調戯からか)” の例文
旧字:調戲
一番目の兄も、機嫌きげんの好い時は、わざわざ奥から玄関まで出張でばって来る。そうしてみんないっしょになって、益さんに調戯からかい始める。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お前はよくそんな事まで覚えてゐるね。」——夫にかう調戯からかはれると、信子はかならず無言の儘、眼にだけこびのある返事を見せた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
舞台の程よいところへ来ると、以前の若侍が出て調戯からかう。そうして結局酒を飲ませるといって附近の料理屋の二階へ連れ込む。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
立上つて唐紙明けにかゝりながら一寸後向いて人の顔へおつに眼を呉れ無言で笑ふは、御嬉しかろと調戯からかつて焦らして底悦喜そこえつきさする冗談なれど
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
町人が弓なんか玩具おもちやにするから、こんな事を仕出かすぢやないか。何べんも文句を持込んだのを調戯からかひ面で聽きやがつて、こんな出來の良い娘を
きつねひました。きつね調戯からかふつもりでわざと桃林和尚たうりんをしやう機嫌きげんるやうにしましたが、かしこ和尚をしやうさんはなか/\そのりませんでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
毎日うして二人で働いてゐたが、時々飛入りに手伝に来る職人があつた。此奴こいつが手伝に来ると、屹度きつと娘を叱り飛ばす、さうしてミハイロに調戯からかふ。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
またしてもその様に、思ひもせぬ事、お調戯からかひあそばすゆゑ、真実の事を申しまする。釣合はぬと申したは、御名誉のあなた様に、私如き不束ふつつかもの。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
それだから嬢様も此の人ばかりには真面目に交際つきあつて少しもお調戯からかひなさらなかつたが、困つた事には好人物といふだけで、学問才幹共に時代遅れだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
すると、私はぐいとあの人の口をひねる。調戯からかはれるのだとは知りながら、それでも憎しみが力強く湧いて来る。
脱殻 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
と一同がそれをきいてはやした。栄蔵はしまつたと思つた。またこれは、いつものやうに調戯からかはれるに違ひない。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
(なお調戯からかいたげにしたが追分のハヤシを唄い終り、出てくる時次郎、おきぬを見て、這う這う行ってしまう)
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
私も父が私を調戯からかったことだけは判ったが、貼り紙おばが、焼和尚から引き受けた梅毒のために、そうなったことを知ったのは、それから暫くの後のことだ。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
『なツす、先生様ア。』とお常は厭迄あくまで曇りのないクリクリした眼で調戯からかつてゐる。十五六の、色の黒い、晴やかな邪気無あどけない小娘で、近所の駄菓子屋の二番目だ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
屹度きつと調戯からかふつもりに相違ない。かう思つて静かに樹の影の中に入ると、影と影のかさなり合つた中に、更に濃い影があつてそれが動いてゐる。急に、微かに笑ふ声がした。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
藻草を纒ったような船夫達が何人も群れて、白く化粧した女を調戯からかいながら、よろよろと歩いていた。私は二度ほど同じ道を廻り、そして最後に一軒の家へ這入はいった。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ほぼその人がらも分ったので、遠慮なしに、なかば調戯からかうように、手どころか、するするとおもてを拭いた。湯のぬくもりがまだ残る、木綿も女の膚馴はだなれて、やわらかになめらかである。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下女迄が私の部屋を覗込んでお糸さんが見えないと、奥様おくさんは、なぞといって調戯からかうようになる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もっとも、録ちゃんは、小さいものを調戯からかうのが好きで、小川学校にいた時分でも、やっぱり、二丁目の質屋の、栄ちゃんという音無しい子を調戯っては、始終、泣かせました。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「どうや、恭公、(富来とぎの市)とどつちが賑やかや?」などと調戯からかひなどした。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「房子、そんなにお前のように心配したものでもないよ。家の者にはどんな事があっても手出しなんかしやしないのだから、召使いの者共にほんのちょいと調戯からかってみるだけなのだよ。」
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
はかまア穿かして、脇へ出ても富さん/\といわれるは誰がお蔭か、みんな惣次郎が情深なさけぶけえからだ、それを惣次郎の女房に対して調戯からかって縋付すがりついて、まアなんとも呆れて物ういわれねえ、義理も恩も知らねえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『ヒネーゼ!』と叫ぶのは軽蔑けいべつして調戯からかふつもりなのである。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
... マアした方がいいかもしれん」と笑いながら調戯からかうに当人の大原はうけ大狼狽おおろうばい「イイエさ、僕だって今に柔い方が好きになるよ。お登和さんのお料理ならどんなに出来ても大悦おおよろこびで食べるよ」としきりに今の言葉を
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
嫂は自分を見下みさげたようなまた自分を調戯からかうような薄笑いを薄いくちびるの両端に見せつつ、わざと足音を高くして、茶の間の方へ去った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
調戯からかうようにこう云った——それが後になって考えると、新蔵の心に燃えている、焔のような逢いたさへ、油をかける事になったのでしょう。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
町人が弓なんか玩具おもちゃにするから、こんな事を仕出かすじゃないか。何べんも文句を持込んだのを調戯からかづらで聴きやがって、こんな出来の良い娘を
「それをお前さんが調戯からかいなすったんでございましょう。だから猿がああして、仲間をつれて来ておどかすんでございますよ」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
時とすると私の見て居る前で主人に調戯からかはれて、「あれ、御新造さん、いけません」と叫ぶやうに言つたことがあつた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其様子を例の意地悪の職人が認めて、二人の事を彼此かれこれ言つては調戯からかひ、仲間中に触れ廻る。仲間の者も笑つて
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
『なツす、先生樣ア。』とお常は飽迄曇りのないクリクリした眼で調戯からかつてゐる。十五六の、色の黒い、晴れやかな邪氣無あどけない小娘で、近所の駄菓子屋の二番目だ。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と罪の無いことを云へばお吉も笑ひを含むで、そろ/\惚気は恐ろしい、などと調戯からかひ居るところへ帰つて来たりし源太、おゝ丁度よい清吉居たか、お吉飲まうぞ、支度させい
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
わか駅員えきゐん二人ふたり真黒まつくろかたちで、店前みせさきつたのが、かくれする湯気ゆげなぶるやうに、湯気ゆげがまた調戯からかふやうに、二人ふたり互違たがひちがひに、覗込のぞきこむだり、むねひらいたり、かほそむけたり、あご突出つきだしたりすると
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、いつも苦笑する母を無理に味方にして、調戯からかう父と争った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何か調戯からかわれて見たそうにモジモジしていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
あによめは上着を引掛けてくれながら、「あなた何だか今日は勇気がないようね」と調戯からかい半分に云った。自分は全く勇気がなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
解せないのみならず、あるべからざることで、日頃、金がほしい、金がほしいと口に出しているのを、憎い狐狸こりどもが知って調戯からかいに来たのか。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
老大ろうだい」と言って、若い連中から調戯からかわれるのを意にも留めずにいた岡等より年長としうえの美術家もあったが、その人の一頃ひところ住んだ画室も同じ家つづきにある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わざと調戯からかうように声をかけますと、お敏は急に顔を赤らめて、「まあ私、折角いらしって下すった御礼も申し上げないで——ほんとうによく御出で下さいました。」
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
松太郎の通行とほる度、店先にゐさへすれば、屹度この眼で調戯からかふ。落花生なんきんまめの殻を投げることもある。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かうして調戯からかひながら普請場へ来て皆仕事に掛つたが、職人達は見上みやげるやうな足場へあがり、娘や子供が煉瓦を運ぶ。ミハイロは新参しんまいだからといふので、石灰いしばひに砂を入れてねさせられた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
お嬉しかろと調戯からかってらして底悦喜そこえっきさする冗談なれど、源太はかえってしんからおかしく思うとも知らずにお伝はすいと明くれば、のろりと入り来る客は色ある新造しんぞどころか香も艶もなき無骨男
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
代助は誠太郎をつらまえて、いつもの様に調戯からかい出した。誠太郎はこの間代助が歌舞伎座でした欠伸あくびの数を知っていた。そうして
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今となっては、たとえ無頼漢ならずものであろうとも、自分に調戯からかってくれる男のないことが淋しいくらいでありました。
斯ういふ過去の記憶は今丑松の胸の中に復活いきかへつた。七つ八つの頃まで、よく他の小供に調戯からかはれたり、石を投げられたりした、其恐怖おそれの情はふたゝび起つて来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『生憎と日向様もまだ帰らないの。』と富江は調戯からかふ眼付で青年の顔を見た。其処へ白髪頭の小使が入つて来て用を聞いたので、女は何かお菓子を買つて来いと命ずる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、俊助は珈琲茶碗をくちびるへ当てながら、人の悪い微笑を浮べて、調戯からかうように野村を一瞥した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
松づくしなぞはあいつにめられたほどで、と罪のないことを云えばお吉も笑いを含んで、そろそろ惚気のろけは恐ろしい、などと調戯からかい居るところへ帰って来たりし源太、おおちょうどよい清吉いたか
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は「少し真面目まじめになったかね」とおとなしく受けるし、彼が須永に「君はますます偏窟へんくつに傾くじゃないか」と調戯からかっても
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「存外、手前てめえも男がケチだ、向うはちょっと調戯からかっただけの御挨拶で、女というやつは、ああもしてみないとバツが悪いんだ。可愛いくらいのもんじゃねえか」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)