かさ)” の例文
するうち酒屋の借金がかさんで長い小説の必要に迫られ、S社に幾らかの前借をして取懸つたのが『狂醉者の遺言』といふわけである。
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
彼女はメートルの費用のかさむのに少からず辟易へきえきしながら、電気装置をいじるのを楽しみに、しばらくは毎朝こどものように早起した。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
意趣か、悪戯いたずらか知らぬが、入費はいかほどかさもうと苦しゅうない。是が非でも曲者くせものを探し出し、主君おかみの手で成敗したいという仰せだ。
やがてかさんだ苦悩のはけ口が患者に向けられて、「この気狂い野郎!」とか「貴様ア馬鹿だぞ、脳味噌をつめ替えなくっちゃア駄目だ」
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
分りかねるならば、えらんで行く途なし。さらばやはりみんな買って行こうとすると、これだけかさばったものを到底とうてい持ち出しかねる。
それから三年の間、膏汗あぶらあせを搾るようにして続けた禰宜様宮田の努力に対して、報われたものはただ徒にかさんで行く借金ばかりであった。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
江戸番は一年交代であるがこんどは任期が延び、二年ちかくにもなるため、ひどく出費がかさんで、これ以上の滞在は困難になっていた。
去年の十一月以後は急に驚くほど勘定がかさんでおり、妙子がこの家でどんなにしたい三昧ざんまい贅沢ぜいたくをしていたかが想像出来るのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
物理学にいう固形体こけいたいのものを流動体りゅうどうたいに変じ、ガスたいに変ずるがごとく、かさは大きくなるけれども、つかみどころがなくなりがちである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
主人はまあそれでもいゝとして、その家来共までが御用の二字をかさにきて、道中の宿々しゅく/″\を困らせてあるいたのは悪いことでした。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そしてその夜一夜ふりあかしたあくる朝の、ふかぶかとなお曇りつづけた空の下に、重い雪のかさをのせてうなだれた門々の笹、しめ……
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
そこをつけ込んで使うだけ使って突放してしまうので、金は取れず、食費はかさむ、仕事には有り付けぬ、というのが続々と出来る。
借財に借財を重ね、高利貸には責められる、世間への不義理はかさむ、到底今年選挙を争ふ見込なぞは立つまいといふことは、聞いて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
銀行家だからといつて、まさか金塊を懐中ポケツトに入れてゐる訳でもありますまいから、一億円の金塊は恰度ちやうど三尺立方のかさがあります。
ところが自然状態のコロラド河は、夏は非常に水が少くなるが、春さきの雪解け増水の場合は、著しく水かさの増す河であった。
アメリカの沙漠 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
濃厚にかさを持って、延板のべいたのように平たく澄んでいる、大岳の影が万斤の重さです、あまりしずかで、心臓ハート形の桔梗の大弁を、象嵌ぞうがんしたようだ
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
新たにかさむ照明費と税金、使用人の増加等を計算する時は、今日の売価をおよそ六、七分方引き上げねば収支償うことができないのである。
わづらひ漸く全快はなしたれども足腰あしこしよわ歩行事あゆむことかなはず日々身代に苦勞なすと雖種々しゆ/″\物入ものいりかさみ五年程に地面も賣拂うりはらひ是非なく身上を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私は甘っぽくかさにかかってゆく気持になって、急な大事な話というのを聞かないで、このまま光子を放すものかと決心した。
或る男の手記 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「それああなた、道路はもう、町を形づくるに何よりも大切な問題ですがな」彼はちょっとかさにかかるような口調で応えた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そんなうそを言って隠し立てをしているこちらの腹の中を見透かされると、柳沢の平生の性質から一層かさにかかって逆に出られると思ったから
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
虎の威をかさにきてだいぶちょくちょくうまいしるを吸っているものとみえ、御免安のやつ、何かとんでもないことをもくろんでいるらしい——。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大井川を渡る賃金は、水かさによってちがっていて、乳下水、帯上通水、帯通水、帯下水、股通水、股下通水、膝上通水、膝通水と分れていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
本屋の払いがかさみすぎて……もう三月ほど支払を滞らしているから今度は払っておいてやらないとあとがきかなくなるんだ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
主人が主人なれば、家来もまた家来……主人をかさに着た家来たちのために、到頭高手たかて小手こてに締め上げられてしまいました。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかし弟子の多くなるに従って何かと物入りのかさむは当然で、私が学校へ奉職して、谷中に引っ越した時代は、月給は三十五円でありましたが
山陰、北陸一帯はもとより、遠く北海道にまで船で運ばれます。かさのある仕事だけに働きも激しく、体力のない者は堪え得ないでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
何だか泣きたいような気持になって、儘になるならすぐにもちたかったが、こうなると当惑するのは、今日の観劇の費用が思ったよりもかさんで
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこで大分にその雹がけてかさが低くなったものですから、ようやく半ヵ月前からこの通行が出来るようになったという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
よいか。そしてその真中へ鎧、刀これも三十人分、甲は無論小手こて脛当すねあてまで添えて並べ立てた。金高かねだかにしたらマルテロの御馳走よりも、かさが張ろう。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『いや、見たい。あの蓄財家ちくざいかの九郎兵衛が、髪の白くなる迄、爪のあかを貯えて、それがどれ位なかさになっているか、話の種に、見て置きたいのだ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
更に次は場所、海の深さ、底は海泥か岩礁か、所謂「根」があるか無いか、川なら淵と浅瀬の水流、水かさ、砂利の工合といつたものをよく観察する。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
ふだんはおとなしい心の弱い性で居ながら、相手がかさにかかつて来るとなると、何ものも恐れないと云ふきかん気が此男の頭の中に燃えたつのである。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
かさ半紙はんしの一しめくらいある、が、目かたは莫迦ばかに軽い、何かと思ってあけて見ると、「朝日」の二十入りのき箱に水を打ったらしい青草がつまり
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さて従前に比して社費は二、三倍にかさむゆえに、樵夫、炭焼き輩払うことならず、払わずば社殿を焼き払い神木を伐るべしとせまられ、常に愁訴断えず。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
泥臭い水ではあるが、その空の色をありありと映す川は、水かさも増して、躍るやうなさざ波を立てゝ流れて居る。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
が、しかし、先生が松を愛されなかったのはそう云う手数がかかるとか、物入がかさむとか云う理由ではなかった。
解説 趣味を通じての先生 (新字新仮名) / 額田六福(著)
茄子なすび大根の御用をもつとめける、薄元手を折かへすなれば、折からの安うてかさのある物より外はさをなき舟に乘合の胡瓜、つとに松茸の初物などは持たで
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
半分はんぶんたあとが、にしてざつ一斤入いつきんいれちやくわんほどのかさがあつたのに、何處どこさがしても、一片ひときれもないどころか、はて踏臺ふみだいつてて、押入おしいれすみのぞ
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
非常にかさの多い滋養に富んだ食事であった。シュルツがザロメの自負心をおだてたのだった。彼女は何か口実さえあれば自分の腕前を見せたがっていた。
彼等は、あまりにふくらんだ、あまりにかさばったやつを好まなかった。そういう嵩ばったやつには、仕様もないものがつめこまれているのにきまっていた。
前哨 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
所詮しょせん、自由になる金は知れたもので、得意先の理髪店をけ廻っての集金だけで細かくやりくりしていたから、みるみる不義理がかさんで、あおくなっていた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「というわけはこういうわけで」兵馬は紋也のようすが、ますますおかしく思われるのであろう、かさにかかった能弁で、まくし立てるように喋舌り出した。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
老齢のため何かと修繕代のかさむ自動車を一寸怨めしそうに見たが、もとよりそれは心からの恨みでは毛頭なくむしろ長い間、自分と苦難をともにして来たために
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
絶え間なくかさが増し、幅が広がり、わずかに半時間の後には、あたかも扇とも慧星の尾とも見らるる形となった。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
相手はいよいよかさにかかって、小力を十二分に発揮して相撲の手を濫用して来るから、米友が怒りました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ちょっとかさのある風呂敷包を抱えて、裏口から私は伊藤の後を追って行った。と、それを伊藤が見つけて
殊に、妊娠をして居る彼の妻の産期が、近づいて来るに従って、色々な出費がかさみ、大島を買う事をあれほど強く主張した妻も、もうあきらめてしまったらしかった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
最初は小さなものだが、落ちて行く途中で、別な小さな雫と一緒になつてかさを増して来る。だから、高いところから降つて来れば来るほど、其の雨は大きくなる。
石子は支倉がひるむ色を見せたので、かさにかゝって云ったが、支倉はまたプッツリと黙り込んで終った。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)