済度さいど)” の例文
旧字:濟度
送らんとする異教徒が住んでいるのか? われわれが済度さいどせんとするその放縦兇暴な人間は誰であるか? もし何か人間に故障があり
例えば耶蘇やそ教の神さんでも、その昔人民が罪悪におちいって済度さいどし難いからというて大いにいきどおり、大洪水を起してすべての罪悪人を殺し
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
やはり弘法大師が池の主を済度さいどしたという、かのせせらぎ長者のつま虎御前とらごぜんの話(同上四巻三三九頁)と相似たる話をのこしている。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
桃水や一休ほどの器量なきものが遊女を済度さいどせんとしてくるわに出入りすることはみずからはからざる僭越せんえつであり、運命を恐れざる無知である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
頗無理な言葉の様ですが、先生の家出の動機の重なる一が、あなたはじめ先生の愛さるゝ人達の済度さいどにあった事は決して疑はありません。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……まだわからないのか……済度さいどしがたい奴だなあ。じゃ青島、実物でやって見せるよりしかたがない、あれを持ち込もう。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それにつけても、俗人の済度さいどしがたいことを嘆いて、人里から一里ばかり山奥に庵を結び、遁世して禅定三昧に没入した。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一寸ちょっとした物を買っても、すぐに暴利を貪ろうとする。実に懦弱で欲張り根性の突張った奴等ほど済度さいどし難い者はないのだ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
更に又汝の感慨にして唯ほれぼれとするのみなりとせば、んぬるかな、汝も流俗のみ、済度さいどす可からざる乾屎橛のみ。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
済度さいどし給わんやとねがいければ上人左右そうなく接引し給い静御前乃振袖ふりそで大谷氏に秘蔵いたせしに一首乃歌をなん書記し給いぬ
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
流石さすが明治めいぢおん作者さくしや様方さまがたつうつうだけありて俗物ぞくぶつ済度さいどはやくも無二むに本願ほんぐわんとなし俗物ぞくぶつ調子てうし合点がてんして幇間たいこたゝきておひげちりはらふの工風くふう大悟たいご
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
すなわち彼は、こういう方法で殺害されることによってのみ、この種のけがれた女は天国の門をくぐり得ると信じ、つまり済度さいどのために殺しまわったのだった。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
救いはくまなく渡るであろうか。衆生の済度さいどはどうして果されるであろうか。もし知を有たずば神を信じ得ないなら、多くの衆生はとこしなえの迷路に彷徨さまようであろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「それ見ろ、一度この中へ入って済度さいどを受けてみんことにゃ、世の中の人情というものの極意ごくいがわからん」
迷亭もここにおいてとうてい済度さいどすべからざる男と断念したものと見えて、例に似ず黙ってしまった。主人は久し振りで迷亭をへこましたと思って大得意である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
故に出生しゅっしょうせねば済世さいせいが出来ぬと申すもこの事なり。済世というは則ちこの世の人を済度さいどする事に御坐候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「いや、そうでない。大衆は済度さいどしがたいものです。愚劣な敵討物を騒ぐだけでもそこらのことはよくわかります。調子をげれば大当り受合いだと思いますがな。」
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
対手あいて老朽おいくちたものだけで、年紀としすくない、今の学校生活でもしたものには、とても済度さいどはむずかしい、今さら、観音かんおんでもあるまいと言うようなお考えだから不可いかんのです。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それにより衆生の済度さいどに任ぜんとする大乗仏教特有の菩薩の在り方と比較するとき、後者の無の立場に反し前者が有の立場たる生の完満に終始することは疑を容れぬと思う。
メメント モリ (新字新仮名) / 田辺元(著)
「出来ないものは婦人科へ行っても出来やしない。お経で後屈矯正こうくつきょうせい掻爬術そうはじゅつが出来て溜るもんか。見す/\効能のない御祈祷を平気でげているんだから坊主という奴は済度さいどし難いよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「さうだ/\、其のとほりの野暮天やぼてんなんだから、是非花ちやんの済度さいどを仰ぐのだ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
だが精々三十分ぐらいで、お暇しようと思い乍ら、氏の書斎へ通ったが最後一番い椅子へ腰を下ろし、四時間ぐらいたてつけに喋舌しゃべる、この私の不作法には、済度さいどしがたいものがある。
小酒井不木氏スケッチ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見れば世の中には不可思議無量の事なしと言いがたこと仏家ぶっかの書には奇異の事をいだこれ方便ほうべんとなし神通じんつうとなして衆生しゅじょう済度さいどのりとせりの篇に説く所の怪事もまた凡夫ぼんぷの迷いを示して凡夫の迷いを
怪談牡丹灯籠:02 序 (新字新仮名) / 総生寛(著)
慈悲も済度さいども時と場合によりけりじゃ。あまねき信者が信心こめた献納の祠堂金きどうきんは、何物にも替え難い浄財じゃ。それなる替え難い浄財を尊き霊地に於てスリ取った不埒者ふらちものかくまうことが、何の慈悲じゃッ。
江戸に芭蕉起りて幽玄なる禅道の妙機をひらきて、主として平民を済度さいどしつゝありし間に、難波には近松巣林子出でゝ艶麗なる情筆をふるひて、一世の趣味を風靡ふうびしたり、次いで西鶴、其磧きせきの一流立ちて
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
さりながら人気じんき奴隷どれいとなるも畢竟ひつきやう俗物ぞくぶつ済度さいどといふ殊勝しゆしようらしきおくがあればあなが無用むようばゝるにあらず、かへつ中々なか/\大事だいじけつして等閑なほざりにしがたし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
私はこれに対して「私は仏道修行をして一切衆生しゅじょう済度さいどしようために参ったのでございます」とこう先方むこうの実際的の問をはずして形而上の仏教的説明の答をしたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
わけのわからぬ彼らが己惚うぬぼれはとうてい済度さいどすべからざる事とするも、天下社会から、彼らの己惚をもっともだと是認するに至っては愛想あいその尽きた不見識と云わねばならぬ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
念仏ねんぶつの法語は繰り返して云う。弥陀みだ誓願せいがんを信ぜよ。その誓いに誤りはなく洩れはなく怠りはない。済度さいどこそは如来にょらい本願ほんがんである。救うことと如来たることとは同じ意である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
然し武太さんの同情者が乏しい様に、久さんのおかみもあまり同情者を有たなかった。唯村の天理教信者のおかずばあさんばかりは、久さんのおかみを済度さいどす可く彼女に近しくした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
結婚という名目であの身体が独占できると思いますか? いわんやあいつの精神が? 野獣にも精神があるというならあの女にも精神はあるでしょうが、仏力で野獣が済度さいどできますかな。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「うむ、佐竹の奥方が恨む、その奥方の怨霊とやらが残っているなら、こんなところに閉じ籠めておいてはなお悪い、明け開いて綺麗きれい済度さいどしてやるがよろしい。お吉、邪魔をするな」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その勧むるや、中心まんと欲して止むあたわざるなり。彼の狭隘きょうあいなる度量も、この時においては、俄然がぜん膨脹するを見る。彼が眼中敵もなく、味方もなく、ただ彼が済度さいどすべき衆生しゅじょうあるのみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そこでその徳を備え居るところの有形の体を現わして、世の衆生しゅじょう済度さいどするために仮にこの世に生れて来た。すなわち仮にこの世に化けて来たところの身という意味から化身けしんという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
茶道の堕落は遠州えんしゅうあたりから著しくなる。末期に至っては悪趣味の泥中に沈んで済度さいどしがたい。恐らく誤った茶人ほど、工藝に対してひどい見方をしている者は他にないと云ってもよい。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「大無量寿経」は仏のこの驚くべき行いを説くために書かれてある。それ故、人の善悪を選ばず、信不信を待たず、一切の人間の一切の作は、少しの例外をも許さず、仏の済度さいどを受けているのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)