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屹
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きっ
ふりがな文庫
“
屹
(
きっ
)” の例文
これらのことは伊沢と秀木とで話し、弥十郎は退屈しながら聞いていたのであるが、やがて、彼は自分の耳を疑うように
屹
(
きっ
)
となった。
屏風はたたまれた
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
屹
(
きっ
)
と顔を上げて相手を見た。ストーン氏はその顔をしげしげと見ていたが、やがて、事務的な……しかし極めて丁寧な口調で問うた。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
笑うと八重歯が少し見えて、
滅法
(
めっぽう
)
可愛らしくなるくせに、真面目な顔をすると、
屹
(
きっ
)
とした凄味が抜身のように人に迫るたちの女でした。
銭形平次捕物控:099 お篠姉妹
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
白い眉をあげて祖父は
屹
(
きっ
)
と慎作を見たが、思い返したように舌打して向き直り、
故意
(
わざ
)
と慎作を無視する様な高い皺枯れ声を出した。
十姉妹
(新字新仮名)
/
山本勝治
(著)
屹
(
きっ
)
となりてばたばたと内に
這入
(
はい
)
り、金包みを官左衛門に打ち附けんとして心附き、坐り直して
叮寧
(
ていねい
)
に返す処いづれも
尤
(
もっとも
)
の仕打なり。
両座の「山門」評
(新字旧仮名)
/
三木竹二
(著)
▼ もっと見る
帽子を
目深
(
まぶか
)
に、
外套
(
がいとう
)
の襟を立てて、
件
(
くだん
)
の紫の煙を吹きながら、目ばかり出したその清い目で、
一場
(
いちじょう
)
の光景を
屹
(
きっ
)
と
瞻
(
みまも
)
っていたことを。
政談十二社
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
保子はそう云って
屹
(
きっ
)
となったが、唇をかすかに震わしたまま黙ってしまった。視線をちらと乱して、しまいにはそれを膝の上に落した。
反抗
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
それが眼に入るか入らぬに
屹
(
きっ
)
と
頭
(
かしら
)
を
擡
(
あ
)
げた源三は、白い横長い雲がかかっている雁坂の山を
睨
(
にら
)
んで、つかつかと山手の方へ上りかけた。
雁坂越
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
米友は屋根の上を
屹
(
きっ
)
と見る。
生薬屋
(
きぐすりや
)
の屋根の上へ火縄銃を
担
(
かつ
)
ぎ上げたのは、米友も知っている田丸の町の藤吉という猟師であったから
大菩薩峠:06 間の山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
そして寒風のふく
舳
(
みよし
)
へ出て、
屹
(
きっ
)
と鉄の如く、立っていた。船は白波を噛んで進む! 正確に進んでいる! 帆綱はみな張りつめていた。
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
声の聞こえる部屋の隅へ
屹
(
きっ
)
と葉之助は眼をやったが、笑い主の姿は見えぬ。しかし笑い声は
間断
(
ひっきり
)
なしにヒ、ヒ、ヒ、ヒと聞こえて来る。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
況
(
ま
)
して今の大酒家と
云
(
いっ
)
ても私より以上の者は
先
(
ま
)
ず少ない、高の知れた酒客の
葉武者
(
はむしゃ
)
だ、そろ/\
遣
(
や
)
れば節酒も禁酒も
屹
(
きっ
)
と出来ましょう。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
すると、父は俄かにくちびるを
屹
(
きっ
)
と結んで、しばらく私の顔を見つめていたが、やがて厳粛な口調で、お前それは本当かという。
白髪鬼
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
女は例のごとく過去の
権化
(
ごんげ
)
と云うべきほどの
屹
(
きっ
)
とした
口調
(
くちょう
)
で「犬ではありません。左りが熊、右が
獅子
(
しし
)
でこれはダッドレー
家
(
け
)
の紋章です」
倫敦塔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
すわとばかりに
正行
(
まさつら
)
、
正朝
(
まさとも
)
、
親房
(
ちかふさ
)
の面々
屹
(
きっ
)
と
御輿
(
みこし
)
を
護
(
まも
)
って賊軍をにらんだ、その目は血走り
憤怒
(
ふんぬ
)
の
歯噛
(
はが
)
み、毛髪ことごとく
逆立
(
さかだ
)
って見える。
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
さわやかにもたげた頭からは黄金の
髪
(
かみ
)
が肩まで
垂
(
た
)
れて左の手を
帯刀
(
おはかせ
)
のつかに置いて
屹
(
きっ
)
としたすがたで町を見下しています。
燕と王子
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
かの女は危く叫びそうになって、
屹
(
きっ
)
と心を引締めると、身体の中で全神経が酢を浴びたような気持がした。次に
咽喉
(
のど
)
の辺から下頬が
赫
(
あか
)
くなった。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
(突然立ち留り、娘を
屹
(
きっ
)
と見、早足に娘の
傍
(
そば
)
に寄り、両手を娘の肩に置き、娘を自分の方へ向かせ、目と目を見合す。)
家常茶飯 附・現代思想
(新字新仮名)
/
ライネル・マリア・リルケ
(著)
私は癪に障って、
凝
(
じ
)
っと顔を見てやった。相手は
屹
(
きっ
)
と構えて、いつまでも私を睨んでいる。生意気な奴だと思った。その頃の学生は荒っぽかった。
凡人伝
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
夫人の顔が、
遉
(
さすが
)
に
蒼白
(
そうはく
)
に転ずるのを
尻目
(
しりめ
)
にかけながら、信一郎は、素早く部屋を出ようとした。が、それを見ると、夫人は
屹
(
きっ
)
となって呼び止めた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
やっと尺八を吹き終えた坊さんは、笛を袋へ納めると、眼に一杯涙を
湛
(
たた
)
えながら
屹
(
きっ
)
と屋敷の方を
睨
(
にら
)
みつけていました。
棚田裁判長の怪死
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
早く
家
(
うち
)
へ帰って亭主の國藏という奴に、
己
(
おれ
)
は業平橋に居る浪島文治郎と云うものだから、
打
(
ぶ
)
たれたのを残念と思うならいつでも仕返しに来いと
屹
(
きっ
)
と申せよ
業平文治漂流奇談
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
馬前にいた河内介は
咄嗟
(
とっさ
)
に大将の身を
庇
(
かば
)
い、則重を森の中へ避難させて、
屹
(
きっ
)
と戦場を見渡したが、
狙撃
(
そげき
)
された則重の驚きもさることながら、此の瞬間に
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
そこへ今、満身血まみれの、幹部候補生のバンドをした青年が迷い込んで来た。すると、隣の男は
屹
(
きっ
)
となって
夏の花
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
と、いうような言葉がまじるのを聴くと、広海屋は、
屹
(
きっ
)
と、鋭い目つきをして、眉根をぐっと引き寄せた。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
「いや、これが要点に入る前置きなのです。前置きなしには話せない。だしぬけに要点を話したら、
屹
(
きっ
)
とあなたが
吃驚
(
びっくり
)
なさって、私を信用して下さらないと思います」
凍るアラベスク
(新字新仮名)
/
妹尾アキ夫
(著)
ある時義兄が其
素行
(
そこう
)
について少し云々したら、泥足でぬれ縁に腰かけて居た彼女は
屹
(
きっ
)
と向き直り、あべこべに義兄に
喰
(
く
)
ってかゝり、老人と正直者を
任
(
まか
)
せて置きながら
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
眼をあげて虚空を見れば、無辺際に築き上げた氷の山岳が、
屹
(
きっ
)
として強い日ざしにさえかえっている。そこに何等の雲影もなく、万象は光明を象徴せる如く感ぜられる。
続スウィス日記(千九百二十三年稿)
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
そして自分でも長い桜の
煙管
(
パイプ
)
を握って
屹
(
きっ
)
と身を構えた。チチコフはサッと布のよう顔色を変えた。彼は何か言おうとしたが、唇がブルブル顫えるだけで声は出なかった。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
忠太郎 初めて逢う母親がゆたかに暮していればいいが、さもねえ時はと
賭博場
(
ばくちば
)
で目と出た時に貯めた金よ。俺あ行くぜ。半次、堅気になった姿を、いつか一度
屹
(
きっ
)
と見に行くぜ。
瞼の母
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
古城の塔の如くに聳えた岩壁の尖頂は、胸から上を抜き出したまま
屹
(
きっ
)
として動かない。
釜沢行
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
震わせて「エ、憎い、憎い、アノ女は取り殺しても足らぬ奴だ、道さん見てお出で成さい、アノ女が猶も貴方や叔父さんに附き纒うなら、私は
屹
(
きっ
)
と殺して禍いの根を留めますから」
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
今一目逢いたかった……次から次と果てしなく思いは溢れてくる。しかし母にそういうことを言えば、今度は僕が母を殺す様なことになるかも知れない。僕は
屹
(
きっ
)
と心を取り直した。
野菊の墓
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
清源の陳褒別業に隠居し夜窓に臨んで坐す、窓外は広野だ、たちまち人馬の声あり、
屹
(
きっ
)
と見ると一婦人虎に
騎
(
の
)
り窓下より
径
(
みち
)
を過ぎて屋西室の外に
之
(
ゆ
)
く。壁隔て室内に一婢ありて臥す。
十二支考:01 虎に関する史話と伝説民俗
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
もし正夢で御病気ならば、御看病申上げて、其後は
屹
(
きっ
)
と帰る。
金打
(
きんちょう
)
致して誓い申す
死剣と生縄
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
赤羽主任は
屹
(
きっ
)
となって、共に天井の血の穴を見上げたが、刑事の叫びを聞くより
電気風呂の怪死事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
四方を
屹
(
きっ
)
と見てあれば、
魔王岳
(
まおうがたけ
)
の
絶頂
(
ぜっちょう
)
に
鬼桃太郎
(新字新仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
と
屹
(
きっ
)
と相手を
睨
(
にら
)
んだのだった。
のんきな患者
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
権兵衛は
屹
(
きっ
)
となった。
海神に祈る
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
園田氏はさすがに手は下しませんが、床の上へ崩折れた美しい娘の上から、
屹
(
きっ
)
と睨み据えて、思わずモザイックの床を踏み鳴らします。
女記者の役割
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
胸傍
(
むなわき
)
の小さな
痣
(
あざ
)
、この青い
蘚
(
こけ
)
、そのお米の乳のあたりへ
鋏
(
はさみ
)
が響きそうだったからである。辻町は一礼し、墓に向って、
屹
(
きっ
)
といった。
縷紅新草
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ギョッとしたらしい相手の影は、
咄嗟
(
とっさ
)
なことに逃げ道を失って、樹幹をタテに身を隠しながら、
屹
(
きっ
)
と、一方の手は刀の
柄
(
つか
)
に行っている。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
結婚して以来、初めての、
屹
(
きっ
)
とした云い方だった。杉乃は怒りの眼で彼を見、膝の上で両手を握りしめた、彼は静かに立ってそこを出た。
竹柏記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
屹
(
きっ
)
とそうよ。あの人は何かに
執
(
と
)
り着かれているに相違ないわ。(太吉の手を
把
(
と
)
る。)
太
(
た
)
ァちゃん。お前、なにか見なかったかい。
影:(一幕)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
マア君達は元気が
宜
(
い
)
いから
遣
(
やっ
)
て
呉
(
く
)
れ、
大抵
(
たいてい
)
方角が付くと僕も
屹
(
きっ
)
と
遣
(
や
)
るから、ダガ今の処では何分自分で遣ろうと思わないと云う。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
その顔は、電燈の逆光線を受けて、髪毛や着物と一続きの影絵になっていて、
恰
(
あたか
)
も大きな紫色の花が、
屹
(
きっ
)
と空を仰いでいるように見える。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
それを怪しいと見たのはおたがいのことで、ここまで乗りつけて来た小舟の
船夫
(
せんどう
)
はまた、櫓を押すことを休めて、橋上を
屹
(
きっ
)
と見上げました。
大菩薩峠:19 小名路の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
と窩人の
長
(
おさ
)
の、杉右衛門は
屹
(
きっ
)
と眼を
瞋
(
いか
)
らせ、彼の前にずらりと並んでいる五百に余る窩人の群を隅から隅まで睨み廻したが
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「やあ、御帰り」と宗近君が煙草を
啣
(
くわ
)
えながら云う。藤尾は
一言
(
いちごん
)
の
挨拶
(
あいさつ
)
すら返す事を
屑
(
いさぎよし
)
とせぬ。高い背を高く
反
(
そ
)
らして、
屹
(
きっ
)
と部屋のなかを見廻した。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その眼と彼の口辺にたゞようニタニタ笑いとが、全く調和を缺いているように感ぜられたのであった。が、そう云われると、さすがに彼女は
屹
(
きっ
)
となった。
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
屹
漢検1級
部首:⼭
6画
“屹”を含む語句
屹度
屹立
屹然
屹々
屹驚
屹坐
屹崛峨々
屹度可相立旨
屹水下
突屹相