冗談じょうだん)” の例文
事のていそのものは全く冗談じょうだんでもなければ、いたずらでもない、好きでやっているわけでも、病で狂っているわけでもない、まして
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何です今頃楊枝ようじなぞをくわえ込んで、冗談じょうだんじゃない。そう云やあ昨夕ゆうべあなたの部屋に電気がいていないようでしたね」と云った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな冗談じょうだんを言い合っている二人の姫君は、薫がほかで想像していたのとは違って非常に感じのよい柔らかみの多い麗人であった。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
すなわち知り合った頃のそれと、ほとんど同じ態度です。鷹揚に見せかけて鼻であしらったり、老獪な冗談じょうだんろうして彼を困らせたりする。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
犬山画伯は、これは冗談じょうだんだがとことわりながら、それでも目をかがやかしたものだったが……。その画伯は、どうしたんだろう?
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
最初のうちはコロンビーナもこの男といっしょに憂鬱になっていましたが、やがていくらか落ちつき、最後には冗談じょうだんばかりを言いました。
そんな冗談じょうだんをいった龍夫たつおは、そのとしあきすえさむくなろうとするおり、急性肺炎きゅうせいはいえんにかかって、ほんとうにんでしまいました。
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
冗談じょうだんじゃねえ。おせんちゃんは、師匠ししょうたのまれて、おいらがびにったんだぜ。——おめえはまだ、かおあらわねえんだの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
冗談じょうだんを云わずと真誠ほんとに、これからさきをどうするんだかはなして安心さしておくれなネエ。茶かされるナア腹が立つよ、ひとが心配しているのに。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「労働者のくせにいつの間にか、俺も観念論者になってたよ、冗談じょうだんじゃねえ、老いたりといえども鷲尾和吉これからなんだぜ」
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
河内介はいろ/\馬鹿げた冗談じょうだん剽軽ひょうきんなことを云い出して、松雪院を可笑おかしさに物が食べられないほど笑わせたりした。
それを照彦てるひこ様は自分が強いのだと思っていた。さて、組みつかれた正三君も相撲すもうは得意でない。小学時代に時たま冗談じょうだんにとったぐらいのものだった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この冗談じょうだんは、彼女の赤く縁取られた眼をほのかに明るくする。彼女はそうあって欲しいと思っているのかも知れない。が、その明るさはすぐに消える。
「そんな事がありますか。そりゃ嘘でしょう。」「そんな嘘をいても仕方がない。冗談じょうだんは止して来て見るがよい」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そんな仕事のあいだに一本の煙草をすううまさ、軽い冗談じょうだんのやりとりをするしたしさは、彼の持つ社会的などこにも見当らない親密なものばかりであった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
みんなガリガリほねばかり、おや、いけない、いけない、すっかりくずれていたりわめいたりむしりあったりなぐったり一体あんまり冗談じょうだんぎたのです。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
田沼たぬま理事裏もすぐあとを追って引きあげたが、立ちがけに荒田老のかたを軽くたたきながら、冗談じょうだんまじりに言った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そうしてうれしがらせを言ったり、巧妙に愛を求めるような冗談じょうだんを言ったりしながら、ソクラテスはファイドロスに、あこがれと美徳について教えていた。
私がみずから進んで、『親馬鹿の記』を書くような気持になったのは、子供がようやく物ごころづき、長じて小学校に入学するに及んで、これは冗談じょうだんではないぞ
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
冗談じょうだんじゃアない。あの方はA嬢と仰有おっしゃる私共の大切なお客様ですよ。お父様の病気見舞にいらしって、今日でう一週間も御滞在になっているのですよ。」
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
書洩らし? 冗談じょうだんではない、書かれなかった事は、無かった事じゃ。芽の出ぬ種子たねは、結局初めから無かったのじゃわい。歴史とはな、この粘土板のことじゃ。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
実際私自身にもこんな風に私たちの歩いている山径やまみちの見当がちょっと付きかねていたのだけれど、私はわざとそれを冗談じょうだんのように言いまぎらわせていたのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もっともこれは少し冗談じょうだんであるが、それ程でなくても、現代の自然科学はいわばギリシア人の思考形式から発達した学問であるとはよく言われていることである。
寺田寅彦の追想 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
牧野は始終愉快そうに、ちびちびさかずきめていた。そうして何か冗談じょうだんを云っては、お蓮の顔をのぞきこむと、突然大声に笑い出すのが、この男の酒癖さけくせの一つだった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
冗談じょうだんコにきくではねえぞ。ここにいなさる人が知りたがってるんだ。この人はだれか尋ねてるらしいだ。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
いま私が申しあげました言葉は、けっしてうそいつわりではございませんが、ただ酔って口にした冗談じょうだんとおぼしめして、どうかこの海へさらりとお捨て下さいませ
「東京は夜でも明るいやね。それにあの華々しい女の声が聞きたい。」と言って、冗談じょうだんらしく笑った。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
冗談じょうだんではないぞ数右衛門。お墨付を失ったりしたら、一閑に尻を持ち込まれた位な事ではすまぬぞ』
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冗談じょうだんじやないぜ。それじやまるで、ぼくが刈谷かりやを、ころしてやつたというふうにきこえるじやないか」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「じょ、冗談じょうだんじゃアねえ。そっちにシギがなくてもこっちにそのシギとやらが大ありなんだ——お前さんの言うように、そうお歴々の首がころころ落ちて堪るもんか」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二十八さいの今日まで女を知らずに来たという話ももう冗談じょうだんに思えず、十八のとしから体をらして来た一代にとっては、地道な結婚をするまたとない機会かも知れなかった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
一人の警官が、下駄箱げたばこの隅に長くなっている縫いぐるみを、眼ざとく見つけて冗談じょうだんを言った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
フランクの真剣な顔を見ると、「いまいったのはちがうよ、うそだよ、冗談じょうだんだよ」
小指一本の大試合 (新字新仮名) / 山中峯太郎(著)
彼が網を張るのは悪戯いたずら冗談じょうだんではない、彼は生きんがために努力しているのである。彼は生きている必要上、網を張って毎日の食を求めなければならない。彼には生に対する強い執着しゅうじゃくがある。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
時として司教は軽い冗談じょうだんの口をきいたが、そのうちにはいつもたいていまじめな意味がこもっていた。四旬節の間に、一人の年若い助任司祭がディーニュにきて大会堂で説教をしたことがあった。
「人が悪いや、人を殺して、首を袖につけて、そのうえ人をからかうのだもの、それでは仮父おやぶん、この通り、五両と着物をさしあげます、冗談じょうだん云わないで、早いとここれで手を打ってくだせえまし」
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
終りを冗談じょうだんの調子で云ってのけて、彼女は起き上った。周平はまた炬燵に坐った。火鉢にかかってた錻力の大きな薬鑵の湯で、彼女は無雑作にお茶をいれた。そして二人はぼんやり顔を見合った。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
復一は人間を表現するのに金魚の雌雄しゆうたとえるとは冗談じょうだんの言葉にしても程があるものだとむっとした。しかし、こういう反抗の習慣はやめた方が、真佐子に親しむみちがつくと考えないでもなかった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「あら、それは冗談じょうだんにいったんだわ」
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あれはまったく 冗談じょうだん冗談じょうだん
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
「あなた大変だって云う癖に、ちっとも大変らしい声じゃなくってよ」と御米があとから冗談じょうだん半分にわざわざ注意したくらいである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
冗談じょうだんじゃない、お前のようなおっちょこちょいの、のろけを聞かされたって、ドコの国に、気を悪くなんぞする奴があるものか」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どんなにそれでおからかいになるかもしれないのに、今日は冗談じょうだんも口へお出しになることはなくて、苦しい御様子が見えるため
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ほかのこととはわけちがい、あたしゃかずあるおきゃくのうちでも、いの一ばんきらいなおひと、たとえうそでも冗談じょうだんでも、まないことはいやでござんす
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
旦那様は、きょうは不機嫌と見えて、常に似ず一言も冗談じょうだんさえいわない。そして蒼い顔をして、眼が血走っていた。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と照彦様は冗談じょうだんがおすきだ。学問の方はあきらめていて口出しをしないかわりに、遊びごとになると調子に乗る。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こんな冗談じょうだんが、とうとうほんとうになって、ねこは、ある酒屋さかや小僧こぞう自転車じてんしゃせられて、うちからだいぶはなれた、さびしいてら境内けいだいてられました。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
冗談じょうだんじゃないや、アラスカなんか行くとこはありゃしない。僕たちがそっちから来たんじゃないか。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「いけねえ、うっかりすると魅入みいられそうだ」冗談じょうだんに目をそらしたが、同時にはッとした色で
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう俊助が横合よこあいから、冗談じょうだんのように異議を申し立てると、新田は冷かな眼をこちらへ向けて
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)