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薄靄
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うすもや
ふりがな文庫
“
薄靄
(
うすもや
)” の例文
秋の夕暮の水色に煙る
薄靄
(
うすもや
)
は、そのまま私たちをも彼らの仲間のひとりと化して、風もながれぬ自然のなかに凝立させるためであろう。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
甲府を過ぎて、わが
来
(
こ
)
し方の東の空うすく
禿
(
は
)
げゆき、
薄靄
(
うすもや
)
、紫に、
紅
(
くれない
)
にただようかたえに、富士はおぐらく、柔かく浮いていた。
雪の武石峠
(新字新仮名)
/
別所梅之助
(著)
戸外
(
そと
)
は
朧夜
(
おぼろよ
)
であった。月は薄絹に
掩
(
おお
)
われたように、
懶
(
ものう
)
く空を渡りつつあった。村々は
薄靄
(
うすもや
)
に
暈
(
ぼ
)
かされ夢のように浮いていた。
土竜
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
忽然
(
こつぜん
)
薄靄
(
うすもや
)
を排して一大銀輪のヌッと
出
(
い
)
ずるを望むが如く、また千山万岳の重畳たる中に光明赫灼たる
弥陀
(
みだ
)
の山越を迎うる如き感を抱かしめた。
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
この時、幹の黒い松の葉も、
薄靄
(
うすもや
)
に
睫毛
(
まつげ
)
を描いた風情して、遠目の森、近い
樹立
(
こだち
)
、枝も葉も、桜のほかは、皆柳に見えた。
白花の朝顔
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
音楽はすべてのものを
薄靄
(
うすもや
)
の大気に包み込んで、すべてを美しく気高く快くなした。人の心に激しい愛の欲求を伝えた。
ジャン・クリストフ:03 第一巻 曙
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
通りに朝霧のような
薄靄
(
うすもや
)
がこもっていた。滞在中梶はヨハンに支払うべき案内料を一度も
質
(
ただ
)
さずにしまったが、五日間の料金は意外に少額ですんだ。
罌粟の中
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
花は散つたが、まだ申分なく春らしい
薄靄
(
うすもや
)
のかゝつた或朝、ガラツ八の八五郎は、これも存分に機嫌の良い顏を、明神下の平次の家へ持込んで來ました。
銭形平次捕物控:276 釣針の鯉
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
殊
(
こと
)
にうらさびしいゆうぐれは遠くから手まねきしているようなあの川上の
薄靄
(
うすもや
)
の中へ吸い込まれてゆきたくなる。
蘆刈
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
「金華山も見えない」と甲斐は云った、「九月だというのに、こんなに
薄靄
(
うすもや
)
の日がつづくのは珍らしいことだ」
樅ノ木は残った:02 第二部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
山脈の方の空に
薄靄
(
うすもや
)
が立ちこめ、空は曇って来た。すぐ近くで、
雲雀
(
ひばり
)
の
囀
(
さえず
)
りがきこえた。見ると、薄く曇った中空に、一羽の雲雀は静かに翼を
顫
(
ふる
)
わせていた。
永遠のみどり
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
薄靄
(
うすもや
)
を
生海苔
(
なまのり
)
のように町の空に引き伸して高い星を明滅させている暖かい東南風が一吹き強く
頬
(
ほお
)
に感ずると、かの女は、新橋際まで行ってそこから車に乗り
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
夕暮が近いのであろう、
蒼茫
(
そうぼう
)
たる
薄靄
(
うすもや
)
が、ほのかに山や森を
掩
(
おお
)
うている。その
寂寞
(
せきばく
)
を
僅
(
わず
)
かに破るものは、牧童の吹き鳴らす哀切なる牧笛の音であるのだろう。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
十三夜の月が
薄靄
(
うすもや
)
の
罩
(
こ
)
めた野面を隈なく照らして、様ざまの声をした虫の音が、明け放した窓からはやてのように耳を掠めて過ぎ去るのを
現
(
うつつ
)
ともなく聞きながら
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
今日の日曜を
野径
(
のみち
)
に
逍遙
(
しょうよう
)
して春を探り歩きたり。
藍色
(
あいいろ
)
を漂わす大空にはまだ消えやらぬ
薄靄
(
うすもや
)
のちぎれちぎれにたなびきて、晴れやかなる朝の光はあらゆるものに流るるなり。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
心身
共
(
とも
)
に生気に充ちていたのであったから、毎日〻〻の朝を、まだ
薄靄
(
うすもや
)
が村の田の
面
(
も
)
や
畔
(
くろ
)
の
樹
(
き
)
の
梢
(
こずえ
)
を
籠
(
こ
)
めているほどの
夙
(
はや
)
さに
起出
(
おきで
)
て、そして九時か九時半かという頃までには
蘆声
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
秋が近くなつて、
薄靄
(
うすもや
)
の掛かつてゐる松林の中の、清い砂を踏んで、主人はそこらを
一廻
(
ひとめぐ
)
りして来て、
八十八
(
やそはち
)
という老僕の
拵
(
こしら
)
へた
朝餉
(
あさげ
)
をしまつて、今自分の居間に据わつた処である。
妄想
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
戸に倚りて
菖蒲
(
あやめ
)
売
(
う
)
る子がひたひ髪にかかる
薄靄
(
うすもや
)
にほひある朝
みだれ髪
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
あゝ、あの
柳
(
やなぎ
)
に、
美
(
うつくし
)
い
虹
(
にじ
)
が
渡
(
わた
)
る、と
見
(
み
)
ると、
薄靄
(
うすもや
)
に、
中
(
なか
)
が
分
(
わか
)
れて、
三
(
みつ
)
つに
切
(
き
)
れて、
友染
(
いうぜん
)
に、
鹿
(
か
)
の
子
(
こ
)
絞
(
しぼり
)
の
菖蒲
(
あやめ
)
を
被
(
か
)
けた、
派手
(
はで
)
に
涼
(
すゞ
)
しい
裝
(
よそほひ
)
の
婦
(
をんな
)
が三
人
(
にん
)
。
人魚の祠
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
彼らと同じように逃げ出してる太陽、それから、乳のような白い
息吹
(
いぶ
)
きの
薄靄
(
うすもや
)
に包まれてそよいでる牧場、また、村の小さな鐘楼や、ちらちら見える小川や
ジャン・クリストフ:08 第六巻 アントアネット
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
二度目に起き上った時は、竜王続きの山が
薄靄
(
うすもや
)
の
罩
(
こ
)
めた湯川の谷へ
翠
(
みどり
)
の影を投げて、拭われたような紺碧の空には、二十日あまりの月がうっすりと刷かれていた。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
この季節特有の
薄靄
(
うすもや
)
にかげろわれて、
熟
(
う
)
れたトマトのように赤かった。そして、
彼方此方
(
かなたこなた
)
に散在する雑木の森は、夕靄の中に
黝
(
くろず
)
んでいた。
萌黄
(
もえぎ
)
おどしの
樅
(
もみ
)
の
嫩葉
(
ふたば
)
が殊に目立った。
土竜
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
此の病院のうしろの方は田圃つゞきで、ずうと向うに阪急沿線の山々が、ついさつきまでは澄み切つた空気の底にくつきりと
襞
(
ひだ
)
を重ねてゐたのが、もう
黄昏
(
たそがれ
)
の蒼い
薄靄
(
うすもや
)
に包まれかけてゐるのである。
猫と庄造と二人のをんな
(新字旧仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
それとも渚の砂に立って、巌の上に、
春秋
(
はるあき
)
の美しい雲を見るような、三人の婦人の
衣
(
きぬ
)
を見たのが夢か。海も空も澄み過ぎて、
薄靄
(
うすもや
)
の風情も
妙
(
たえ
)
に余る。
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
薄靄
(
うすもや
)
の
罩
(
こ
)
めた甲府平原には、まだ夜の色が低くさ迷うているが、雪に降り埋められた西山一帯の高い峰は、北は駒ヶ岳から南は聖、上河内、笊ヶ岳に至るまで、早くも曙の色に染まって
奥秩父の山旅日記
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
此の病院のうしろの方は田圃つゞきで、ずうと向うに阪急沿線の山々が、ついさつきまでは澄み切つた空気の底にくつきりと
襞
(
ひだ
)
を重ねてゐたのが、もう
黄昏
(
たそがれ
)
の蒼い
薄靄
(
うすもや
)
に包まれかけてゐるのである。
猫と庄造と二人のをんな
(新字旧仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
作者が——
謂
(
い
)
いたくないことだけれど、その……
年暮
(
くれ
)
の稼ぎに、ここに働いている時も、昼すぎ三時頃——、ちょうど、小雨の晴れた
薄靄
(
うすもや
)
に包まれて、向う
邸
(
やしき
)
の
紅
(
あか
)
い山茶花が
覗
(
のぞ
)
かれる
薄紅梅
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
谷間の空気は立ち
罩
(
こ
)
むる
薄靄
(
うすもや
)
で
翠
(
みどり
)
が濃い。白くうねり走る久慈の流れ、沿岸に点在する村々の黒木立、山地を彩る闊葉樹の樹林などが皆一様にぼかされて、波立たぬ深い水底の植物叢に似ている。
四十年前の袋田の瀑
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
この病院のうしろの方は
田圃
(
たんぼ
)
つづきで、ずうと向うに阪急沿線の山々が、ついさっきまでは澄み切った空気の底にくっきりと
襞
(
ひだ
)
を重ねていたのが、もう
黄昏
(
たそがれ
)
の
蒼
(
あお
)
い
薄靄
(
うすもや
)
に包まれかけているのである。
猫と庄造と二人のおんな
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
桑の芽の
萌黄
(
もえぎ
)
に萌えつつも、北国の事なれば、
薄靄
(
うすもや
)
ある空に桃の影の
紅
(
くれない
)
染
(
そ
)
み、晴れたる水に
李
(
すもも
)
の色
蒼
(
あお
)
く澄みて、
午
(
ご
)
の時、月の影も添う、
御堂
(
みどう
)
のあたり凡ならず、
畑
(
はた
)
打つものの、近く二人、遠く一人
一景話題
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
その時緑青色のその
切立
(
きった
)
ての
巌
(
いわ
)
の、
渚
(
なぎさ
)
で見たとは趣がまた違って、亀の背にでも乗りそうな、中ごろへ、早
薄靄
(
うすもや
)
が
掛
(
かか
)
った上から、
白衣
(
びゃくえ
)
のが桃色の、水色のが白の
手巾
(
ハンケチ
)
を、二人で、小さく振ったのを
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
しっとりと濡れて
薄靄
(
うすもや
)
が
絡
(
まと
)
っている。
朱日記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
薄
常用漢字
中学
部首:⾋
16画
靄
漢検1級
部首:⾬
24画
“薄”で始まる語句
薄
薄暗
薄紅
薄明
薄暮
薄縁
薄荷
薄闇
薄汚
薄氷