西鶴さいかく)” の例文
西鶴さいかく其磧きせき近松ちかまつの世話物などは、ともに世相の写し絵として、くりかえし引用せられているが、言葉の多い割には題材の範囲が狭い。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
子規も病気になるまへには露伴ろはん風流仏ふうりうぶつなどに傾倒したこともあり、西鶴さいかくばりの文章なども書いたのであつたが、晩年の随筆では、当時
結核症 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「当世顔は少し丸く」と西鶴さいかくが言った元禄の理想の豊麗ほうれいな丸顔に対して、文化文政が細面ほそおもて瀟洒しょうしゃしとしたことは、それを証している。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
店の棚には講談本や村井玄斎むらいげんさいの小説などが並べてあったが、奥の箪笥たんすのある部屋には帝国文庫の西鶴さいかくものや黄表紙などが沢山あったらしく
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
俳人で大阪者といへば宗因そういん西鶴さいかく来山らいざん淡々たんたん大江丸おおえまるなどであるがこれ位では三府の一たる大阪の産物としてはちともの足らぬ気がする。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
人は『源氏物語』や近松ちかまつ西鶴さいかくを挙げてわれらの過去を飾るに足る天才の発揮と見認みとめるかも知れないが、余には到底とうていそんな己惚うぬぼれは起せない。
『東洋美術図譜』 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
西鶴さいかくや近松の描く女性は、いじらしく、やさしく、男の膝に泣きくずおれる女であっても、男の方から膝を屈して仰ぎ視るような女ではない。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
文芸に携わる者は誰も皆其処そこに基調を持つ。芭蕉と同時代にあった近松ちかまつでも西鶴さいかくでもいずれも、もののあわれを感じて筆を執ったことに変りはない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
友だち いやさう開き直られると、かへつて云ひ出しにくいがね。つまり何さ。——この頃西鶴さいかくが書いた本で見ると、君は七つの時から女を知つて……
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし、それも、皆な自分の愚かゆえである。こうした売笑の女に恋するからは、それはありがちのことである。西鶴さいかくもとうの昔にそれを言っている。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
一、わたくしのさいかく、とでも振仮名をけたい気持で、新釈諸国噺しょこくばなしという題にしたのであるが、これは西鶴さいかくの現代訳というようなものでは決してない。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
既にその前年一度医者より病の不治なる事を告げられてからわたしは唯自分だけの心やりとして死ぬまでにどうかして小説は西鶴さいかく美文は也有やゆうに似たものを一
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寒月の名は西鶴さいかくの発見者及び元禄文学の復興者としてつとに知られていたが、近時は画名が段々高くなって
金は這入はいるが、「蝴蝶」を発表当時ほど言文一致派の気焔きえんは上らないで、西鶴さいかく研究派の方が、頭角を出して来たうえに、言文一致は、二葉亭四迷ふたばていしめいの「うきくさ」の方が
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかし、たまには三原山記事を割愛したそのかわりに思い切って古事記こじき源氏物語げんじものがたり西鶴さいかくの一節でも掲載したほうがかえって清新の趣を添えることになるかもしれない。
ジャーナリズム雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こひねがはくは駕籠かご二挺にちやうならべて、かむろに掻餅かきもちかせながら、鈴鹿越すゞかごえをしたのであると、をさまりかへつたおらんだ西鶴さいかくむかうに𢌞まはして、京阪成金かみがたなりきん壓倒あつたふするにらうとおもふ。……
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日本の作家でも、西鶴さいかくなどの小説には、何時が来てもほろびない芸術的分子がありますよ。天才的なひらめきがありますよ。それに比べると、尾崎紅葉なんか、徹頭徹尾通俗小説ですよ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
悪戯いたずらに蛇を投げかけようとした者を已に打果うちはたすとてかたなの柄に手をかけた程蛇嫌いの士が、後法師になって、蛇のと云わるゝ竹生島ちくふじまいおりを結び、蛇の中で修行した話は、西鶴さいかくの物語で読んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
二十二年の七月廿にぢう三号の表紙をへて(桂舟けいしうひつ花鳥風月くわてうふうげつ大刷新だいさつしんわけつた、しきり西鶴さいかく鼓吹こすゐしたのはの時代で、柳浪りうらう乙羽おとは眉山びさん水蔭すゐいんなどがさかんに書き、寒月かんげつ露伴ろはん二氏にし寄稿きかうした
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その証拠しょうこに僕はいまだに独身だからね、西鶴さいかくの五人女に「乗り掛ったる馬」という言葉があるが、僕はこんなスリルを捨てて女に乗り掛ろうとは思わんよ……という話を聴きながら競走レースを見ている間
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
まず、西鶴さいかくのいわゆる「十二色のたたみ帯」、だんだら染、友禅染ゆうぜんぞめなど元禄時代に起ったものに見られるようなあまり雑多な色取いろどりをもつことは「いき」ではない。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
面白ずくに三馬や京伝や其磧きせき西鶴さいかくを偉人のように持上げても、内心ではこの輩が堂々たる国学または儒林の先賢と肩をならべる資格があるとは少しも思っていなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
中には十百韻とっぴゃくいんと称して百句十篇を一度に興行し、西鶴さいかくなどは独吟どくぎん千句をさえ試みているのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
近松ちかまつ西鶴さいかくが残した文章で、如何なる感情の激動をもいいつくし得るものと安心していた。音波おんぱの動揺、色彩の濃淡、空気の軽重けいちょう、そんな事は少しも自分の神経を刺戟しげきしなかった。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
顔はあの西鶴さいかくの、「当世の顔はすこしまろく、色はうすはな桜にて」と云ふやつだが、「面道具おもてだうぐつ不足なく揃ひて」はちと覚束おぼつかない。白粉おしろいにかくれてはゐるが、雀斑そばかすも少々ある。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
明治の清少せいしょうといひ、女西鶴さいかくといひ、祇園ぎおん百合ゆりがおもかげをしたふとさけび小万茶屋がむかしをうたふもあめり、何事ぞや身は小官吏の乙娘おとむすめに生まれて手芸つたはらず文学に縁とほく
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
日本ではことにこの技術が昔から発達していた国で、何々物語というもののほとんど全部がそれであったし、また近世では西鶴さいかくなんて大物も出て、明治では鴎外おうがいがうまかったし、大正では
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
光琳こうりん歌麿うたまろ写楽しゃらくのごとき、また芭蕉ばしょう西鶴さいかく蕪村ぶそんのごときがそれである。彼らを昭和年代の今日に地下より呼び返してそれぞれ無声映画ならびに発声映画の脚色監督の任に当たらしめたならばどうであろう。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「読本といふもの、天和てんな西鶴さいかくに起り、自笑じしょう其磧きせき宝永正徳ほうえいしょうとくに鳴りしが馬琴には三舎すべし」
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
願くば一生後生こうせいを云はず、紛々ふんぷんたる文壇の張三李四ちやうさんりしと、トルストイを談じ、西鶴さいかくを論じ、或は又甲主義乙傾向の是非曲直を喋々てふてふして、遊戯三昧ざんまいきやうに安んぜんかな。(五月二十六日)
手習いがいやなのではなく、寺院おてら夫人だいこくさんが、針ばかりもたせようとするのが嫌だったのだ。もっとも、近松ちかまつ西鶴さいかくの生ていた時代に遠くなく、もっとも義太夫ぶし膾炙かいしゃしていた京阪けいはん地方である。
近世の文学でも井原西鶴さいかくなどは、元来あの人が唯物史観なのだから、なんでも裏面の事情へ持って行こうとするのだと、解せられているかも知れぬが、実際はそれが昔ながらの俗物のコヒであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
西鶴さいかくあのころは、四十五歳か。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これなら豈夫よも知っていまいとひそかに予期して質問した西鶴さいかくについてすらも初対面の私を煙に巻くだけの批評をしたが、紅葉はこの頃やっと『一代男』を読んだばかしで何が何やらサッパリ解らない
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)