早々そうそう)” の例文
「ナ、何? 壺の蓋をすてたと? 馬鹿者めッ! 棄てたとて、まだお庭にころがっておろう。早々そうそうに拾ってまいれ、たわけがッ!」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
早々そうそう蚊帳かやむと、夜半よなかに雨が降り出して、あたまの上にって来るので、あわてゝとこうつすなど、わびしい旅の第一夜であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ぜひなく自分は、勅をかしこんで早々そうそうに上洛いたす。君もお待ちかねとの勅使のおことば。何はおいても、まからねば相なるまい」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これ、起きよ、目ざめよ。旅の用意は、すべてととのった。これ一畑治明いちはたはるあき。汝の供は、既に待っているぞ。早々そうそう、連れ立って、港へ行け」
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「寒月君博士論文はもう脱稿するのかね」と主人が聞くと迷亭もそのあとから「金田令嬢がお待ちかねだから早々そうそう呈出ていしゅつしたまえ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はこんな大和路の古い街にも住む按摩あんまが、奇妙にも懐かしく詩興しきょうを深く感じた、そこで、早々そうそう二階へ呼上よびあげたられは盲人めくら老按摩あんまであった。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
で、そう事が解って見ると、私は猶々なおなお怖く恐しく感じて、とてもここに長居する気がないから、其日そのひうち早々そうそうここを引払ひきはらって、再び倫敦ロンドン逃帰にげかえる。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぼく新年しんねん早々そうそう殺生せっしょうするのはいやだといったら、ゆうちゃんもゆくのをよして、二人ふたりで、ボールをげてあそんだ。
ある少年の正月の日記 (新字新仮名) / 小川未明(著)
省作はしばらくただ夢心地であったが、はっと心づいて見ると、一時いっときもここにいるのが恐ろしく感じて早々そうそう家に帰った。省作はこの夜どうしても眠れない。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
時下じか残暑ざんしょしのぎがたく候処そうろうところ益〻ますます御清穆ごせいぼく御事おんこと存上候ぞんじあげそうろう 却説さて 伯爵様はくしゃくさま折入おりいって直々じきじき貴殿きでん御意得度思召ぎょいえたきおぼしめし被在候間あらせられそうろうあいだ明朝みょうちょう御本邸ごほんてい御出仕可然ごしゅっししかるべく此段申進候このだんもうしすすめそうろう 早々そうそう頓首とんしゅ
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
筑前侯が大阪通行になると云うので、先生は例のごとく中ノ嶋の屋敷に行き、帰宅早々そうそう私を呼ぶから、何事かと思ていって見ると、先生が一冊の原書を出して見せて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
爾薩待(独語)「どうだ。開業早々そうそうからこううまく行くとは思わなかったなあ。半日で十円になる。看板代などはなんでもない。もう七人目のやつが来そうなもんだがなあ。」
植物医師:郷土喜劇 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
『わたしは先へ帰るよ』と吉次は早々そうそうおかへ上がる後ろよりそんならわたしたちも上がる待っていてと呼びかけられ、待つはずの吉次、かたきにでも追われて逃げるような心持ちになり
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「浜町公園のそばだし、今までわたしたちの知らない家だから、その心配はないわ。だから、ここのところ、方面をかえるにもいいし、十二月早々そうそう引越貧乏ひっこしびんぼうもしたくないからね……。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
是はいかなる突拍子とっぴょうしもない話し家でも、高座こうざあがった早々そうそうからおかしいことをいう者が無いと同じで、むしろ最初はさりげなく、やがて高調してくる滑稽こっけいを、予想せしめただけでよいのであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
アンドレイ、エヒミチは帰来かえり早々そうそうまずその住居すまいたずねねばならぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その晩、三造は早々そうそうに東京へ帰った。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
見るからに不愉快な容貌ようぼうが出来上ったと思ったら「いやこれは駄目だ」と当人も気がついたと見えて早々そうそうやめてしまった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まずちょっとおもいだしたところでも、春早々そうそう甲斐かい武田たけだほろぼされ、六月には、信長のぶなが本能寺ほんのうじ焼打やきうちにあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大声をたてて、人がまいっては、あなた様のお身の上も、ただではすみますまい。どうぞ、早々そうそうにお引取りを」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
新学期早々そうそう、これはまことに由々しき一大事だ。僕たちは、たしかに生徒たる本分を忘れていたようだね。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その時は私は鉄砲洲に居たが、早々そうそうその書付かきつけやい仕舞しまったけれども、何分気になってたまらぬとうのは、私がその書付の写しか何かを親類の者にやったことがある
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
先頃も雑木ぞうきを売払って、あとには杉か檜苗ひのきなえを植えることに決し、雑木を切ったあとを望の者に開墾かいこんさせ、一時豌豆や里芋を作らして置いたら、神社の林地なら早々そうそう木を植えろ、畑にすれば税を取るぞ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
で、兜は警官の手に渡して、二人は早々そうそう下山の途に就いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
頼春は、あたいをきいて、ひさの手にぜにをわたし、早々そうそうに追い立てたが、女はぬかずいたまま、縁の上の尊氏の姿へ
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気のせいに違いない早々そうそう帰ろうと思って一足二足あるき出すと、またかすかな声で遠くから私の名を呼ぶのです。私はまた立ち留って耳を立てて聞きました。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いずれ長崎のせがれ壹岐の方から打合うちあわせのあったものと見えて、その隠居が従兄の藤本をよびに来て、隠居の申すに、諭吉を呼還よびかえせ、アレが居ては倅壹岐の妨げになるから早々そうそう呼還せ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
旦那様は、呶鳴どなりつけるつもりだったらしいが、新任の楚々そそたるモダン小間使のやったことと分ると、くるしそうにえへんえへんとせきばらいをして、早々そうそう奥へひきあげていった。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すぐ参った! とばかり、帰りがけに早々そうそうお面をはずしてくる愛嬌者もある。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
早々そうそうに駈けもどっていくさの手当てをいそぎまする。いちいちのおことばは肺腑はいふを刺し、これ以上の辱には座にも耐えられません。これにて、おいとまを」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は、ここへくる早々そうそう、この邸の雇人をつうじて会いたいと申しこんだのです。しかしその返事があって“今いそがしいから会えない。邸内は捜査ご自由”ということなんで、そのまま仕事を
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「乞食浪人の説法、聞きたくもないっ! 早々そうそうに立ち去れっ!」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そこは今考え中だ。そうちゃく早々そうそう計画が立つものか」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
えきないことにひまとらずに、なんじ早々そうそう北越ほくえつへひきあげい。そして、勝家かついえとともに大軍をひきい、この裾野すそのへでなおしてきたおりには、またあらためて見参げんざんするであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんじの行き過ぎを遺憾いかんに思うものである。シベリアを熱帯にせよとは、申しつけなかったつもりである。早々そうそう香港ホンコンおもむきて、金博士に談判だんぱんし、シベリアを常春とこはるの国まで引きかえさせるべし。
別所信濃べっしょしなのへ、早々そうそう余の到着を知らせたがよいぞ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「えい、口がしこいやつめ、民蔵たみぞう早々そうそうこのわっぱの息のねをとめてしまえ!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あちら立てればこっちが立たず……という、柳生の御使者どの、この御老人は単にトンガリ長屋の作爺さんでけっこうだとおっしゃる。無益な前身の詮議だてなどなさらずと、早々そうそうにお帰りなされたほうがよろしかろう」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
世継よつぎ早々そうそうの、三家の葛藤かっとうや、大奥と表方との執拗な暗闘など、少しでも、そのかんの消息を聞きかじッている源次郎の目には、やはりその日の吉宗に、多少沈鬱ちんうつの気のあったことは見のがせません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)