折檻せっかん)” の例文
そして後ではたまらない淋しさに襲われるのを知りぬいていながら、激しい言葉をつかったり、厳しい折檻せっかんをお前たちに加えたりした。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「さて誰袖の折檻せっかんも今日はこのくらいにして置いて、次の処刑しおきに移ろうかい。やいやい加藤次、白萩しらはぎめをもっと縁近く曳いて参れ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「きさま、きのう深川のまま母を洗ってきたとき、このごろじゅう毎晩五つから四つの間に、折檻せっかんの悲鳴が聞こえるといったっけな」
ははあ、こやつも楮幣に不服なのか。ならばなぜ、折檻せっかんなどせず、表向きに、検非違使けびいしノ庁へつき出さんか。——この良忠から一さつ
シロオテは折檻せっかんされながらも、日夜、長助はるの名を呼び、その信を固くして死ぬるとも志を変えるでない、と大きな声で叫んでいた。
地球図 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この人は、婦人おんなしいたげた罪を知って、朝に晩にしもと折檻せっかんを受けたいのです。一つは世界の女にかわって、私がそのうらみを晴らしましょう。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
散々折檻せっかんされた後、私は祖母に引きずられて庭の籾倉もみぐらの中に押し込まれた。そして、ちょうどこの監獄のように外からじょうをかけられた。
多分三千子のふしだらを感づいて折檻せっかんでもするつもりだったのがつい激した余り、あんなことになったのではないかと思いますわ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何か悪いこと、余計なこと、いたずらに類することをすると、たいへんな勢いで怒り、火箸や長煙管きせるで彼を打擲ちょうちゃくし、折檻せっかんした。
記憶 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼女はこうした折檻せっかんによって一種の兇暴な、そして神聖な歓びを感ずるのであった。が、猫はそれに対してすこしも反抗する気色がなかった。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
夜になって家へ帰ると、やっこさんは僕を折檻せっかんしようというんだよ。それからのちの冒険については、君は僕自身と同様によく知っているはずだ
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
時々取り出しては慈母じぼ霊前れいぜんぬかずくがごとく礼拝した「この人形の折檻せっかんがなかったら自分は一生凡々ぼんぼんたる芸人の末で終ったかも知れない」
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
預けられてあった里から帰って来て、今の養家へもらわれて行くまでの短い月日のあいだに、母親から受けた折檻せっかんの苦しみが、憶起おもいおこされた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
頑固親爺がんこおやじが不幸むすこを折檻せっかんするときでも、こらえこらえた怒りを動作に移してなぐりつける瞬間に不覚の涙をぽろぽろとこぼすのである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
空恐そらおそろしいやらで……その後、わたくしの受けました厳しいお調べや折檻せっかんなど、あなた様の艱難辛苦かんなんしんくに比べれば、物の数でもござりませぬ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼女と国吉のことを父に告げたのは、飯炊きの足助老人であること、国吉は放逐されるときに、門の外でひどく折檻せっかんされたこと、などである。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
か弱い女性の常として、とても耐えられるものでない、絶体絶命の悲しみとか、折檻せっかんとかいうようなものも、その原因になるとのことである。
あれが私をほし殺そうと思って邪慳じゃけんな奴でございます、藤原もんな奴ではございませんでしたが、此の頃は馴合なれあいまして私を責め折檻せっかん致します
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
結局あの娘の持ち前の性格をくたくたに突き崩して、においのないただ美しい造花のようにしてしまったのは、僕の無言の折檻せっかんにあるのでしょう。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二千八百石取の旗本のすることで、その上有名な御用聞の銭形の平次が付いているのですから、こんな不法の折檻せっかんをとがめ立てる人もありません。
何でも彼嶺あれさえ越せばと思って、前の月のある朝ひど折檻せっかんされたあげくに、ただ一人思い切って上りかけたのであった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
偽りを申して、後に露見するよりも——申せぬか?——飽くまで、白状せぬとあれば、せめ折檻せっかんしても、口を割らすぞえ
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
彼は折檻せっかんをしたあとでは、かならず「おまえは生きているかぎりはこのことを思い出して、ありがたく思うだろう」
秩序というものをみだうれいがあるから、貴様たちのようなを相手にするのは大人げないと知りながら、こうして折檻せっかんにあがったのだ、以後は慎め
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やはり其月の妾のような形でまる二年も腰をすえているうちに、其月の焼餅がだんだん激しくなって来て、時によると随分手あらい折檻せっかんをすることもある。
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
にんじん——折檻せっかんする。セッカンするっていうんだよ、親が子供をぶつ時は……。お前の母さん、折檻するかい?
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
じょちゅうげなんあやまちをしでかして、主婦に折檻せっかんせられるような時には、嬰寧の所へ来て、一緒にいって話してくれと頼むので、一緒にいってやるといつもゆるされた。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
されば悋気りんき深い女房に折檻せっかんされたあげくの果てに、去勢を要求された場合には、委細承知はつかまつれど、鰻やスッポンと事異なり、婦人方の見るべき料理でない。
このわかい美しい婢は、粗相して冷酷な主人夫婦の折檻せっかんわないようにとおずおず働いているのであった。
皿屋敷 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それが魔王に見つかつて、娘は衣裳を剥ぎとられ杙にしばりつけられて、鞭でもつて折檻せっかんされるのだ。……
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
他のことにござれば、恩師より、蹴られ、打たれ、如何ようの折檻せっかん、おはずかしめも、さらさらおうらみはいたしませぬが、こればかりは、黙して、忍びかねます。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
打擲ちょうちゃくという字は折檻せっかんとか虐待ぎゃくたいとかいう字と並べて見ると、いまわしい残酷な響を持っている。嫂は今の女だから兄の行為を全くこの意味に解しているかも知れない。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前年など、かかえられていた芸者が、この娘の皮肉の折檻せっかんに堪えきれないで、海へ身を投げて死んだ。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
人間の手でいわゆる面白いかたちを折檻せっかんされながら、かたちを作っているのだ、それらの松はすべて根元に二人、さきに二人というように人夫四人がかりでないと
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
打った事もある。った事もある。が、打っているうちに、蹴っているうちに、おれはいつでも、おれ自身を折檻せっかんしているような心もちがした。それも無理はない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
暫時カーカーとやかましく鳴いた後、五六匹の折檻せっかん委員を選んで、かの罪烏ざいうをつつき殺してしまう。
動物界における善と悪 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
このまゝそつと御帰宅なされ候はゞ、親御様も上部うわべはとにかく、かならず手ひどい折檻せっかんなどはなされまじ。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
せめ折檻せっかんは常のこと、飼い猫が自分の衣裳を踏んだといっては、しっぽを手に取って、振りまわし、はては見ている者が、思わず、目をおおう様な行いが度々あること。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
ついて来た老婢ろうひが、なにかと告口つげぐちをするのに、私は何も言わないので母に大層折檻せっかんされたりした。
そしてあの荒れ小屋に連れこむと、身の自由を奪っていろいろと折檻せっかんしたが、強情こうじょうな彼奴は、どうしても白状しなかった。私は怒りのあまり、遂に最後の手段をえらんだ。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さながら皇天ことにわれ一にんをえらんで折檻せっかんまた折檻のむちを続けざまに打ちおろすかのごとくに感ぜらるる、いわゆる「泣きつらはち」の時期少なくとも一度はあるものなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その様子をみていると、本当に切なさそうで、全く、地獄で、娑婆しゃばの罪人をごうはかりにかけ、浄玻璃じょうはりの鏡にひきむけて、閻魔えんま大王の家来達が、折檻せっかんしているようにしかみえなかった。
手と膝頭ひざがしらいただけでしたが、私は手ぶらで帰っても浜子に折檻せっかんされない口実ができたと思ったのでしょう、通りかかった人が抱き起しても、死んだようになっていました。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
フォーシュルヴァンはその折檻せっかんの下にあって、気が気でなかった。修道院長は続けた。
かの老執事が女主人公の暴れ出すのを折檻せっかんして取り鎮めるとともに、彼女が金を造り得るという妄信に釣り込まれて、彼女のものすごい試験の助手を勤めていたことだけはわかってきた。
するとメルキオルは彼を殴りつけ、悪戯いたずら扱いにし、その手から金を奪い取った。子供はもう十二、三歳で、身体は頑丈で、折檻せっかんされると怒鳴り出した。けれどもまだ反抗するのが恐かった。
とおりがかりの御挨拶ごあいさつで、んともおそれいりますが、どうやら、市松いちまつ野郎やろうが、んだ粗相そそうをいたしました様子ようす早速さっそくれてかえりまして、性根しょうねすわるまで、折檻せっかんをいたします。どうかこのまま。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
が、子供にとって事実の真相なぞはどうでもよろしいことだったのです。しわだらけの白髪の祖母が思い入れよろしくあって……こう細い手を伸ばして責め折檻せっかんする時の顔の怖さといったらありません。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
工夫は一旦そのところを立ち去ったのち、再び引き返して同じ小屋に行ってみると、女房が彼と話をしたのを責めるといって、縛り上げて折檻せっかんをしているところであったので、もう詳しい話も聞きえずに
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
むやみとその胸のあたりをつねるのか引っ掻くのか妙な折檻せっかんをする。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)