じゅ)” の例文
繰拡くりひろげたペイジをじっ読入よみいつたのが、態度ようす経文きょうもんじゅするとは思へぬけれども、神々こうごうしく、なまめかしく、しか婀娜あだめいて見えたのである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この時堂上の僧は一斉いっせい合掌がっしょうして、夢窓国師むそうこくし遺誡いかいじゅし始めた。思い思いに席を取った宗助の前後にいる居士こじも皆同音どうおんに調子を合せた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
役人は彼等をいましめたのち、代官の屋敷へ引き立てて行った。が、彼等はその途中も、暗夜やみよの風に吹かれながら、御降誕ごこうたんの祈祷をじゅしつづけた。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
生は相憐れみ、死は相捐あいすつということわざがある。其諺通りなら定基は早速に僧を請じ経をじゅさせ、野辺の送りを営むべきであった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかしそれは単に言葉であった。あるいは単に名字みょうじじゅするに過ぎなかった。その言葉その名字に含まれた生きた真理はつかまれていない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
無動寺の奥まった一間ひとまのうちから、じゅすともなくとなうるともない十句観音経かんのんぎょうの声が——声というよりはおのずから出るつぶやきのように漏れてくる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蕨の茎葉で蝮に咬まれた創口きずぐちを撫でてかの歌をじゅすと越後でいう由なるが、陸中の俚伝を佐々木喜善氏が筆したのには
けれどもこの句をじゅすると、薄墨色の野の暮色の中に唯一つ馬のいる様子が、髣髴ほうふつとして浮んで来るような気がする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
その時、ふと彼は槌の音の間々にささやくがごとく、うめくがごとく、了海が経文をじゅする声をきいたのである。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
『詩経』の国風関雎こくふうかんしょの序に、心にある間を志となし、言に発したのを詩となすというのや、『漢書かんじょ』の芸文志げいもんしに言をじゅするのを詩というとあるなどがそれである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
南家の姫の美しいはだは、益々透きとおり、潤んだ目は、愈々大きく黒々と見えた。そうして、時々声に出してじゅする経のもんが、物のたとえようもなく、さやかに人の耳に響く。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ふとお客様が金剛経をじゅするを聞いて開悟し、黄梅の五祖弘忍大師こうにんだいしのところへ行って米をいて允可いんかを受け、ついに達磨大師以来六代の伝衣でんえを受けて、法流を天下にいたこと
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伊織は目に涙を浮べて暫く答えずにいたが、口を開いて一首の歌をじゅした。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして緑町の方を向いて合掌し、くどくどとお念仏をじゅした。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「曇って来た、雨返しがありそうだな、自我得仏来所経、」となだらかにまた頓着とんじゃくしない、すべてのものを忘れたという音調でじゅするのである。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余が婆さんの顔を見てなるほど丸いなと思うとき婆さんはまた何年何月何日をじゅし出した。余は再び窓から首を出した。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
如何に愛宕あたごの申子なればとて、飯綱愛宕の魔法を修行し、女人禁制の苦を甘ない、経陀羅尼きょうだらにじゅして、印を結びじゅを保ち、身を虚空にあがらせようなどと
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この句をじゅして第一にそれを感ぜぬ人は、俳句を味う感覚において、何者かを欠いているといわなければならぬ。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
悲しむべし辺鄙へんぴの小邦、仏法未だ弘通ぐずうせず、正師しょうし未だ出世せず、たゞ文言もんごんを伝へ名字みょうじじゅせしむ。もし無上の仏道を学ばんと欲せば遥かに宋土の知識を訪ふべし。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そのいのりの必死懸命となるときは、願文がんもんじゅする声が、帳外の武者つわものの耳にも聞えてくるほどであった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他の色の鶏を捧ぐればますます痛むと見ゆ。熊野地方では天狗が時に白鶏に化け現わるという。支那湖南の衡州府華光寺に、昔禅師あって白鶏を養う。経をじゅするごとに座に登って聴く。
「ああ、い月だ、妙法蓮華経如来みょうほうれんげきょうにょらい寿量品第十六自我得仏来、所経諸劫数しょきょうしょごうすう無量百千万億載阿僧祇むりょうひゃくせんまんおくさいあそうぎ、」とじゅしはじめた。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こわき髪を五に刈りて髯たくわえぬ丸顔を傾けて「描けども、描けども、夢なれば、描けども、成りがたし」と高らかにじゅおわって、からからと笑いながら、へやの中なる女をかえりみる。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この十七字をじゅして、駘蕩たいとうたる春風をおもに感ぜぬ者は、ついに詩を解するの人ではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
然し其様そんなことを見ながらに終ったのではない、最期の時は人を去らせて、室内廓然かくねん、縄床に居て口に法花経ほけきょうじゅし、手に金剛の印を結んで、端然たんねんとして入滅したということである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
百姓は鶏代の事を法師に告げくれた事と心得、かの人の去るに任す。所へ法師来たので金を受け取ろうと手を出すと、法師は百姓に、ひざまずいて懺悔せよと命じ、自ら十字をえがき、じゅし始めた。
この故に観音経をじゅするもあえて箇中の真意を闡明せんめいしようというようなことは、いまだかつて考え企てたことがない。
と口のうちで小声にじゅしつつ漫然まんぜんと浮いていると、どこかでく三味線のが聞える。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
講師の寂照が如法に文をじゅし経を読む頃には、感動に堪えかねて涕泣ていきゅうせざる者無く、此日出家する者も甚だ多く、婦女に至っては車より髪を切って講師に与うる者も出来たということである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうして貴下が、仏像の前で、その言行録をじゅする経文だといった、くわしい話を聞きましょう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しばらくすると女はこの紋章の下に書きつけてある題辞をほがらかにじゅした。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「妙法蓮華経如来寿量品第十六自我得仏来所経諸劫数無量百千万億載阿僧祇。」とじゅするのが、いうべからざる一種の福音を川面かわづらに伝えて渡った、七兵衛の船は七兵衛が乗って漂々然。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「蓮の葉に蜘蛛くだりけり香をく」と吟じながら女一度に数弁すうべんつかんで香炉のうちになげ込む。「蠨蛸しょうしょうかかって不揺うごかず篆煙てんえん遶竹梁ちくりょうをめぐる」とじゅしてひげある男も、見ているままで払わんともせぬ。蜘蛛も動かぬ。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ト思う耳のはたに竹をひびききこえて、僧ども五三人一斉に声を揃え、高らかにじゅする声耳をろうするばかりかしましさ堪うべからず、禿顱とくろならび居る木のはしの法師ばら、何をかすると
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女はこの句を生れてから今日きょうまで毎日日課として暗誦あんしょうしたように一種の口調をもってじゅおわった。実を云うと壁にある字ははなはだ見悪みにくい。余のごときものは首をひねっても一字も読めそうにない。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひと俯向うつむいた口のうちじゅしたのは、柱にしるした歌である。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)