閻魔えんま)” の例文
「……そうしてきりの舞台に閻魔えんまさまでもおどらして地獄もこの頃はひまだという有様でも見せるかな……なるほど、これは面白そうだ」
それを取って、矢立てと共に帯の前へさしこむと、尺取は大胆にも、通用口のくぐり門をガラリと開けて、閻魔えんまの庁をのぞきました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうでした。頭のいやにでっかいやつの影でした。私は、地獄から、閻魔えんま使者ししゃとして大入道が迎えに来たのかと思いました」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「——なにか困ることがあったらおいでよ、あたしお閻魔えんまさまのすぐ裏にいるからね、もしなんなら少しお小遣をあげようか」
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お嬢さんが私にお父さんの綽名あだなを教えて下さいましたわ。何処かの中学校では閻魔えんま塩辛しおからとついていたそうでございます」
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
例へば、うそをつくと死んでから、閻魔えんまさんに舌をぬかれるといつたり、つじで銭をひろふと、厄病やくびやうが家へやつて来る、といつたりするのである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
祈る仏も多くあった中に、特に閻魔えんまに児を申したというのは、別に近代の母親の相続せざる、一種戦国時代相応の理想があったためかと思う。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
階の上には一人の王様が、まつ黒なきものに金のかんむりをかぶつて、いかめしくあたりを睨んでゐます。これは兼ねてうはさに聞いた、閻魔えんま大王に違ひありません。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「これで切上げだ。下手人はとうとう解らないが、いずれ閻魔えんま様が見付けて下さるだろう。最後の思い出に、二人で見て廻るとしようか、目黒の兄哥」
「どうだね。あにい。おいらはひげすり閻魔えんまさまへお参りしたのはきょうがはじめてだ。ひと回り見物するかね」
咄嗟とっさの場合、薬箱を投げて、あいつの気勢を反らせたので、お前は斬られずに助かったものの、そうでなかったら今頃は、閻魔えんまの庁に行っているだろう」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
国会開設、改進々歩が国のめに利益なればこそけれ、れが実際の不利益ならば、私は現世の罪はまぬかれても死後閻魔えんまの庁でひどい目に逢うはずでしょう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その亡者のような与の公と、お閻魔えんまさまの蒲生泰軒とが、ぶらりぶらりと野中の一本道を雁行がんこうしていくのだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「むむ。宿下がりの時にゃあ何日いつでもお閻魔えんまさまへ一緒に行って、兄貴がいろんなものを食わしてくれる」
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
花卉かきも面白いが、鬼の念仏や閻魔えんまさまが得意、お堂のわきへ台をすえ、寒冷紗やすき返しの紙に描いた自画の上へ、小石を置いて飛ばぬように並べて売っていた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
また伝うるは虎に食わるるは前世からの因果で遁れ得ない、すなわち前生に虎肉を食ったかまた前身犬や豚だった者を閻魔えんま王がそのにくむ家へ生まれさせたんだ。
代理殺人者トリッガー・マンの銃口を扉のそとに控えていても、暗黒街アンダーウォールド閻魔えんま夫婦を目のまえに見ていても、不義不正や圧迫には一分の揺ぎもしない彼には、骨というものがある。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
が、此處こゝ成程なるほどおもつた。石碑せきひおもてかいするには、だう閻魔えんまのござるが、女體によたいよりも頼母たのもしい。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『どうして、え?』つてくと、真面目まじめな顔で、M(村の名)の勇助——ほれ、この春、死んだ歌唄ひさ。——あれが、現今いま閻魔えんまの座に直つてゐるからだつてんだ。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
中には閻魔えんま巾着きんちゃく、浦島の火打箱などといういかがわしいものもあるにはあるのである。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その怨みを報ぜんために雷神となって都の空をあまがけり、鳳闕ほうけつに近づき奉ろうと思っている、此の事は既に梵天ぼんてん、四王、閻魔えんま帝釈たいしゃく、五道冥官みょうかん、司令、司録等の許しを得ているので
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
へえゝ、おどろいたね、大層たいそうそろつて出来できましたね、地獄ぢごくのお閻魔えんまさまはうしてますね。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その様子をみていると、本当に切なさそうで、全く、地獄で、娑婆しゃばの罪人をごうはかりにかけ、浄玻璃じょうはりの鏡にひきむけて、閻魔えんま大王の家来達が、折檻せっかんしているようにしかみえなかった。
そんな道理がミジンも通らぬ。息もかれず、日の目も見えぬ。広さ、深さもわからぬ地獄じゃ。そこの閻魔えんまは医学の博士で。学士連中が牛頭馬頭ごずめずどころじゃ。但し地獄で名物道具の。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一把七、八十房ずつついた唐辛子三把を食った神田小柳町の車力徳之助という閻魔えんまのような怪漢もあった。四文ずつの鮨代金にして一朱を胃袋へ送ったのは、照降町煙管屋の村田屋彦八。
食指談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
閻魔えんま大王の姉の竜王が此の川に住んでいるから姉川と云い初めたという伝説があるが、閻魔大王の姉に竜王があるという話はあまり聞かないから、之れは土俗の伝説に過ぎないであろう。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「このうどんを生きているうちに食わなければ、死んで閻魔えんまに叱られる」——土地の人にはこう言いはやされている名物。兵馬はそれと知らずにこのうどんを食べていると、表が騒々そうぞうしい。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
地獄の鬼はみな虎の皮のふんどしを締めているが、その皮はいずこより得てきたか、地獄のかまはいずこにて造りしか、閻魔えんまの衣服はシナ風なるはいかん、極楽の仏は池中の蓮華れんげの上に座するが、もし
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
入るとすぐ右手にお閻魔えんま様があり、続いて市営の公衆食堂があり、昔ながらの古風な縄のれんに、『官許にごり』の看板も古い牛込名代の飯塚酒場と、もう一軒何とかいう同じ酒場とが相対し
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
閻魔えんま様。そんなにおどかしちやあ困りますよ。(この一句菊五きくご調)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
北鎌倉山ノ内、新居山円応寺、子育閻魔えんま
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
正月の十六日は、俗にいう閻魔えんま斎日さいじつ
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
寺には閻魔えんま大王の木像が置いてある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
差撥さはつは彼をらっして、途方もなく広い刑務区域をぐんぐん歩いていき、やがて閻魔えんま大王のまつってある古い一堂を指さした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
階の上には一人の王様が、まっ黒なきものに金の冠をかぶって、いかめしくあたりを睨んでいます。これは兼ねてうわさに聞いた、閻魔えんま大王に違いありません。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「これで切上げだ。——下手人は到頭解らないが、いづれ閻魔えんま樣が見付けて下さるだらう。最後の思ひ出に、二人で見て廻るとしようか、目黒の兄哥」
箱根から熱海あたみの方へ越える日金ひがねの頂上などにも、おそろしい顔をした石の像が二つあって、その一つを閻魔えんまさま、その一つを三途河そうずかの婆様だといいました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
百万長者も叩き大工も、閻魔えんまの庁へゆけば裸一貫よ、その時こそは勝負がつくんだ、そう思って辛抱しようぜ
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お爺さんやお婆さん達の中には、閻魔えんまさんをおもひ出したのか、また、なむあみだぶ、なむあみだぶ、といつて丸い背中をよけい丸くしたものがありました。
百姓の足、坊さんの足 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
それから、胎内の方は野見の親父おやじさんの受け持ちで、切舞台きりぶたいには閻魔えんまの踊りを見せようという趣向。
それから大津屋へ出入りの女絵かきは、孤芳こほうという号を付けている女で、年は二十三四、容貌きりょうもまんざらで無く、まだ独身ひとりみで、新宿の閻魔えんまさまのそばに世帯しょたいを持っているそうです。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「もういいだろう。駕籠屋駕籠屋、方角変えだ。行く先ゃ柳原のひげすり閻魔えんまだぜ」
尊慧がそれを開けてみると何と閻魔えんまの庁からの招待状である。閻魔の庁で大法会が行なわれるから、参加するようにというのである。尊慧は承諾の返事を書いたところで目が覚めた。
それ以上に深く考える奴がすなわち精神病者か、白痴で、そこまで考え付かない奴が所謂オッチョコチョイの蛆虫うじむし野郎だ。この修養が出来れば地蔵様でも閻魔えんま大王でも手玉に取れるんだ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは無線遠視テレヴィジョン——つまり、『眼で見るラジオ』というのが完成して実用されるからだ。無線遠視テレヴィジョンは冥土に於いてはつとに発達している。地獄の絵を見ると、お閻魔えんまさまの前に大きな鏡がある。
十年後のラジオ界 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
馬鹿にするない、見附で外濠そとぼりへ乗替えようというのを、ぐっすり寐込ねこんでいて、真直まっすぐに運ばれてよ、閻魔えんまだ、と怒鳴られて驚いて飛出したんだ。お供もないもんだ。ここをどこだと思ってる。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……貴様も年貢の納め時、首を切られて地獄へ行き、閻魔えんまの庁へ出た時に、誰に手あてになったかと聞かれて返辞が出来なかったら、悪党冥利面白くあるめえ。よし、それでは知らせてやろう!
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見あげると蟻のようにぞろぞろ、頭の窓からは上野や浅草が手に取るばかり、体内には古物の展覧と閻魔えんまさまの像、四、五月頃の開場で相応の人出であったが、その年九月の大荒れで無慚や大破。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
一時片時も心安き事なし——『日本国ハ皆日蓮ガ敵トナルベシ——恐レテ是ヲ云ハズンバ、地獄ニ落チテ閻魔えんまノ責ヲバ如何いかんセン——』これですから堪りません、にくまれます——しかし、駒井さん
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
余は閻魔えんまの大王の構へて居る卓子テーブルの下に立つて
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)