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狭霧
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さぎり
ふりがな文庫
“
狭霧
(
さぎり
)” の例文
旧字:
狹霧
志保は庭へおりて菊を
剪
(
き
)
っていた。いつまでも
狭霧
(
さぎり
)
の
霽
(
は
)
れぬ朝で、道をゆく馬の
蹄
(
ひづめ
)
の音は聞えながら、人も馬もおぼろにしか見えない。
菊屋敷
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
荷馬橇の馬は、
狭霧
(
さぎり
)
の様な
呼気
(
いき
)
を被つて氷の玉を聯ねた
鬣
(
たてがみ
)
を、寒い光に波打たせながら、風に鳴る鞭を
喰
(
くら
)
つて勢ひよく駈けて居た。
菊池君
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
山の朝まだきは、
狭霧
(
さぎり
)
が多いので、敵はワラ人形と知らず、射浴びせてくる。——これでどれほど矢ダネを稼いだかしれないのである。
私本太平記:07 千早帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
花嫁の心もまず少しは落ちつきて、
初々
(
ういうい
)
しさ恥ずかしさの
狭霧
(
さぎり
)
に
朦朧
(
ぼいやり
)
とせしあたりのようすもようよう目に
分
(
わか
)
たるるようになりぬ。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
細かな、柔かな無数の起伏を広々と
涯
(
はて
)
しもなく押し拡げて、彼方には箱根山が、今日もまた
狭霧
(
さぎり
)
にすっぽりと包まれて、深々と眠っていた。
闖入者
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
▼ もっと見る
供の持つぶら提灯、その灯が小さくぼやけて行くのは、さては
狭霧
(
さぎり
)
が降りたと見える。左手に聳える大屋根を望んで、藤吉は肩越しに囁いた。
釘抜藤吉捕物覚書:05 お茶漬音頭
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
いよいよ淵に入る段になると、
狭霧
(
さぎり
)
が水面を立ち
罩
(
こ
)
めて、少しも様子が見られなかったという。娘は
屡々
(
しばしば
)
里へお客に来た。
黒部川を遡る
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
谷間から立ち上る
靄
(
もや
)
のように、それらの考えは心の底から
湧
(
わ
)
き上がっていた。彼はその恋愛の
狭霧
(
さぎり
)
の中を、めくら滅法にあちらこちら
彷徨
(
さまよ
)
った。
ジャン・クリストフ:04 第二巻 朝
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
ちょうど天然の変色が、荒れ
寂
(
さ
)
びれた
斑
(
まだら
)
を作りながら石面を
蝕
(
むしば
)
んでゆくように、いつとはなく、この館を包みはじめた
狭霧
(
さぎり
)
のようなものがあった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
溜池橋の上に立て見ると、葉桜の黒い影、夜露にきらめく月影、溜池の上に立籠めた
狭霧
(
さぎり
)
、見上ぐれば真黒に繁つた山王台、皆な佳い眺めでした。
夜の赤坂
(新字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
ああそれさえ
瞬
(
またた
)
きをする間,娘の姿も、娘の影も、それを乗せて往く大きな船も
櫓拍子
(
ろびょうし
)
のするたびに
狭霧
(
さぎり
)
の中に
蔽
(
おお
)
われてしまう,ああ船は遠ざかるか
初恋
(新字新仮名)
/
矢崎嵯峨の舎
(著)
南水域に
鬼哭啾々
(
きこくしゅうしゅう
)
として跡絶えず、妖気
狭霧
(
さぎり
)
のごとくに立ち
罩
(
こ
)
めて、大英帝国の憤激その極に達したのであった。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
「浮世が幻であるとしたら、女人もきっと美しい幻なのだ。幻なればこそ、凡夫は其れに迷わされるのだ。ちょうど
深山
(
みやま
)
を行く旅人が、
狭霧
(
さぎり
)
の中に迷うように。」
二人の稚児
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
最早、天地、
処
(
ところ
)
を
隔
(
へだ
)
つたやうだから、其のまゝ、
銃孔
(
じゅうこう
)
を高くキラリと
揺
(
ゆ
)
り上げた、星
一
(
ひと
)
ツ寒く輝く下に、
路
(
みち
)
も迷はず、
夜
(
よる
)
になり行く
狭霧
(
さぎり
)
の中を、
台場
(
だいば
)
に抜けると
点燈頃
(
ひともしごろ
)
。
二世の契
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
はるかに
狼
(
おおかみ
)
が凄味の
遠吠
(
とおぼ
)
えを打ち込むと谷間の山彦がすかさずそれを送り返し,望むかぎりは
狭霧
(
さぎり
)
が
朦朧
(
もうろう
)
と立ち込めてほんの特許に
木下闇
(
こしたやみ
)
から
照射
(
ともし
)
の影を惜しそうに
泄
(
も
)
らし
武蔵野
(新字新仮名)
/
山田美妙
(著)
多摩川の川づらには
狭霧
(
さぎり
)
が立ち
籠
(
こ
)
め生あたたかくたそがれて来た。ほろほろと散る墓畔の桜。
雛妓
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
言う言葉と共に海老蔵を載せた屋根船はおのずと岸を離れ、見る見る
狭霧
(
さぎり
)
の中に隠れて行く。
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
重い冷たい
潮霧
(
ガス
)
が
野火
(
のび
)
の煙のように
濛々
(
もうもう
)
と南に走って、それが秋らしい
狭霧
(
さぎり
)
となって、船体を包むかと思うと、たちまちからっと晴れた青空を船に残して消えて行ったりした。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
牧場や稲田から静かに
狭霧
(
さぎり
)
が立ちのぼり、暗色の葺屋根が白い霧に影絵のように浮び、その向うには黒い山脈が聳えるという、驚く可き空気的の効果の中で、我々は我々の顕著な経験を
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
広場には、冬の夜の白く透いた
狭霧
(
さぎり
)
の中に、辻馬車がずらりと並んでいた。
餓えた人々
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
または全く忘却の
狭霧
(
さぎり
)
に
蔽
(
おお
)
われてしまっている面影を、見出すのであった。
紅い花
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
街
(
まち
)
には電燈がついた。
四辻
(
よつつじ
)
はひとしきり工場から吐き出される職工等の
足埃
(
あしぼこり
)
で
狭霧
(
さぎり
)
に襲はれたやうにけむつた。彼は波止場から宿の方へ急いだ。さつさと町の片側を
脇目
(
わきめ
)
もふらず歩いて行つた。
煤煙の匂ひ
(新字旧仮名)
/
宮地嘉六
(著)
養狐場を出たところで、私はまた牛舎の白い
狭霧
(
さぎり
)
を、厩舎や豚舎の小雨を見た。
雫
(
しずく
)
を含んだ鮮緑の広々とした牧草の平面を、また散在した収穫舎、
堆肥
(
たいひ
)
舎、衝舎、農具舎、その急勾配の
角
(
かく
)
屋根を。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
ひとり死ぬるさびしさなどをおもひつつ
狭霧
(
さぎり
)
の丘にたちつくすなり
小熊秀雄全集-01:短歌集
(新字旧仮名)
/
小熊秀雄
(著)
咲く花の
如
(
ごと
)
き命を包む想像の
狭霧
(
さぎり
)
なれ。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
おもわに
狭霧
(
さぎり
)
海潮音
(新字旧仮名)
/
上田敏
(著)
狭霧
(
さぎり
)
おさんだいしよさま
(新字旧仮名)
/
野口雨情
(著)
その硝煙が、うすい
狭霧
(
さぎり
)
のようになって、低地の池、田の面、
蘆
(
あし
)
の
湿
(
しめ
)
り
地
(
ち
)
などへ降りてゆく下に——早くも、井伊の赤武者が、走っていた。
新書太閤記:10 第十分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
昼ながら、秋の
狭霧
(
さぎり
)
が静かに
罩
(
こ
)
めわたって、まるで水面から、かすかに湯気があがっているように見えるのだった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
そこへ足音もたてずにまるで
陽炎
(
かげろう
)
か
狭霧
(
さぎり
)
のようにしのびやかにはいってきたものがありました。
亡霊怪猫屋敷
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
朝なお早ければ
街
(
ちまた
)
はまだ
往来
(
ゆきき
)
少なく、
朝餉
(
あさげ
)
の煙重く軒より軒へとたなびき、小川の末は
狭霧
(
さぎり
)
立ちこめて
紗絹
(
うすぎぬ
)
のかなたより上り来る
荷車
(
にぐるま
)
の音はさびたる
街
(
ちまた
)
に重々しき反響を起こせり。
わかれ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
まだ晴れきらない
狭霧
(
さぎり
)
をこめた空気を通して、杉の葉越しにさしこむ朝の日の光が、雨にしっとりと潤った庭の黒土の上に、まっすぐな杉の幹を
棒縞
(
ぼうじま
)
のような影にして落としていた。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
「お柳、」と思わず
抱占
(
だきし
)
めた時は、
浅黄
(
あさぎ
)
の
手絡
(
てがら
)
と、雪なす頸が、鮮やかに、
狭霧
(
さぎり
)
の中に
描
(
えが
)
かれたが、見る見る、色があせて、薄くなって、ぼんやりして、
一体
(
いったい
)
に
墨
(
すみ
)
のようになって、やがて
木精(三尺角拾遺)
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
まだ、戸の閉っている二軒のあべ川
餅屋
(
もちや
)
の前を通ると直ぐ川瀬の音に
狭霧
(
さぎり
)
を立てて安倍川が流れている。
轍
(
わだち
)
に踏まれて躍る橋板の上を曳かれて行くと、夜行で寝不足の
瞼
(
まぶた
)
が涼しく拭われる気持がする。
東海道五十三次
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
三年の幻影はかわるがわる涙の
狭霧
(
さぎり
)
のうちに浮かみつ。新婚の日、伊香保の遊、
不動祠畔
(
ふどうしはん
)
の誓い、
逗子
(
ずし
)
の
別墅
(
べっしょ
)
に別れし夕べ、最後に
山科
(
やましな
)
に相見しその日、これらは
電光
(
いなずま
)
のごとくしだいに心に現われぬ。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
月の夜はいとどかぐろき
家
(
や
)
の森を田には
狭霧
(
さぎり
)
の引きわたるめり
白南風
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
うらゝかに
澄渡
(
すみわた
)
りて
狭霧
(
さぎり
)
なき空気に
珊瑚集:仏蘭西近代抒情詩選
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
重い
狭霧
(
さぎり
)
がしつとりと
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
やがて夜は白み、水のおもての
狭霧
(
さぎり
)
には、まだ黄いろい余煙が低く這い、異様な鳥声が、今朝は
劈
(
つんざ
)
くように
啼
(
な
)
き響く。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
向うの三人からは
仄
(
ほの
)
暗い森の木立の陰になって私の姿は見えなかったであろうが、私の方からは
眩
(
まぶ
)
しい黄金色の光芒の中に
狭霧
(
さぎり
)
のように
朦朧
(
もうろう
)
とこの三人の姿は映っているのであった。
逗子物語
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
夜は
森沈
(
しんちん
)
として闇黒の色を深めてゆくだけで、樹々の影もこんもりと黒く
狭霧
(
さぎり
)
がおりているのか、あんどんの余映を受けてぼやけた空気が、こめるともなく漂っているきり——いつも見慣れた
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
空は雨雲ひくく漂い、木の葉半ば落ち
失
(
う
)
せし林は
狭霧
(
さぎり
)
をこめたり。
わかれ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
狭霧
(
さぎり
)
立つ月の夜さりは
村方
(
むらかた
)
の野よ
香
(
かう
)
ばしく麦こがし
熬
(
い
)
る
白南風
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
狭霧
(
さぎり
)
に
将起
(
たゝん
)
ぞ
富士
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
四、五段の船そこ
梯子
(
ばしご
)
から上に上半身を出す。とたんに、眼もとを
顰
(
しか
)
めた。まだ海上はいちめんな
狭霧
(
さぎり
)
だが、大きな旭日と、
波映
(
はえい
)
の揺れに、物みな
虹色
(
にじいろ
)
に燃えていたのである。
私本太平記:12 湊川帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
先なる一壮漢は、
狭霧
(
さぎり
)
の
薄戦衣
(
うすごろも
)
に、
虎頭
(
ことう
)
を打ち出した
金唐革
(
きんからかわ
)
の腹巻に、髪止めには銀のはちまきを締め、おぼろめく
縒絨
(
よりいと
)
の
剣帯
(
けんたい
)
へ利刀を横たえ、騎馬
戛々
(
かつかつ
)
、ふと耳をそばだてた。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
冬の
狭霧
(
さぎり
)
がまだ深くて頂上からの眺望も
模糊
(
もこ
)
としてただ寒さにふるえ上がるばかりだったが、雲間のこぼれ陽が
映
(
さ
)
すと関門の海峡一帯から、母島の彦島、そのすぐ東岸を少し距てて巌流島が見られ
随筆 宮本武蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
茫然と、武蔵の眼が、夜の
狭霧
(
さぎり
)
を見ていると
宮本武蔵:02 地の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
狭霧
(
さぎり
)
が
霽
(
は
)
れてきた。
箭四
(
やし
)
老人は、幾たびも
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“狭霧(狭霧(駆逐艦))”の解説
狭霧(さぎり)は、大日本帝国海軍の駆逐艦。
(出典:Wikipedia)
狭
常用漢字
中学
部首:⽝
9画
霧
常用漢字
中学
部首:⾬
19画
“狭霧”で始まる語句
狭霧罩