引張ひっぱ)” の例文
すぐに往って来いと仰しゃれば、ヘーッてんで直に先生の手を持って引張ひっぱって参ります……これは驚きました、これは大変な御病気で
しかもそのいただきが、すでに天秤棒をかつぎ、またはリヤカアを引張ひっぱってあるいている土地は、もうだんだんと多くなっているのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さやさやとむぐらを分けて、おじいどうした、と摺寄すりよると、ああ、宰八か助けてくれ。この手を引張ひっぱって、と拝むがごとく指出した。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それよりは其隙そのひまで内職の賃訳ちんやくの一枚も余計にして、もう、これ、冬が近いから、家内中に綿入れの一枚も引張ひっぱらせる算段をなければならぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
例の事件を発見する日の前夜、ハリ・ドレゴは水戸を引張ひっぱりまわして町中を飲み歩いた。この日二人の間には珍らしく議論が沸騰ふっとうしたのである。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
島田の奴が馬を引張ひっぱって来たので、仕方がないから有合ありあいのものを典じて始末をつけたが、その穴埋あなうめをしなけりゃならん。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
朝起きてすする渋茶に立つ煙りの寝足ねたらぬ夢の尾をくように感ぜらるる。しばらくすると向う岸から長い手を出して余を引張ひっぱるかとあやしまれて来た。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから二三日つと、彼は屋敷下を通る頬冠ほおかむりの丈高い姿を認めた。其れが博徒の親分であることを知った彼は、声をかけて無理に縁側に引張ひっぱった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と長く引張ひっぱったところで、つく息と共に汚い白眼しろめをきょろりとさせ、仰向あおむける顔と共に首を斜めに振りながら
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
熊吉くまきちという水撒みずまき人夫がありました。お役所の紋のついた青い水撒車を引張ひっぱって、毎日半蔵門の方から永田町へかけて、水を撒いて歩くのが、熊さんの仕事でした。
その途端、女房はキャッと叫んだ、見るとその黒髪を彼方うしろ引張ひっぱられる様なので、女房は右の手を差伸さしのばして、自分の髪を抑えたが、そのまま其処そこへ気絶してたおれた。
因果 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
その時大阪では焼ける家の柱につなを付けて家を引倒ひきたうすと云うことがあるその網を引張ひっぱってれと云う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夫は喫驚びっくりして、如何どうしたのだとその男になじると男はすこぶる平然として、なにこれは魔物にちがいない、早く帰ろうといいながら、その男の袖を引張ひっぱるようにして、帰途に就いたが
月夜峠 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
すると、もぐらのお母さんは子供を引張ひっぱって、ずんずん下の方へ引込ひっこんで行きました。
もぐらとコスモス (新字新仮名) / 原民喜(著)
(行きましょう、行きましょう。)ぞっと私はすごくなって、若い人の袖を引張ひっぱって、見はるかしの田畝道へ。……ほっとして
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うーい。こら、こんな面白くない酒場へ引張ひっぱって来やがって。こーら、そこにいる大将。早くジンカクを持ちこい」
ちいせえ時分に両親が死んだゞね、それから仕様がなくって親戚みより頼りもえもんでがすが、懇意な者が引張ひっぱってくれべえと、引張られて美作国みまさかのくにめえりまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その日私はまた兄さんを引張ひっぱり出して今度は山へ行きました。上を見て山に行き、下を向いて湯に入る、それよりほかにする事はまずない所なのですから。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一部を赤くって、大きな黒文字で危険と書き、注意と書いてある。其様そんな危険なものなら、百姓の頭の上を引張ひっぱらずと、地下でも通したらよさそうなものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それでこの物をなわはしくくりつけて、畠を引張ひっぱりあるく風習もひろく行なわれており、その時となえる文句が愉快なので、小児が志願してその役につく場合も多かった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
また女給さんもつゆ子の通っているような店は、往来へ出て見ず知らずの人を引張ひっぱるのだから、万一の事を思えば、危険なことは同じだと言って、その事情をくわしく説明しました。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
巡査はひげ引張ひっぱって言いました。
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
小児こども衆ですよ、不可いけません。両方から縄を引張ひっぱって、軒下に隠れていて、人が通ると、足へ引懸ひッかけるんですもの、悪いことをしますねえ。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『竹花にあの女を与えてなるものか。また、自分を此処まで引張ひっぱりまわした女に、素直に幸福を与えてなるものか』
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしそうすれば私がKを無理に引張ひっぱって来た主意が立たなくなるだけです。私にはそれができないのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と下心があると見え、お久の手を取って五目鮨ごもくずし引張ひっぱり込むと、鮨屋でもさしで来たからおかしいと思って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
路傍の車前おおばこくき折曲おりまげて引懸ひっか引張ひっぱり、またはすみれの花の馬の首のようになった部分を交叉こうさして、むしろその首のたやすくもげて落ちるのを、笑い興ずるようになっているが
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
東京の寺や墓地でも引張ひっぱって来て少しは電鉄沿線の景気をつけると共に、買った敷地を売りつけて一儲ひともうけする、此は京王の考としてさもありそうな話である。田舎はもとより金が無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
下枝様がああいう扮装みなりのまま飛出したのなら、今頃は鎌倉中の評判になってるに違いありません。何をいおうと狂気きちがいにして引張ひっぱって参ります。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし別にクラブ・バッグを引張ひっぱり出すわけでもなく、細い節竹ふしだけのステッキを軽く手にもつと、外へ飛び出した。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
多「お母様かゝさま/\、今此処え出ておかゝさんの手を持って引張ひっぱり込んだ人は誰だえ、お母様しやお父様とっさまではござりやせんかえ、お母様/\、お父様かえ/\/\」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
面目の髣髴ほうふつたる今日からさかのぼって、科学の法則を、想像だも及ばざる昔に引張ひっぱれば、一糸いっしも乱れぬ普遍の理で、山は山となり、水は水となったものには違かなろうが
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あと三個も、補助席二脚へ揉合もみあって乗るとひとしく、肩を組む、頬を合わせる、耳を引張ひっぱる、真赤まっか洲浜形すはまがたに、鳥打帽を押合って騒いでいたから。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから彼は若月次長を探し出すと、彼を引張ひっぱって行くようにして、室戸博士の一行を訪ねたのであった。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
手前も己も旦那の敵を取って恩返おんげえしを仕なけりゃア済まねえ、代官へでも何処どこへでも引張ひっぱって行くのだ、本堂に若旦那が居るから若旦那に一寸ちょいとと云って呼んで……
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は手もなく、魔の通る前に立って、その瞬間の影に一生を薄暗くされて気が付かずにいたのと同じ事です。自白すると、私は自分でその男をうち引張ひっぱって来たのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「でもね、私、いじめッを、みんな引張ひっぱって電車通りの方へ行って下すった後姿を見て拝んだんですよ。私お地蔵様かと思いました。……ええ。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
力を入れて無理に剥そうと思い、グッと手を引張ひっぱる拍子に、梯子がガクリと揺れるに驚き、足を踏みはずし、さかとんぼうを打って畑の中へころげ落ち、起上おきあがる力もなく
いくらどこからどんな人を引張ひっぱって来ても容易に聞かれるものではなかろうとも思うのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ると、見も知らぬ若い白人の女が、しきりに、彼の中国服のすそ引張ひっぱっているのであった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わっしなんぞが参りますと、にごり屋のかみさんが沁々しみじみ愚痴をいいますがね、勘定はいうまでもなく悪いんです、——つれ引張ひっぱって来りゃきっと喧嘩。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眞「うと云うたてもなア、お梅はんが歩けんと云うから、手を引張ひっぱったり腰を押したりするので、共に草臥れるがな、とても/\足も腰も痛んで、どうも歩けぬので」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところがね、(ハ)の場合だから、引力は距離関係がなくなり、重いものはどんどん軽いものを引張ひっぱりつけることになったので、隕石はみんなこの地球へ引きよせられるのさ。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いいえ、貴下あなた、この花を引張ひっぱるのは、私を口説くのと同一おんなじ訳よ。主があるんですもの。さあ、引張って御覧なさい。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
安「困りますね、眼が癒りませんよ女郎じょうろなんぞ引張ひっぱり出して来て、しかしお若いから無理はねえが」
「今日は、皆の引張ひっぱだこになったから、疲れたんですよ。まあこの可愛いいアンヨは」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
幅狭き布子ぬのこ上掻うわがえ引張ひっぱり合せて、膝小僧を押包み、煮染めたような手拭てぬぐいにて、汗をき拭きかしこまり、手をつきて美人の顔、じっと見詰むる眼に涙。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
安「これは初めてお出でゞ、他人の女房に惚れているなどといや挨拶の仕様がない、麹屋にいた時分には贔屓にした女だから祝儀も遣って随分引張ひっぱって見た事もあるのさ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ニーナは、それをみると、自分の手を入れて、黒い筒を引張ひっぱりだした。
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
我輩警察のために棄置かん、直ちに貴公のその額へ、白墨で、輪を付けて、交番へ引張ひっぱるでな、左様さよ思え、はははは。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)