満腔まんこう)” の例文
旧字:滿腔
満腔まんこうの好意をもっていたのであるが、その後、いろいろと悪評が伝わり、お山にかくまい置くべからず——という衆議になったからじゃ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と。これ彼が満腔まんこうの不平をべたるなり。しかれども吾人ごじんを以てこれを見れば、一老生の言、実に彼が急所を刺すものあるを覚う。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「暮れて帰れば春の月」と蕪村ぶそんの時代は詩趣満々ししゅまんまんであった太秦うずまさを通って帰る車の上に、余は満腔まんこうの不平をく所なきに悶々もんもんした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この物質的に何らの功能もない述作的労力のうちには彼の生命がある。彼の気魄きはく滴々てきてき墨汁ぼくじゅうと化して、一字一画に満腔まんこうの精神が飛動している。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その彼らにどうして、みずから批判をくだすことなんかできたろう? 彼らはそれら神聖な大家の名前にたいして、満腔まんこうの尊敬をささげていた。
裏切者にならないために、貴女の純真な、切ない愛情をタッタ一つ抱いて、満腔まんこうの感謝を捧げて死んで行きたいために。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
併しそれを正面から実行した点につき、この方面の作歌に一つの基礎をなした点につき、旅人に満腔まんこうの尊敬を払うてここに一首を選んだのであった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
満腔まんこう慷慨こうがい黙々に付するに忍びず、ただちにその血性をべ発して一篇の著書とはなりしなり。しかしてこの書初めて世に公布する客年十一月にあり。
将来の日本:01 三版序 (新字新仮名) / 新島襄(著)
満腔まんこうただ忠孝の二字あるのみにして、一身もってその藩主に奉じ、君のために死するのほか、心事なかりしものが、一旦開進の気運に乗じて事を挙げ
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼は満腔まんこうの悲憤を抑えるに忍びず、自ら小パンフレットをつくって、これを知不知のあいだに配布した。「日章旗、影うすし」という題であったと思う。
皆身命に関する事なるにおいてをや、われは意気相投ずるを待って、初めて満腔まんこうの思想を、陳述する者なりと、何事においても、すべてかくの如くなりし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
吾人は貞淑ていしゅくなる夫人のために満腔まんこうの同情をひょうすると共に、賢明なる三菱みつびし当事者のために夫人の便宜べんぎを考慮するにやぶさかならざらんことを切望するものなり。……
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すばやく私語しごしあいつつ、なおも障子に躍る片腕長身の士のつるぎの舞いを見つめている両人——諏訪栄三郎満腔まんこうの戦意をこめて思わず柄がしらを握りしめ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし今は時勢にかんがみまた自分の衰老を省みて、今なおわたくしの旧著を精読して批判の労をいとわない人があるかと思えば満腔まんこう唯感謝の情を覚ゆるばかりである。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これは満腔まんこうの敵意を、反っくり返った鼻と、山のごとくそびえた肩に見せて、万七の空嘯うそぶく前を通ります。
ただ彼女が哀れな中宮の運命によせた満腔まんこうの同情を、中宮の描写それ自身の内に生かせて行くのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
時も時、学校をめて何をするという方角もなく、満腔まんこうの不平を抱いて放浪していた時、卒然としてこの文学勃興の機運に際会したは全く何かの因縁であったろう。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
拙者などが茅屋破窓ぼうおくはそうの下に眠りて、貧苦多患の境遇にありながら、毎日毎日満腔まんこうの愉快をもって日を送るのは、全くこの天地、この万物の不可思議なることを悟りて
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
にくしみを、満腔まんこうに忍んで、彼はやがて仇敵かたきどもがすすめる杯を、今夜も重ねねばならぬのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
何うだ? 参ったろうと言わないばかりだったから、心委こころまかせにする外仕方がなかった。それに釣堀の魚としては上乗のものと認められたから、僕は満腔まんこうの賛意を表して置いた。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
極めて安心に極めて平和なる曙覧も一たび国体の上に想い到る時は満腔まんこうの熱血をそそぎて敬神の歌を作り不平の吟をなす。慷慨淋漓こうがいりんり、筆、剣のごとし。また平日の貧曙覧に非ず。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
経典翻訳者の甚深じんしんなる苦心と労力に対して、満腔まんこうの感謝の意を表さねばならぬと思います。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
ところで第二の事実は、今の今まで僕はこの男の風格に、満腔まんこうの敬意を感じていたのに、今や僕の眼から見ると、この男はたちまち低く低く沈みに沈んでゆくということでした。
満腔まんこうの不平をたたえて、かえって嫣然えんぜんとして天の一方をにらむようになり得ると、こはいかに、薄汚い、耳の遠い、目の赤い、繿縷ぼろまとった婆さんがつえすがって、よぼよぼと尋ねて来て
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
イエスに対して満腔まんこうの信頼を捧げたと同時に、反射的に自己の不信仰を意識したのです。我々が本気になって一生懸命にイエス様を信じようとする時に、自分に信仰のないことを知る。
否、まだ外にもあるに違いないということが推定された。それ故、「新青年」の編輯者が、かかる隠れたる作家を明るみへ出そうと企てられたことに自分は満腔まんこうの賛意を表するのである。
「二銭銅貨」を読む (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ところで、猊下げいか、あなた様に向かっては満腔まんこうの歓喜を披瀝ひれきいたしまする!
と、満腔まんこうの若やかな親しみを寄せるけれども、新月を見て、そういう親しみを持ち得る子供はない。新月を見ることを愛するものは、やはり年増の味を愛することを知る人でなければならない。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうして後世の人がこれを用いることができるようにめて往かんとする欲望が諸君のうちにあるならば、私は私の満腔まんこうの同情をもって、イエス・キリストの御名みなによって、父なる神の御名によって
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
わたしの肺臓は満腔まんこうの力を吹き込むのを許されるのだった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いま天下に縦横し、ここ江南に臨んで強大の呉を一挙に粉砕せんとし、感慨尽きないものがある。ああ大丈夫の志、満腔まんこう、歓喜の涙に濡る。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人が満腔まんこうの熱誠をもって髯を調練していると、台所から多角性の御三おさんが郵便が参りましたと、例のごとく赤い手をぬっと書斎のうちへ出した。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
憐れな運命の持主に満腔まんこうの同情を寄せると同時に、そんな人々が正義の力によって救われて行く筋道を、自分の事のように力瘤ちからこぶを入れて読み続けた。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
満腔まんこう慷慨こうがい黙々に付するに忍びず、ただちにその血性をべ発して一篇の著書とはなりしなり。しかしてこの書初めて世に公布する客年十一月にあり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
(彼はモークをモロックと呼んでいた。)——しかしモークが帰ってゆくと彼はすぐに、そのまったくの温情にたいして満腔まんこうの感謝を覚ゆるのだった。
寡婦かふとして彼を育て上げた彼の母、彼の姉、彼の二兄、家族の者は皆彼が海軍を見捨つることに反対した。唯一人満腔まんこうの同情を彼に寄せた人があった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ある伝記者はリストの豊かなる愛情を讃美さんびして、それは全く比類のないものであったと言っている。彼は接する者誰にでも、満腔まんこうの親しさと愛とを注ぎかけずにはおかなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
水の光であかるく見える板橋の上を提灯つけた車が走る。それらの景色をばいい知れず美しく悲しく感じて、満腔まんこうの詩情を托したその頃の自分は若いものであった。煩悶はんもんを知らなかった。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と芳野君は大切だいじを取った。口先ではからかいながらも、満腔まんこうの好意を持っている。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
口をきわめてすでに立ち去りたる巡査をののしり、満腔まんこうの熱気を吐きつつ、思わず腕をさすりしが、四谷組合としるしたるすす提灯ちょうちん蝋燭ろうそくを今継ぎ足して、力なげに梶棒かじぼうを取り上ぐる老車夫の風采ふうさいを見て
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしはヴォルテェルを軽蔑けいべつしている。若し理性に終始するとすれば、我我は我我の存在に満腔まんこう呪咀じゅそを加えなければならぬ。しかし世界の賞讃しょうさんに酔った Candide の作者の幸福さは!
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は周密なる思慮をひきいて、満腔まんこうの毒血を相手の頭から浴びせかけ得る偉大なる俳優であった。もしくは尋常以上の頭脳と情熱を兼ねた狂人であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貞昌は、その一言を、満腔まんこうからいった。城兵五百の生命と、徳川家の浮沈のためだ。主君とはいえ、彼のほうからこそ、手をついて頼みたいところだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
未亡人と娘は名探偵に満腔まんこうの感謝を捧げた。娘と名探偵とはとうとう恋仲にまでなったが、しかし、それでも娘の生命いのちを狙っている悪人の正体ばかりは、どうしても掴めなかった。
書けない探偵小説 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
生きんがために愛したがり満腔まんこうの愛を消費したがる力強い率直な同情心、それの欠けてることだった。つぎにはまたおそらく、仕事の疲労、あまりに困難な生活、思想の熱烈さ、などであった。
小野さんはすぐ来るのみならず、来る時は必ず詩歌しいかたまふところいだいて来る。夢にだもわれをもてあそぶの意思なくして、満腔まんこうの誠を捧げてわが玩具おもちゃとなるを栄誉と思う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし同じ嘆息にしても、ああ——と満腔まんこうからうつを天へ吐きすてるのもあるし、われとわが身へ、ああと歎いて、世の憂いをいよいよ身一つにあつめてしまうものとがある。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師たる自分からも満腔まんこう念祷ねんとうをもってご賢慮けんりょにおすがり申す——というような内容なのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信雄はもとより信孝に満腔まんこうの不平を抱いている。勝家にも快くないこと勿論だ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信長は、満腔まんこうの怒りを、心に抑えつけながら心で叫んだ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)