百舌もず)” の例文
百舌もずの鳴きわたる木々の梢は薄く色づき、菊や山茶花のそろ/\咲き初めた農家の庭には柿が真赤に熟してゐる。歩くには好い時節である。
買出し (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
向うの楊の木から、まるでまるで百ぴきばかりの百舌もずが、一ぺんに飛び立って、一かたまりになって北の方へかけて行くのです。
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そこへは時々、百舌もず山雀やまがら、文鳥、ひわ、目白、さまざまな小鳥がブチまけたように下りて来て、日ねもす歌っている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十三歳の秋から下総しもうさの田舎にやって来て、虚弱なために二年ほどの間、目白やひわを捕ったり飼ったりして暮した。百舌もずと闘ったこともよく覚えている。
金沢町江島屋の忍び返しに、百舌もずにえのように引っ掛って死んだあざみの三之助の下手人は、それっ切りわからず、四日五日と苛立たしい日は続きました。
はやしには百舌もずあそんでました。百舌もず雄鷄おんどりはうてはわらひました。そこへひはつてました。ひは雄鷄おんどりはうて、百舌もずおなじやうにわらひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その中で沼南夫人は百舌もずからすの中のインコのように美しく飾り立てて脂粉と色彩の空気を漂わしていた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私はよく葡萄棚の下に緑いろの日の光を浴びながら新らしい紙の匂ひに親しみ、赤い柿の實の反射にぼやけた草艸紙の平假名を拾つては百舌もずの啼くをきき耽つた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そうすると百舌もずだって引っ込んじゃいられない。負けずにピチョ・ピチョとやり返す、そのうちに月が出て引分けってことになるんです。川には川でやたらに魚がいますね。
新二郎 おたあさん、今日浄願寺のむくの木で百舌もずが鳴いとりましたよ。もう秋じゃ。……兄さん、僕はやっぱり、英語の検定をとることにしました。数学にはええ先生がないけに。
父帰る (新字新仮名) / 菊池寛(著)
……よく晴れた日で、熟れた稲の穂波の上に、雀や百舌もずが騒がしく飛び交していた。道は遠かった、森をぬけ、丘をめぐり、細い谿流けいりゅう飛沫ひまつをあげている丸木橋を幾たびか渡った。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
風をふところへ入れ足をのばして休む。青ぎった空にみどりの松林、百舌もずもどこかで鳴いている。声の響くほど山は静かなのだ。天と地との間で広い畑の真ン中に二人が話をしているのである。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
東京市何区何町の真中に尾花おばなそよ百舌もずが鳴き、狐や狸が散歩する事になったのは愉快である。これで札幌の町の十何条二十何丁の長閑のどかさを羨まなくてもすむことになったわけである。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かすかな溜息が二人の顔を暗くした。城内の百舌もずの声がひとしきり八釜やかましくなった。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
榎の高いこずえにはひよどりむらがって来た。銀杏のてっぺんで百舌もず高啼たかなく日もあった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
菊日和のよく冴えた日が幾日もつづき、百舌もずの鋭い暗き声が空に響き透った。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それから百舌もず頬白ほおじろ、頬白がいる位だから、里の田のあぜ稲叢いなむらのあたりに、こまッちゃくれた雀共が、仔細ありげにピョンピョンと飛び跳ねながら、群れたかっていたとてさらに不思議はない。
百舌もずが、刺すやうにきりきり鳴き出しても……、渡鳥の群が降りちらばるやうに、まぶしい入日の空を乱れ飛ぶのを見上げても……、明るい夕空の紺青こんじやうを仰いでも……、向側の丘の麓の家から
そこにて尻尾しりをふる百舌もず甲高かんだかなる叫びを聞き
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
百舌もずの声かんにん袋きれたりな 一茶
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
空高く百舌もずが鳴いていた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
たまたまに百舌もず速贄はやにへ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
百舌もずだな……」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
百舌もずの鳴きわたる木々の梢は薄く色づき、菊や山茶花さざんかのそろそろ咲き初めた農家の庭には柿が真赤に熟している。歩くには好い時節である。
買出し (新字新仮名) / 永井荷風(著)
小禽とは、すずめ山雀やまがら四十雀しじふから、ひは、百舌もず、みそさざい、かけす、つぐみ、すべて形小にして、力ないものは、みな小禽ぢゃ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
金澤町江島屋の忍び返しに、百舌もずにへのやうに引つ掛つて死んだあざみの三之助の下手人は、それつきりわからず、四日五日と苛立いらだたしい日は續きました。
百舌もずにはわらはれる、ひはにもわらはれる、そのうちに雄鷄おんどりしくなりましたが、はやしなかにあるむしはみんなほかとりはやひろはれてしまひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たとえば百舌もずなどは夜の引明けに、小高い木の枝に二羽ならんでいて、その一羽だけが何度でも下に降りて、巣になりそうなくさむらに飛んで行っては帰って来る。
晩秋の千草ちぐさを庭としてあそぶ、うずら百舌もずや野うさぎの世界は、うらやましいほど、平和そのものである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百舌もずが来たが鳴かず。夕方の汽車で帰る頃、雷雨の先端が来た。加藤首相葬儀。
震災日記より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ひととき、百舌もずが鳴きやむと、山の深いしずけさが、かえってくる。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
秋が来たぞよ、三崎みさき諸磯もろいそ段々畑だんだんばたけから百舌もずが出たで
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
霜を見る蛙は百舌もずの沓手かな
其角と山賊と殿様 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私をんだ百舌もず何処どこか。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
小禽とは、すずめ山雀やまがら四十雀しじゅうから、ひわ、百舌もず、みそさざい、かけす、つぐみ、すべて形小にして、力ないものは、みな小禽じゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わたくしは此句を黙誦もくしょうしながら、寝間着のままって窓にると、崖のえのきの黄ばんだ其葉も大方散ってしまったこずえから、鋭い百舌もずの声がきこえ
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
百舌もずの巣のような乱髪を、無造作に指で掻き上げるのは、朝山袈裟雄けさおというあまり上手でない絵描きです。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そこへ山鳩やまばととほりかゝりました。山鳩やまばとはやしなかれないにはとり鳴聲なきごゑきつけまして、そばんでました。百舌もずひはとちがひ、山鳩やまばとらずの雄鷄おんどりをいたはりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この一れんのつけあいの意味は、百舌もずく頃までまだ帷子を着ているような人が、稲をく仕事の手伝に来て一升の籾に有りつき、おまけにすしか何かの御馳走になって行く光景を想像したもので
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何処どこかで百舌もずが鳴きしきる。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
百舌もず鵯鳥ひよどり、しからずば
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ですから渡り鳥のくゎくこうや百舌もずも、又小さなみそさゞいや目白もみんなこの木にまりました。
土神と狐 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
八五郎がこれを『百舌もずにえ』と言ったのは、適切過ぎるほど適切なたとえでした。
こずえに高く一つ二つ取り残された柿の実も乾きしなびて、霜に染ったその葉さえ大抵たいていは落ちてしまうころである。百舌もずひよどりの声、藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなきももうめずらしくはない。この時節に枇杷びわの花がさく。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
百舌もずと時鳥とは古い友人であるが、百舌が唐から本尊の掛図を盗んで来たのを知って、いつも時鳥が「本尊掛けたか」と啼く故に、これに閉口して時鳥の啼く時節だけは、百舌は黙っているという話。
百舌もず啼かず、木の葉沈まず
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ですからわたり鳥のかっこうや百舌もずも、また小さなみそさざいや目白もみんなこの木にまりました。
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
八五郎がこれを『百舌もずにへ』と言つたのは、適切過ぎるほど適切なたとへでした。
そのそら百舌もずきしきる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とおくの百舌もずの声なのか、北上きたかみ川のの音か、どこかでまめにかけるのか、ふたりでいろいろ考えながら、だまっていてみましたが、やっぱりどれでもないようでした。
ざしき童子のはなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)