他家よそ)” の例文
すべ富豪かねもちといふものは、自分のうちに転がつてゐるちり一つでも他家よそには無いものだと思ふと、それで大抵の病気はなほるものなのだ。
青磁の皿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
そして、お祖母さんの方は他家よそに雇われてゆき、子供の方は、父の従兄いとこと恋人と一緒になってる家へ、引取られて世話されてるんだ。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と多勢が首を傾けたからさては踏みあがってくるかな? と見ていると、それでは他家よそだったかも知れないと一同急いで出て行った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「悴は嫁をもらってるのに、やっぱり年よりに世話をかける、他家よそでは、嫁が姑に仕えるが、我家うちでは、姑が嫁に仕えるのだから」
青蛙神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つまらないものがあるのよ。一寸鉄瓶のお湯を見て頂戴。懐中汁粉を他家よそから貰つたから。——坊ちやんには何を上げようね。」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
どうせこの家の主婦として運命付けられた以上、他家よその嫁じゃないという気になって再び立上る勇気も出て来るのであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「お重お前はのぼせているよ。お前がおれの妹で、嫂さんが他家よそから嫁に来た女だぐらいは、お前に教わらないでも知ってるさ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しょうちゃんの、っている黒犬くろいぬが、このごろから他家よそにわとりったり、うきぎをったりして、みんなからにくまれていました。
僕がかわいがるから (新字新仮名) / 小川未明(著)
上の娘二人は、もう成人して他家よそへ片付いていた。誰もが微笑で眺めていた程の、非常な子煩悩で、家庭を大事にする、好き良人でもあった。
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
れ位の事理の分らない父ではない。が、兄が突然家出して、さなきだに淋しい今、自分を手離して、他家よそへやるだらうか。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
伝平は父親の眼をぬすむようにして、他家よその飼い馬の、飼料を採って来てやったり、河へその脚をやしに曳いて行ってやったりするのであった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
……あたし……他家よそのお家庭うちの秘密なんか無暗むやみに喋舌る女じゃないのに……妾をドコまでもペシャンコのルンペンにして
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夏の夜はその入口にむしろって戸代りにしたが、冬はさすがに余りに寒いので他家よそから戸板を二枚もらって来て入口に押しつけてなわしばりつけた。
あすこから、風が吹込んで、障子の破れからあられが飛込む、畳のけばが、枯尾花のように吹かれるのがお定りだったがな、まるで他家よそへ行ったようだ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで兄の徳市は十五歳位になっていたので、町の商店へ奉公に出し、やっと十歳の兵さんは、他家よそへも出せないので、私のうちへ居付くこととなった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
こんなふうにおばあさんはよく私を連れて他家よそへいった。私が本を読みたがると、何処どこからか聞きだしてきてくれて、私を貸本屋へつれてゆくといった。
他家よその子には唯事たゞごとのやうなそんなことも、遊山ゆさんなどの経験の乏しい私には、珍しくて嬉しくてならなかつたのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「痩ツぽちの人に限つて、変な処で意張るわね。だけど、他家よそへ行つていくら酔つたつてあんなことをするのはお止めなさい。愛嬌にもなりはしないわよ。」
秋・二日の話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
お母さんは何処にいるんだ? と聞くと、下谷にいて、他家よその間を借りて、裁縫しごとをしているんです、と言う。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
出戻りとても家のもの、他家よそから這入つた嫂なぞにひけとらす気遣ひは、さらさらもつてござんせぬ。それでもこれが女子の役目と、辛抱すれば、よい気になり。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
してみると伊太夫は、他家よそへの帰りにここへ立寄ったものではなく、雨の夜を、わざわざ合羽傘かっぱからかさで、ここへ話しに来ることを目的として来たものに相違ありません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「飛んでも無い、お給金も他家よそより澤山頂いて居りますし、食物にもお心付にも申分ありません」
他家よその世話女房をたしなめる程、子供に似げない才覚や生活の自衛を心得ているかと思うと、もうすぐ樹の肌に止っているミンミンぜみを見つけて、それに気をられていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他家よそには疳癪かんしゃくを起して、随分御新造様方を手込てごみになさるおうちさえ有りますじゃアございませんか
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
翌日、彼が彼女たちの家を訪問すると、二人とも他家よそへ、お茶にばれていて留守だった。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼が家の子女は何処の子女よりも岩畳である。彼の家の黒猫は、小さな犬より大きく、村内の如何なる猫も其に恐れぬものは無い。彼が家の麦からのたばは、他家よその二倍もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
晝となく、夜となく、他家よその猫がいたづらをしに來るのが分つてゐたが、三日目の晩に、大きな音がしたかと思ふと、きゆうツと云ふ低い聲が聽えた切り、二匹ともゐなくなつた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
先生は巴里パリイの家の方においでになつて夕方でないと帰られない、こと今日けふ他家よそへ廻られるはずであるから、それを待つより巴里パリイかれる方がいであらうと弟子は云ふのであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
お寺の鐘をついたのは、他家よその腕白ものではない、うちの栄蔵であるといふことが。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「というと、つまり他家よそへごちそうになりに行って、そのごちそうと一緒に、自分を招待してくれた人たちにまで、その場でつばを引っかけようというんですね。いったいそうなんですか?」
月に興ある秋の夜も、世にある人の姫たちの笑み楽しむには似もつかず、味気無う日を送らせぬる其さへ既に情無く親甲斐の無きことなれば、同じほどなる年頃の他家よその姫なんどを見るにつけ
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
グルッと庭を廻って座敷の裏手へ出た、そこは納屋と空地があり、忍返しのついた黒板塀で囲われてある、足許に注意しながら春日は塀の隙間すきまから覗いた、外は小路を隔てて向側は他家よその塀で
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
大江家おおえけ一人娘ひとりむすめ何故なぜ他家よそとついだか、とおおせでございますか……あなたのさそしのお上手じょうずなのにはほんとうにこまってしまいます……。ではホンのはなし筋道すじみちだけつけてしまうことにいたしましょう。
ことにきらいだった——なんとなく虫が好かなかった——わけは、他家よその者であるその男が姉を愛してるからであった……自分の姉を、自分一人のものでほかのだれのものでもない大事な姉を!……
ことに他家よその振舞酒をのむことが趣味にかなつてゐた。
村のひと騒ぎ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
俺は時々自分の入口を間違い、他家よその戸口を開けた
炭坑長屋物語 (新字新仮名) / 猪狩満直(著)
之が他家よそのでは又別に考え直さなけりゃなりません。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
すべ富豪かねもちといふものは、自分のうちに転がつてゐるちり一つでも他家よそには無いものだと思ふと、それで大抵の病気はなほるものなのだ。
れ位の事理の分らない父ではない。が、兄が突然家出して、さなきだに淋しい今、自分を手離して、他家よそへやるだろうか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
向うの方に青いが五、六本、教室の窓の竹格子にむかって柘榴ざくろの花がまっかだった。両側が土蔵と土蔵で、突当りが塀で他家よその庭木がこんもりしていた。
可哀相に……お稲ちゃんのお葬式ともらいが出る所だって、他家よそでも最惜いとしくってしようがないって云うんでしょう。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その二枚も、他家よそへお遣いものをしたときに器物に入れてくれた半紙をしまっておいたものなので、筋目すじめがついたり、しわがよったりしているものばかりだった。
具清の家の住居すまゐと酒蔵の幾つかが焼けただけで、他家よそへ火は伸びずに鎮火しました。ほい/\とかどを走る人は、皆先刻さつきと反対の方を向いて行くやうになりました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
けれども手職てしょくが出来たらしい割りにお客の取り付きがわるく、最初に生れた男の子の久禄きゅうろくというのは生涯音信不通で、六ツの年に他家よそへ遣るという有り様であった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
子供を他家よそにくれてやり、自分は乳母奉公の決心をしたのだ、というようなことを彼女は語った。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
柳橋やなぎばし船宿ふなやど主翁ていしゅは、二階の梯子段はしごだんをあがりながら、他家よそのようであるがどうも我家うちらしいぞ、と思った。二階の方では、とん、とん、とん、と云う小鼓こつづみの音がしていた。
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼女の老母は他家よその縫物などをしてゐる位ひであつたが、Y子は相変らずしめつぽい話には頓着なく、たゞ昔と幾分変つたかたちで自由に羽根を伸してゐるまでゞあつた。
小川の流れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「お吟さまは、まだ他家よそへ、おかたづきにならないで、御親類にいらっしゃるのでございますか」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じいさんとこのは大きくて他家よその三倍もあるが、きが細かで、上手じょうずに紅入の宝袋たからぶくろなぞこさえてよこす。下田の金さんとこのは、あんは黒砂糖だが、手奇麗てぎれいで、小奇麗な蓋物ふたものに入れてよこす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その後作曲に進んでいったが、旧式な先生からは理解されず、そのうえ十三、四歳の頃からは貧しい両親を助くるために、他家よその子のピアノの稽古けいこを見てやるために時間を取らなければならなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)