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寅刻頃
偖も小野田幸之進は主命に
因て江戸屋敷を出立なし大坂へと
赴く
途中箱根も
打越て江尻へ
泊り急ぎの旅なれば
翌曉寅刻頃に出立しけるが江尻宿を
疾や
遲しと待居たり然るに
曉寅刻頃とも思ふ頃
遙かに聞ゆる
驛路の
鈴の
音馬士唄の
聲高々と來掛る
挑灯を
冠りて馬に
乘つゝ是々
馬士どの今夜は何だか
淋い樣だ
何日は
最う
寅刻頃には
徐々人の
往來も有のに鮫洲から
爰迄來中に一人も逢ぬ
扨々淋しいことだぜ
馬士アイサ此節は人通りが
少無なつて否はや一
向に
不景氣なことさ品川歸りも通らねえ
隨分氣を