麻布あざぶ)” の例文
「わかりました」司令官は、大きくうなずいた。「草津参謀。君は、麻布あざぶ第三聯隊の一個小隊を指導して、直ちに、お茶の水へ出発せい」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
麻布あざぶじゃあ、みんな枯らしてしまってね。こういう鉢物は、面倒みてやらないとね。ほったらかしじゃあ万年青が可哀想だよ。」
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
午後二時ごろ、お昼飯ひるはんをたべに、麻布あざぶ竜土軒りゅうどけんへ行き、清子は井目せいもくをおいて、泡鳴と碁を二回かこんだが、二度とも清子がけた。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それから二三日にさんちは、代助も門野も平岡の消息を聞かずに過ごした。四日目の午過に代助は麻布あざぶのあるいえへ園遊会に呼ばれて行った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
麻布あざぶの姉さんの話では、東京の寒さにれる迄には三年かかる、姉さんも東京へ移って来られて三年間は風邪を引きつづけたとのこと。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ある時も、庸三はその友人につれられて、麻布あざぶの方に住んでいる、庸三などとはまるで生活規模のけたの異う婦人をおとずれてみた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
十二、三歳のかわいらしい小学生が、麻布あざぶ六本木ろっぽんぎに近い、さびしい屋敷町を、ただひとり、口笛を吹きながら歩いていました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
重吉が麻布あざぶ谷町たにまちの郵便局から貯金を引出して帰って来たその日、お千代は稼ぎに出たまま夜ふけになっても帰って来なかった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
六六館に開かるる婦人慈善会に臨まんとして、在原伯ありわらはくの夫人貞子ていこかたは、麻布あざぶ市兵衛町いちべえちょうやかたを二頭立の馬車にて乗出のりいだせり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鳶「ヘエ唯今、あのなんでげす、八丁堀さんと、それから一番遠いのが麻布あざぶの御親類でげすが、それ/″\みんな子分を出してお知らせ申しました」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、町内の医者や、目黒から白金しろがね麻布あざぶ一円の生薬屋きぐすりやを調べさした子分が帰って来ると、兼吉のした事はすっかり引くり返されてしまいました。
現に『地名辞書』にあたってみても、狸森と書いてムジナモリという部落が関東・奥羽には幾つもあり、東京ではまた麻布あざぶの狸穴がマミアナである。
狸とムジナ (新字新仮名) / 柳田国男(著)
次に麻布あざぶの或る家に奉公した。次に本郷弓町の寄合衆よりあいしゅう本多帯刀たてわきの家来に、遠い親戚があるので、そこへ手伝に往った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
日本橋にほんばし磯五いそごに頼まれて、麻布あざぶ十番の馬場屋敷ばばやしき住まい、高音たかねという女に書くのだ。すこし、おどしておきましょう」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
山の手では、この麻布あざぶの高台と赤坂高台の境にぽつりぽつりある窪地で、水の湧くようなところには大体飼っていたものです。お宅もその一つでしょう
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かれは士官学校を志願したが、不合格で、今では一年志願兵になって、麻布あざぶ留守師団るすしだんにいた。「十中八九は戦地におもむく望みあり、幸いに祝せよ」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「立ちがけに江戸に廻れ。麻布あざぶ村の正受庵しょうじゅあんという禅刹ぜんでらに行けば、そちの父青木丹左が、ゆうべ先に行き着いておる」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折りから西南の風が強かったので、その火は白金しろかね麻布あざぶ方面から江戸へ燃えひろがり、下町全部とまるうちを焼いた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昭和六年の元旦のちょうど昼ごろに、麻布あざぶの親類から浅草あさくさの親類へ回る道順で銀座を通って見たときの事である。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
南村山郡の高松たかまつには「麻布あざぶ」と呼ぶごく薄手の紙をきます。かみやま温泉おんせんには遠くありません。この紙は漆をすのになくてはならない紙なのであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
なかちやうから檜町ひのきちやうの高臺にあがると、麻布あざぶの龍土町である。そこの第一聯隊と第三聯隊との間に龍土軒と云ふ佛蘭西フランス料理屋がある。そこが龍土會の會場であつた。
それからツル子夫人は中野の邸を売り払って麻布あざぶ笄町こうがいちょうに病室を兼ねた小さなうちを建てて住んだものだが
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
主として今堀摂津守いまぼりせっつのかみの指南を受けていたが、其他に、麻布あざぶ古川端ふるかわばたに浪居して天心独名流てんしんどくめいりゅうから更に一派を開きたる秋岡陣風斎あきおかじんぷうさいに愛され、一師一弟の別格稽古を受け
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
それを取り巻いて山の手の芝、麻布あざぶ、赤坂、四谷、牛込うしごめ小石川こいしかわ、本郷などの低地が同様に燃え始める。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
花前は麻布あざぶ某所ぼうしょ中等ちゅうとう牛乳屋ぎゅうにゅうやをしておった。畜産ちくさん熱心家ねっしんか見職けんしきも高く、同業間どうぎょうかんにも推重すいちょうされておった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
江戸麻布あざぶの長州屋敷から木曾街道経由で上京の途にある藩主(毛利慶親もうりよしちか)をそこに待ち受けていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だが時としては、そうした面倒のない手軽の旅に出かけて行く。即ち東京地図を懐中にして、本所ほんじょ深川の知らない町や、浅草、麻布あざぶ、赤坂などの隠れた裏町を探して歩く。
秋と漫歩 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
今度は宇和島家の方に相談をして貰いたいと云うので、れから又私は麻布あざぶ竜土りゅうどの宇和島の屋敷にいって、家老の桜田大炊さくらだおおいと云う人に面会してその話をすると、一も二もなく
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
浅草あさくさといふ言葉は複雑である。たとへばしばとか麻布あざぶとかいふ言葉は一つの観念を与へるのに過ぎない。しかし浅草といふ言葉は少くとも僕には三通みとほりの観念を与へる言葉である。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
麻布あざぶ六本木の脇坂わきざか家から飯倉の松平伊賀、次に芝桜川町の松平右京家、愛宕下の島津兵部、そして金杉橋かなすぎばしの戸田大学という順である。戸田を済ませて出るともう町は黄昏たそがれだった。
主計は忙しい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
新聞に載っている本野夫人の住所を切り抜いて麻布あざぶのそのお邸へ出掛けて行ってみた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
麻布あざぶの伯父さんも結構さ。先輩の羽入はにふさんもそれや頼みにはなるだらうが、もうあれから三月、どつちからも口らしい口はかかつて来ないぢやないか。この上、何を待つてるんだい。
長閑なる反目 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「行くところもあります。しばらく、麻布あざぶの真弓の部屋にでも同居させてもらうわ」
一人ぼっちのプレゼント (新字新仮名) / 山川方夫(著)
麻布あざぶの獣医学校の学生だったが、月謝を納められなかったり、病気したりなんかして学校を休んだので、来学年に飛び込む準備をしながら研数学館の代数科に通っているのであった。
あるい麻布あざぶの叔母さんの家にでも、行くに違ない。やっと、そう気休めを考えながら、瑠璃子は涙をぬぐい拭い、階段を上って行った。二階にいる父の事も、気がかりになったからである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
青山麻布あざぶ方面へ往く電車停留場の左側の角になったカフェーへ入りかけた。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
母に連れられて、どうしてそんな場所に来ていたものか、それは判らない。まだも一つ。それは麻布あざぶ森元座もりもとざで、佐倉宗五郎の磔刑に処せられる芝居を見たこと。四谷の桐座きりざへも行ったこと。
貝原益軒は、猯マミ、ミタヌキともいい、野猪に似て小なり、味善くして野猪のごとしといった。和歌山旧藩主徳川頼倫侯が住まるる麻布あざぶのマミ穴の名、これに基づく事は『八犬伝』にも見える。
気の知れぬと古人も言ひける麻布あざぶ本村ほんむらの草深き篠田長二のむさくろしき屋台に大丸髷おほまるまげの新女房……義理もヘチマも借金も踏み倒ふしの社会主義自由廃業の一手専売、耶蘇ヤソを棄てて妻を得たとの大涎おほよだれ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
何にも面白くないと言位の人物にて麻布あざぶに三次郎しばに勘左衞門赤坂に此長助と三人の公事ずき家主なり此長助にはのぞむ所の出入なりと直樣すぐさまお光が力となりしはお光か貞心ていしんつらぬく運と言も畢竟ひつきやう天より定りて人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
納豆なっとう売りさ、毎朝麻布あざぶの十番まで行って仕入れて来ちゃあ白金の方へ売りに行ったんだよ、けどももう家賃が払えなくなったもんだから、おればっかり置いてけぼりにしてどこかへ逃げ出してしまったのさ」
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
美作守上屋敷なる麻布あざぶ六本木へ急がせました。
麻布あざぶ狸穴まみあなまで行かなくちゃならない。」
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
麻布あざぶ竹谷たけや闇玉庵あんぎょくあん(癖三酔宅)。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
父 麻布あざぶの方にいるよ。
或る別れ (新字新仮名) / 北尾亀男(著)
それから二三日は、代助も門野かどのも平岡の消息をかずにごした。四日目よつかめ午過ひるすぎに代助は麻布あざぶのあるいへへ園遊会に呼ばれてつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
翌る日の朝、平次とガラツ八が、芝、麻布あざぶ界隈を、の目鷹の目で探して歩いて居るうちに、大變な事を聞込んだのです。
麻布あざぶの兄さんが来やはったら、きっとお酒やねんわ。あんなむさくろしい家で、子供が騒いでる中で飲むのんもおいしい云やはって、———」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
婦人は麻布あざぶ区宮村町六七正二位勲一等伯爵枢密院副議長芳川顕正氏養子なる子爵曾禰安輔氏の実弟寛治氏の夫人鎌子(廿七)にして長女明子あり
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
溝川が貧民窟に調和する光景のうち、其の最も悲惨なる一例を挙げれば麻布あざぶ古川橋ふるかはばしから三之橋さんのはしに至るあひだの川筋であらう。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)