不気味ぶきみ)” の例文
旧字:不氣味
左衛門 恐ろしいというよりも不気味ぶきみな、たちの悪い夢だった。魂の底にこたえるような。(まじめな顔をして、夢をたどっている)
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
死以上の不気味ぶきみな恐怖のうちに、間もなく首にされてしまったので、かげかげ二人法師ふたりほうしのからくりは、まだ相手方へ洩れはしなかった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
院長いんちょう不覚そぞろあわれにも、また不気味ぶきみにもかんじて、猶太人ジウあといて、その禿頭はげあたまだの、あしくるぶしなどをみまわしながら、別室べっしつまでった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そんなことならいつ自分も、そのへんからとび出してきた怪金属のため、からだをのっとられるかもしれないと思えば、不気味ぶきみである。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おかみさんは、ぶったおれるかと思うほどおどろいてしまった。ひょいと見た男の顔が、なんと怪物かいぶつそのままの不気味ぶきみな顔をしているではないか!
引添える禰宜の手に、けものの毛皮にて、男枕おとこまくらの如くしたるつつみ一つ、あやしひもにてかがりたるを不気味ぶきみらしくげ来り、神職の足近く、どさと差置く。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのほうに素早すばやく目を転じたが、その物すごい不気味ぶきみさに脊髄せきずいまで襲われたふうで、顔色をかえて目をたじろがした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ああした事件で注意をうばわれていたが、風はますますつのり、荒れが一層ひどくなって来るばかりで、例の不気味ぶきみなきしみ音もはげしく切迫して来た。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
で、お客は少し不気味ぶきみに思いながら、行灯の灯をともしたままで、またとこの中にもぐり込みました。と、しばらくするとまたさっきと同じ声がするのです。それもすぐ枕元まくらもと
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
漠然ばくぜんとした不気味ぶきみさに小さなふるえを感じながら、私は階段を静かに降りていたのでございました。と、七階から六階へ通じるところでございましたか、誰も人影はございません。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
お宮の松にはふくろうんでいたのじゃがと、その不気味ぶきみな鳴声を思いだしながら、暗いこずえを見上げていると、その木蔭から一羽の鳥が羽叩はばたきして空を横切っているような気がした。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
子どもたちは、すこし不気味ぶきみになって、だれも出そうとするものがありませんでした。
名なし指物語 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
くまは、ひくく長くうなりだした。それは、さっきまでほえたような声とちがって、大敵たいてき出会であった場合ばあいに、たがいにすきをねらってにらみ合っているような、不気味ぶきみなものだった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
お求めなされて、いろいろと、お宅様の様子など訊きますので、不気味ぶきみに思うて居りましたところ、一度何処へか立ち去ったと思うと、又ゆうべも来て立っているではございませぬか
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
⦅斯く申し上げれば閣下は「お前の女房は焼け死んだのではないか」と反駁はんばくなさるかも知れませんが、私は他ならぬ其の誤謬ごびゅうを正し私と共々此の不気味ぶきみな問題を考えて頂き度いのでありますから
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
「これは不気味ぶきみ天候てんこうになったものだ。」
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
これは不気味ぶきみでならなかつた。
鵠沼雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
じろじろと不気味ぶきみそうに見て
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そのうちに、彼等の一部は、不気味ぶきみな頭を寄せて、天井の一角をにらんだ。そして見ていると、だんだんと首を違った方角に向け直していった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それが一層、この喬之助の放心したような態度には、言い知れぬ不気味ぶきみなものが感じられて、しばらくは口もきけなかったが、やっとのことで
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わしこさへものとおもひながら、不気味ぶきみがつて、なにひと仕掛しかけてく、おとりのやうに間違まちがへての。谿河たにがはながいかだはしからすまつてもるだよ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わしはすべての陰気なものを生み出すようなほこらの陰の湿地しっちにぐじゃぐじゃになって、むらがりはえた一種異様な不気味ぶきみな色と形をした無数のきのこを見つけました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
思わずふりかえった人びとは、玄関げんかん不気味ぶきみな人かげをみて、ぎょっと顔色かおいろをかえた。
その甲板の上には、ぶよぶよした大きなまるい頭が二、三百、嘔吐おうとをもよおすほどの不気味ぶきみな光景をていしながら、ごったがえしてもみあっている。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
部屋の一方にズラリと立ち並んで、不気味ぶきみな生物でも見るように、その一個の人物に眼を据えていると——。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ひぢをばさりとふつたけれども、よく喰込くひこんだとえてなかなかはなれさうにしないから不気味ぶきみながらつまんで引切ひツきると、ぶつりといつてやう/\れる暫時しばらくたまつたものではない
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なにしろどうにも手をつけかねるユダヤ結社のことだった。知る人ばかりは知っていて、不気味ぶきみな底の知れない恐怖に戦慄せんりつをしていたわけだった。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
不気味ぶきみ投出なげださうとするとずる/″\とすべつてゆびさきすひついてぶらりとさがつたはなれたゆびさきから真赤まつかうつくしい垂々たら/\たから、吃驚びツくりしてしたゆびをつけてじつとると
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
救うのがいやだからではないのだ。僕は友人たちがくる前に、船長室のあの不気味ぶきみかざりものを処分しよう。死者ししゃれいをあつかう役目に僕を任命していただければ、光栄だ
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
肱をばさりとふるったけれども、よく喰込くいこんだと見えてなかなか放れそうにしないから不気味ぶきみながら手でつまんで引切ると、ぷつりといってようよう取れる、しばらくもたまったものではない
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、様子やうす如何いかにも、かほながら不気味ぶきみさうにえた。——まゆひそめて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なんという不気味ぶきみな、いやらしい恰好の地底機関車だろう!
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
顔色かほいろあをざめたすみ法衣ころもの、がんばり入道にふだうかげうすさも不気味ぶきみ和尚をしやうなまづでもけたか、とおもふたが、——く/\の次第しだいぢや、御出家ごしゆつけ、……大方おほかた亡霊ばうれい廻向えかうたのむであらうとおもふで、功徳くどく
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)