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正面
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まとも
ふりがな文庫
“
正面
(
まとも
)” の例文
兩手を上げて後頭部をさゝへた脇の下から
兩乳
(
りやうちゝ
)
のふくらみが、
燈
(
ともしび
)
の光を
正面
(
まとも
)
に受けて、柔い線をば浮立つばかり鮮かにさせて居る。
新帰朝者日記
(旧字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
広栄は左右に
啓
(
あ
)
けた障子の一方の陰にいたので
正面
(
まとも
)
に客と顔をあわせなくてもよかった。客はあの
匪徒
(
ひと
)
の中の松山と半ちゃんであった。
春心
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
併
(
しか
)
し斯うした商売の人間に特有——かのような、陰険な、他人の顔を
正面
(
まとも
)
に視れないような変にしょぼ/\した眼附していた。
子をつれて
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
呼吸
(
いき
)
を吹いて
正面
(
まとも
)
に門の処に並んでいるので、お夏は日傘を
楯
(
たて
)
にしてあなたこなた
隙間
(
すきま
)
を
差覗
(
さしのぞ
)
くがごとくにしたが進みかねた。
三枚続
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
正面
(
まとも
)
に見れば、その表情は少し
曖昧
(
あいまい
)
で不定で複雑だった。眼と顔とが不
釣
(
つ
)
り
合
(
あ
)
いだった。彼女のうちには、強健な民族の面影が感ぜられた。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
▼ もっと見る
貴様にはそれでたくさんだと答えられた。彼はしつこく言い張った。主人は彼を
正面
(
まとも
)
にじっと見つめて、そして言った。監獄に気をつけろ!
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
へ、へ、へ、その中には、お前さんのように、結構で、立派で、何とも見ッともなくって、
正面
(
まとも
)
に見られねえ馬づらもまじってはいるが——
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
見ていても顔から火が出るよう……笑止といって
好
(
い
)
いか、馬鹿々々しいといって好いか、とても顔を上げて
正面
(
まとも
)
に見られた図ではありません。
幕末維新懐古談:20 遊芸には縁のなかったはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
黒吉は、彼女の顔を
正面
(
まとも
)
に見る事が、出来なかった。そして、足の先きを、ごそごそ動かしながら、
打切棒
(
ぶっきらぼう
)
に、こういった。
夢鬼
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
その時、
年長
(
としうえ
)
の岡見が
正面
(
まとも
)
に捨吉を見た眼には心の顔を合せたようなマブしさがあった。捨吉は何とも答えようが無かった。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
私もここに野暮にして重厚な真心をもって、×××氏がカレントに、小粒ながら真実深き評言を
正面
(
まとも
)
に人生に向って投げられるように希望する。
是は現実的な感想
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
朝陽を
正面
(
まとも
)
に浴びたところを見ると、染色も褪せ、地も摺り切れて、見るかげも無い振袖ですが、昔はどんなに美しかったろうと思われる品です。
新奇談クラブ:03 第三夜 お化け若衆
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
早速の機転で小僧が
点
(
つ
)
けて出す裸か蝋燭、その光りを
正面
(
まとも
)
に食って、勘次に押えられた因業家主の大家久兵衛、眼をぱちくりさせて我鳴り出した。
釘抜藤吉捕物覚書:05 お茶漬音頭
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
自分は胸きりの水中容易に進めないから、しぶきを全身に浴びつつ水に
咽
(
む
)
せて顔を
正面
(
まとも
)
に向けて進むことはできない。
水害雑録
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
その哀れな姿を一目見るとフランソアズは
堪
(
たま
)
らなくなって、いきなり
起
(
た
)
ち上って、
正面
(
まとも
)
に裁判官の方へ向き直った。
情状酌量
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
私は
先方
(
むこう
)
の
匿
(
かく
)
している年を
正面
(
まとも
)
から訊いてかゝるくらいだから、遠慮がない。その結果、この年長者連中に馴染んで、殊に長谷川さんと仲好しだった。
凡人伝
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
転がったのが
天佑
(
てんゆう
)
であった。戸が開くと同時に恐ろしい物が、彼を目掛けて襲いかかって来た。それを
正面
(
まとも
)
に受けたが最後、彼は
微塵
(
みじん
)
にされただろう。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
頭巾を取らないで八幡様のお宮の
正面
(
まとも
)
を避けるようにして、
水屋
(
みずや
)
の方へ
漫歩
(
そぞろある
)
きをしているのに、お君はそれと違って、お宮の前へ出て
恭
(
うやうや
)
しく拝礼しました。
大菩薩峠:12 伯耆の安綱の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
其でも
先方
(
さき
)
が愚図〻〻いへば
正面
(
まとも
)
に源太が喧嘩を買つて
破裂
(
ばれ
)
の始末をつければ可いさ、薄〻聴いた噂では十兵衞も耳朶の一ツや半分
斫
(
き
)
り奪られても恨まれぬ筈
五重塔
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
正面
(
まとも
)
に私の顔も見ないで、先生に折入ってお願いしたい事がありまして夜中伺いましたって、この御紹介状を差出したんですが、その手がまたぶるぶると震るえて
あの顔
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
彼女
(
かのぢよ
)
が
今
(
いま
)
までの
悔
(
くゐ
)
は、ともすれば
言
(
い
)
ひ
譯
(
わけ
)
の
楯
(
たて
)
に
隱
(
かく
)
れて、
正面
(
まとも
)
な
非難
(
ひなん
)
を
拒
(
ふせ
)
いでゐたのを
知
(
し
)
つた。
彼女
(
かのぢよ
)
は
今
(
いま
)
自分
(
じぶん
)
の
假面
(
かめん
)
を
引剥
(
ひきは
)
ぎ、その
醜
(
みにく
)
さに
驚
(
おどろ
)
かなければならなかつた。
悔
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
柔らかい春の陽を
正面
(
まとも
)
に、
陽炎
(
かげろう
)
も立ちそうな崖の山芝を背に、官兵衛は、木の切株に腰かけていた。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
風が
正面
(
まとも
)
から吹きつけ始めると、はやくも後悔の色を浮かべて、帽子の鍔をぐつとまぶかに引きさげながら、ぶつぶつと自身や、悪魔や、教父に向つて小言を浴びせかけた。
ディカーニカ近郷夜話 後篇:02 降誕祭の前夜
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
尤も形の
徐々
(
そろそろ
)
壊出
(
くずれだ
)
した死骸を六歩と離れぬ所で新鮮の空気の沙汰も
可笑
(
おか
)
しいかも知れぬが——束の間で、風が変って今度は
正面
(
まとも
)
に
此方
(
こっち
)
へ吹付ける、その臭さに胸がむかつく。
四日間
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
女は敬太郎の視線を
正面
(
まとも
)
に受けた時、心持
身体
(
からだ
)
の
向
(
むき
)
を変えた。それでもなお落ちつかない様子をして、右の手を耳の所まで上げて、
鬢
(
びん
)
から
洩
(
も
)
れた毛を
後
(
うしろ
)
へ掻きやる風をした。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
正面
(
まとも
)
に見て
眩
(
まぶ
)
しくない大きな
黄銅色
(
しんちゅういろ
)
の
日輪
(
にちりん
)
が、今しも
橋場
(
はしば
)
の
杉木立
(
すぎこだち
)
に沈みかけた所である。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
流の
彼方
(
あツち
)
此方
(
こツち
)
で、
何
(
ど
)
うかすると燦爛たる光を放つ……霧は淡い雲のやうになツて川面を這ふ……向ふの岸に若い
婦
(
をんな
)
が水際に下り立ツて洗濯をしてゐたが、
正面
(
まとも
)
に日光を受けて、着物を
搾
(
しぼ
)
る
雫
(
しづく
)
は
解剖室
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
ところが、神様を
正面
(
まとも
)
に見ることの出来ぬ人が最近次第に増してきました。悪思想が青年諸君を目指してやってくるのです。みなさアん、これは悪霊です。尤もらしい衣をまとったサタンなのです。
反逆
(新字新仮名)
/
矢田津世子
(著)
氏の詩を
正面
(
まとも
)
に理解して居なかつたものである。一体今でも然うであるがジヨーナリスチツクな観方はごく悪い。わけても或運動を起して浅薄な考で他人を批議するやうなことは避けなければならぬ。
明治詩壇の回顧
(新字旧仮名)
/
三木露風
(著)
正面
(
まとも
)
にその女の顔をみた者もないが、どうも若い女であるらしい。
半七捕物帳:43 柳原堤の女
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
冬の日を
正面
(
まとも
)
に受けてやや寒くまかがやく赤き鳥居小さしも
雲母集
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
往来へ出て月の光を
正面
(
まとも
)
に
向
(
う
)
けた顔は確かにお
正
(
しょう
)
である。
恋を恋する人
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
それを周平は
正面
(
まとも
)
にじっと見返した。
反抗
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
暫らくすると廊下に足音がして、
闥
(
ドア
)
は静かに外から開けられました。窓から入る朝の光線を
正面
(
まとも
)
に浴びて、入口に立ったのは、高雅な若い紳士——。
新奇談クラブ:07 第七夜 歓楽の夢魔
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
ちこちに
夜番
(
よばん
)
の
拍子木
(
ひょうしぎ
)
聞えて空には銀河の
流
(
ながれ
)
漸く
鮮
(
あざやか
)
ならんとするになほもあつしあつしと
打叫
(
うちさけ
)
びて
電気扇
(
でんきせん
)
正面
(
まとも
)
に置据ゑ
貸浴衣
(
かしゆかた
)
の
襟
(
えり
)
ひきはだけて胸毛を
矢はずぐさ
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
縺毛
(
もつれげ
)
一条
(
ひとすじ
)
もない黒髪は、取って
捌
(
さば
)
いたかと思うばかり、
痩
(
やせ
)
ぎすな、透通るような頬を包んで、
正面
(
まとも
)
に顔を合せた、襟はさぞ、雪なす
咽喉
(
のど
)
が細かった。
南地心中
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
具合の悪いことに、佳子さんの弟の
弼
(
たすく
)
君がノコッと出て来た。
正面
(
まとも
)
に顔を合せてしまったから退っ引きならない。
求婚三銃士
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
それは
数月前
(
すうげつぜん
)
に自動車に
轢
(
し
)
かれて
惨死
(
ざんし
)
した
山脇
(
やまわき
)
と云う書生の顔であった。書生の顔は
正面
(
まとも
)
に主翁の眼に映った。
黄灯
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
しかし、
公
(
おおやけ
)
の席で、こんなふうに
正面
(
まとも
)
にぶつかりそうになる形勢は初めて見ることであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「この点あなたが考えなおさないと、対人関係も仕事も
正面
(
まとも
)
には行かないと思う。生意気のようだが、何か肝心のものが欠けている。そう云う外側からだけの考えでは——」
沈丁花
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
その感情を彼女は
正面
(
まとも
)
にながめることを避けたが、しかしそれはいかなる考えにも打ち消されずに、ちょうど
顳顬
(
こめかみ
)
の重苦しい
脈搏
(
みゃくはく
)
のように、いつまでも頭から去らなかった。
ジャン・クリストフ:08 第六巻 アントアネット
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
幾重
(
いくえ
)
にも勘弁して下されと三ツ四ツ頭を下げれば済んでしまうことだわ、案じ過しはいらぬもの、それでも
先方
(
さき
)
がぐずぐずいえば
正面
(
まとも
)
に源太が喧嘩を買って
破裂
(
ばれ
)
の始末をつければよいさ
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
お吉は大鎌を振り冠り、嬉しさに声を
顫
(
ふる
)
わせながら
正面
(
まとも
)
に島君に立ち向かった。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
警部の
鈍栗眼
(
どんぐりまなこ
)
が、喰入るように彼の額に
正面
(
まとも
)
に向けられた。彼はたじろいだ。
子をつれて
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
薄陽
(
うすび
)
と河風を顔の
正面
(
まとも
)
にうけて源三郎は、駒の
足掻
(
あが
)
きを早めた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
赤松の
直立
(
すぐた
)
つ見ればあきらけく
正面
(
まとも
)
の西日
木膚
(
こはだ
)
照らせり
白南風
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
前後の事情から考へ合せて見ると、家光の手に持つて居る茶碗の中に、
正面
(
まとも
)
な藥湯が入つて居るわけはありません。
銭形平次捕物控:001 金色の処女
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
旅をする人が、
飛騨
(
ひだ
)
の山では蛭が降るというのはあすこでござんす。
貴僧
(
あなた
)
は抜道をご存じないから
正面
(
まとも
)
に蛭の巣をお通りなさいましたのでございますよ。
高野聖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
人通りは
殆
(
ほとん
)
どない、もう四時過ぎたかも知れない。傾いた日輪をば
眩
(
まぶ
)
しくもなく
正面
(
まとも
)
に見詰める事が出来る。
深川の唄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「さあ、そうですね」女は黒い眼でじっと
正面
(
まとも
)
に省三の顔を見つめたが、「三十二三でいらっしゃいますか」
水郷異聞
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
“正面”の意味
《名詞》
正 面(しょうめん)
物の前の面。
正しく向き合う方向。
まともに対すること。
能舞台の中央から前の部分。
(出典:Wiktionary)
“正面(正面性)”の解説
正面性
見る側に対し、左右対称、平行(視線と直交)、その他、正面で向き合おうとすること、およびその性質
見る者に向ける面(正面)を明確・一義的にする性質
(出典:Wikipedia)
正
常用漢字
小1
部首:⽌
5画
面
常用漢字
小3
部首:⾯
9画
“正面”で始まる語句
正面玄関
正面向
正面図
正面壁間
正面整列