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泥濘
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でいねい
ふりがな文庫
“
泥濘
(
でいねい
)” の例文
彼を助けて
泥濘
(
でいねい
)
から引き出してくれる案内者はいなかった。彼は泥濘から外に出たと思ってる時に、ますますそれに落ち込んでいた。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
徒
(
いたず
)
らに恋愛の
泥濘
(
でいねい
)
に
悶踠
(
もが
)
いているにすぎない彼に絶望していたが、下手に
背
(
そむ
)
けば、逗子事件の失敗を繰り返すにすぎないのであった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
雨に洗われた路面は
泥濘
(
でいねい
)
をながして白い小石が光っていた。樹々の芽がほの紅くふくれ、町の屋根にはうすい水蒸気があがっている。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
大石橋
(
だいせっきょう
)
の戦争の前の晩、暗い
闇
(
やみ
)
の
泥濘
(
でいねい
)
を三里もこねまわした。背の上から頭の髪まではねが上がった。あの時は砲車の援護が任務だった。
一兵卒
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
水は半ば凍り、
泥濘
(
でいねい
)
も
脛
(
はぎ
)
を没する深さで、行けども行けども果てしない
枯葦原
(
かれあしはら
)
が続く。
風上
(
かざかみ
)
に
廻
(
まわ
)
った匈奴の一隊が火を放った。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
▼ もっと見る
二十七、八年ごろの銀座の大通りが馬糞と塵埃のカクテル、雨でも降ると文字どおり
泥濘
(
でいねい
)
膝を没する有様、銀ブラどころの騒ぎでなかった。
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
芭蕉の行く旅の空には、いつも長雨が降りつづき、道は
泥濘
(
でいねい
)
にぬかっていた。前途は遠く永遠であり、日は空に薄曇っていた。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
かかる悪霊の犠牲になった人間は、
勿論
(
もちろん
)
ただ堕落の一路を辿り、一歩一歩、ぬきさしならぬ
泥濘
(
でいねい
)
の深みにはまり込んで行く。
霊訓
(新字新仮名)
/
ウィリアム・ステイントン・モーゼス
(著)
我が草庵の門前は
鶯
(
うぐいす
)
横丁といふて名前こそやさしいが、随分
嶮悪
(
けんあく
)
な小路で、冬から春へかけては
泥濘
(
でいねい
)
高下駄を没するほどで
病牀六尺
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
女乞食は
泥濘
(
でいねい
)
の上の横倒しから藻き上ろうと試みながらも立上るに使えば便利な右手を男乞食と掴り合ったまゝ離しません。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
谷間の向こうに現われ、常に密集して、頭上に破裂する
霰弾
(
さんだん
)
の雲をついて、モン・サン・ジャン高地の恐ろしい
泥濘
(
でいねい
)
の急坂を駆け上って行った。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
嫌われたあげくに無理心中して、生残った男と酒が飲みたい。晴れた春の日の、日比谷公園に行くなかれ。雨の降る日に
泥濘
(
でいねい
)
の
本所
(
ほんじょ
)
を散歩しよう。
曇天
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
そしてようやくなだめられて辞去したのちも、絶望のあまり終夜、
泥濘
(
でいねい
)
にまみれてペテルブルグの近郊を
憑
(
つ
)
かれた者のようにさまよったのであった。
「あかい花 他四篇」あとがき
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
雪解の沼のような
泥濘
(
でいねい
)
の中に寝て、戦争をしたこともあった。頭の上から、機関銃をあびせかけられたこともあった。
渦巻ける烏の群
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
斬られた者のうめき声が、
泥濘
(
でいねい
)
にまみれてそこここに
断続
(
だんぞく
)
する。濡れた刀が飛び違い、きらめき交わして、
宛然
(
えんぜん
)
それは時ならぬ
蛍合戦
(
ほたるがっせん
)
の観があった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
雪曇りの空が、いつの間にか、
霙
(
みぞれ
)
まじりの雨をふらせて、狭い往来を文字通り、
脛
(
はぎ
)
を没する
泥濘
(
でいねい
)
に満そうとしている、ある寒い日の午後の事であった。
仙人
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
日本がそのあらゆる欠点を暴露した敗戦
泥濘
(
でいねい
)
のさなかに於て、彼の人生の問題がこんなところに限定されているということが、文学の名に於てあまりにも悲惨である。
咢堂小論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
嶺は五六年前に踰えしおりに似ず、
泥濘
(
でいねい
)
踝
(
くるぶし
)
を没す。こは車のゆきき漸く繁くなりていたみたるならん。
軌道
(
きどう
)
の二重になりたる処にて、向いよりの車を待合わすこと二度。
みちの記
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
九州の牟田の
沮洳
(
そじょ
)
を意味することは引証にも及ぶまいが、『成形図説』には淖田と書いてむだと
訓
(
よ
)
ませ、近くは『佐賀県方言辞典』にも「ムダ、
泥濘
(
でいねい
)
ふかき所」とある。
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
上野の式場に
行幸
(
みゆき
)
ある道筋は、
掃
(
はき
)
清められてあったが、市中の
泥濘
(
でいねい
)
は、田の中のようだった。
旧聞日本橋:21 議事堂炎上
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
道すがら雪は容赦なく靴のやぶれから彼の足にしみていたが、
泥濘
(
でいねい
)
の中をリヤカーで病人を運んで来る百姓の姿も——更に悲惨な日の前触のように、彼の心を
衝
(
つ
)
くのだった。
冬日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
そして、彼は
鞭
(
むち
)
を振り振り不気味に微笑みながら、
厩舎
(
うまや
)
の前を歩き回った。厩舎の前は
泥濘
(
でいねい
)
の凸凹のまま、まったく凍ってしまった。コンクリートのように硬くなっていた。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
姫の美しさは鳰鳥と
異
(
ちが
)
い、清浄であり
無垢
(
むく
)
であった。麗人国を
泥濘
(
でいねい
)
とすれば、彼女はそこへ咲いた蓮の花であった。
周囲
(
まわり
)
が余りに穢れているため、一層彼女は清浄に見えた。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
鎖の半分は頸にぶらさげて
泥濘
(
でいねい
)
の地上にそれを
曳
(
ひ
)
きながら、夜中楽しく遊びまはつて居た。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
ケルミッシュが、おそらく老年の豹でもあるいたらしい
泥濘
(
でいねい
)
の穴に足をとられ、ぺたりと、面形を地につけ動けなくなってしまった。そこには、暖水をこのむ大
蟻
(
あり
)
が群れている。
人外魔境:03 天母峰
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
腹当へ、大きく「御用」と、朱書した馬に乗った侍が、雪の
泥濘
(
でいねい
)
を蹴って走ってきた。
近藤勇と科学
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
長尾原
(
ながおはら
)
で夕食をなし、これから草津まで暗夜の強行軍。中途より雨さえ加わりて
路
(
みち
)
は膝を没する
泥濘
(
でいねい
)
、とても歩けたものでない。足踏み
辷
(
すべ
)
らして谷底へ落ち損なったことが度々あった。
本州横断 痛快徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
、
井沢衣水
(著)
勇
(
ゆう
)
を
皷
(
こ
)
して皆曰く、たとひ
日
(
ひ
)
暮
(
く
)
るるとも其小屋に
到達
(
とうたつ
)
し、酒樽
若
(
も
)
しあらば之を傾け尽し、戸倉村に
帰
(
かへ
)
りて其代価を
払
(
はら
)
はんのみと、議
忽
(
たちま
)
ち一决して沼岸を
渉
(
わた
)
る
深
(
ふか
)
さ
腿
(
もも
)
を
没
(
ぼつ
)
し
泥濘
(
でいねい
)
脛
(
すね
)
を
埋
(
うづ
)
む
利根水源探検紀行
(新字旧仮名)
/
渡辺千吉郎
(著)
とにかく、江戸の市中を、喰うものも喰わず、
喪家
(
そうか
)
の
狗
(
いぬ
)
のように、雪溶けの
泥濘
(
でいねい
)
を蹴たててうろつき廻っていた。そして、その暮方に、
憔悴
(
しょうすい
)
しきった顔をして、ぼんやり両国の橋の
袂
(
たもと
)
へ出てきた。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
わたしたちの宿舎のとなりに
老子
(
ろうし
)
の廟があって、滞留の間にあたかもその祭日に逢った。雨も幸いに
小歇
(
こや
)
みになったので、
泥濘
(
でいねい
)
の路を踏んで香を
献
(
ささ
)
げに来る者も多い。縁日商人も店を
列
(
なら
)
べている。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
私は
泥濘
(
でいねい
)
の中を拾い歩きして辛うじて佐竹の通に出たのであった。
三筋町界隈
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
神はただ一瞬のうちに、多年の勤労と努力との結果を消滅させ得る。そしてもし欲するならば、
泥濘
(
でいねい
)
から永遠なるものを
湧出
(
ゆうしゅつ
)
させ得る。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
それかと言って器用に身を
交
(
かわ
)
すだけの
術
(
すべ
)
もなく、信じないながらにわざと信じているようなふうをして、苦悩の
泥濘
(
でいねい
)
に足を取られていた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
雪にも月にも何の
風情
(
ふぜい
)
を増しはせぬ。風が吹けば
砂烟
(
すなけむり
)
に行手は見えず、雨が降れば
泥濘
(
でいねい
)
人の
踵
(
きびす
)
を没せんばかりとなる。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
彼は
泥濘
(
でいねい
)
の中にはいった。表面は水であり、底は泥であった。けれどもそれを通り越さなければならなかった。あとに引き返すことは不可能だった。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
傷兵老兵はみな後陣へ引かせ、屈強な壮士ばかりを前に出して、附近の山林を
伐
(
き
)
って橋を架け、柴や草を刈って、道を
拓
(
ひら
)
き、また
泥濘
(
でいねい
)
を埋めて行った。
三国志:08 望蜀の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかもその彼が且泣き且笑ひつつ、
蕭雨
(
せうう
)
を犯し
泥濘
(
でいねい
)
を踏んで、狂せる如く帰途に就きしの時、彼の
呟
(
つぶや
)
いて止めざりしものは明子の名なりしをも忘るる事勿れ。
開化の殺人
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
雪の来たあとの道路は
泥濘
(
でいねい
)
が連日
乾
(
かわ
)
かず、高い
足駄
(
あしだ
)
もどうかすると埋まって取られてしまうことなどもある。乗合馬車は屋根の
被
(
おお
)
いまではねを上げて通った。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
失望か、否、それ以上の喜びか、感極まった復一の体は池の畔の
泥濘
(
でいねい
)
のなかにへたへたとへたばった。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
一つの選択が許される場合、一つの
途
(
みち
)
が永遠の
泥濘
(
でいねい
)
であり、他の途が
険
(
けわ
)
しくはあってもあるいは救われるかもしれぬのだとすれば、誰しもあとの途を選ぶにきまっている。
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
やがて水田へかかると、はじめのうちは大した
泥濘
(
でいねい
)
でもなかつたが、中途からだんだんぬかりだして、しまひには水が
冠
(
かむ
)
つて道の見えぬところさへ出てきた。少年は後悔した。
少年
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
舷側の水かきは、
泥濘
(
でいねい
)
に踏みこんで、
二進
(
にっち
)
も
三進
(
さっち
)
も行かなくなった五光のようだった。
国境
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
そのなまぬるい
泥濘
(
でいねい
)
の浴場では、人間の精力、荒々しい生活力、原始的な動物性、その信仰や意志や熱情や義務の花などは、溶解してしまっていた。
ジャン・クリストフ:10 第八巻 女友達
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
それにまた、ようやく奇跡のように脱してきたあの
泥濘
(
でいねい
)
の
孔
(
あな
)
を、どうして再び通ることができよう。更にその泥濘の後には、あの警官の
巡邏隊
(
じゅんらたい
)
があるではないか。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
或
長雨
(
ながあめ
)
の続いた夜、平中は一人本院の侍従の
局
(
つぼね
)
へ忍んで行つた。雨は夜空が溶け落ちるやうに、
凄
(
すさ
)
まじい響を立ててゐる。路は
泥濘
(
でいねい
)
と云ふよりも、大水が出たのと変りはない。
好色
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
既に少くも二回は
喀血
(
かっけつ
)
を経験している男が、雪どけの
氾濫
(
はんらん
)
や
泥濘
(
でいねい
)
と闘い単身がた馬車に揺られどおしで横断して、首尾よく目的地に着いて冷静きわまる科学的データの
蒐集
(
しゅうしゅう
)
に従い
チェーホフ序説:――一つの反措定として――
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
休息の地のないままに一夜
泥濘
(
でいねい
)
の中を歩き通したのち、翌朝ようやく丘陵地に
辿
(
たど
)
りついたとたんに、
先廻
(
さきまわ
)
りして待伏せていた敵の主力の襲撃に
遭
(
あ
)
った。人馬入乱れての
搏兵
(
はくへい
)
戦である。
李陵
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
雨の日には
泥濘
(
でいねい
)
の深い
田畝道
(
たんぼみち
)
に古い
長靴
(
ながぐつ
)
を引きずっていくし、風の吹く朝には帽子を
阿弥陀
(
あみだ
)
にかぶって
塵埃
(
じんあい
)
を避けるようにして通るし、沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って
少女病
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
十里泥濘深
レ
於
レ
海 十里
泥濘
(
でいねい
)
海よりも深けれども
礫川徜徉記
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
が、ひどい
泥濘
(
でいねい
)
だ。
新書太閤記:05 第五分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“泥濘”の意味
《名詞》
地面のぬかるんでいるところ。またぬかるんでいること。
(出典:Wiktionary)
泥
常用漢字
中学
部首:⽔
8画
濘
漢検1級
部首:⽔
17画
“泥濘”で始まる語句
泥濘孔
泥濘路
泥濘道
泥濘滑澾