ひょう)” の例文
立ち昇る白煙の下を、猛獣は剥製はくせいひょうのようにピンと四肢ししを伸ばして、一転、二転、三転し、ついに長々と伸びたまま動かなくなった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おまけに小肥りでありながら身のこなし全体がひょうのようなスバシコサ柔軟さを思わせるのは、なるほどな! と感じさせるものがある。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
こうして彼は次第に、気の長い猛獣狩りの土蛮がひょうを柵へ追いこむように追いつめられて、ついに曹操の大軍のうちに完封された。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背後には鬱々うつうつと茂った山が、夜空に矗々ちくちくそびえている。明るい美しい陽はないが、その代り満天の星の数が、ひょうの眼のように光っている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寝台の足もとにべったりと降りたひょう。私たちを楽しませ、自分は一向楽しまないくま。自分でも欠伸あくびをし、人にも欠伸を催させるライオン。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
身体より大きいひょうの生皮をかついで来る玀々ロロ族にも——纒足てんそくした女のく、小さな桃色の可愛らしい靴を売っている男にも——
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
相手の言葉付は、一眸いちぼううちに変っていた。ひょうが、一太刀受けて、後退あとじさりしながら、低くうなっているような無気味な調子だった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
僕とひょうのような水夫が、海へ飛込んだまでは、読者諸君も、すでに御承知のことだが、その後、幽霊船虎丸タイガーまるはどうなったか。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
その、落ちるところを空に引ッ掴んで、チャリイン! 丹波の突きを下からね上げながら、そくひょうのように躍って横地半九郎へ襲い掛った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
女は叫び声を立て、向き返って、ひょうのようにおどり上がり、男に飛びつき、あらん限りの卑しい恐ろしい悪態とともに男の顔に爪を突き立てた。
ひょうの皮のはられた藍色の壁に向って、スモオキングを着た男たちが、自分の影にむかって挨拶をしていた。だが、諸君。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
これまでこの男の槍先にたおされましたところの虎が三十八頭、ひょうが二十五頭、そのほか猛獣毒蛇をこの一本の槍先で仕留めましたること数知れず
とらひょうは死してその毛皮をとどめる。そうして人間の生活になにがしかの貢献をすると同時に自己がかつてこの世に生存していたという実証を残す。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
日はひょうのようにところまんだら地面へ落ちていた。捨吉達は山を一廻りして来て、懇親会の会場に当てられた、ある休茶屋の腰掛の一つをえらんだ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
葉子はすかさずひょうのようになめらかに身を起こしていち早くもしっかり古藤のさし出す手を握っていた。そして
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
大隅は少しも油断せず、ドクトルがひょうのようにおどり懸ってくるのを警戒して、だんだんと戸棚の方に退いていった。全く息づまるようなにらみ合いだった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
トラはあわてず、眼をじ、頭をかしげて、悠々ゆうゆうと味わい/\食って居る。小さなひょうか虎かを見て居る様で、すごい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼は「ピアノの獅子しし」や「ピアノのひょう」を許容することができなかった。——また彼は、ドイツで名高いりっぱな衒学げんがく者にたいしても、あまり寛大ではなかった。
あの悪少年ラスカルは恐ろしい毒蛇コブラです。人を欺して血を吸います。あれは魔神デビルが化けたひょうです。どこに居るかわかりません。けれどもどこからか出て来て悪い事をします。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ところが、おかしいことには、今度の髪切りは狐でもなく、猿でもなく、ひょうの仕業だという噂でした
白い壁に、罌粟けしの花の油絵と、裸婦の油絵が掛けられている。マントルピイスには、下手へたな木彫が一つぽつんと置かれている。ソファには、ひょうの毛皮が敷かれてある。
故郷 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ただひょうだけは仙人達に慣れなかったので、豹と見ると叱声しっせいをたてた。と、豹は恐れて逃げ去った。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この長老がたまたま、家の印としてひょうの爪をつ・最も有力な家柄の者だったので、この老人の説は全長老の支持する所となった。彼等は秘かにシャクの排斥はいせきたくらんだ。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
あるいは、珊瑚さんごひょうあしか鳥の足、脳や肺臓や腸、それからあらゆる種類の排泄物を思わされる。
虎もひょうもごろりと横になって寝ている。孔雀くじゃくけんを競う宮女きゅうじょのように羽根をひろげて風の重みを受けておどおどしている。象は退屈そうに大きな鼻をぶらぶら振っている。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
健かな肉付きは、胸、背中から下腹部、腰、胴へとしまつて行き、こどものひょうを見るやうだつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
午前中のその時刻の光線の具合ぐあいで、木洩こもがまるで地肌じはだひょうの皮のように美しくしている、その小さな坂を、ややもするとすべりそうな足つきで昇ってゆくその背の高い
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
二の烏 獅子ししとらひょう、地を走る獣。空を飛ぶ仲間では、わしたか、みさごぐらいなものか、餌食を掴んで容色きりょういのは。……熊なんぞが、あの形で、椎の実を拝んだ形な。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしこれから多分十五、六日間は人に逢うことは出来ますまいから充分ご用心なすって、雪の中のひょうに喰われないようにお経でもお読みになってお越しになるがよかろう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ひょうは猿を殺して食うからむろん猿の敵であるが、猿同志は互いに食物を奪い合うものゆえ、猿もたしかに猿の敵である(Simia simiae lupus)、頸をかみ切って殺すも
動物界における善と悪 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
その他、猩々しょうじょうの鼻やひょうの爪、翡翠かわせみの死体、鶴の抜け羽と種々のものをもらいに行くが、翡翠の死体を黒焼きにして飲むと肺病がなおるとか、動物園でも死にしだい塩漬けにしておくそうだ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それは丁度ちょうど奇麗きれいに光る青いさかの上のように見えました。一人は闇の中に、ありありうかぶひょう毛皮けがわのだぶだぶの着物をつけ、一人はからすの王のように、まっ黒くなめらかによそおっていました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
メエテルリンク夫人のひょう外套がいとうは、仏蘭西フランスにおいても、亜米利加アメリカにおいても珍重されたといわれるが、現代の日本においては、気分的想像の上ですでにそんなものをば通り越してしまっている。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「七郎はったひょうを争って、人をなぐり殺して、つかまえられました。」
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
両腕の肩の下のところにはひょうだか獅子ししだかの頭がついていて、その開いた口から腕を吐き出した格好になっている。その口にはきばや歯が刻んである。それがまたいかにも堅そうな印象を与える。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「あのねえ須磨寺のひょうが逃げたんです、人が二人たべられましたって」
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかもその又風呂敷包みの中からひょうに似た海綿をはみ出させていた。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
象。ひょう。野牛。自然豚ワイルド・ボア鹿しか。土人娘。これらへの鉄砲による突撃。アヌラダプラとポロナルワの旧都における考古学の研究。幾世紀にわたるせいろん人セイロニイズ独特の灌漑かんがい術。旅行記念物ヌメントウの収集。宝石掘り。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
婦はむっくりと立ち上って彼の方へひょうのようにかぶりついて来た。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
赤い毛糸の帽子をかむって、ひょうの皮の外套がいとうにくるまっている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
例の檻には一頭の若いひょうが入れられた。
断食芸人 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
神谷は猫を飼ったことがあるので、そういう舌の恐ろしさをよく知っていた。兇暴きょうぼうな肉食獣の舌、猫かとらか、でなければひょうの舌だ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひょうの子には、日が来れば、きっときばが生えるんです。元来、われわれ武門の血は、ついきのうまで、野放しに育って来た人間ですからな。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひょうのような水夫も、さすがに心細くなったとみえ、今はもう、もぐらもちのように意気地いくじがなく、浪に乗り、浪に沈みながら、悲鳴をあげている。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
さすがのへびもぐにゃぐにゃした上着ではちょっとどうしていいか見当がつかないであろう。この映画ではまた金網でひょう大蛇だいじゃをつかまえる場面もある。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
古沼にみずちが泳いでいるよ。ご覧よ、ひょうを追っかけて裸体はだかの人間が走って行くから。おおとうとう追い付いた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(ふーん、一体この船には何十頭の猛獣がいるのかしら)と貝谷が、溜息とともに呟いた。檣の下には、今や少くとも九頭か十頭のライオンとひょうが集っている。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
片手に刀をダラリとさげ、斬っさきが地を撫でんばかり……そくを八の字のひらき、体をすこしく及び腰にまげて、若いひょうのように気をつめて左膳を狙うようす。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、荘田と云う名を聞くと、瑠璃子はぐ、ひょうの眼のように恐ろしい執拗しつようなその男の眼付を思い出した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二の烏 獅子ししとらひょう、地を走るけもの。空を飛ぶ仲間では、わしたか、みさごぐらゐなものか、餌食をつかんで容色きりょういのは。……熊なんぞが、あの形で、しいを拝んだ形な。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)