鳳凰ほうおう)” の例文
屋根の峯には鳳凰ほうおうだの、獅子だの、奇怪な形をした瓦が並んでいた。中には、いつも、学校の、こわれた椅子や机が置かれてあった。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
仏像についで羅漢らかん像も、老僧も、天女てんじょも、鳳凰ほうおうも、孔雀くじゃくも、鶴も、雉子も、獅子も、麒麟も、人の画も、形のある物は皆大声に笑った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この節、肉どころか、血どころか、贅沢ぜいたくな目玉などはついに賞翫しょうがんしたためしがない。鳳凰ほうおうずい麒麟きりんえらさえ、世にも稀な珍味と聞く。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
師匠の鶯も元来そう云う風にして人為的に仕込まれた鶯であり有名なのは「鳳凰ほうおう」とか「千代の友」とか云った様にそれぞれめい
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
黒田右衛門佐うえもんのすけ忠之は放縦の行跡がつのって政道が乱れ、鳳凰ほうおう丸の建造や足軽隊の新設など、幕府の忌諱に触れるような事件が続発するうえ
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この本堂の内陣の土蔵のとびらにも椿岳の麒麟きりん鳳凰ほうおうの画があったそうだが、惜しいかな、十数年前修繕の際に取毀とりこぼたれてしまった。
「えい、白痴ばかめが、とく参って、鄭重ていちょうごと致した上、御嶽冠者殿参った時のみ使用致す『鳳凰ほうおうの間』へ謹しんでお移し申すがよいわ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どれもこれも土くさい百姓のように日けしているが、さすがにその態度や眼ざしには、老龍の子とも鳳凰ほうおうひなとも見える気稟きひんを備えていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白い鳳凰ほうおうがたった一羽、中洲なかずの方へ飛んで行くのを見たことがあると言っていたよ。もっともでたらめを言う人だったがね
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「今ネ、御輿の飾りを取って了ったところだ。鳳凰ほうおうも下した。これからが祭礼まつりだ。ウンと一つ今年はあばれ廻ってくれるぞ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかるにまた、献身、謙譲、義侠のふうをてらい、鳳凰ほうおう、極楽鳥の秀抜、華麗を装わむとするの情、この市に住むものたちより激しきはないのである。
法隆寺のものでは、金堂の天蓋てんがいから取りおろしてこの室に列べられた鳳凰ほうおうや天人が特に興味の深いものである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
塩竈から松島へむかう東京の人々は、鳳凰ほうおう丸と孔雀くじゃく丸とに乗せられた。われわれの一行は孔雀丸に乗った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
出入口襖の桐に鳳凰ほうおう——左の出入口は菊に孔雀くじゃくの襖——いずれも金地極彩色なのと、その金具に五三崩しの桐紋がちりばめてあることまで丹念に見てしまったが
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その後から金銀細工の鳳凰ほうおうや、蝶々なんぞの飾りを付けた二つの梅漬うめづけかめを先に立てて、小行李とか、大行李とかいった式の食料品や天幕テントなんぞを積んだ車が行く。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小夜子さよこは婆さんから菓子の袋を受取った。底を立てて出雲焼いずもやきの皿に移すと、真中にある青い鳳凰ほうおうの模様が和製のビスケットで隠れた。黄色なふちはだいぶ残っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下々の手前たちがとやかくと御政事むきの事を取沙汰とりざた致すわけでは御座いませんが、先生、昔から唐土もろこしの世には天下太平のしるしには綺麗きれい鳳凰ほうおうとかいう鳥が舞下まいさがると申します。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その形は多少怪異なものですが、水盤の真ん中に立ったのは、正しく鳳凰ほうおうの飛躍的な姿です。
左の窓からは、地蔵、鳳凰ほうおう、駒の三山、あれよ、これよと、M君がさす。ああ駒か。そのいかつい肩は、旭日をうけて、矢のような光を放つ。銀、そういう底ぐもった色でない。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
案内人は早速庭石や古道具の名前を朗吟ろうぎんし始めたが、例によって見せるよりは通り抜けるのが目的だから、舟形の松と、昔塔の上にあったという鳳凰ほうおうの像ぐらいしか頭脳あたまに残っていない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
房廓は昼夜数百の電燈を点じて、清気機は常に新鮮なる空気を供給す。房中の粧飾、衣服の驕奢きょうしゃ、楼に依り、房に依り、人に依りて各その好尚を異にす。濃艶なる者は金銀珠玉、鳳凰ほうおう舞ひ孔雀くじゃく鳴く。
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
金色の鳳凰ほうおうが光ったわけだが、今はそれも震災で第二の夢。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
鳳凰ほうおうの赤い模様があかるい
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
鳳凰ほうおうよ、鳳凰ほうおう
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
此の節、肉どころか、血どころか、贅沢ぜいたく目玉めだまなどはつひに賞翫しょうがんしたためしがない。鳳凰ほうおうずい麒麟きりんえらさへ、世にもまれな珍味と聞く。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
襁褓むつきのうちから二人を許婚いいなずけにし、山崎屋から万和へ約束のしるしに鳳凰ほうおうを彫った金無垢の簪をやって、二人の婚礼の日を楽しみにしていたンです
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「それにしても茫然ぼんやりここにいては、いつまた危険に逢うかもしれぬ、ともかく鳳凰ほうおうの間へ帰ることにしよう。芳江殿どうじゃな歩けるかな?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「駙馬の如きは、一羽のかりに過ぎない。姜維を得たのは、鳳凰ほうおうを得たようなものだ。千兵は得易く、一将は得難し。いま雁を追っている暇はない」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天井には群青ぐんじょうや朱の色のおもどろんだ絵具で天女てんじょ鳳凰ほうおういてあったが、その天女も鳳凰も同じように一方の眼が潰れていた。武士はまた右の方に眼をやった。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
有若曰く、あにただに民のみならんや。麒麟きりんの走獣に於ける、鳳凰ほうおうの飛鳥に於ける、泰山たいざん丘垤きゅうてつに於ける、河海かかい行潦こうろうに於けるは類なり。聖人の民に於けるもまた類なり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
とわれに返った時は、月があるのか無いのか知らないが、天地がぼかしたように薄明るく、行く手の山を見ると、それは見覚えのある地蔵、鳳凰ほうおう、白根の山つづき。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
下々の手前達がかくと御政事向の事を取沙汰とりざた致すわけでは御座いませんが、先生、昔から唐土もろこしの世には天下太平のしるしには綺麗きれい鳳凰ほうおうとかいう鳥がさがると申します。
三月三十日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
麒麟きりんはつまり一角獣ですね。それから鳳凰ほうおうもフェニックスと云う鳥の、……」
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ところどころに朱く塗った太い円い柱が立っていて、柱には鳳凰ほうおうや龍や虎のたぐいが金や銀や朱や碧や紫やいろいろの濃い彩色さいしきを施して、生きたもののようにあざやかにられてあった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
心着けば、正面神棚の下には、我が姿、昨夜ゆうべふんした、劇中女主人公ヒロインの王妃なる、玉の鳳凰ほうおうのごときが掲げてあった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石邑せきゆう県の田舎へ鳳凰ほうおうが舞い降りたそうです。改元の年に、大吉瑞だいきちずいだと騒いで、県民の代表がお祝いにきました」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
以前は鳳凰ほうおうの間のこの部屋には、芳江姫と市之丞とが老師と一緒に住んでいた筈だ。しかるに今はオースチン老師だけが一人で住まっているのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いずれのところしょうを吹いて鳳凰ほうおうを引く
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
心着こころづけば、正面神棚かみだなの下には、我が姿、昨夜ゆうべも扮した、劇中女主人公ヒロインの王妃なる、玉の鳳凰ほうおうの如きが掲げてあつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして、素早く廻廊の欄干らんかんを躍ったかとみれば、翼をひろげた鳳凰ほうおうのように、一丈ほどな御堂の下へ飛び下りた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳳凰ほうおう麒麟きりん! 鳳凰と麒麟! 名優同志の芝居のようで。見事のご対談でございますなあ」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が男の方は、桐に鳳凰ほうおう、とばかりで出処が怪しく、花骨牌はなふだから出たようであるから、遂にどちらもあてにはならぬ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
端厳たんげん麒麟きりんのごとき左少将秀吉さしょうしょうひでよし。風格、鳳凰ほうおうのような右少将家康うしょうしょういえやす。どっちも胸に大野心だいやしんをいだいて、威風いふうあたりをはらい、安土城本丸あづちじょうほんまる大廓おおくるわを右と左とにわかれていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かりにも小川の鳳凰ほうおうと呼ばれ、上州間庭の樋口十郎左衛門殿と、並び称されている逸見殿でござれば、よもや秋山要介の名に、聞き臆じして居留守を使われるような、そのようなこともござるまいが
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「君は、虚病けびょうもうまいが、怒る真似もうまい。いや裏表の多い人物だ。——君の静養というのは、伝国の玉璽ぎょくじをふところに温めて、やがて鳳凰ほうおうひなでもかえそうというはらだろう」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玉楼金殿ぎょくろうきんでんを空想して、鳳凰ほうおうの舞うたつ宮居みやいに、牡丹ぼたんに遊ぶ麒麟きりんを見ながら、獅子王ししおうの座に朝日影さす、桜の花をふすまとして、明月めいげつの如き真珠を枕に、勿体もったいなや、御添臥おんそいぶしを夢見るかも知れぬ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
華歆かきん、李伏の徒は、その後ものべつ参内して麒麟きりん鳳凰ほうおう奇瑞きずいを説いたり、また
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはむかし荊山けいざんのもとで、鳳凰ほうおうが石に棲むのを見て、時の人が、石の心部を切って、国の文王に献じ、文王は、稀世の璞玉あらたまなりと、宝としていましたが、後、しん始皇しこうの二十六年に
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(はてな? ……何家どこの子だろうか。これは、鳳凰ほうおうひなだ)そう思いながら
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳳眼というのは鳳凰ほうおうの眼のように細くてしかも光があるという意味であった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)