近傍きんぼう)” の例文
かれは、もう自分じぶんみみうたがいませんでした。きっと、この近傍きんぼうにだれかあかぼうてたものがあるにちがいないとおもいました。
犬と古洋傘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
兄者あにじゃ、敵はまだ彼方です。この近傍きんぼうには見当りません。ごゆるりとお支度あっても、よろしいかと思われます」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木の葉どころか、木そのものさえ(宿営地の近傍きんぼうを除いては)、容易に見つからないほどの、ただ砂と岩とかわらと、水のない河床との荒涼たる風景であった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
東京の近傍きんぼうでは初茸はつだけが沢山採れてスープにでもすると味は大層いものですが秋になって初茸を出そうとするには六月頃から松の落葉をかずにそのまま置いてわら
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あらゆる防水ぼうすい方便てだてつくされたが、微塵みぢん打碎うちくだかれたる屹水下きつすいかからは海潮かいてうたきごとほとばしりつて、その近傍きんぼうにはこと出來できない。十だい喞筒ポンプは、全力ぜんりよくみづ吐出はきだしてるがなん效能こうのうもない。
その近傍きんぼうある海岸の村に住んでいる二人の漁夫ぎょふが、ある月夜に、近くの峠を越して、深い林の中を、二人談はなしながら、魚類の沢山入っている籠を肩にして、家の方へ帰って来ると、その途中で
月夜峠 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
その聯隊れんたいの秋季機動演習は、会津あいづ若松わかまつ近傍きんぼうで、師団演習を終えて、のち、我聯隊れんたいはその地で同旅団の新発田しばたの歩兵十六聯隊れんたいと分れて、若松から喜多方きたかたを経て、大塩峠おおしおとうげを越え、磐梯山ばんだいさん後方うしろにして
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
つごうのいい場所はけっして少なくはなかったが、とりわけ植物園の近傍きんぼう(近所)のきれいな芝生しばふには、大きな樹木じゅもくが気持ちのいいかげを作っていて、そこへ広い並木道なみきみちがほうぼうから集まっていた。
私の売場の近傍きんぼうではいろいろの路傍ろぼう集会があった。
「もし、またこの近傍きんぼうをおとおりのときは、ぜひここへきてやすんでください。そして、おもしろいはなしをきかしてください。」
曠野 (新字新仮名) / 小川未明(著)
東の方は上州太田の金山かなやまが名所でその近傍きんぼう野州やしゅう唐沢山からさわやま辺まで松茸が出るそうですが西は濃州のうしゅう三州江州辺から沢山参ります。それがんな売物屋の手へ入ると西京の松茸と名をつけてしまいます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そして、近傍きんぼうのいい医者いしゃ幾人いくにんんでみせたり、いろいろとをつくしてくれました。けれど、二人ふたり病気びょうきは、だんだんわるくなるばかりでした。
村の兄弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)
男は、どんよりと曇った朝、近傍きんぼうの川に釣に出かけた。青い水は足のところまで浮き上っていた。それを見詰めているうちにぐらぐらと眼がまわって来始めた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
この年老としとったさるは、この近傍きんぼうやまや、もりにすむ、獣物けものや、とりたちから尊敬そんけいされていました。それは、このやま生活せいかつたいして、おおくの経験けいけんっていたためです。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
近傍きんぼうにある、たかいかしのが、かぜんできて、といや、ひさしのおくに、たまっていました。
どこかに生きながら (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれこれ三十にちもいるあいだに、近傍きんぼうむら子供こどもたちとともだちになって、いっしょに、草花くさばないた、おおきないしのころがっている野原のはらをかけまわって、きりぎりすをさがせば、また
銀のペンセル (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれど、それをはなおもってんでいっては、いけません。そして、まち近傍きんぼうには、人間にんげん栽培さいばいしている花園はなぞのや、いろいろの果樹園かじゅえんがあるものですから、そこへいっておやすみなさい。
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、この近傍きんぼうとおふねくろけむりすらえませんでした。ただいわうえいた、らんのしろはなが、かすかにかおって、おだやかな、あたたかなかぜにほろほろとってちるばかりでありました。
ものぐさじじいの来世 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これらのむすめたちは、としごろになると、たいていは近傍きんぼうむらへ、もしくは、おなむらうち嫁入よめいりをしましたのに、どうしたまわわせであるか、おせんは、とおいところへゆくようになったのです。
北の不思議な話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
レールは、また、このはちをよく見知みしっていました。なぜなら、このちいさい、敏捷びんしょうな、すきとおるようにうつくしいつばさったはちが、つねに、この近傍きんぼうはなから、はなびまわっていたからです。
雪くる前の高原の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)