白髮しらが)” の例文
新字:白髪
卯平うへい何時いつたれがさうしたのかむしろうへよこたへられてあつた。かれすくな白髮しらがはらつていた火傷やけどのあたりをうてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかしそれは着物を着てゐて、馬のたてがみのやうに荒々しい、黒い白髮しらがまじりの房々とした毛が頭と顏をかくしてゐるのであつた。
しつかり者と言つても、取つてたつた十八の娘が、不意に鼻の先へ眼を剥いた白髮しらがツ首を突き付けられたのですから、驚いたのも無理はありません。
掲げ其中より取出とりいだしたる柳樽やなぎだる家内かない喜多留きたるしるしゝは妻をめとるの祝言にやあさ白髮しらがとかい附しは麻の如くにいとすぐとも白髮しらがまで消光くらすなる可し其のほかするめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
(子ましまさず。)また都夫良意富美が女、韓比賣からひめひて、生みませる御子、白髮しらがの命、次にいも若帶わかたらし比賣の命二柱。
「榮さんよりや才さんの方が老けて見えるがな。才さんの頭にや白髮しらがが仰山生えてる。もう若白髮ぢやないなあ。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「あんた、ちよツとも白髮しらががおまへんな。毛も多いし、入れ毛してなはるんか、眞ン中は禿げてまツしやろ。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
み眼清くきれ長くます。やさしきはつまにのみかは、その子らに、その子の子らに、なべてかなしく白髮しらがづく母。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
昔上田秋成は年頃いたづきけるふみ深き井の底に沈めてかへり見ず、われはそれだに得せず。ことし六十むそあまり二つの老を重ねて白髮しらがかき垂り齒脱けおち見るかげなし。
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
櫻色さくらいろにもあらず、緋桃ひもゝはなでもなし、りたてたるつむりよりかほより首筋くびすぢにいたるまで銅色あかゞねいろりに一てんのにごりもく、白髮しらがもまじるふとまゆをあげてこゝろまかせの大笑おほわらひなさるゝとき
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
初冬はつふゆの凍つた明い朝なぞ、忽然冷えきつた鏡のおもてに、顳顓こめかみ白髮しらがを見出した時の驚愕おどろき、絶望、其れは事實に對する恐怖であるが、これは自分の心が生みだす空想の恐怖である幻覺ハルシネイシヨンである。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
その平地の其處此處に二軒三軒とあはれな人家が散在して、木がくれにかすかな煙をあげて居る。自分の生れた家もその中にまじつて居るので、白髮しらがばかりのわが老父母はいまだに健在である。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
老婆は、つぶやくやうな、うめくやうな聲を立てながら、まだえてゐる火の光をたよりに、梯子はしごの口まで、這つて行つた。さうして、そこから、短い白髮しらがを倒にして、門の下をのぞきこんだ。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ずらりと女學生ぢよがくせいたちをしたがへて、ほゝあごをだぶ/″\、白髮しらがうづまきかせて、反身そりみところが、なんですかねわたしには、彼處あすこる、狂人きちがひを、救助船たすけぶね濟度さいどあらはれたやうにえたんです。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
非人ひにんて、死者ししやや、あしとらへてあななか引込ひきこんでしまふのだ、うツふ! だがなんでもない……其換そのかはおれからけてて、此處こゝらの奴等やつら片端かたツぱしからおどしてれる、みんな白髮しらがにしてしまつてる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
うら老爺ぢいさん、白髮しらがになつた
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いまは頭も白髮しらがとなり
てえか、そんでもたえしたこともねえから心配しんぺえすんなよ」おつぎははらはれたきたな卯平うへい白髮しらがへそつとあてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「へえ、妙なことをするんですね。」おたねは禿はげよりも頭の眞中に白髮しらがの多いのに初めて氣付いて、「白髮の生えるのもそのせゐか知らん。」とつぶやいた。
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
御子、白髮しらが大倭根子おほやまとねこの命伊波禮いはれ甕栗みかくりの宮にましまして、天の下治らしめしき。
「三輪の親分、この髮の毛は三筋とも色合ひも形も違つてゐるのはどういふわけだらう、——一本はひどいちゞれつ毛だし、一本は少し白髮しらがになりかけて居るし、そしてあとの一本は、絹絲のやうに細くて、恐しく素直だぜ」
※等あねらひどかんべらは」とかれはおつたのめつゝあつたかみが、まじつた白髮しらがをほんのりとせるまでにくすりめてきたなくなつつたのをつゝいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)