つく)” の例文
中の三四人、序に運んで来た材木切れをそこに置き、身体の埃を打ち叩き、着物をかいつくろいなどしつつ作業を仕舞ったしこなし。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こう云った叔父は無言の空虚を充たすために、煙管きせる灰吹はいふきを叩いた。叔母も何とかその場を取りつくろわなければならなくなった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あれこれと取りつくろって、執拗な主任の追求をひるがえすようにしていたが、けれども、とうとう力尽きて、語り出した。
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
お半は必死の調子でその場をつくろひますが、土藏の窓に下がつた赤い扱帶しごきの祕密は、ガラツ八の注意をひしとつかんで容易にわき目を振らうともしません。
おつぎは十八じふはちというても年齡としたつしたといふばかりで、んな場合ばあひたくみつくらふといふ料簡れうけんさへ苟且かりそめにもつてないほどめんおいてはにごりのない可憐かれん少女せうぢよであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
酒色に酖ると見えしも、木村氏の前をかくつくいしのみにて、夜な夜な撃剣のわざをきたいぬ。任所にては一瀬を打つべきひまなかりしかば、したがいて東京に出で、さて望をげぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あやしさよとばかさとし燈下とうかうでみしが、ひろひきしは白絹しろぎぬ手巾はんけちにて、西行さいぎやう富士ふじけむりのうたつくろはねどもふでのあとごとにきたり、いよいよさとりめかしきをんな不思議ふしぎおもへば不思議ふしぎかぎりなく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人力は尽くさねばならぬ! ヤアヤア水夫かこども帆を下ろせ! 帆柱を仆せ! 短艇はしけの用意! ……胴の間の囚人解き放せ! あかをい出せ! 破損所いたみしょつくろえ! 龍骨りゅうこつが折れたら一大事! 帆柱を
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ふるはしつゝ茲な恩知ず者め傳吉どのが留守中何時なんどきの間にやら不義ふぎいたづら傳吉殿に此伯母がなに面目めんぼくのあるべきや思へばにくき女めと人目つくらうにせ打擲ちやうちやくも是れ又見捨て置れねば又人々は取押とりおさへ彼是れ騷動さうどう大方ならず時に憑司は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
太き石もてつくろひぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
人眼ひとめに立つようになってからでは奉公人の口がうるさい今のうちならとかくつくろう道もあろうと父親にも知らせずそっと当人にたずねるとそんな覚えはさらさらないと云う深くも追及しかねるのでに落ちないながら一箇月いっかげつほど捨てておくうちにもはや事実を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その隙をくまでつくろって、他人の前に、何一つ不足のない夫を持った妻としての自分を示さなければならないとのみ考えている彼女は
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で、ございますから、しまはこれをいうとき右手で袖口をちょっとつくろい、取仕切った薄笑いを片唇にうかべながら気取った首の振り方をいたします。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「俺は此邊中の雪駄直しを一人殘らず當つて見る。あの裏金を剥がした後のつくろひは、素人の手際ぢやねえ」
「だいぶ御邪魔をしました」と立ちける前に居住いずまいをちょっとつくろい直す。洋袴ズボンひだの崩れるのを気にして、常は出来るだけ楽に坐る男である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
着てゐる浴衣は、別れた母親ゆづりの品らしく、二三十年前江戸で流行はやつた、洗ひざらしの大時代物、赤い帶もしんがはみ出して、つくろひ切れぬ淺ましい品だつたのです。
えり白襯衣しろしやつあたらしいうへに、流行の編襟飾あみえりかざりけて、浪人とはだれにも受け取れない位、ハイカラに取りつくろつてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
難破してさかひの浦に流れついた、異人の船が持つて來たもので、その船のつくろひや、歸りの路用に困つて、他のいろ/\の品物と一緒に、土地の商人に賣つたものだが、あんまり値段が高いのと
しか宗助そうすけにはまる時間じかんつぶしにやう自覺じかくあきらかにあつた。それをつくろつてつてもらふのも、自分じぶん腑甲斐ふがひなさからであると、ひとつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし宗助にはまるで時間をつぶしに来たような自覚が明らかにあった。それをこう取りつくろって云ってもらうのも、自分の腑甲斐ふがいなさからであると、ひとり恥じ入った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ならん事もあるまいがね、おれにはどうもお父さんの云う事が変でならないんだ。垣根をつくろったの、家賃がとどこおったのって、そんな費用は元来些細ささいなものじゃないか」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは自分をつくろいたくないという結構な精神の働いている場合もありましょうし
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを無理矢理に体裁ていさいつくろって半間はんまに調子を合せようとするとせっかくの慰藉いしゃ的好意が水泡と変化するのみならず、時には思いも寄らぬ結果を呈出して熱湯とまで沸騰ふっとうする事がある。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女は、僕自身で僕の卑怯な意味を充分自覚していながら、たまたまひとの指摘を受けると、自分の弱点を相手に隠すために、つくろってそらっとぼけるものとこの問を解釈したらしい。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は自分で自分の事をかれこれ取りつくろって好く聞えるように話したくない。しかし僕ごときものでも長火鉢ながひばちはたで起るこんな戦術よりはもう少し高尚な問題に頭を使い得るつもりでいる。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)