまんなる時期であって、ちょうどランク伯爵が、上院議員の服装をし綬章じゅしょうをつけ、あの長い鼻をして、赫々かくかくたる行ないをなした人にふさわしいいかめしい顔付きで
何人なんぴと爛漫らんまんたる平和を望まぬものはないが、その平和を維持せんとしては、時に戦争をしなければならない。大戦争さえすればその後に大平和が来る。世の中はこういうものである。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
遅れ咲きの八重やえざくらが、爛漫らんまんとして匂う弥生やよいのおわり頃、最愛の弟子君川文吾きみかわぶんごという美少人を失って、悲歎やるせなく、この頃は丹青たんせいの能をすら忘れたように、香をねんじて物を思い
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
試みに見よ封建社会の道徳なるものは天真爛漫らんまん、自然のうちに修養あり、自由のうちに規法ある、愛すべき親しむべきものにあらず。かえってただ式に拘泥こうでいしたる死物の道徳にあらずや。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
周囲にたゞよう夕闇をはじき返すようにして、爛漫らんまんと咲いているのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ただこの喬木が、亭々ていてい、次代にそびえ、爛漫らんまん、この世を君が代の春とのどかにする日があれば——わが願いは足れりといえる。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすがに春の灯火ともしびは格別である。天真爛漫らんまんながら無風流極まるこの光景のうちに良夜を惜しめとばかりゆかしげに輝やいて見える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほめて酒を汲む人もないのに、惜しげもなく爛漫らんまんと咲き誇って、さながらうす紅色の綿雲をかけつらねたよう——。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今まで薄暗いところで見た娘のかおのくぼみやゆがみはすっかりらされ、いつもの爛漫らんまんとした大柄の娘の眼が涙をいたあとだけに、尚更なおさらえとしてしおらしい。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
躑躅つつじヶ崎のおやかたを巡り左右前後に延びているこの甲府のいたるところに爛漫らんまんと咲いているのであったが、わけてもお館の中庭と伝奏屋敷と山県邸と神明の社地とに多かった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とよ今戸橋いまとばしまで歩いて来て時節じせついままさ爛漫らんまんたる春の四月である事を始めて知った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
天真爛漫らんまんを心掛けましょう。こないだお隣りの越後獅子えちごじし
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鼻の円遊なんぞもいて、正に、百花爛漫らんまんであった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
花は爛漫らんまんと、梢に咲き乱れていた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こうなると、日ごろのゲジゲジも迂路鼠うろねずみ青草蛇あおだいしょうも、案外、天真爛漫らんまんなもので、飲む、踊る、唄うなど、百芸のかんを尽して飽くるを知らない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天醜爛漫らんまんとしてゐる。所が此爛漫らんまんが度を越すと、露悪家同志が御互に不便を感じて来る。其不便が段〻かうじて極端に達した時利他主義が又復活する。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すると娘は、にわかに、ふだん私が見慣れて来た爛漫らんまんとした花に咲き戻って、朗に笑った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とよ今戸橋いまどばしまで歩いて来て時節じせついままさ爛漫らんまんたる春の四月である事を始めて知つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
辰五郎の醉態は、まさに爛漫らんまんたるものでした。
「師の御房がお帰りなされた」草庵のうちにこの声が起ると、なぜかこの春の日をせきとして沈んでいた空気が、いちどに爛漫らんまんと明るくなった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
辰五郎の酔態は、まさに爛漫らんまんたるものでした。
今の時間でいうと、午前十一時頃の、春は爛漫らんまん天地あめつちに誇っていて、微風そよかぜの生暖かく吹いている日であった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多少の泰平はうたわれたろうが、なかなか中央における醍醐だいごの茶会とか、桃山文化の、あの爛漫らんまんな盛時や豪華ぶりは、夢想もできないものだったろうと思われる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「児玉少佐。花は咲いたが、今年だけは、春爛漫らんまんという辞句は当らんな。満目の春泥しゅんでいみな荒涼じゃ」
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京都や諸国の城下では見られない異色のある文化も、ここにだけ爛漫らんまんと濃く新しさを誇っていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爛漫らんまんと、ろうに灯は入ったが、まだ三筋の柳町に、買手どもの影は見えない宵の口であった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汴城べんじょう城下、花の都。冬ながら宋朝文化爛漫らんまんな千がい万戸ばんこは、人の騒音と賑わいで、彩霞さいか、煙るばかりであった。禁裡きんりの森やら凌烱閣りょうけいかく瑠璃瓦るりがわらは、八省四十八街のその遠方此方おちこちにのぞまれる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)