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囁
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ささや
ふりがな文庫
“
囁
(
ささや
)” の例文
ヘンに目立つような真四角な風呂敷包みを三等車の網棚に載せて、その下の窓ぎわに腰かけながら、私たちはこう
囁
(
ささや
)
き合ったりした。
父の葬式
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
遠くから私のほうをちらちら見ては何やら
囁
(
ささや
)
き合い、そのうちに、わあいと、みんな一緒に声を合せて、げびた
囃
(
はや
)
しかたを致します。
千代女
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
大阪お祖母さんでは
流石
(
さすが
)
に権威がないように子供心に思えたのだ。嘘のような真実を私はイエに
囁
(
ささや
)
いた。ひとこと報いたい心だった。
前途なお
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
そして、
艶
(
なまめ
)
かしい
囁
(
ささや
)
きを囁きあったが、和尚の態度は夫人以上に醜悪なるものであった。李張はまず和尚を踏み
潰
(
つぶ
)
してやりたかった。
悪僧
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
男の顔には絶望の
微笑
(
ほほえ
)
みが現れた。そして息を歯の間から出すような
囁
(
ささや
)
き声で、「堪忍しろ」と云った。声は
咳枯
(
しわが
)
れて惨酷に聞えた。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
▼ もっと見る
幸吉が引下ると、国枝氏は警察署長と何かヒソヒソ
囁
(
ささや
)
いていたが、やがて一人の私服刑事が、署長の命令でどこかへ出かけて行った。
鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
近藤は
直
(
ただち
)
に何ごとをか言い出さんと身構をした時、
給使
(
きゅうじ
)
の一人がつかつかと近藤の
傍
(
そば
)
に来てその耳に附いて何ごとをか
囁
(
ささや
)
いた。すると
牛肉と馬鈴薯
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
高張提灯の薄暗い
灯
(
あかり
)
の下に、五六十人も押し重なった町内の人達も、あまりの苛酷な
情景
(
シーン
)
に眼を
反
(
そむ
)
けて、非難の
囁
(
ささや
)
きを波打たせます。
銭形平次捕物控:003 大盗懺悔
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そんな
素直
(
すなお
)
な
考
(
かんが
)
えも
心
(
こころ
)
のどこかに
囁
(
ささや
)
かないでもなかったのですが、
次
(
つ
)
ぎの
瞬間
(
しゅんかん
)
には
例
(
れい
)
の
負
(
ま
)
けぎらいが
私
(
わたくし
)
の
全身
(
ぜんしん
)
を
包
(
つつ
)
んで
了
(
しま
)
うのでした。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
ある夜彼がまた洞穴の奥に、泣き顔を両手へ
埋
(
うず
)
めていると、突然誰かが忍びよって、両手に彼を
抱
(
いだ
)
きながら
艶
(
なま
)
めかしい言葉を
囁
(
ささや
)
いた。
素戔嗚尊
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
「いいじゃないの」光子は甘ったるい鼻声で
囁
(
ささや
)
くように云う、「夫婦の仲ですもの、そんな他人行儀なこと云うもんじゃなくってよ」
季節のない街
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
一人が一人の耳に口をつけて
囁
(
ささや
)
くと、囁いた方が人を分けて前へ進み出し、囁かれた方は、もとのままに兵馬を監視しているらしい。
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
が、
何
(
いづ
)
れにしてもみんなの口は、新任先生の下馬評に
賑
(
にぎは
)
つて、
囁
(
ささや
)
きとなり呟きとなり笑ひとなつて、部屋の空氣がざわめき立つてゐた。
猫又先生
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
そうして、それから後三太郎君の魂は毎晩のように、同じところで露子さんと出会って、
囁
(
ささや
)
き合い、泣き合い、笑い合ったのです。
卵
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
江戸木板画の悲しき色彩が、全く時間の
懸隔
(
けんかく
)
なく深くわが
胸底
(
きょうてい
)
に
浸
(
し
)
み入りて常に親密なる
囁
(
ささや
)
きを伝ふる
所以
(
ゆえん
)
けだし偶然にあらざるべし。
浮世絵の鑑賞
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
しかも絶えず何ものかの
囁
(
ささや
)
きに充たされているようなので、いつか聞覚えてしまったヴィットリアの「アヴェ・マリア」の一節などを
木の十字架
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
彼は自分の思想の
囁
(
ささや
)
きのうちに、また、ゆるやかにたってゆく
田舎
(
いなか
)
の単調な日々の親しい感覚のうちに、ぼんやり浸り込んでいた。
ジャン・クリストフ:08 第六巻 アントアネット
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
それでも艇と艇との間にはだんだん隔たりが生じてくる。皆はなおも興奮して小声で「ずんずん抜いてやれ」と
囁
(
ささや
)
きながら漕いだ。
競漕
(新字新仮名)
/
久米正雄
(著)
わずかに残った
梢
(
こずえ
)
の葉擦れが、寂しさ、なつかしさを
囁
(
ささや
)
き交わす様なひそかな音をたてる、あの時のままの茶褐色であるのを見た。
かやの生立
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
しかし、院を背景とする薄暗い底流
窟
(
くつ
)
に、いったいどんな怪魚が寄って、何を
囁
(
ささや
)
き合っているか、これもまだ表面のものではない。
随筆 新平家
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「四宮さんは二階に殺されていてよ」とミチ子が耳の
傍
(
そば
)
で
囁
(
ささや
)
いた。サテは、と思って僕がミチ子を
見据
(
みす
)
えた時、階上で叫ぶ声が聞えた。
階段
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
なんだかうっとうしい晩だけれど、
軒端
(
のきば
)
を伝う雨の
雫
(
しずく
)
に静かに耳を傾けていると、思いなしかそれがやさしい
囁
(
ささや
)
きのように聞えて来る。
卍
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
小路や角の辻々に、得体の知れない人々が、十人、二十人、四、五十人と、組をなして佇んで、ひそひそ
囁
(
ささや
)
き合い話し合っていた。
血煙天明陣
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そして
囁
(
ささや
)
いた。「おれは盗んだのだ。何百万と云う
貨物
(
しろもの
)
を盗んだ。おれはミリオネエルだ。そのくせかつえ死ななくてはならないのだ。」
橋の下
(新字新仮名)
/
フレデリック・ブウテ
(著)
そして、私達はその帰り途に、「あの人は、画家だぞ。あの人は画家だぜ。」と、何か不思議なものを見たように、
囁
(
ささや
)
きあった。
再度生老人
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
母親達の中から、
囁
(
ささや
)
きが小波のように起った。「面白いお子さんですこと」と云う一つの声が、
咎
(
とが
)
めるようにお咲の耳を撃った。
日は輝けり
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
本能的にすくんだ彼女をしめつけて、四日の晩、
初酉
(
はつとり
)
に連れてつてやるよ、店をしまつたら、花屋敷の側で待つてな、と
囁
(
ささや
)
くのであつた。
一の酉
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
好い奉公人を置き当てたと家内の者も喜んでいた。私も喜んでいた。すると四、五日経った
後
(
のち
)
、妻は顔を
皺
(
しか
)
めてこんなことを私に
囁
(
ささや
)
いた。
二階から
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
菊路のことが
囁
(
ささや
)
かれでもしたらしく、急に座内が色めき立ったかと思われるや一緒に、十郎次の言う声が戸の外にまで洩れ伝わりました。
旗本退屈男:08 第八話 日光に現れた退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
今まであの
隧道
(
とんねる
)
の惨事以来、彼女に絶えず
囁
(
ささや
)
きつづけていた、
高代
(
たかよ
)
という一事が、今度も滝人の前に二つ幻像となって現われた。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
二人三人、世話人が、列の柵
摺
(
ず
)
れに
往
(
ゆ
)
きつ
還
(
かえ
)
りつ、時々顔を合わせて、二人
囁
(
ささや
)
く、直ぐに別れてまた一人、別な世話人とちょっと
出遇
(
であ
)
う。
南地心中
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
彼の不安は、
山毛欅
(
ぶな
)
へ、
柏
(
かしわ
)
へ、マロニエへと移って行き、やがて、庭じゅうの樹という樹が、互いに、手まね身ぶりで
囁
(
ささや
)
き合う。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
美しい
俳優
(
わざおぎ
)
は、そうした行人の、無遠慮な
囁
(
ささや
)
きを、迷惑そうに、いつか、
諏訪
(
すわ
)
町も通り抜けて、ふと、右手の鳥居を眺めると
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
少しばかり強く風が渡ると、光りの薄い星が瞬きをして、黒いそこらの
樹影
(
こかげ
)
が、次ぎから次ぎへと素早く
囁
(
ささや
)
きを伝へて行く。
散歩
(新字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
彼は、歓ぶ春生達と、貧しい食事を済ますと、万一にも迷惑をかけては
相済
(
あいす
)
まぬから、当分遠ざかって考えると、老人に
囁
(
ささや
)
いて小屋を去った。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
ひそひそと
囁
(
ささや
)
かれていたのだが、四十九日が過ぎ、百ヵ日が過ぎ、その年も暮近くになって、やっと正木の老人から俊亮に話し出したのだった。
次郎物語:02 第二部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
「レエスの
縁飾
(
フリル
)
のついた
下袴
(
ペティコート
)
で一杯だってよ。」ラヴィニアは身をこごめて地理の本の上から、ジェッシイに
囁
(
ささや
)
きました。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
同じように自然も私たちに向って「まかせてくれ、頼ってくれ」といつも
囁
(
ささや
)
いている。自然にまかせきった器、それを美しき器と呼ぶのである。
工芸の道
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
「俺を紹介してもらえないだろうか?」とパーズレイが
囁
(
ささや
)
いたが、私は夢のような気持で返事をするのも打ち忘れて、高い椅子から滑り降りた。
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
しょぼ降る雨のなかを一本の
傘
(
かさ
)
で、石のごろごろしている
強羅
(
ごうら
)
公園を歩いている時も、ここで一夏一緒に暮らしてみたいように
囁
(
ささや
)
くかと思うと
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
他の客は七郎の質朴できたない風体をしているのを見て、公子は人の見さかいなしに交際しているといって
囁
(
ささや
)
きあった。
田七郎
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
子供たちは小さな声で
囁
(
ささや
)
くように言い合った。けれど自分から進んで大きな声で答えるものがなかった。先生は誰かをまた名指しそうにしていた。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
私は出来るだけの日本語で、彼に先にやってくれ、あなたのすることを一生懸命に見ているからと
囁
(
ささや
)
いた。すると彼は、右側の箱から香を取った。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
お俊の考えを押し広げると子供同士の、窺い知ることのできない世界に二人が何かを
囁
(
ささや
)
いていることが、ありそうな事にも思われないでもなかった。
童話
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
戸の内で
囁
(
ささや
)
く声と足音とがして、しばらくしてから戸が開いた。出て来たのは三十歳ばかりの下女で、人を馬鹿にしたような顔をして客を見ている。
田舎
(新字新仮名)
/
マルセル・プレヴォー
(著)
二人は熱心に、笑ひながら、
羞
(
はに
)
かみながら嬉しさうに
囁
(
ささや
)
いて居た。それから立ち上り、手をつないで行つてしまつた。
田舎の時計他十二篇
(新字旧仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
それに応ずるように、信一郎の良心が、『貴様は
卑怯
(
ひきょう
)
だぞ。貴様は卑怯だぞ。』と、低く
然
(
しか
)
しながら、力強く
囁
(
ささや
)
いた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
それから
又
(
また
)
三日ばかり
経
(
た
)
つて、天人が空を
眺
(
なが
)
めてゐますと、
子良
(
しりやう
)
がこつそりと来て、その
袖
(
そで
)
を引いて、
囁
(
ささや
)
きました。
子良の昇天
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
小さな
躑躅
(
つつじ
)
や
金盞花
(
きんせんか
)
などの
鉢植
(
はちうえ
)
が少しずつ増えた狭い庭で、花を見降している高次郎氏の傍には、いつも
囁
(
ささや
)
くようなみと子夫人の姿が添って見られた。
睡蓮
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
彼れは
之
(
これ
)
から手風琴を
弾
(
ひ
)
いて聞かせるから、もう少しこの座に居て
呉
(
く
)
れと、さも私を
慰撫
(
ゐぶ
)
するやうに
囁
(
ささや
)
いて呉れた。
アリア人の孤独
(新字旧仮名)
/
松永延造
(著)
囁
漢検1級
部首:⼝
21画
“囁”を含む語句
囁声
囁嚅
告囁
囁々
囁交
囁合
囁聲
囁道祖神
打囁