呼鈴よびりん)” の例文
昼頃近くになっても霜柱の消えないような玄関の前に立って呼鈴よびりんを鳴らしてもなかなかすぐには反応がなくて立往生をしていると
新年雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すると一人の男、外套がいとうえりを立てて中折帽なかおれぼう面深まぶかかぶったのが、真暗まっくらな中からひょっくり現われて、いきなり手荒く呼鈴よびりんを押した。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そういっているとき、小食堂の天井てんじょうにとりつけてあるブザー(じいじいとはちのなくような音——を出す一種の呼鈴よびりん)が鳴りだした。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『はゝゝゝゝ。きみはまだわたくし妻子さいし御存ごぞんじなかつたのでしたね。これは失敬しつけい々々。』といそがはしく呼鈴よびりんらして、いりきたつた小間使こまづかひ
云いながら、ツカツカと窓のそばへ立って行って、その封筒を拾い上げ、気味悪そうに眺めていたが、いきなり呼鈴よびりんを押して女中を呼んだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
気合としては昨夜の温泉で、あんまを呼ぶために、呼鈴よびりんを押した感じに似ていた。しかし呼鈴を押したばかりに、妙な段取りが完成した。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
くだんの洋風の室数まかずを建て増したもので、桃色の窓懸まどかけを半ば絞った玄関わきの応接所から、金々として綺羅きらびやかな飾附の、呼鈴よびりん巻莨入まきたばこいれ、灰皿
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俗間の好事家こうずかは、それを居間などに置いて唯ポコポコと打って喜んだり、あるいは人を呼ぶ時の呼鈴よびりんの代りにしたりしておる。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「どうです。これですつかり旅の音楽師でせう。」と言つて、虹猫は大胆に魔法つかひのゐる塔へ行つて呼鈴よびりんをひきました。
虹猫の大女退治 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
久世氏があたしを引っ立てるようにして、お隣りへついたときは、もう夕方で、門がしまっていて、いくど呼鈴よびりんを押しても返事がありません。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
心配していた山鹿は、幸い在宅しているらしく、呼鈴よびりんを押すとばあやが出て来た。ねて打合せたように、鷺太郎を残すと二人は物かげにかくれた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
恐ろしく巌畳がんじょうなアーチ形に出来た家々の門の前には遅く帰った人達が立って、呼鈴よびりんの引金を鳴らしていた。家番やばんもぐっすり寝込んだ時分であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そう思い思い私は下宿の表口の呼鈴よびりんを押して、かんぬきはずしてくれた寝ぼけ顔の女中に挨拶をした。いつもの通りに「ありがとう……お休み」……と……。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
シムソンはそう云いながら、机の上の呼鈴よびりんを押しました。やがて、ドアをノックして入って来たのは、背の高い、見るから獰猛どうもう面構つらがまえをした外国人でした。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それから一月ばかりたつた雪の朝、まだ夜の明けぬうちから突然玄関の呼鈴よびりんが乱暴に鳴つたので、驚いた寿枝が出てみると、楢雄が真青な顔で突つ立つてゐた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
もっとかんたかぶって寝付けない事があるので、家庭教師と隆少年の寝室は別で、夜中でも用事があれば呼出せるように、少年の枕元には呼鈴よびりんが備え付けてあります。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
家主いへぬし女主人をんなあるじところ見知みしらぬひとさへすればれもになる。もん呼鈴よびりんたび惴々びく/\しては顫上ふるへあがる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
相かわらず人気のない内庭から四階までのぼって、五八のドアの呼鈴よびりんをならした。スカートのうしろまで鼠色麻の大前掛をかけた、太った年よりの女が出て来た。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私は雨に濡れながら、覚束おぼつかない車夫の提灯の明りを便りにその標札の下にある呼鈴よびりんボタンを押しました。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「アラ、ほんとにお帰りなの。」と芸者はさも驚いたような顔をしたが、清岡は見向きもせず、丁度窓際の柱に呼鈴よびりんひもがついていたのを引寄せて、ボタンを押した。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
津田は暗闇くらやみの中で開けるらしい障子しょうじの音をまた聴いた。同時に彼の気のつかなかった、自分の立っているすぐそばの小さな部屋で呼鈴よびりんの返しの音がけたたましく鳴った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は、ひそかに一計を案じて、翌日社の写真班の記者を一人つれて、夫人の玄関の呼鈴よびりんをおした。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ふと呼鈴よびりんがけたたましく耳に響いた。茶の間へ出て行くと、今店の方から来たばかりの小僧が一人、奥へ返辞もしないで、明るい電燈の下で、寝転んで新聞を読んでいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だから、針差しとか料理のしおりとかいうようなものに返送料までつけてやることは二の足をふむのである。彼女は、呼鈴よびりんの引き紐を出して、たった一度、第四等名誉賞状を得たきりである。
近所きんじょでもよくつていることですが、老人ろうじんはかなりへんくつな人物じんぶつです。ひどく用心ようじんぶかくて、昼日中ひるひなかでも、もん内側うちがわしまりがしてあり、門柱もんちゅう呼鈴よびりんさないと、もんをあけてくれません。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
置時計、寒暖計、すずり、筆、唾壺だこ、汚物入れの丼鉢どんぶりばち呼鈴よびりん、まごの手、ハンケチ、その中に目立ちたる毛繻子けじゅすのはでなる毛蒲団一枚、これは軍艦に居る友達から贈られたのである。(六月七日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「でも……下男を呼びましょう……呼鈴よびりんが下男部屋に通じているわよ。」
激しい呼鈴よびりんの音で呼ばれてつやが病室に来た時には、葉子は寝床から起き上がって、したため終わった手紙の状袋を封じている所だったが、それをつやに渡そうとする瞬間にいきなりいやになって
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのゆがみを、夫人はすかさず見て、立ち上って、呼鈴よびりんを押すと
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「ママ、呼鈴よびりんがあげてあるじゃないの」と、令嬢れいじょうが注意した。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
それとは思い寄らず一も二も明かし合うたる姉分のお霜へタッタ一日あの方と遊んで見る知恵があらば貸して下されと頼み入りしにお霜は承知と呑み込んで俊雄の耳へあのね尽しの電話の呼鈴よびりん聞えませぬかとかぶせかけるを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
血にみし呼鈴よびりんの声のごとくふりそそぎ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
表口の格子の呼鈴よびりんが鳴る。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
例えば下宿のおかみさんなどが、呼鈴よびりんや、その電池などの故障があったとき少しの故障なら、たいてい自分で直すのであった。
家庭の人へ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三郎が、いやに考えこんでいたとき、天井につけてあった呼鈴よびりんが、ぶうぶうぶうと鳴りだした。それは艇長をよびだしている信号音であった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
呼鈴よびりんはげしくならして、「矢島をこれへ。」と御意あれば、かしこまりて辷出すべりいづるおはした入違いりちがいに、昨日きのう馬をぎょせし矢島由蔵、真中の障子を開きて縁側にひざまず
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある午後、粉飾せる死体のそばで、疲れ切って泥の様に眠っていた柾木は、婆やが土蔵の入口の所で引いている、呼鈴よびりん代りの鳴子なるこの音に目を覚ました。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二人が退場すると轟氏呼鈴よびりんを押し、這入って来た女中に三枝を呼んで来るように命じ、そのまま寝椅子に長くなる。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
家主いえぬし女主人おんなあるじところ見知みしらぬひとさえすればそれもになる。もん呼鈴よびりんたび惴々びくびくしては顫上ふるえあがる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
下で呼鈴よびりんを鳴す音がしたので、わたくしは椅子を立ち、バスへ乗る近道をききながら下へ降りた。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お給仕のダーシャから二杯目のお茶をうけとって、牛乳を入れているとき、玄関の呼鈴よびりんが鳴った。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
電燈は全部消し去られ、いくら呼鈴よびりんを押しても、とうとう返事を得ることが出来なかった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
いくども呼鈴よびりんをおしましたが、誰れもドアを開けにきません。二階のほうを見あげてみますと、どの窓も、しっかりと鎧扉よろいどがとざされ、廃屋はいおくのように森閑としずまりかえっています。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
千種十次郎は、妙な期待に軽い興奮を覚え乍ら、二度、三度、呼鈴よびりんを押しました。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
君、そうして廷丁が三人も居るんだよ。それで呼鈴よびりんと言うので、ちりりんとひねると、そのまあ、ちり、ちり、ちりん、の工合で誰ということが分ると見えて、その人がやって来ますね。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
呼鈴よびりんをならした。此のような山の中で聞く呼鈴の音は、妙に非現実的に響いた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
主人は呼鈴よびりんを鳴らして、夜食の残りを下げるように命じた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
呼鈴よびりんに答えて、はいって来た女中に
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
怪紳士が呼鈴よびりんを押すと、二人の男が戸口から入ってきた。そして眠りこけている道夫の頭の方と足の方を持って、室外へはこびだしてしまった。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
呼鈴よびりんを押しに立つ事は到底出来ないから浅利君が帰るまで待っている外にはどうする事も出来ないのであった。ガランとした室の天井を見るのが心細かった。
病中記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)