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霏々
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ひひ
ふりがな文庫
“
霏々
(
ひひ
)” の例文
まえの夜から降りだしたのが明け方には二尺あまりも積り、なおも
暴
(
あら
)
あらしい風とともに乾いた粉雪が
霏々
(
ひひ
)
と降りしきっていた。
日本婦道記:おもかげ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
と——弦之丞が、次の言葉をかける間もあらばこそ、怪しげな二人の侍——
霏々
(
ひひ
)
とふる雪のあなたへ、
脱兎
(
だっと
)
のごとく逃げだしてゆく——。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
終日
霏々
(
ひひ
)
として降り続いている春雨の中で、女の白い
爪
(
つめ
)
のように、
仄
(
ほの
)
かに濡れて光っている磯辺の小貝が、悩ましくも印象強く感じられる。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
陽春とは名ばかりで、このくろぐろと更けた風なき夜、
霏々
(
ひひ
)
として真直に降り下る白雪をオーヴァの上に受けて、再び真冬に逢うの想いであった。
深夜の市長
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
夜と昼との境もなく眠りつづけて、眠る間に目がさめて窓を見るといつ見ても金網のむこうで
霏々
(
ひひ
)
と雪が降っている。
わが父
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
▼ もっと見る
蒼白
(
あおじろ
)
い雪の
黄昏
(
たそがれ
)
である。眼の届く限り、耳の届く限り、人通りもない、物音もしない。唯雪が
霏々
(
ひひ
)
また霏々と限りもなく降って居る。
良
(
やや
)
久
(
ひさ
)
しく眺める。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
降り積んだ雪のうえに、さらに、牡丹雪が
霏々
(
ひひ
)
として降りやまぬ或る日、金五郎は、大庭春吉の屋敷に呼ばれた。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
あとには、夜の春雨が
霏々
(
ひひ
)
としてむせび泣いて、
九刻
(
ここのつ
)
であろう、雲の低い空に、鐘の音が吸われていった。
つづれ烏羽玉
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
しかも、その音は轟々として山の鳴動は続き、時々、きめたように地がブルブルと震え、
霏々
(
ひひ
)
として灰は降り、硫気はいよいよ漂い、空は赤く
焦
(
こ
)
げてゆくのです。
大菩薩峠:32 弁信の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
霏々
(
ひひ
)
たる雨のやまぬ中に、水辺の空気は
徐
(
おもむろ
)
に暮れかけて来た。白い塊のような鷺の姿も、影のような柳の木も、一つになって夕闇の中に見えなくなろうとしている。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
霏々
(
ひひ
)
として降る雪の下で、人々は忙しく立ち働いた。二十七、二十八、二十九、三十日の夜はことに忙しく、対山館の人々が床についたのは三十一日の二時を過ぎていた。
針の木のいけにえ
(新字新仮名)
/
石川欣一
(著)
やっぱり
霏々
(
ひひ
)
として降りやまぬ雪の伊勢佐木町を、身体中真っ白にして今松は歩いていた。
寄席
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
霏々
(
ひひ
)
として降ってくるべた雪の、どんよりと黄いろい薄闇を見透かしたものである……
地下生活者の手記
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
この日は朝来
霏々
(
ひひ
)
と雪がふりつづけていたが、正造は議院における議長選挙が終ると、その雪の中を俥の上から日比谷練兵場の白皚々たる眺めに被害地の荒野を偲びつつ銀座へでて
渡良瀬川
(新字新仮名)
/
大鹿卓
(著)
朝起きて見れば相変らず雲は低く垂れて、峡谷の風物嵐気
霏々
(
ひひ
)
として頗る
穏
(
おだやか
)
でない。
黒部川を遡る
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
春雪
霏々
(
ひひ
)
、このゆうべに一会なかるべけんやと存じ候。万障を排して、本日午後五時頃より御参会くだされ
度
(
たく
)
、ほかにも五、六名の同席者あるべくと存じ候。但し例の俳句会には
無之
(
これなく
)
候。
青蛙堂鬼談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
ただその諸人が泣くのみかその日の空は曇って
霏々
(
ひひ
)
として雨が降り出しました。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
この寒空に気の毒だが、そちたちの全力を挙げてあの怪魚の死骸を見つけ出しておくれ、と折から雪の
霏々
(
ひひ
)
と舞い狂う荒磯で声をからして懇願すれば、漁師の古老たちは深く信じて同情し
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
松吟庵
(
しょうぎんあん
)
は
閑
(
かん
)
にして
俳士
(
はいし
)
髭
(
ひげ
)
を
撚
(
ひね
)
るところ、五大堂は
寂
(
さ
)
びて
禅僧
(
ぜんそう
)
尻
(
しり
)
をすゆるによし。いわんやまたこの時金風
淅々
(
せきせき
)
として天に
亮々
(
りょうりょう
)
たる
琴声
(
きんせい
)
を聞き、細雨
霏々
(
ひひ
)
として
袂
(
たもと
)
に
滴々
(
てきてき
)
たる
翠露
(
すいろ
)
のかかるをや。
突貫紀行
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
渋蛇目傘
(
しぶじゃのめ
)
を開いたままで、
袖摺
(
そでず
)
れに引着けた、またその袖にも、
霏々
(
ひひ
)
と降りかかって、見る見る
鬢
(
びん
)
のおくれ毛に、白い
羽子
(
はね
)
が、ちらりと来て、とまって消えては、ちらりと来て、消えては、飛ぶ。
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
燻しをかけた銀世界にはなおも
霏々
(
ひひ
)
として雪は降り続くのでした。
仏教人生読本
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
すると
不思議
(
ふしぎ
)
なことには、ちょうどその
日
(
ひ
)
から、
町
(
まち
)
へ
見慣
(
みな
)
れないようすをした
十
(
とお
)
か十一ぐらいの
年
(
とし
)
ごろの
子供
(
こども
)
が、
体
(
からだ
)
に
破
(
やぶ
)
れた
着物
(
きもの
)
を
着
(
き
)
て、しかも
霏々
(
ひひ
)
として
雪
(
ゆき
)
の
降
(
ふ
)
るなかに、
素足
(
すあし
)
で
足
(
あし
)
の
指
(
ゆび
)
を
赤
(
あか
)
くして
黒い旗物語
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
春雨
霏々
(
ひひ
)
。病牀
徒然
(
とぜん
)
。天井を見れば
風車
(
かざぐるま
)
五色に輝き、枕辺を見れば
瓶中
(
へいちゅう
)
の藤紫にして一尺垂れたり。ガラス戸の外を見れば満庭の新緑雨に濡れて、山吹は黄
漸
(
ようや
)
く少く、牡丹は
薄紅
(
うすくれない
)
の一輪先づ開きたり。
墨汁一滴
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
窓の外では霧雨が林の上に
霏々
(
ひひ
)
として降りつづいていた。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
悲壮の気、
霏々
(
ひひ
)
として降る雪の愛宕山上に漂った。
『七面鳥』と『忘れ褌』
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
その日は朝から
霏々
(
ひひ
)
として雪が降っていた。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
桃園の
茶亭
(
ちゃてい
)
で、手枕のまま酔いつぶれていた。春の真昼である。
鍋鶴
(
なべづる
)
やら
水禽
(
みずどり
)
やら近くの泉で啼いている。
霏々
(
ひひ
)
として花が飛ぶ。
新書太閤記:03 第三分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「まあ、とうとう」燈火をうけて
霏々
(
ひひ
)
と舞いくるう雪の美しさに、弥生は思わず声をあげながら、手を伸ばして風鈴を吊った。
日本婦道記:風鈴
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
幅のせまい着物に代って、寒いのと甚しい疲労とで夢現に坐っていたとき、二月の雪の
霏々
(
ひひ
)
とふる旺な春の寒さは、やっぱり私に不思議な感動を与えました。
獄中への手紙:11 一九四四年(昭和十九年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
蔦
(
つた
)
かずらの
纏
(
まと
)
う廃屋の中から、壁を伝って煙が洩れてる。(人が来て住んだために。)その煙は空に
融
(
と
)
け合い、
霏々
(
ひひ
)
として降る春雨の中で、夢のように白く
霞
(
かす
)
んでいるのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
南は富士の山、北は金峰山、名にし負う甲斐の国の四方を囲む山また山の姿を一つも見ることはできないので、ただ
霏々
(
ひひ
)
として降り、
繽紛
(
ひんぷん
)
として舞う
雪花
(
せっか
)
を見るのみであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
御小姓などであろう、鷹野の御供をする若衆の前髪に、
霏々
(
ひひ
)
として雪が降りしきる。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
不文の
中
(
うち
)
、ところどころ片仮名のページ、これ、わが身の被告、審判の庭、
霏々
(
ひひ
)
たる雪におおわれ純白の
鶴
(
つる
)
の
雛
(
ひな
)
一羽、やはり寒かろ、首筋ちぢめて童子の如く、甘えた語調、つぶらに澄める瞳
創生記
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
笠
(
かさ
)
は
衝
(
つ
)
く
霏々
(
ひひ
)
の霧
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
山は、
霏々
(
ひひ
)
と、雪の吠える冬になった。——二万の兵と、数千の山法師も、今は、霜げた菜のように意気も
失
(
う
)
せてしまった。
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あのときはこの新聞社の建物の巨大なガラス張りの円天井が廃墟で、その破れと骸骨のような鉄骨の間に
霏々
(
ひひ
)
と雪が降りかかって消えこむ様子は昼間見ていると一層寂しい眺望であった。
広場
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
講演が終ったのは夜の十時、外はいつか
霏々
(
ひひ
)
たる雪になっていた。
夜明けの辻
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
吉野の
雪
(
ゆき
)
霏々
(
ひひ
)
、奥州の
秋
(
あき
)
啾々
(
しゅうしゅう
)
、
巷
(
ちまた
)
にも、義経詮議の声の
喧
(
かしま
)
しく聞えてきた頃、誰やら、義朝の廟、南御堂の壁へ、こんな落書をしたものがある。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
丁度二月の初めのひどい雪の日、
霏々
(
ひひ
)
と降る雪を小さく高い窓に眺めながら、激しい疲労ですこし気が遠くなったようになって横になりながら云いつくされぬ感慨で、そのことを考えた。
獄中への手紙:05 一九三八年(昭和十三年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
白雪を敷いた庭上へ、なお
霏々
(
ひひ
)
と降る粉雪のなかに
足軽奉公
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
と言い捨てるが早いか、あれよと見る間に、花吹雪の
霏々
(
ひひ
)
と乱れる中を衝いて、寒松院ヶ原へ足を宙にして駈けつけた。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
燃え切れた
金襴
(
きんらん
)
やら板切れに火のついたものが、
襖
(
ふすま
)
も扉も踏み
外
(
はず
)
された広間のうちを
霏々
(
ひひ
)
と吹きみだれ、さながら焼け野のように明るくしていた。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
その日も、
霏々
(
ひひ
)
たる雪だった。水も
芦
(
あし
)
も遠い山も、雪ならぬ所はなく、雪の声と、
鴻
(
こう
)
の
啼
(
な
)
き渡るほか、灰色の空には、毎日、何の変化もなかった。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
で、つい答えを忘れて、何となく眼をあげると、眼の前へ、白桃の花びらが、
霏々
(
ひひ
)
と情あるもののように散ってきた。
三国志:02 桃園の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
曹操の心は、いよいよ
晏如
(
あんじょ
)
たり得ない。冬は長い。実に冬は長いのである。明けても暮れても大陸の空は灰色に閉じて白いものを
霏々
(
ひひ
)
と舞わせている。
三国志:05 臣道の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
こうした中に、熊本の町は、十八日の
黄昏
(
たそが
)
れを落した。人影はおろか、いつもの灯も見えない。ただ暗い雲の吐く粉雪のけむりに全市は
霏々
(
ひひ
)
と
顫
(
おのの
)
いていた。
日本名婦伝:谷干城夫人
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
霏々
(
ひひ
)
と散りしいた柳葉の地上に督郵は、まだ何か、苦しげに
喚
(
わめ
)
いていたが、玄徳らの姿が遠くなるまで、前に懲りて、近づいていたわり助ける者もなかった。
三国志:02 桃園の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
風を交じえた粉雪なので、
霏々
(
ひひ
)
と、雪には声があり、まだ
凍
(
い
)
て
乾
(
かわ
)
いている地上から逆さに白く煙って
翔
(
か
)
ける。
私本太平記:09 建武らくがき帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
阿曾
(
あそ
)
ノ宮は、山伏姿となって吉野の奥へ
奔
(
はし
)
り、妙法院ノ宮
宗良
(
むねなが
)
は、湖を渡って、
遠江
(
とおとうみ
)
方面へ落ちてゆかれた。——すべて離散の人もみな
霏々
(
ひひ
)
たる
枯葉
(
こよう
)
の行方と変りがない。
私本太平記:12 湊川帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
城門を出て、新野の郊外へかかる頃から、
霏々
(
ひひ
)
として、灰色の空から雪が降りだしてきた。
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
霏
漢検1級
部首:⾬
16画
々
3画
“霏々”で始まる語句
霏々紛々
霏々繽粉