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慄然
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ぞっ
ふりがな文庫
“
慄然
(
ぞっ
)” の例文
熱い日に照されて
土弄
(
つちいじ
)
りをしていたが、無智な顔をして畑から出て来る汚いその姿を見たときには、お島は
慄然
(
ぞっ
)
とするほど厭であった。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
やがては肉も骨も溶け去ってしまうだろうと——まったく聴いてさえも
慄然
(
ぞっ
)
とするような、ある悪疫の
懼
(
おそ
)
れを抱くようになってしまった。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
極めて無邪気な、人形のような美しい微笑を浮かべていたので、こんな事に慣れ切っていた草川巡査が、何故ともなく
慄然
(
ぞっ
)
とさせられた。
巡査辞職
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「よしてくれ。聞いただけでも
慄然
(
ぞっ
)
とする。そりゃあ私だってこうなったら仕方がない。そうして、これからどこへ行く積りだ」
半七捕物帳:31 張子の虎
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そして、そのわずかばかり口元を歪めて笑った顔は、あの最初の
邂逅
(
かいこう
)
の夜に、私を
慄然
(
ぞっ
)
とさせたのと同じ、鬼気を含んだ
微笑
(
ほほえみ
)
であった——。
腐った蜉蝣
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
▼ もっと見る
庭の松が、ただ
慄然
(
ぞっ
)
とするほど、その人待石の松と枝振は同じらしい。が、どの枝にも首を
縊
(
くく
)
る
扱帯
(
しごき
)
は燃えてはおりません。
河伯令嬢
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それは人間の声ともつかず獣の声ともつかず、
或時
(
あるとき
)
は
微
(
かす
)
かに或時は鋭く、高く……聞いていると骨の髄から
慄然
(
ぞっ
)
とするような恐ろしい声だった。
殺生谷の鬼火
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
そして、物凄い、
慄然
(
ぞっ
)
とするような物音を立てて、その鎖を
揺振
(
ゆすぶ
)
ったので、スクルージは気絶してはならないと、しっかりと椅子に獅噛み着いた。
クリスマス・カロル
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
と思うと、
慄然
(
ぞっ
)
として、
頭髪
(
かみのけ
)
が
弥竪
(
よだ
)
ったよ。しかし待てよ、
畑
(
はた
)
で
射
(
や
)
られたのにしては、この灌木の中に居るのが
怪
(
おか
)
しい。
四日間
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
思いだしてさえ
慄然
(
ぞっ
)
として
魘
(
うな
)
されるくらいです。余計なおせっかいをするようだが、あの列車だけはお止めなさい。
十時五十分の急行
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
「それではお前まだ聞かぬか? その美しい鳰鳥には、聞いただけでも
慄然
(
ぞっ
)
とする
咒咀
(
のろい
)
が
纏
(
まつ
)
わっておるそうじゃ」
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
東洋趣味のボー……ンと鳴り渡るというような鐘の声とは違って、また格別な、あのカン……と響く
疳
(
かん
)
の
音色
(
ねいろ
)
を聴くと、
慄然
(
ぞっ
)
と
身慄
(
みぶるい
)
せずにいられなかった。
不吉の音と学士会院の鐘
(新字新仮名)
/
岩村透
(著)
自分
(
じぶん
)
もかく
枷
(
かせ
)
を
箝
(
は
)
められて、
同
(
おな
)
じ
姿
(
すがた
)
に
泥濘
(
ぬかるみ
)
の
中
(
なか
)
を
引
(
ひ
)
かれて、
獄
(
ごく
)
に
入
(
いれ
)
られはせぬかと、
遽
(
にわか
)
に
思
(
おも
)
われて
慄然
(
ぞっ
)
とした。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
すると、
即
(
やが
)
て
慄然
(
ぞっ
)
として
眠
(
ねむ
)
たいやうな
氣持
(
きもち
)
が
血管中
(
けっくわんぢゅう
)
に
行渡
(
ゆきわた
)
り、
脈搏
(
みゃくはく
)
も
例
(
いつも
)
のやうではなうて、
全
(
まった
)
く
止
(
や
)
み、
生
(
い
)
きてをるとは
思
(
おも
)
はれぬ
程
(
ほど
)
に
呼吸
(
こきふ
)
も
止
(
とま
)
り、
體温
(
ぬくみ
)
も
失
(
う
)
する。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
私は、
慄然
(
ぞっ
)
とするような気がして、これはなるたけ障らぬようにして置くが好いと思って、後を黙っていると、先は、
反対
(
あべこべ
)
に、何処までも、それを
追掛
(
おっか
)
けるように
別れたる妻に送る手紙
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
子供——というのが、場合が場合だけに、深更ひとしおの妖異じみた恐怖を呼んで、化物屋敷の連中われにもなく思わず
慄然
(
ぞっ
)
と身の毛をよだたせたその刹那であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
二筋三筋
扇頭
(
せんとう
)
の微風に
戦
(
そよ
)
いで
頬
(
ほお
)
の
辺
(
あたり
)
を往来するところは、
慄然
(
ぞっ
)
とするほど
凄味
(
すごみ
)
が有る。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
例の
腫物
(
しゅもつ
)
が見えたので、さすがの高麗蔵さんも、
一寸
(
ちょっと
)
慄然
(
ぞっ
)
としたという事です。
薄どろどろ
(新字新仮名)
/
尾上梅幸
(著)
箱のような
寝台
(
パアス
)
の中で毛布にくるまって眼を閉じた時、自分に掛かっている嫌疑を思って森為吉は始めて
慄然
(
ぞっ
)
とした。隠しの中で坂本の
小刀
(
ナイフ
)
を握ってみた。冷い触感が彼の神経を脅した。
上海された男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
顔のあたりに垂れているのであった、私はそれを見ると、突然何かに襲われた様に、
慄然
(
ぞっ
)
として、五六
間
(
けん
)
は
大跨
(
おおまた
)
に
足取
(
あしどり
)
も
頗
(
すこぶ
)
る
確
(
たしか
)
に歩いたが、何か
後方
(
うしろ
)
から
引付
(
ひきつ
)
けられるような気がしたので
青銅鬼
(新字新仮名)
/
柳川春葉
(著)
しかし
慄然
(
ぞっ
)
とさせるような身ぶりで、拳を固めて心臟のうえを叩いた
永遠の夫
(旧字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
表面は何食わぬ顔をして
万籟
(
ばんらい
)
声なき最中なるに、おそらくは電信機の火花を散らして世界にめぐらした秘密触手を動かしているであろう英国大使館の姿が思わず
慄然
(
ぞっ
)
と想像されてきたのであった。
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
急いですぐに裏の縁側の処へ行くと、何んだかねばねばしたものを踏みつけて滑り、そして
慄然
(
ぞっ
)
として声をあげた——それは提灯の光りで、そのねばねばしたものの血であった事を見たからである。
耳無芳一の話
(新字新仮名)
/
小泉八雲
(著)
其処
(
そこ
)
に誰も居ないものが、スーウと格子戸が開いた時は、彼も
流石
(
さすが
)
に
慄然
(
ぞっ
)
としたそうだが、
幸
(
さいわい
)
に女房はそれを気が付かなかったらしいので、無理に平気を装って、内に入ってその晩は、事なく寝たが
因果
(新字新仮名)
/
小山内薫
(著)
私が進もうか
止
(
よ
)
そうかと考えて、ともかくも
翌日
(
あくるひ
)
まで待とうと決心したのは土曜の晩でした。ところがその晩に、Kは自殺して死んでしまったのです。私は今でもその光景を思い出すと
慄然
(
ぞっ
)
とします。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
慄然
(
ぞっ
)
として震えるような気がするであろう。
雪の白峰
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
マドレーヌは
慄然
(
ぞっ
)
とした。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
ああほんとうに、あの
鬼猪殃々
(
おにやえもぐら
)
の原から、
生温
(
なまぬる
)
い風が裾に入りますと、それが憶い出されて、
慄然
(
ぞっ
)
とするような
顫
(
ふる
)
えを覚えるのでございます。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
お島は
迹
(
あと
)
から
附絡
(
つきまと
)
って来る川西の兇暴な力に反抗しつつ、工場の
隅
(
すみ
)
に、
慄然
(
ぞっ
)
とするような体を縮めながらそう言って拒んだ。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
と酒井は笑みを含んだが、この際、
天窓
(
あたま
)
から塩で食うと、大口を開けられたように感じたそうで、襖の蔭で
慄然
(
ぞっ
)
と
萎
(
すく
)
んで壁の暗さに消えて行く。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
彼女は不断ごく慎ましくて、幸いに只の一度もそんな浮き名を立てられたことがなかったけれど、今度はけちがつくだろうと思って、
慄然
(
ぞっ
)
としました。
麻酔剤
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
慥
(
たしか
)
に塔の上からである。桂子は
慄然
(
ぞっ
)
としながら
寝台
(
ベッド
)
をとび下りると、父の部屋へ馳せつけて力任せに
扉
(
ドア
)
を叩いた。
廃灯台の怪鳥
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
正
(
まさ
)
しく人も居ない死体室からなので、
慄然
(
ぞっ
)
としたが、
無稽無稽
(
ばかばか
)
しいと思って、
恐々
(
こわごわ
)
床
(
とこ
)
へ入るとまたしきりそれが鳴り出して、パタリと死体室の札が返るのだ。
死体室
(新字新仮名)
/
岩村透
(著)
「おふくろさんが猫になったんです」と、お初は思い出しても
慄然
(
ぞっ
)
とするというように肩をすくめた。
半七捕物帳:12 猫騒動
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
仮面のようなお藤の顔が、こわばった笑いにゆがんだのを見て、与吉は
慄然
(
ぞっ
)
としたのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
此日隣のは
弥々
(
いよいよ
)
浅ましい姿になって其惨状は筆にも紙にも尽されぬ。一度
光景
(
ようす
)
を
窺
(
うかが
)
おうとして、ヒョッと眼を
開
(
あ
)
いて視て、
慄然
(
ぞっ
)
とした。もう顔の
痕迹
(
あとかた
)
もない。骨を離れて流れて了ったのだ。
四日間
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
『これが
現実
(
げんじつ
)
と
云
(
い
)
うものか。』アンドレイ、エヒミチは
思
(
おも
)
わず
慄然
(
ぞっ
)
とした。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
張教仁は
慄然
(
ぞっ
)
とした。そして思わず声をあげた。
沙漠の古都
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
慄然
(
ぞっ
)
とした事がありました。
薄どろどろ
(新字新仮名)
/
尾上梅幸
(著)
帰りがけに
密
(
そっ
)
と通ると、何事もない。
襖
(
ふすま
)
の奥に雛はなくて、前の壇のも、
烏帽子
(
えぼし
)
一つ位置のかわったのは見えなかった。——この時に
慄然
(
ぞっ
)
とした。
雛がたり
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
女は
慄然
(
ぞっ
)
としたようであった。その落ちくぼんだ胸部や、細々と痩せた手首などが一そう
惨々
(
いたいた
)
しく見えた。そして彼女は半ば眼をつぶり、
唇
(
くち
)
をふるわせながら
碧眼
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
その顔に覗き込まれたように
慄然
(
ぞっ
)
となって、もう矢も楯もなく、私はハッと眼を
瞑
(
と
)
じてしまいました。
オフェリヤ殺し
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
お島はその八畳を通る
度
(
たんび
)
に、そこに財布を懐ろにしたまま死んでいる六部の
蒼白
(
あおじろ
)
い顔や姿が、まざまざ見えるような気がして、身うちが
慄然
(
ぞっ
)
とするような事があった。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
それは悲しげな、息詰まるような、聞く者を
慄然
(
ぞっ
)
とさせる、死に瀕した者の呻きであった。
亡霊ホテル
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
同時にかれは、寒さ以外のものを
襟頸
(
えりくび
)
に感じて
慄然
(
ぞっ
)
とした——物凄いとも言いようのない左膳の剣筋を、そして、狂蛇のようなその一眼を、源十郎は
歴然
(
れきぜん
)
と思いうかべたのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
その時はなんにも気がつきませんでしたが、あとで聞きますと長作はその晩に掛地と泥だらけの双子の羽織とを持ち帰りましたそうで、それを聞いたわたくしは
慄然
(
ぞっ
)
としました。
半七捕物帳:27 化け銀杏
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
婦人
(
おんな
)
は
冷
(
ひやや
)
かなる眼をぱっちり、綾子は射られて
慄然
(
ぞっ
)
とせり。微笑を含みて、「はい、お薬も存じております。」
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
やがてもう一つの駅を通過したが、そのときこそ
慄然
(
ぞっ
)
としました。そこに停車信号が
掲
(
かか
)
っているのが見えて、しかも私の列車がその故障線へ飛込んでしまったのです。
十時五十分の急行
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
「どうして、あんな
淫魔
(
インキブス
)
僧正どころの話じゃない」と検事は熊城を
嗜
(
たしな
)
めるような軽い警句を吐いたが、かえって、それが
慄然
(
ぞっ
)
とするような結論を引き出してしまった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
銃声は柏の林に
木魂
(
こだま
)
した、そしてぎゃぎゃぎゃん‼ という、
慄然
(
ぞっ
)
とするような咆哮が聞えたと見る間に、今まで恐ろしい早さで廻っていた鬼火が、ぴたりと地上へ動かなくなった。
殺生谷の鬼火
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
“慄然”の意味
《形容動詞》
恐怖で震えおののくさま。
(出典:Wiktionary)
慄
常用漢字
中学
部首:⼼
13画
然
常用漢字
小4
部首:⽕
12画
“慄然”で始まる語句
慄然々々