商人あきゅうど)” の例文
人だかりのまん中に立った商人あきゅうど。彼は呉服ごふくものをひろげた中に立ち、一本の帯をふりながら、熱心に人だかりに呼びかけている。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
治平殿貴方そなたも心得てなすったので有ろうが、君も前橋では立派な商人あきゅうどじゃと云う事だが、実に此の上ない不品行な事じゃアないか
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なま意気をいうな。商人あきゅうどなら金にさえなれば文句はあるまい。おれも意地だ、何倍にでも買ってやるからこの店で一番の上菓子をつつめ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただの百姓や商人あきゅうどなど鋤鍬すきくわや帳面のほかはあまり手に取ッたこともないものが「サア軍だ」とり集められては親兄弟には涙の水杯で暇乞いとまごい。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
辻に立って風船を売り、生活くらしを立てている少年商人あきゅうど、だがそれにしても何のために、こっそり弁才坊の屋敷などへ、人目を憚り忍び込んだのだろう?
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
神の氏子のこの数々の町に、やがて、あやかしのあろうとてか——その年、秋のこの祭礼まつりに限って、見馴みなれない、商人あきゅうどが、妙な、かわったものを売った。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無紋の黒八丈くろはちの羽織を着た商人あきゅうど風の老紳士と出会って、軽く挨拶して行去ろうとしたが、老紳士が頭を挙げないのでまた下げると同時に老紳士が頭を挙げ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
両側に縁日商人あきゅうどが店を並べているので、もともと自動車の通らない道幅は猶更狭くなって、出さかる人は押合いながら歩いている。板橋の右手はすぐ角に馬肉屋のある四辻よつつじで。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
格子の外の宵闇に蝙蝠こうもりの飛ぶ町のありさまを、———昔の大阪の商人あきゅうど町を胸にえがいた。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
御当家木沢左京様、又丹下備前守様御弟御さまほどの方々に対して、臙脂屋虚言うそいつわりは申しませぬ。物の取引に申出を後へ退くようなことは、商人あきゅうどの決してぬことでござりまする。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうかと思うと光沢つやのある前掛を締めて、中折帽を妙にへこました江戸ッ子流の商人あきゅうどもある。その他の何やらかやらでベンチの四方が足音と人声でざわついて来た時に、切符口の戸がかたりといた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
街道筋の商人あきゅうどはこの寒さにも五時から店を開けている。
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
かなたにも出店もある、広海屋ひろうみやという海産商人あきゅうどなのじゃ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
が、この神は父の神が、まだむこの神も探されぬ内に、若い都の商人あきゅうど妹背いもせちぎりを結んだ上、さっさと奥へ落ちて来られた。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とばりの外から弥九郎の声がする。さかいことばの軽快な語尾と商人あきゅうどらしい気ばたらきが、みじかいことばの中にも鮮明に働いている。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしもそうさ、一眼見た時から、商人あきゅうどじゃないと睨んでいたが、思うにしたえた腕前、ほんとに妾ア惚れたよ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの正太郎にはやせるほど苦労をしただ、その訳と云えば、あの野郎を連れて来て堅気かたぎ商人あきゅうどへ奉公に遣り、元の様なでかうちこしらえさせたいと思って奉公に遣ると
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
商人あきゅうどはもとより、親が会社員にしろ、巡査にしろ、田舎の小忰こせがれでないものが、娘をいじめる仔細しさいはない。故あるかな、スパルタもどきの少年等が、武士道に対する義憤なのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
サ、かく大事を明かした上は、臙脂屋、其座はただ立たせぬぞ、必ず其方、武具、兵粮ひょうろう、人夫、馬、車、此方の申すままに差出さするぞ。日本国は堺の商人あきゅうど、商人の取引、二言は無いと申したナ。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
深川八幡前の講中茶屋へ、ぽつぽつ集まって来る顔には、医者、儒者、商人あきゅうど、武家、僧侶、さまざまな風体ふうていがあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
化物ばけもの沙汰に心を奪われ商売の方をおろそかにしては商人あきゅうど冥利に尽きるというものだ——それでは今夜参ると致そう」
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで彼等はまず神田の裏町うらまちに仮の宿を定めてから甚太夫じんだゆうは怪しいうたいを唱って合力ごうりきを請う浪人になり、求馬もとめ小間物こまものの箱を背負せおって町家ちょうかを廻る商人あきゅうどに化け
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
処が翌年になってと来た客は湯島ゆしま六丁目藤屋七兵衞ふじやしちべえと云う商人あきゅうど糸紙いとかみおろい身代で、その頃此の人は女房がなくなって、子供二人ありまして欝いで居るから、仲間の者が参会の崩れ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かたわらのベンチに腰懸こしかけたる、商人あきゅうど体の壮者わかものあり。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
商人あきゅうどですもの。あんな紙きれを、銭だといって、糸屋や織娘おりこへ払っても、先で承知するもんじゃありません。
ところの主人と申すは、商人あきゅうどに似合わぬ風流人で、日頃から書画を好みますところから、文晁先生にもご贔屓ひいきになり、その方面のお話なども様々承わっておりましたそうで
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
商人あきゅうどの店は在郷ざいごと違って戸を締めてもくゞりの障子が有るから灯火あかりが表から見えるだ、すると婆様ばあさま其処そこをがらり明けて二人の泥坊が這入はえって、菓子呉れと云いながら跡をぴったり締めて
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「弥九郎。商人あきゅうどというものは、目さきが大事ということをよく申すが、目さきとは、目の前という意味ではあるまいな。見越し、先行きということではないか」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
商人あきゅうどが村へ来たが、持っている絹を売ろうともせず、温泉宿ゆやどを兼ねた土地の豪農、助左衛門方へ泊まったかと思うと、近頃京都の親類先から遊びに来ていたお銀という娘と
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これ手前てまい銭金ぜにかねを無心に参ったのではないが、村方の商人あきんどが難渋を致す処から再度掛合に参っても侍を権にかい、土民ばらあなどって不法な挨拶をして帰すので、村方の商人あきゅうどが難渋致すによって
工匠たくみらは工匠たちと、商人あきゅうどは商人たちと——またその家族たちと——人々はこぞって親鸞の徳をたたえ、国主の善政に感謝し、法悦の諸声もろごえは、天地あめつちちあふれていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では遠慮なくお邪魔致します」商人あきゅうどはうしろで襖を立て擦り膝をして、はいって来た。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と申して酒が貰いたいという訳ではないが、貴公は村方の帳元へ一言のはなしもなく、勝手次第にぬすんで来るか知らねえが、方外ほうがい廉売やすうりをするので、村方の商人あきゅうど一同迷惑を致してるくらいだから
五百の兵はみな商人あきゅうどに仕立て、上流へ交易に行く商船に偽装し、船底には武具をかくしていた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾年風雨にらされたものか屋根も板囲いも大半崩れ見る影もなく荒れていたが、この小屋こそは十数年前に窩人の娘山吹と城下の商人あきゅうど多四郎とがしばらく住んでいた小屋なのである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
拙者に掛合ってくれろと申して参ったから出たのだが、今日こんにちから商人あきゅうどの仲間入をして帳元並に売ればよし、左もなくば三文出して束を乞食扱いにしたから容赦は致さんぞ、拙者も武士だ、ゆるさんぞ
策をらして方向を計っているところです。ひとつてまえも諸天狗の仲間入りをして、人界うわさをあっと云わせてみようかなどと商人あきゅうどにあるまじき空想などにふけっておりますよ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
商人あきゅうどに成りたいと思う者はよろしく商人に成るがよい。またどうしても拙者と一緒に遊説したいと思う者は、拙者と同道するがよい。来者らいしゃ拒まず去者きょしゃ追わず、これが拙者の態度でござる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其の頃は強談をする者が商人あきゅうどの店先へまいり、サアたゝき殺せと云ってどっさり坐り込みますと、表へ黒山のように人が立ちまして外聞が悪いから、余儀なく十か廿の金を持たして帰したものですが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今も、脚絆きゃはん草鞋わらじのまま、沓石くつぬぎに居て、縁先に腰をかけている旅商人あきゅうどかのような町人が、部屋の内の兵部と声をひそめて話している。それが、南部坂で笠をとばした男だった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当日になると式服をまとい馬上に鞭を携えて薩州の邸へ歩ませた。芝高輪しばたかなわまで向かう間に彼の眼に触れる事々物々は焦心の種ならぬはない。兵を近在に避けようとして荷車を曳く商人あきゅうどの群れ。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
商人あきゅうどでも職人でもい男で、女の方は十九か廿歳はたちぐらいで色の白い、髪の毛の真黒まっくろな、まなこが細くって口元の可愛かえいらしいい女で、縞縮緬しまちりめんの小袖にわしイ見たことのくれえ革の羽織を着ていたから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ぼつぼつ露店ほしみせを並べ出し、洗濯女や一杯売りの酒瓶屋さかがめやつどい、やがて半月ともなれば、こんどは遠郷近国からも、あらゆる商人あきゅうどどもが寄って来て、忽ち、市を開き、市を目あてに
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
引き違いにセカセカ入って来たのは、革商人あきゅうどのヤコブであった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
孔明の従えてきた荊州の舟手の兵は、みな商人あきゅうどに姿を変えていた。玄徳と夫人、また随員五百を各〻の舟に収容すると、たちまち、櫓櫂ろかいをあやつり、帆を揚げて、入江の湾口を離れた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると商人あきゅうどは困ったように、小鬢こびんのあたりへ手をやったが
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
不死人は、妓たちを、駒に乗せ、自分も馬の背にまたがり、陸奥みちのく商人あきゅうどが国へ帰るものととなえて——手下の禿鷹、蜘蛛太、穴彦などに馬の口輪を持たせ、都から東海道を下って行った。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老婆と幼子おさなごとを門前にのこして、範宴の後をついてきた商人あきゅうどの妻らしい女が
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「延安へ行かっしゃるお商人あきゅうどと聞いたが、ご老母づれではたいへんじゃな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今は正直に申しますが、じつは拙者は、ただの旅商人あきゅうどなどではありません。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)