行衛ゆくゑ)” の例文
旧字:行衞
かへるにくべにはちをくはへてはうんできますが、そのちひさなかへるにくについたかみきれ行衛ゆくゑ見定みさだめるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
我が恋なり、恋ゆゑにもだゆるにあらず、牢獄の為に悶ゆるなり、我は籠中にあるを苦しむよりも、我が半魂の行衛ゆくゑの為に血涙を絞るなり。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
丁度ちやうど廻り合つたのだと思つて孝行しますから——私の様なアバずれ者でも何卒どうぞ、老女さん、行衛ゆくゑ知れずの娘が帰つて来たと思つて下ださいナ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
二百疋の子供は百九十八疋までありに連れて行かれたり、行衛ゆくゑ不明になったり、赤痢にかかったりして死んでしまひました。
洞熊学校を卒業した三人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
『おや、これは大将、なんといふ高いところに、家来共はの眼も寝ずに、あなたさまの行衛ゆくゑを探してをりましたのに。』
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
なにかな、御身おみ遠方ゑんぱうから、近頃ちかごろ双六すごろく温泉をんせんへ、夫婦ふうふづれで湯治たうぢて、不図ふと山道やまみち内儀ないぎ行衛ゆくゑうしなひ、半狂乱はんきやうらんさがしてござる御仁ごじんかな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
知つた人の影にも遇はないのは私にとつては幸ひだつたが、せめて知合ひの茶屋の行衛ゆくゑを往来の人を捉へて訊ねて見ると空しく言下に首を振られる。
鱗雲 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
(間)二度目の夫は旅先で女をこしらへ、行衛ゆくゑくらましてしまひました。——この人が旅へ出る時は、わたくしもきつとついて行くつもりでをりました。
動員挿話(二幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ちつとも行衛ゆくゑが分りませんで弱つてをりますところへ、或日あるひ鶉がひよつこりとお庭のに飛んでまゐりました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
因にこの画は十年程前、仏国の美術館に懸けられてあつたが、盗まれて、数年行衛ゆくゑが解らなくなつてゐた。
美術上の婦人 (新字旧仮名) / 岸田劉生(著)
長吉ちやうきち夢中むちゆう雷門かみなりもんはうへどん/\歩いた。若い芸者の行衛ゆくゑ見究みきはめやうとふのではない。自分の眼にばかりあり/\見えるおいと後姿うしろすがたを追つてくのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
日本諸地方に石器時代のあとを遺したる人民にして、體格たいかく風俗ふうぞく、日本人とも同じからずアイヌとも同じからずとせば、この人民は何者なりしか、其行衛ゆくゑは如何との二疑問次いで生ずべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
翌くる二十四日の暁天に至りてせきとしてみぬ、誰か此風の行衛ゆくゑを知る者ぞ
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
謹んで秘密のはこたる我が行衛ゆくゑに、生涯手を触るまじきものなりと。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
とて取次とりつふみおもりてもなみだほろほろひざちぬ義理ぎりといふものかりせばひたきこといとおほわかれしよりの辛苦しんく如何いかときはあらぬひとまられてのがればのかりしときみさをはおもしいのち鵞毛がもうゆきやいばりしこともありけり或時あるときはお行衛ゆくゑたづねわびうらみは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
杜鵑とけん行衛ゆくゑは、問ふことを止めよ、天涯高く飛び去りて、絶対的の物、即ち Idea にまで達したるなり。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ふと獄門の上を見あげますと、獄門の横木の上に、行衛ゆくゑ不明の馬賊の大将の首がのつてゐるではありませんか。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
子鶉こうづらは急いで巣に帰つてみますと、案の定、母鶉は可愛かはいい自分の独り子の行衛ゆくゑが知れなくなつたので大変心配して、もう物もべられないで、ねてをりました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
御苦労ごくらう御苦労ごくらうまこと御骨折ごほねをりけて誰方どなたにも相済あひすまん。が、御心配ごしんぱいにはおよばんのだ。——おきなさい、行衛ゆくゑれなかつた家内かないは、唯今たゞいま所在ありかわかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
〽落ちて行衛ゆくゑ白魚しらうをの、舟のかゞりにあみよりも、人目ひとめいとうて後先あとさきに………
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それからの靴の請負うけおひの時はドウだ、糊付けのかゝとが雨に離れて、水兵は繩梯はしごから落ちて逆巻さかまなみ行衛ゆくゑ知れずになる、艦隊の方からははげしく苦情を持ち込む、本来ならば、彼時あのとき山木にしろ、君にしろ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
はい、その通りでございます。きつと母は私の行衛ゆくゑが知れなくなつたので、ひどく心配して、死にかけてをると存じます。ですから私だけこゝにをりまして結構なものを
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
さつそく四方八方へ手別てわけをして、大将をさがしましたが、その行衛ゆくゑがわかりませんでした。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
……私等わしらまた油断ゆだんなく奥様おくさま行衛ゆくゑさがしますだで、えら、こゝろくるはさつしやりますな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
⦿社会党の艶福、花吉の行衛ゆくゑ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)