往來ゆきゝ)” の例文
新字:往来
お文さんのところは極く懇意で、私の家とは互に近く往來ゆきゝしました。風呂でも立つと言へば、互に提灯つけて通ふほどの間柄でした。
お高は往來ゆきゝの人のなきを見て、力ちやんお前の事だから何があつたからとて氣にしても居まいけれど、私は身につまされて源さんの事が思はれる
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
走り過るトラツクの灯に、眞直な國道の行手までが遙に照し出されるたび/\、荷車や人の往來ゆきゝも一歩々々途絶えちになることが能く見定められる。
或夜 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
其赤い火影が、一筋町の賑ひを樂しく照して、晴着を飾つた往來ゆきゝの人の顏が何れも/\醉つてる樣に見える。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
この兒をさほどしと思はゞ、直に連れて歸りても好し。若しあばら二三本打ち折りて、おなじやうなる畸形かたはとなし、往來ゆきゝの人の袖に縋らせんとならば、それも好し。
定め其處よ彼處かしこと思へ共つひに其日は捨兼て同じ宿なる棒端ぼうばな境屋さかひやと云旅籠屋はたごやに一宿なして明の朝此所の旅店やどやを立出て人の往來ゆきゝの無中にすてなんとおいつ其場所がらを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其間に四谷見附の花家とかと往來ゆきゝして居たやうですが、其邊の悉しい話は私は殆ど知らない。
「青白き夢」序 (旧字旧仮名) / 森田草平(著)
非道な高利貸かうりかしを始め、生活を極度に切り詰めて、手強てごはく意見をするお皆を裸にして放り出したのは今から十年前、お皆は人知れず娘お濱と往來ゆきゝして、夫の心の解けるのを待ちましたが
此處を港にいかりを下ろす船は數こそ少いが形は大きく大概は西洋形の帆前船ほまへせんで、出積荷は此濱で出來る食鹽、其外土地の者で朝鮮貿易に從事する者の持船も少なからず、内海を往來ゆきゝする和船もあり。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
○むかしの夢に往來ゆきゝせし
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
たか往來ゆきゝひとのなきをて、りきちやんおまへことだからなにがあつたからとてにしてもまいけれど、わたしにつまされてげんさんのことおもはれる
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
山の手では人の往來ゆきゝのかなり激しい道のはたにも暗くならぬ中から、下町では路地の芥箱から夜通し微妙な秋の曲が放送せられる。道端や芥箱のみではない。
虫の声 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
酒屋の香氣にほひのする庭を通り拔けて、藏造りになつた二階の部屋へ上つて見ました。隣とはよく往來ゆきゝをしましたが、そんなに奧の方まで連れられて行つたのは私には初めてです。
左隣の檜木ひのきさんは、昔からの知合だと言つてる癖に、往來ゆきゝはおろか、朝夕の口もきかず、お向うの按摩さんなどとは前世からの仇同士見たいに、路地で逢つても、お互に顏をそむけて居りました
打越うちこえて柴屋寺へといそぎける(柴屋寺と言は柴屋宗長が庵室あんしつにして今なほありと)既に其夜も子刻こゝのつ拍子木ひやうしぎ諸倶もろとも家々の軒行燈のきあんどんも早引てくるわの中も寂寞ひつそり往來ゆきゝの人もまれなれば時刻じこくも丁度吉野屋よしのや裏口うらぐちぬけ傾城けいせい白妙名に裏表うらうへ墨染すみぞめの衣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ゆきはいよ/\つもるともむべき氣色けしきすこしもえず往來ゆきゝ到底とてもなきことかと落膽らくたんみゝうれしや足音あしおとかたじけなしとかへりみれば角燈かくとうひかゆきえい巡囘じゆんくわい査公さこうあやしげに
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
徳右衞門と往來ゆきゝはして居たことでせう
かぶりて馬にのりつゝ是々馬士まごどの今夜は何だかさびしい樣だ何日いつも寅刻頃なゝつごろには徐々そろ/\人の往來ゆきゝも有のに鮫洲から爰迄こゝまで來中くるうちに一人も逢ぬ扨々さて/\さびしいことだぜ馬士まごアイサ此節は人通りが少無すくなくなつて否はや一かう不景氣ふけいきなことさ品川歸りも通らねえ隨分ずゐぶん氣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ねえさんの部屋へや今朝けさつてもらつたの、わたしやでしようがい、とさし俯向うつむきて往來ゆきゝぢぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あれこゑ此町このまちにはかせぬがくしとふでやの女房にようぼうしたうちしてへば、店先みせさきこしをかけて往來ゆきゝながめしがへりの美登利みどり、はらりとさが前髮まへがみ黄楊つげ鬂櫛びんぐしにちやつときあげて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
れはすこしもこゝろまらねども美登利みどり素振そぶりのくりかへされて正太しようたれいうたず、大路おほぢ往來ゆきゝおびたゞしきさへ心淋こゝろさびしければにぎやかなりともおもはれず、ともしごろよりふでやがみせころがりて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)